第183号
トップ  > 科学技術トピック>  第183号 >  広東東莞:研究機器設備の共有からイノベーションニーズのマッチングまで

広東東莞:研究機器設備の共有からイノベーションニーズのマッチングまで

2021年12月28日 竜躍梅(科技日報記者)

image

松山湖材料実験室では東莞市科学研究機器設備オープンプラットフォーム「莞儀在線」を利用し、ますます多くの東莞企業と関係を構築(写真:松山湖メディア融合センター)

 この膨大な設備のオープンプラットフォームは、機器設備のマッチングだけに使われるわけではない。設備管理側は科学研究の高い実力を有する高等教育機関または研究機関であり、ハードウェア設備のニーズに応じて関係性を形成し、類似分野におけるイノベーションの課題とイノベーション資源のマッチングを実現し、よりハイレベルな産学研の高度な協力を推進する。

 このほど、東莞市李群自動化技術有限公司(以下、「李群自動化」)が生産した軽量型のスカラロボットには、一連の専門試験を行う必要がある。しかしながら、同社には相応の試験設備や環境が備わっていない。そこで、彼らはロボットを東莞市品質監督検測センターに送った。品質監督検測センターの専門設備を使えば試験は短期間で終了し、製品認証を受けることができる。

 イノベーションの成果には、科学研究設備による支援が欠かせない。設備という資源を活用し、科学研究機器における設備の使用効率を高め、科学研究機関と企業の研究開発コストを下げるために、東莞市では2020年11月に東莞市科学研究機器設備オープンプラットフォームを設立した。また、最近、一連の関連政策を公布し、産学研の高度な協力に新たな支援スポットを提供した。これも、東莞市が松山湖を代表とするイノベーションの牽引役を発揮し、「科学技術イノベーション+先進製造」都市としての特色を示すための最新の実践と縮図である。

設備の共有サービスで科学研究機関と企業をつなぐ

 先日、東莞理工科学技術イノベーション研究院で特別講演会が開催された。参加者は、凱金新能源、科隆威智能装備、華技達精密機械等をはじめとする20社以上の企業であり、この中には東莞市の所得倍増計画企業が10社、上場準備中の企業が8社、「専精特新」(発展戦略の専一化、製造管理の効率化、製品サービスの特色化、技術開発のハイテク化)企業が6社含まれ、企業の力が顕在化した。会議では主に東莞市の科学研究機器設備共有政策について紹介され、関連の業務フローや「莞儀在線」プラットフォームの操作についての説明があり、高等教育機関と企業の間での設備の共有、技術人材の育成、技術的難題の解決等のテーマで協力が推進されることになった。

 最近では、このような研修会が頻繁に開催されており、その背景には東莞市科学研究機器設備オープンプラットフォームの設立と利用が急速に進んでいることがある。

 「まるで『設備の総合スーパー』、あるいは『設備の電子商取引プラットフォーム』のようだ。東莞市全体の科学研究設備の資源を集中させれば、企業はそれぞれの設備ニーズに応じた発注が可能になり、設備という資源共有の障害が解消される」と、東莞市科技局実験室・プラットフォーム基地科の盛永明科長は語る。現時点で、同オープンプラットフォームには中国核破砕中性子源CSNS(China Spallation Neutron Source)、松山湖材料実験室、東莞市品質監督検測センター、東莞理工学院、広東医科大学および数多くの新型研究開発機関、リーディングカンパニー等の79機関が参加しており、4,700台以上の科学研究機器設備が提供されている。

 同オープンプラットフォームには、バイオ医薬、電子・電気、化学・化学工業、機械等の多くの業界分野が集約されており、透過型電子顕微鏡や大型熱真空試験システム、MRI(磁気共鳴画像システム)、産業用CT等の最先端機器が含まれる。

 同オープンプラットフォームは統一規格、資源共有、市場化運営の原則を取り入れており、政府と企業、科学研究機関、高等教育機関の間の橋渡しを行い、多層的な機器設備の共有サービスを行うことで、東莞地区、ひいては粤港澳大湾区の企業向けの共有サービスを提供する。今年9月末現在で、同オープンプラットフォームでは各種ユーザー向けにのべ679回のサービスを提供している。

