第182号
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間接経費改革の継続的な推進―研究者のインセンティブ問題を体系的に解決

2021年11月11日 阿儒涵(中国科学院科学技術戦略咨詢研究院副研究員)

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画像提供:視覚中国

 国務院弁公庁が8月13日に公布した「中央財政の科学研究経費管理の改革・改善に関する若干の意見」において、研究者に対するインセンティブを強化し、間接経費の比率を引き上げることが提示された。間接経費は、直接経費から設備購入費を差し引いた金額から一定の割合で算出され、プロジェクト委託機関が統一的に調整し、使用することになっている。

 2011年以降、科学研究プロジェクトの間接経費改革は、一貫して中国の科学研究プロジェクト経費管理改革の重点の一つとなっている。この間に、かつては存在しなかった間接経費という項目が設定されるようになり、補償比率が徐々に上がり、委託機関の「赤字運営でのプロジェクト実施」の問題が効果的に解決され、研究者の創造性とイノベーションへの活力が喚起されるようになった。しかしながら、改革の成果に注目するとともに、局部的な改革では科学研究経費管理における職員へのインセンティブやコスト構造の設定などの系統的な問題の解決は難しいことも、はっきりと認識しなければならない。将来的には、政府による科学研究への資金助成や研究者の報酬制度等に関する系統的な改革を着実に推進することによって、科学研究経費管理の科学化を実現し、科学技術強国戦略の実施を効果的に支えなければならない。

間接経費を初めて設定、科学研究活動の発展のニーズに対応

 2011年、財政部と科学技術部は共同で「国家科学技術計画および公益性産業の科学研究特別経費管理弁法の若干の規定の調整に関する通知」を公布して「間接経費」という概念を初めて提示し、科学研究プロジェクトの経費を直接経費と間接経費の二つの部分に分け、プロジェクトの直接経費に計上できない一部の費用を一括して間接経費に割り振ることにした。

 間接経費の前身は、科学研究プロジェクトにおける「管理費」であり、プロジェクトの実行過程における、委託機関に既存の機器設備および家屋の使用、日常の水道、電気、ガス、暖房等の消耗費、ならびに関連の管理費用の支出を補償するために使われた。その計算方法は固定比率による計上方式を採用しており、一般的な計上比率は5%~10%で、金額の大きいプロジェクトについては管理費の比率を最低の1%とし、一部の企業、海外の機関または組織については管理費の比率を30%まで引き上げられることもあった。管理費の概念と計算方法には一般プロジェクト類におけるプロジェクト資金の管理モデルが直接当てはめられており、計画および行政管理の色彩が強いため、科学研究活動のニーズを満たすのは難しい。

 こうして間接経費の概念が提示されたことは、中国における科学研究プロジェクト経費の管理理念の変化を示すものである。現行の管理費を含めたプロジェクトの経費項目の区分方法は、一本化・事業化されたプロジェクトの経費管理に適用されるものだ。しかし、科学研究プロジェクトにおいては、単独の科学研究プロジェクトの実施に際しても委託機関の職員、インフラ、情報データシステム、財務管理等の面からのバックアップなしには困難であり、科学研究プロジェクトの担当者とプロジェクトとの間も一意的な対応関係ではない。加えて、科学研究活動自体の創造性、非重複性、不確実性という特徴も、プロジェクト経費管理の難度を上げる要素となっている。事業化されたプロジェクト経費に対する既存の管理モデルでは、科学研究活動のニーズを満たすのは難しい。したがって、経費に新たな構造と概念を取り入れることは、科学研究活動のニーズに適応し、コスト算出理論の発展動向に合致する上に、中国の科学研究プロジェクト経費管理において、計画・行政という管理理念から、科学研究活動の特徴に合致する科学の管理理念への転換を体現するものとなっている。

