第181号
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「ジャンク」DNAの疾病マーカーを求めて

2021年10月21日 AsianScientist

 ある国際チームは、何千ものノンコーディングバリアントと糖尿病をはじめとする疾病との関係を分析する迅速かつ新しい方法を開発した。

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 AsianScientist 遺伝子解析はレベルアップし、そのスピードは大幅にアップした。数十万のノンコーディング遺伝子バリアントを体系的に分析し、人間の疾病におけるそれらの役割を明らかにする新しいハイスループット技術に関する記事が Nature 誌に掲載された。

 タンパク質構成をコードしないゲノムの領域は「ジャンク」DNAとして一般に知られており、タンパク質コーディング遺伝子と同様、疾病に関連するとされている。ノンコーディングバリアントは転写因子とコーディング遺伝子の結合を制御することにより、遺伝子発現の有無にかかわり、タンパク質合成に影響を与え、健康や疾病といった状態の出現に影響を与えることがある。

 現在、科学者たちはこのような機能について理解しているが、これらのノンコーディング配列を特定し、それらが癌や糖尿病などの病気を一体どうやって引き起こすのかを解き明かすことは長年にわたる課題であった。研究は通常完了までに2〜3年かかり、一度に少数のバリアントのみを解明する。

 香港城市大学・中国の西北大学のイェン・ジエン(Yan Jian)博士は、他の国の協力者と共に、これらのノンコーディングバリアントの分析を促進するハイスループット生物学的評価システム(アッセイ)を開発した。この技術は試験管内人工進化法による一塩基多型評価(SNP-SELEX)と呼ばれ、転写因子とノンコーディングDNA配列の結合を迅速に評価する。

 SNP-SELEXにより、1回の試験で数百万の可能な相互作用を分析することにより、結合の強さや、異なるノンコーディングバリアントがこのような結合活性にどのように影響するかを確認することができる。チームによると、このすべてのデータを使用して、より優れた疾病モデルを構築すれば、科学者が疾病の根底にある遺伝的メカニズムを分析し、さらに優れた治療のバイオマーカーを特定できるようなる。

 SNP-SELEXがうまく働く方法であることを示すために、研究者たちは、II型糖尿病に関連するゲノム領域のバリアントを調べた。270の転写因子とほぼ100,000のバリアントから、転写因子のDNA結合に影響を与えるノンコーディングバリアントを発見した。さらに、SNP-SELEXのデータは、これらが血中の脂肪レベルの調節メカニズムに関与し、糖尿病のリスクを高めることを示していた。

 チームは1つの疾病に関連する遺伝子領域のみに焦点を当てているため、今回の研究はSNP-SELEXの機能の1つの側面を示すものにしか過ぎない。チームはこの方法をゲノムの他の領域における研究にも拡大して、非常に短い期間内に遺伝病の分子の謎を解明しようと考えている。

「ノンコーディングバリアントの分子機能を理解すれば、これらの突然変異を持っている人々がなぜ遺伝病にかかりやすいのかを知るのに役立ちます。それにより、早期の病気予防・発見、また治療の方法や戦略の発展に貢献することができます」とイェン博士は語った。

 

発表論文等: Yan et al. (2021) Systematic Analysis of Binding of Transcription Factors to Noncoding Variants

原文記事(外部サイト):

●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2021/08/in-the-lab/disease-inheritance-genetic-analysis/

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Source: City University of Hong Kong; Photo: Shutterstock.
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