 東莞市では最近さらに「東莞市科学研究機器設備オープンサービス資金助成管理弁法」(以下、「管理弁法」)等の、国家イノベーション型都市の建設に関する一連の関連政策を公布しており、イノベーション・チェーンの各段階から着手し、科学研究機関とハイテク企業の弱みや難題を解決しようとしている。

 李群自動化の総経理補佐を務める陳詩雨氏は「ロボット産業の分野では多くの試験設備が非常に高価で、中小企業単体ではとても負担しきれない」と言う。このため、前述の「管理弁法」で全く新たな「オープン」モデルを切り開き、有限の機器設備に最大の高価を発揮させようとしている。

「最先端」設備のオンライン化

 最近、松山湖材料実験室は東莞市科学研究機器設備オープンプラットフォーム「莞儀在線」の力を借りて、東莞市のますます多くの企業と関係を構築している。

 松山湖材料実験室の公共技術プラットフォームは、材料設計、制備、加工、特性評価、試験、シミュレーション、建設に関する国際的にも一流の総合的ユーザーオープンプラットフォームであり、粤港澳(広東省・香港・マカオ)周辺の高等教育機関、科学研究機関、企業に汎用性のある技術サービスを提供できる。

「実験室の最先端設備を『莞儀在線』プラットフォームに登録しているため、東莞企業はあたかも総合スーパーでショッピングをするように有料の使用申請を行うことができる。つまり、東莞市全体のテクノロジー企業が実験室の持つ科学研究力の恩恵を受けられるのだ」と、松山湖材料実験室公共技術プラットフォームの研究員である胡偉氏は語る。

 今回公布された政策の一つである「東莞市科学研究機器設備オープンサービス資金助成管理弁法」の目的は、「莞儀在線」プラットフォームの活力をさらに開放し、業績評価が良好ならびに良好以上の管理機関にインセンティブを与え、要求に合致するユーザー機関に科学研究経費面において補助金を与えることである。

 胡氏によれば、前述の「管理辧法」は管理機関とユーザー機関の双方が恩恵を受けられる政策である。管理機関にとっては、政府が業績評価の結果に基づいて管理機関にその年度の報奨金を与えるもので、優秀と評価された場合の報奨金は年額100万元、良好と評価された場合の報奨金は年額50万元であり、十分なインセンティブの役割を果たしている。

 一方、ユーザー機関にとっては、科学研究機器設備の共有によってイノベーション企業、特に中小企業のコストが軽減される上に、要求に合致するユーザー機関に対しては、政府からさらに科学研究活動によって実際に生じた費用のうちの20%の資金助成を受けられることになる。ただし、同一機関における年度内の助成金額は30万元を超えない。

 広東拓斯達科技股分有限公司はこの政策の受益者である。東莞市科学研究機器設備オープンプラットフォーム「莞儀在線」を利用し始めてから、拓斯達の科学研究設備の購入のための年間支出は1,000万元減り、かつ、比較的少ない資金で最先端設備を使用できるようになった。

 「東莞市が今回公布した科学イノベーション関連政策は強力で、非常に実質的である」と胡氏は言う。政策公布の前に、東莞市科技局等の関連部門は科学研究機関や企業を何度も訪れ、科学イノベーションの第一線の声を聞き、科学研究機関と企業がその悩みの種や難題を解決する助けとなろうとした。科学研究機器設備のオープンサービスによって科学イノベーションの第一線に恩恵をもたらすために、政府は、設備管理機関やユーザー機関の仲介をさらに頻繁に行い、双方の高度な協力・交流を促す必要があると胡氏は考える。

優れた科学研究力で有名企業とのマッチングを行う

 東莞理工科学技術イノベーション研究院(以下、「研究院」)は、東莞理工学院が産学研協力を推進し、科学技術成果の実用化を行うための重要な媒体であり、そのプロジェクトの範囲はスマート製造、中性子散乱、マイクロナノテクノロジー、食品エンジニアリング、総合保健(comprehensive health)、新材料、ロボットおよびスマート設備、智能装備、3Dプリント、レーザー応用等の最先端の研究分野をカバーする。

 現在までに、研究院では4億3,000万元の価値の世界先端レベルの科学研究機器設備を購入している。このうち、単価が100万以上の貴重な設備機器は52台、10万元から100万元の重大設備機器は162台で、中国核破砕中性子源CSNSとの協力で世界第4の中性子全散乱装置を建設し、2021年下半期に運用を開始し、世界のユーザーから研究テーマを募集している。

