第182号
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科研費管理の法治化プロセスを加速―自由配分と厳格な監督管理の関係を調和

2021年11月16日 狄小華(南京大学法学院教授)

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画像提供:視覚中国

法治による方法を深化させ科研費の自由配分と厳格な監督管理との関係を調和させ、信用を基調とし、個人の自律を基盤とし、学術の自治を重心とし、行政による監督管理を保障とする科研費管理制度を確立することによって、科研費管理の腐敗に対する法による統治制度を真に形成しなければならない―。

 中国共産党第18回全国代表大会以降、科学研究によって生まれる効果をより高めるために、国は研究者の積極性を喚起し、科学研究におけるイノベーションへの活力を解き放つ一連の新規則を公布した。最近公布された「中央財政の科研費管理の改革・改善に関する国務院弁公庁の若干の意見」では、7つの面にわたる25条の「確固たる算出」措置を提示することで、科研費への「縛りを緩和し」、科学研究プロジェクト経費管理におけるさらなる自主権を研究者に与えた。また、国は科研費管理の腐敗に対する処罰を強化し、中国共産党第19回中央紀律検査委員会第5次全体会議において、科学研究管理における腐敗の問題を2021年における腐敗撲滅業務の重点とすることを明確にした。

 しかしながら、巨額の科研費に関しては、各種プロジェクトを通じて研究テーマ委託機関の財務会計に収まり、研究チームまたは研究者に自由に配分されるようになったときに、科研費が「唐僧肉」(仏僧の肉。不老不死になると言われる)となって争奪され、侵食されるのを如何に回避するかは依然として深刻な課題であり、法治による方法を深化させ科研費の自由配分と厳格な監督管理との関係を調和させることは、なおも業務の重点である。

科研費管理:今なお腐敗のハイリスク領域

 研究テーマ制は、中国の科学研究管理の主な方式であり、公平競争と優秀選抜の原則に従って科学研究テーマを確立し、その研究テーマを中心に、研究チームを基本活動単位としてテーマの組織、管理ならびに研究を行うものである。研究テーマ制の実施初期においては管理が大ざっぱ過ぎたことに加え、研究経費の補償が行き届かなかったために、研究委託機関は「研究テーマに依存しつつも赤字を出さざるを得ず」、各種管理における違法行為があっても不思議ではなかった。

 2006年から2014年までは、経費管理規範が徐々に増え、詳細化したものの、科研費の特殊性が考慮されなかったために、科研費の自由配分と財政経費の厳格な監督管理の両立が難しくなった。激化するランキング競争に面し、研究者がより多くの研究テーマを獲得できるよう支援すべく、主な監督職務を担う研究テーマ委託機関が科研費により寛容な管理を講じるようになったために厳格な管理制度が形骸化され、研究者による科研費の乱用が頻繁に発生するようになった。国による腐敗撲滅の強化に合わせ、研究テーマ管理部門と研究テーマ委託機関が一連の科研費管理措置を公布したことは、一部の腐敗の取り締まりには効果的だったが、経費精算が難しく、手続が煩雑である等の問題によって、多くの研究者の科学研究に対する積極性はそがれることとなった。

 2016年に中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁が共同で公布した「中央財政科学研究プロジェクト資金管理等政策のさらなる改善に関する若干の意見」では、「簡政放権」(行政のスリム化と権限委譲)、「放管結合」(監督管理の強化と権限委譲の両立)、「優化服務」(サービス水準の向上)を内容とする改革とイノベーション・科研費使用と管理方式の推進に伴い、科研費管理の腐敗管理も進展を遂げ、研究者のイノベーションへの活力が解き放たれた。しかし、腐敗管理は長期的かつ厳しい任務であり、科学研究投資の拡大に伴い、科研費管理は依然として関心を払うべき腐敗のハイリスク領域となっている。

 科研費管理の腐敗リスクは、主に研究チームの申請、科学研究の実施と成果の実用化の3つの段階に存在する。申請段階においては、主に研究テーマ管理権力の濫用によって自身または他人のために科学研究プロジェクトを違法に獲得することにあり、具体的には重複や研究テーマの虚偽の申請によって科研費を詐取し、または秘密開示等の方法によって他人の科学研究プロジェクトの獲得を支援する形に表われ、汚職や贈賄、収賄等の罪名に関係する。科学研究の実施の段階においては、主に経費管理規定の違反、経費自主配分権の濫用の形で表われ、プロジェクトの再委託、調達、出張等の段階において、「虚偽契約」や「虚偽の会計」、「虚偽の領収書」によって科研費を詐取しており、主に汚職や公費流用等の罪名に関係する。また、成果の実用化の段階においては、主に経費管理や企業管理職権の濫用の形で表われ、知的財産権が明確でなく、再委託先企業の属性または株式が明確でない等の状況において、汚職の実施、職務権限の侵害、資金の流用等の罪名に関係する。

