第182号
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細菌ゲノム編集における障害の低減

2021年11月11日 AsianScientist

 科学者たちは細菌株間で転送できる新しいCRISPR-Cas遺伝子編集法を使い薬剤耐性微生物と戦い続けている。

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 AsianScientist 香港と中国のチームは、微生物の仕組みの一部を利用して、自然に存在しているがこれまで未開発だったCRISPR-Casシステムの遺伝子編集能力を利用した。この新しい技術は、Nucleic Acids Research 誌で報告された。

 CRISPR-Casシステムは原核生物と呼ばれる単細胞生物に見られるDNA鎖の分子スニッピングツールであり、クラス2のタイプII CRISPR-Cas9技術がノーベル化学賞を受賞していることで知られている。ただし、これらのクラス2システムは、原核生物の10%でしか見られないため、細菌ゲノムの変更に使用されることはあまりない。

 対照的に、クラス1のタイプIシステムははるかに多く、知られているすべてのCRISPR-Casシステムのほぼ半分を占めている。自然に豊富にあるため細菌ゲノムに有望なタイプI系の編集プラットフォームを作り、研究からオフターゲット効果を最小限に抑えるなどの明確な利点がはっきり分かっている。

 しかし、カスケードと呼ばれる遺伝子成分は、タイプIシステムにとって障害であることが証明されており、カスケード遺伝子を生まれながらに持たない異種の宿主や有機体に導入された場合、機能することはできない。

 この障害を克服するために、香港大学のアイシン・イェン(Aixin Yan) 教授が率いる科学者たちは、緑膿菌菌株のタイプI-FCRISPR-Casシステムに基づくゲノム編集プラットフォームを開発した。

 現在、緑膿菌の中には複数の薬剤に対して危険なほど耐性を示している株もある。緑膿菌は血液や肺などのさまざまな部位に感染し、肺の場合は肺炎を引き起こすことで悪名が高い。研究者たちは薬剤耐性株の臨床サンプルを研究し、非常に活性の高いタイプI-FCRISPR-Casシステムを発見した。耐性に関連する遺伝子を特定し、考えられる抗耐性戦略に役立つ新しい編集方法を考案している。

 研究者たちはこの興味深い技術をさらに一歩進めて、カスケード遺伝子を含む一連のDNAのクローンを作り、小さな輸送媒体を使用してそれを異種宿主のゲノムに統合させた。宿主の中で、タイプI-F CRISPR-Casは系の一部として自然に発生したかのように発現し、輸送されたカスケードの安定性を確保し、さらに効率的なタイプI系の編集方法を実現させた。

 輸送可能なタイプI-Fシステムは宿主DNAに干渉する能力を持ち、他の緑膿菌種でも機能し、さまざまな生物間で遺伝子操作が期待できる範囲を拡大した。チームは、CRISPR系の編集方法を使用して病気の原因となる薬剤を抑制することに加えて、この新しい方法を利用して腸内の善玉菌を強化し、人間の健康を改善することも考えている。

「私たちのアプローチは様々なタイプICRISPR-Casシステムを広範囲に活用できるフレームワークを提供し、異種ゲノム編集ツールと非モデル種ゲノム編集ツールを確立させます」と著者たちは述べている。

 

発表論文等:Xu et al. (2021) A Transferrable and Integrative Type I-F Cascade for Heterologous Genome Editing and Transcription Modulation .

原文記事(外部サイト):
●Asian Scientist
https://www.asianscientist.com/2021/09/in-the-lab/crispr-multidrug-resistant-pathogens/

本記事は、Asian Scientist Magazine の許諾を得て、再構成したものです。掲載された記事、写真の無断転載を禁じます。
Source: The University of Hong Kong; Illustration: Ajun Chuah/Asian Scientist Magazine.
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