計上比率の着実な高まりによって、研究者の満足感が向上

 2011年に間接経費の概念が提示されて以来、間接経費の全体的な計上比率と間接経費におけるインセンティブ支出の計上比率は高まり続けている。「国家科学技術計画および公益性産業の科学研究特別経費管理弁法の若干の規定の調整に関する通知」では、間接経費の計上比率を最高20%とし、このうちインセンティブ支出は直接経費から設備費を差し引いた金額の5%を超えないと定めている。その後の2016年に中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁が共同で公布した「中央財政科学研究プロジェクト資金管理等政策のさらなる改善に関する若干の意見」において、間接経費に占めるインセンティブ支出の比率の制限が撤廃された。

 2018年の「科学研究管理の合理化、科学研究インセンティブの引き上げにかかる若干の措置に関する国務院の通知」では、「科学研究経費の使用における自主権拡大の試行」という要求が提示され、かつ、間接経費の計上比率がさらに引き上げられ、「試験設備への依存度が低く、実験材料の消耗費が少ない基礎研究、ソフトウェア開発、集積回路設計等の知識集約型プロジェクトについては、500万元以下の部分における間接経費は30%を超えないものとする。数学等の純基礎理論研究プロジェクトについては、間接経費比率をさらに調整することができる」ことが提示された。また、最近公布された「中央財政の科学研究経費管理の改革・改善に関する若干の意見」でも、間接経費の計上比率がさらに調整され、「数学等の純基礎理論研究プロジェクトについては、間接経費比率をさらに引き上げ、60%を超えないものとする」ことが明確に定められた。

 間接経費の全体的な計上比率の着実な引き上げや、インセンティブ支出比率の上限撤廃、経費自主権拡大の試行等の一連の改革政策の発表は、科学研究プロジェクトを請け負う委託機関および研究者、特に国の重要任務や最先端の基礎研究を請け負う機関やチームに大きなインセンティブの役割を果たした。間接経費の概念が提示される以前は、委託機関がプロジェクトの実施のために提供するインフラ設備や機器設備等の条件、管理職員等の費用については有効な補償を得るのが難しく、プロジェクト経費に対する研究機関からの恒常的な持ち出しや、請け負うプロジェクトが多いほど研究機関としては経費不足が増大する等の問題が生じていた。間接経費の概念の提示ならびに計上比率の向上によって、これらの問題が効果的に解消された。特に、間接経費におけるインセンティブ支出の設定によって、研究者に対する大きなインセンティブの作用が生まれ、良好な改革効果が得られている。

 中でも、間接経費におけるインセンティブ支出は、研究者のインセンティブ給の重要な供給源の一つだ。間接経費の概念が提示される以前は、横断的プロジェクトを請け負わず、成果の実用化による収入のない研究者にとっては、インセンティブ給は一貫して「政策はあるが、供給源がない」状態であった。間接経費においてインセンティブ支出という項目が設定されたことで、研究者のインセンティブ給に合理的なルートが提供された。数学や理論物理等の、設備購入のほぼ必要ない基礎研究を例に見ると、ある研究チームが4年を期間とするプロジェクトを請け負ったと仮定すると、直接経費50万元の科学基金がプロジェクトに与えられるが、間接経費の概念が提示される以前は、そのチームの研究者には相応のインセンティブ支出はなかった。間接経費の概念が提示された後は、最新の算出比率に基づけば、チームは年間7万5,000元のインセンティブ支出を計上できることになった。

過度の期待を受けている科学研究経費の科学的管理の道のりは遠い―

 間接経費改革は、研究者に対するインセンティブの強化に明らかな影響を及ぼした。特に、「中央財政の科学研究経費管理の改革・改善に関する若干の意見」の公布によって、基礎研究分野の間接経費比率は60%まで引き上げられた。しかしながら、改革の成果の反面、現行の間接経費には依然として多くの問題がある。例えば、間接経費の内容が十分に明確化されておらず、間接経費における真のコスト計算が欠落していることや、特に間接経費を職員のインセンティブ解決の重要な筋道として、プロジェクト経費と研究者の収入を「強力に関連付けている」こと等がある。