科学研究自由権と経費管理権のバランスの難しさ

 科研費の自由配分は科学研究イノベーションの内的要求である一方、法による財政の監督管理という性質を持つ科研費は行政機関に関係する法定の職務である。したがって、科学研究の自由な権利と経費管理権力のバランスを如何に取り、研究者、委託機関と行政管理部門の利益を調和させるかは、一貫して科研費管理の腐敗対策の重点であり、難しい点でもある。

 第一に、自由の保障と監督・制約との間には矛盾が存在する。科学研究の自由は科学研究イノベーションの前提条件であり、研究者による科研費の自由配分は科学研究の自由にあるべき筋道である。しかしながら、世の中にはもとより絶対的な自由は存在せず、研究者による経費配分の自由は経費管理規範に合致しなければならず、かつ、個人の自律や科学研究共同体による自治と行政管理部門による監督を通じて、権利の濫用を防がなければならない。研究者と研究委託機関は事実上、利益共同体であり、行政の権限委譲の過程においては、関連する改革、たとえば経費補償や科学研究自治等の不備のために、研究委託機関の自治意識の不足や能力不足、研究者のリスク意識の不足や規範意識の不足等の問題が依然として存在する。

 第二に、行政管理と科学研究サービスとの矛盾である。研究委託機関の財務、科学研究等の部門は、科学研究行政管理部門であるとともに、科学研究の自治を具体的に実施する部門でもある。近年、各級の部門が再三にわたって科学研究サービスを強調し、財務助成等の制度を実施し始めているが、管理コストや管理効率から考えると、臨時雇用の財務職員は変動が頻繁であり、具体的な予算指導を提供する人手が不足している上に、科学研究の信用を提唱し、経費使用規範を促す等の面での科学研究共同体の役割には限りがある。また、行政責任追及の強化という社会情勢を背景に、行政管理職員は自身のリスクを下げるために、理性的見地から「厳格な管理」を選択する可能性もある。これも、上層部では権限委譲が強化されつつあるのに、一部の機関では遅々としてはかどらず、これらの刺激策が十分に実現されていない原因となっている。

 第三に、科学研究の保障と科学研究インセンティブの不均衡である。国は研究者に対して科学研究の自由権を保障する上に、国が必要とする科学研究プロジェクトに資金助成を提供し、同時に科学研究の優れた成果にインセンティブを与えるが、その実施過程で多くの問題に直面する。高等教育機関の教員を例に示すと、科学研究に専門的に従事する専従職員と異なり、科学研究の主力を占める高等教育機関の教員は教育・人材育成と科学研究、社会サービスの三重の任務を担っている。しかし、現行の給与では高等教育機関の教員に対して科学研究の労働報酬を十分に反映していない。そこで、現在の研究テーマにおけるインセンティブの配分を高めることで、知的活動に対する一定の補償作用はあるが、労働に応じた分配の原則を真に体現できないだけでなく、圧倒的多数の教員の科学研究に対する積極性を喚起することはできない。

科研費管理の腐敗対策における法治化の路線

 これらの問題を解決するには、法治方式を深化させて科研費の自由配分と厳格な監督管理との関係を調和させ、これに政府の「放管服」改革(前述の「簡政放権」、「放管結合」、「優化服務」の総称)と社会信用体系の構築を結び付け、信用を基調とし、個人の自律を基盤とし、学術の自治を重心とし、行政による監督管理を保障とする科研費管理制度を確立することによって、科研費管理の腐敗に対する法治対策の制度を真に形成しなければならない。