 かつて、研究院の機器設備は主に東莞理工学院の学院内で科学研究を行う教員や関連の協力企業に開放され、使用されていた。それが、今年、オープンプラットフォームが正式にリリースされ、研究院内の大量の最先端設備が社会に広く開放されたために、ファーウェイや長盈精密、拓斯達等の東莞市の多くの一定規模以上の企業(主業収入が2,000万元以上の企業)がプラットフォームサービスの受益者となった。

「これまでも、我々は学院内の産学研プロジェクトの協力企業向けに設備を開放してきたが、今では刺激策を借りて市全体に機器の共有を推進できる。これは、非常に有意義なことであり、影響面も拡大するだろう」と、東莞理工科学技術イノベーション研究院の副院長を務める魏亜東氏は語る。研究院内の多くの共有試験設備は価格も、その後のメンテナンス使用や保守コストも高いため、企業にとっては、機器の共有は研究開発・試験コストの大幅減につながる。

 研究院の設備は主にスマート製造の分野に照準が定められ、材料、設計、製造および応用の全チェーンをカバーする。また、研究院は東莞理工学院の科学研究力をより所として、設備に専門の試験員を配備し、使用機関が試験データを高度に分析できるよう支援する。

 また、研究院は機器のオープンプラットフォームの設備管理側であると同時に設備使用側でもあるため、その二重の役割によって、機器共有による大きな利点を深く体得することができる。

 「松山湖材料実験室が研究院の近くにあるため、今では同実験室にはどのような設備があるのかをこうしてオンラインで調べられ、計画の上でも利用の上でも非常に便利だ」と魏氏は語る。これまでは、東莞理工学院の教員は、東莞周辺で共有可能な設備が見つからないと、関連機関にどのように設備の申請をしたら良いかがわからず、広州や上海、北京等まで赴いて実験を完了させる必要があった。しかし、今ではプラットフォーム上で東莞市内の共有可能な設備を直接検索して予約することができるため、実験コストを大幅に低減できる。また、オンラインプラットフォームによって、研究院にもより多くの産学研プロジェクトの協力のチャンスがもたらされている。

イノベーション資源の充分な回転を

 この膨大な設備オープンプラットフォームの意義は、実質上、機器設備のマッチング使用にとどまらない。設備管理側は、一般的には高い科学研究力を持つ高等教育機関または研究機関であり、ハードウェア設備のニーズに応じて関係性を形成し、類似分野におけるイノベーションの課題とイノベーション資源のマッチングを実現し、よりハイレベルな産学研の高度な協力を推進することが、当該プラットフォームのより大きな役割の体現である。

 「設備の共有を手がかりに、プラットフォーム設備サービスを科学研究課題の解決という技術サービスにまで拡大できれば、科学研究機関、高等教育機関、企業間のスピーディーなイノベーション圏を構築し、イノベーション向けのソフトウェア・ハードウェア資源を充分に回転させることができる」と盛氏は言い、「このことは、設備管理側と使用側のウィンウィンの実現となる」とする。

 「東莞市全体では6,000社以上のハイテク企業があり、大きな科学研究設備のニーズがある。しかし、現在のプラットフォーム登録ユーザーはわずか100社あまりで、大きな普及の余地がまだある」と盛氏は指摘する。最近の彼と同僚たちの主な仕事は、全市の32鎮街(産業パーク)のハイテク企業に対してローラー作戦で宣伝と研修を行い、より多くの企業にオープンプラットフォームという運用モデルとその長所を理解してもらうことである。

 ユーザー群の拡大によって、オープンプラットフォームの発展により強力なスケールメリットをもたらし、プラットフォームの使用効率を高め、総合コストを低減することができる。また、プラットフォーム設備の拡充も、今後の業務の重点となる。

「広州・深圳の両地には大量の科学研究機器資源があり、管理使用側にも一定の基礎と経験がある。将来的に、条件がさらに成熟すれば、地域間プラットフォームの連動を検討し、企業や科学研究機関のユーザーにより大きな選択の空間を提供することができる」。盛氏によれば、将来的には、プラットフォームに市場化や第三者機関を誘致すれば、その成熟した運用・管理モデルを参考に、設備管理側とユーザーに対し、より整備されたサービス体験を提供できる。


※本稿は、科技日報「広東東莞這箇"設備超市" 不僅共享設備,還能対接創新需求」(2021年11月1日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。