第183号
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師亜輝:彼方から地球を望む人工衛星の「目」を開発

2021年12月15日 馬愛平(科技日報記者)

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師亜輝研究員 撮影:馬愛平(科技日報記者)

宇宙飛行プロジェクトは、原理を完全に理解し、ニーズをはっきりさせておかなければならない。宇宙飛行製品は全てオーダーメイドで、何が必要なのかをしっかりと見極め、100%完璧な完成品を作らなければならない。100%に達していなければ、宇宙に行っても失敗に終わる可能性がある―師亜輝(航天長征火箭技術有限公司研究員)

 師亜輝さんのあだ名は「マシンガン」。

「難関攻略と言えば『マシンガン』」。

「『マシンガン』はハイレベルの技術を持っているだけでなく、難関攻略に長け、根気強く、負けず嫌い」。

 これらは、同僚の師さんに対する評価だ。

「マシンガン」が率いるチームは近年、技術的難関を次々に突破し、リモートセンシングの専門的な技術の進歩を推進し、宇宙飛行任務の成功を支えてきた。

 北京市党委員会宣伝部、北京市科学技術協会などの当局がこのほど共同で展開した北京の最も美しい科学技術者学習・宣伝活動で、師さんが2021年北京「最も美しい科学技術者」に選出された。

問題にぶつかると興奮

 中背で、体重は50キロにも満たない細身の師さんは、無精ひげを生やし、ラフな服装であるものの、目をキラキラと輝かせている。

 山西省運城市の一般的な家庭に生まれた師さんは、「子供の頃は遊ぶのが大好きで、プレッシャーを感じたのは中学3年になってから。息継ぎをする間もないほどの勢いで一生懸命勉強し、山西省でトップの高校の一つである康傑中学(中高一貫校)に合格した」と振り返る。

 そして、「1990年代初めの時点で全国的には珍しかったが、学校にコンピューターなどの設備が揃っていた。触れることのできる知識が増え、新しい世界の扉が開いたかのようだった」と話す。

 1999年、師さんは南京理工大学の環境工学部を卒業し、同大学で2年間教員として働いた後、専攻を変えて大学院試験を受け、北京航空航天大学で信号・情報処理を学び始め、航空宇宙分野の道を歩むための基礎を築いた。

 そして2004年に信号・情報処理の修士課程を修了し、航空宇宙分野の門をくぐった。

 同僚らの目には、師さんは科学研究に没頭する「一匹狼」のように映っている。

 同僚らは、「師さんはとにかく難関攻略が好きで、問題にぶつかると興奮する。ものすごい勢いのサブマシンガンのようで、全ての技術的難関を突破するために決して諦めない」とユーモラスに話す。「マシンガン」というあだ名は、それが由来だ。

 航天長征火箭(ロケット)技術有限公司が初めて製作した高分解能映像レーダーの搭載テストは、陝西省西安市閻良区で行われた。課題グループは条件の厳しい屋外で搭載テストを行い、夜は徹夜でデータの分析を行った。しかし、何日も徹夜で奮闘したにもかかわらず、ある問題をなかなか解決できない。他の人が疲労困憊していた一方で、師さんはカンフル剤を打たれたかのように、あきらめずに奮闘し続けていたという。

 師さんは、「当チームの専門は、情報取得、情報通信で、さらにカギとなる部分として測量がある。端的に言えば、人間の目のようなものを作っており、衛星に搭載されているマイクロ波レーダーや光学レーダーなどの各種リモートセンシング観測手段を用いて、星の上にある島や森林などの情報を収集する」と説明する。

仕事=生活

 師さんにとって製品は子供のようで、それぞれの細部や製造のノウハウが全て頭の中に入っているため、目をつぶっていても製品を分解できるほどだ。

 師さんは、「ある事をよく分かっていないというのが一番怖い。しっかりと研究を続ければ、その恐れは克服できる。僕は子供の頃から妥協が嫌いで、時間と気力をたくさん費やす必要があるとしても、諦めるということを考えたことはない。一つのことを成し遂げてから床に就き、一番長い時で20時間以上寝たこともある」と話す。

 師さんには生活と仕事の境界はなく、ずっと持ち場に立ち続け、黙々と仕事をしている。そんな彼を支えているのは、誇りや名誉に思う気持ち、さらに責任感、使命感だ。

 同僚の間では、「重要プロジェクトが遅れることなく進むように、師さんは実験室に住み込み、食事も実験室。7日連続で実験室から出ないこともあった。我を忘れて技術的難題の解決に取り組んでいる時は、周りで何が起きているかは全く分からなくなる。そして、問題が解決すると、大きな声を出して胸をなでおろし、周りの人を驚かせることがよくある」というエピソードがある。

「宇宙飛行プロジェクトは、原理を完全に理解し、ニーズをはっきりさせておかなければならない。宇宙飛行製品は全てオーダーメイドで、何が必要なのかをしっかりと見極め、100%完璧な完成品を作らなければならない。100%に達していなければ、宇宙に行っても失敗に終わる可能性がある。自分が作るものには責任を持たなければならず、製品のパラメータ、操作の段取り、注意事項、各部分の人選などなどを、しっかり頭に入れておかなければならない」と師さん。