 第一に、研究者の自律の不足、研究委託機関の自治の不備の問題については、研究機関の法による自治と個人の法による自律を一層強化する必要がある。高等教育機関や科学研究機関等の学術共同体は法に基づいて高度な自治を享受しており、上級の行政部門による科研費への管理任務を担う上に、研究者を監督管理し、研究者に奉仕するという具体的な職責も担っている。科研費管理における自治を実現するには、科学研究の管理、報酬等の規範的文書を制定する際に研究者の発言権について重点的に解決し、信用失墜行為への懲罰および科学研究における権利保護の面において彼らが役割を発揮できるようにしなければならない。一方、研究者の法による自律を強化するには、科学研究の法律サービスを整備し、研究テーマの申請における法治宣伝を強化し、研究テーマ管理におけるリスク警告を細分化すること等によって、彼らの法治意識を養い、腐敗に対するリスクの意識を高める必要がある。

 第二に、研究者が行う科学研究に対するサービス体制を改善・整備し、研究者が限りある時間と精力を人材育成や科学研究に集中的につぎ込めるようにしなければならない。そのためには、一つ目に、科学研究テーマの予算編成サービス制度を改善・整備することである。研究テーマの経費予算が科学的かつ合理的であるか否かによって、研究者による研究テーマ申請の積極性やその成否に直接影響を与えるのみならず、研究テーマの経費の精算や、紀律検査監察部門による科研費の使用上の腐敗の有無に対する判断の根拠にもなる。このため、研究委託機関は研究テーマ予算編成の専門の支持体系を構築し、研究テーマの申請を行う研究者が予算を適切に編成できるよう指導し、支援し、監督する必要がある。二つ目に、研究テーマの経費精算・財務サービス体制を改善・整備し、プロジェクトごとに臨時財務助手を雇用するやり方を変更し、財務または科学研究部門の管理に属する安定的かつ専門的の財務助手人材を育成し、助手サービスの質を高め、かつ、財務監督の役割をより良く発揮させることである。また、三つ目に、科学研究成果の実用化制度の整備である。中国には大学や科学研究機関が数多くあり、専門分野の分類が粗雑で、科学研究の成果は今まさに急速な成長期にある一方で、科学研究成果の実用化はなお模索の段階にあることを考慮すると、中国の科学研究成果の実用化制度は三つのステップの順で改善し、整備できるだろう。第一のステップは、典型的な意義を持つ研究型の大学における科学研究成果実用化基地の設立である。第二のステップは、国務院や省直属の高等教育機関における科学研究成果実用化専門機関の設立によって、科学技術研究成果の資源をさらに統合し、成果の実用化を促進することである。第三のステップは、国家レベルで科学研究成果実用化機関を設立することである。

 最後に、研究者の科学研究権利の保障を整えるには、科学研究の報酬を基盤とし、科学研究インセンティブを補助とする科学研究権利の保障体系を構築する必要がある。そのためには、一つ目に、大学教員の科学研究の報酬を明確にし、科学研究の専門職と教育職とを区分し、かつ、文系科目、理系科目、工学系科目のそれぞれのプロジェクトに応じた比率によって間接経費を計算し、専門職の研究者と教育職の研究者のインセンティブ給とすることである。二つ目に、優れた科学研究成果に対するインセンティブを整備することである。科学研究によって得られる労働報酬とは別に、科学研究インセンティブは主に科学研究活動における研究者の際立ったパフォーマンスまたは抜きんでた成果に対して与えられる物質的および精神的な激励である。そうとはいえ、どんどん上乗せされる科学研究インセンティブによって科学研究評価の結果と利益が過度に関係づけられると、国の科学研究資源が浪費され、科学研究における腐敗が誘発されやすくなる。そこで、科学研究成果に対する評価を整備し、科学研究インセンティブの機能に関しては、多くの成果を出すことから品質の高い成果を出すことへと転換させるとともに、科学研究成果の実用化への誘導を重視し、科学研究成果インセンティブの統一標準を構築し、インセンティブの重複や乱立等の無秩序を回避する必要がある。そして、三つ目に、立法によって、成果の実用化における権利分配を明確にすることである。科学研究の成果は、実用化して初めてその最終的な価値を表すことができる。中国の科学研究成果の実用化率にさらなる向上が必要とされる問題については、立法によって科学研究インセンティブ全体における実用化インセンティブの比率を高めるとともに、規定の細分化によって科学研究成果の実用化において直面する処理の難しさ、評価の難しさ、そして収益化実現の難しさ等の問題を適切に解決する必要がある。


※本稿は、科技日報「加快科研経費管理法治化進程 協調支配自由与厳格監管之間的関系」(2021年9月27日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。