 間接経費の内容と計算方法についていえば、間接経費とは、科学研究活動と直接的・一意的な支持関係にあるわけではないが、研究機関側に科学研究活動に対する支持関係がある場合の経費を指す。間接経費の内容の定義づけや合理的な計上比率の設定には、科学研究機関側からの全体的な経費支出に対する明確な算定が前提として必要である。イギリスでも1990年代初期に、科学研究プロジェクトの経費項目の設定が非合理的で、管理が非科学的で、プロジェクト経費に対する研究機関からの恒常的な持ち出しが存在するという問題が生じていた。この問題の解決のために、イギリス政府は単にプロジェクト経費の管理改革から着手するのではなく、国立の科学研究機関や大学において、研究機関側からの透明性のあるコスト計算を行わせた。科学研究活動における経費支出の特徴という「全貌」をはっきりさせた上で、科学研究プロジェクトの経費という「局部的な」問題について科学的・合理的な改革を行い、良好な成果を上げたのである。

 科学研究経費の明確かつ正確な計算は、科学研究活動の特殊性と矛盾するものでは決してない。科学研究活動の特殊性は、経費支出の面においては支出の予測不可能性として表れるが、科学研究経費の正確な算出とは、科学研究活動において発生済みの経費支出について真実に基づき、正確な計算をすることである。ビッグデータの時代において、科学研究活動の真の経費支出の把握を前提にすれば、将来の科学研究活動における資金需要のより正確な予測が必ずや可能になり、科学研究経費管理の改革に役立つだろう。

 間接経費によるインセンティブへの影響についていえば、インセンティブ支出は間接経費を構成する重要な一部であり、これまでの改革の重点でもあった。では、インセンティブ支出と間接経費はどのような関係にあるのか。間接経費によって、研究者の報酬体系に存在するインセンティブ不足の問題を解決することは、果たして合理的であるのか。これらの問題に答えるには、研究者の報酬構造や出所、水準、昇給制度の体系的な分析、ひいては政府の科学研究資金助成体系等、よりマクロな問題の体系的な分析を前提とする。現段階では、間接経費によってインセンティブ支出を補償する方式によって、研究者に対するインセンティブ給に合理的な出所が欠けるという問題は、確かにある程度は解決されたが、この解決方法では、研究者のインセンティブとプロジェクト請け負い状況とがひとりでに関連付けられることによって新たな問題が生じ、研究者に対するインセンティブ不足という問題の根本的な解決には至っていない。

 1945年に発表されたVannevar Bushのレポート『Science, the Endless Frontier』によって、科学に対する政府からの資金助成の合理性に批判が唱えられてからというもの、科学に対して政府が如何に効果的な資金助成を行うかに関する論争は止むところを知らない。科学の発展や科学研究の組織モデルの変化に伴い、科学に対する政府の資金助成制度も変化を続けている。科学研究活動の特徴を理解し、科学研究活動の経費に対する真のニーズを把握することが、政府による合理的かつ効果的な資金助成制度を構築する重要な前提となる。

 中国では科学研究プロジェクトに対する資金助成制度を導入して以来、プロジェクト経費管理の科学化、規範化改革においてマイルストーンとなる成果を得ている。そこで、将来的には、科学研究機関側における透明性のあるコスト計算を着実に推進し、科学研究活動におけるリソースへの真のニーズを把握し、ボトムアップの方式によって研究機関側の間接経費比率を算出し、プロジェクトの間接経費比率を制定するための参考と根拠とすることを提案する。また、研究者の報酬制度改革を着実に推進し、動的かつ合理的な報酬調整制度を構築し、職員報酬とプロジェクトの関係性を弱めることによって、科学研究経費管理の科学化をさらに実現し、科学技術強国戦略に効果的に貢献することを提案する。


※本稿は、科技日報「持続推進間接費用改革 系統解決科研人員激励問題」(2021年9月13日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。