 ある年の夏、中国のある重点プロジェクトの難関攻略において重要な時期、同僚らは毎朝、事務所に来ると、折り畳み簡易ベッドの横で、「マシンガン」がパソコンに向かって座っているのを目にした。机の上のビニール袋には、腹の足しになるためのインスタント食品が入っていたという。

 数日後、気の利く同僚が、スーパーで靴下を何足か買い「マシンガン」に渡した。その時、他の同僚らは初めて、彼が裸足で靴を履き、何日も同じ服を着ていることに気づいたという。

 その重要な時期に、プロジェクトを遅れずに進めるために、師さんは、事務所に住み込みで、食事もそこでし、黙々と奮闘していた。そして、暑い夏が終わると、その重点プロジェクトも無事完了し、「マシンガン」は、必死に努力してプロジェクトの技術的難関を攻略し、実際の行動で、忍耐強く一つのことを成し遂げる精神とは何かを教えてくれたという。

 師さんの同僚・史永康さんは、「『マシンガン』は、知っている人の中で、最も頭が切れ、最も勤勉だ。その人格的魅力で、課題グループをしっかりと一つにしてくれている」と話す。

 問題について話し合っている時に、普段は温和な師さんが、「なぜ終わっていないんだ? 一体何が問題なんだ?」と腹を立て、机をたたくこともあるというが、史さんは、「師さんがとても純粋な人であることを知っているので、それが原因でみんなが不快な気分になることはない。彼は問題を指摘しているのであって、人を否定しているわけではない。問題というのは、みんなが話し合って、解決されていくことが多いものだ」と語る。

先頭に立って難関攻略

 ある研究開発の重要なミッションの過程で、プロジェクトチームは未曾有の技術的難題に直面した。非常に煩雑で、いろんな問題が絡み合っており、糸口が見つからない感じだった。

 そのプロジェクトの責任者としての「マシンガン」でさえ、それを見て頭を抱えるほどだったという。

 そういう時こそ落ち着いていることの重要性を重々承知している師さんは、「川で泳いでいるカモは、水の中で足をバタバタさせているものの、僕たちにはのんびりと落ち着いて川に浮いているようにしか見えない」と仲間を鼓舞した。実際には、プロジェクトを期限内に終わらせることができなければ、プロジェクトの責任者である「マシンガン」が、誰よりも焦りを感じることはみんなが分かっていることだ。それでも、師さんが真っ先に思いつくことは、一緒に難関を突破する方法を考えようと、仲間を励ますことなのだ。

 決して諦めず妥協しない姿勢の師さんに、周りの人は厚い信頼を寄せており、師さんがいるだけでチーム全体に安心感をもたらしている。

 師さんの同僚・劉斌さんは、「彼を見ると、『難関攻略に特に長け、自己犠牲の精神がすごい』という言葉を思い出す。彼こそが、宇宙飛行精神の実践者だ。彼は非常にプロフェッショナルで、能力が高く、チームの精神的支柱。どんなプロジェクトでも彼が責任者をしてくれると、みんなプロジェクトがうまくいくと感じる」と信頼を寄せる。

 師さんはいつでも先頭に立って、みんなの考えの筋道を整理し、チームのメンバーの技術的特徴に基づいてグループ分けをして、フォルトツリー(故障の木)を解析し、原因や問題を探し、重点に的を絞って、一つ一つ問題を克服し、フォルトツリーの分析を成し遂げ、そのプロジェクトのミッションを見事に完了させた。

 師さんが研究開発に参加した製品が新中国成立70周年の閲兵式でお披露目された際、チームのメンバー全員が、「マシンガン」と共に必死に頑張った日々は本当に価値があったと感じた。

 チームのメンバー・張雪さんは、「国が必要としている時に、私たちが開発した製品が役に立てて、とても誇りに感じる」と話す。

 また、師さんは新しい重点ミッションであるデジタル化マルチ機能2次元フェーズドアレイレーダーの技術責任者も担当し、若いメンバーの先頭に立って、そのプロジェクトを見事に完了させた。世界最先端のレベルを誇るその総合的な技術は、航天科技集団有限公司から技術発明一等賞を授与された。師さんはこれまでに、ミリ波ターゲット監視レーダーや可変焦点広視野赤外線カメラ、映像レーダーリアルタイムシミュレーションシステム、3次元映像化レーダー、ミリ波干渉測量レーダーなどを含む10以上の課題研究や技術的難関攻略を成し遂げ、それらプロジェクトにおいて中心的でカギとなる役割を担ってきた。

「『宇宙強国』というのが、僕の夢」と話す「マシンガン」の心の中では、愛国というのは単なるスローガンではなく、ミッションの要求に基づいて、一切手抜きをせずに、仕事を一つ一つやり遂げていくことなのだ。


※本稿は、科技日報「師亜輝:給衛星擦亮遥望地球的"眼睛"」(2021年10月25日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。