協働での発展を バーチャルリアリティ産業の全面的繁栄を促せ
2022年02月25日 魏依晨(科技日報記者)
没入型VRによるスキーを体験する参加者。第4回輸入博(上海)にて
写真提供:視覚中国
わが国のバーチャルリアリティ産業は急速に発展しているが、多くの問題にも直面している。世界的なバーチャルリアリティ産業の発展における戦略的チャンスを把握し、早急に計画を立て、科学的な調整を行い、バーチャルリアリティ産業の健全、急速、かつ、秩序ある発展を全面的に促さなければならない。
徐文立(工業情報化部電子情報司副司長)
11月10日、第4回輸入博(中国国際輸入博覧会)が閉幕した。今回の輸入博の出展国ブースではバーチャルリアリティ(VR)、3Dモデリング等の新たな技術やアプローチが駆使され、出展国向けにデジタル展示ブースの設置が標準化された上に、インタラクション機能も設置され、オンラインでの展示効果も向上した。
近年、VR技術は現実生活でも広く実用化されているが、産業発展の足かせとなる要素が依然として多く存在する。先日、工業情報化部と江西省人民政府の主催で行われた「2021世界VR産業大会クラウドサミット」において、バーチャルリアリティ産業聯盟の秘書長で、中国電子情報産業発展研究院の副院長も務める劉文強は、「中国におけるVR産業の発展の足かせとなる要素は、依然として多い。例えば、重要なコアテクノロジーが欠如するためその進展が待たれており、ストック面ではバーチャルリアリティの優良コンテンツが不足し、産業イノベーションのためのエコシステムが未成熟である。VR産業の発展を阻むこれらのボトルネックの解消のために、多角的な取り組みが必要である。
産業発展は依然として多くの問題に直面
複雑で変化の激しい世界の経済情勢や新型コロナウイルスの影響により、人々の生産方式や生活様式には大きな変化が生じた。5G、クラウド、AI等の次世代情報技術とVR技術の融合が進み、VR産業の発展は今やテイクオフの新たな段階に入ったため、産業の急速な発展を受け、多くの問題に直面するのも自然の流れだ。
「近年、わが国のVR産業ではイノベーションが活発に生まれている。産業基盤能力も向上を続け、完成品の供給もますます充実し、実用化も加速され、全産業チェーンのエコシステムが概ね形成されつつあり、段階的な成果が上がっている。特に、わが国のVR産業ではクラスター化発展の態勢が基本的に形成されたことから、電子情報産業の充実した基盤と広大な市場を頼りに、江西省、北京市、山東省、広東省等がわが国におけるVR産業の重点企業の主な集積地区となり、牽引効果が高まり続けている」と、工業情報化部電子情報司の副司長、徐文立は語る。中国のVR産業は急速に発展しているが、多くの問題にも直面している。基礎技術での実力の向上が待たれ、業界規模や実用面でまだ行き詰まりが打破できておらず、リーディングカンパニーが不在で、産業の調和的な発展において不均衡がある。したがって、世界的なバーチャルリアリティ産業の発展における戦略的チャンスを把握し、早急に計画を立て、科学的な調整を行い、バーチャルリアリティ産業の健全、急速、かつ、秩序ある発展を全面的に促す必要がある。
江西財経大学教務処の処長で、バーチャルリアリティ(VR)現代産業学院の責任者でもある廖国瓊教授が科技日報のインタビューに答えたところによると、中国のVR産業の発展には、政府、企業と高等教育機関による人材育成、技術研究、プロジェクト開発等の分野での高度な協力が必要だ。また、政府、産業、教育機関、研究機関、ユーザー、資金の間での橋渡しと融合を強化し、産業インフラの建設を適切に行い、産業発展のための良好な環境を創出し、VR産業のための健康なエコシステムを構築する必要もある。さらには、独自の知的財産権を持つVRの開発エンジンを開発し、専門的かつ最新のVRのニッチな応用分野においてコンテンツの質を高めることによって、VR産業の全面的な繁栄を促すという。
劉文強は、現在のVR産業の発展を阻む問題には、コアテクノロジー、VRコンテンツ、産業イノベーションのためのエコシステムの3つがあると考える。「最大の問題は、VR産業にはキラーアプリが欠けていることだ。中国のVRハードウェアの出貨量は年間わずか1000万台である上に、消費者にとって魅力のあるキラーアプリが乏しいために、VR製品を使おうとする消費者の意欲は低い。将来、どの家庭でもバーチャルリアリティの世界を体験できるようなキラーアプリが登場すれば、わが国のVR産業は急速に発展するだろう」と劉文強は語る。
産学融合こそ業界の進歩を促す
それでは、より多くの人材を育成し、産業発展を支えるには、どうすれば良いのだろうか。専門的で最新のVRのニッチな応用分野を掘り下げ、コンテンツの質を高め、VR産業の全面的な繁栄を促すには、どうすれば良いのだろうか。産学融合こそ、VR産業のイノベーションと発展を促す効果的な道筋だと、業界では考えている。
2020年9月に江西財経大学でバーチャルリアリティ(VR)現代産業学院が設立されたことは、産学融合によってVR産業の発展を促す大胆な試みと認識された。VR現代産業学院は同大学内のソフトウェア・IoT工程学院、芸術学院、情報管理学院、工商管理学院と同大学外の政府当局や企業、高等教育機関、科学研究機関によって共同で運営され、ここには人材育成、科学研究、技術イノベーション、企業サービスと学生による創業が集約されている。これは、再現可能で、普及可能な産学融合の新たなモデルであり、VR産業における人材育成と産業技術のイノベーション等の根本的な問題を解決するものと業界では認識されている。
VR現代産業学院の副院長を務める万征教授は、「産学融合であれば、若い人のイノベーション思考や主観性・積極性を充分に発揮し、企業にイノベーションの活力を提供できる」と語る。万征教授は記者に対し、「産学融合を通じて、勉学の過程で学生をプロジェクト開発に積極的に関与させ、産業発展をフォローアップさせれば、学生の視野を広げ、総合的な素養を高められるだけでなく、企業の製品開発や試行錯誤におけるコストも効果的に下げられ、経済効率を向上できることから、企業の生存率も高まる」とも話す。
ハイレベル人材を大量に提供することによって、VRソフトウェア・ハードウェア技術のイノベーションとハイクオリティな実用に結びつくイノベーションを導くばかりでなく、VR製品の品質、体験や魅力も高まり、技術進歩も加速されることから、VR産業にはさらに広大な市場が切り開かれるであろう。
業界融合と実用化を加速
消費サイドから見れば、バーチャルリアリティのコンテンツはゲームが主体である。しかし、中国国内のVRゲームプラットフォームは、そのコンテンツ数や更新頻度等を見ても、海外の主流プラットフォームと比べようもない。一方、業界サイドから見ても、アプリケーションの種類が雑多で、応用シーンの同質化が深刻という問題が存在する。
また、ハードウェアの面でも、速やかな弱点の克服が望まれる。2021年10月19日に江西省南昌市で開催された「2021世界VR産業大会」のメインフォーラムにおいて、劉文強は「バーチャルリアリティ産業発展白書(2021年)」(以下、「白書」)を発表し、VR産業の発展の現状や特徴、将来のトレンドを分析した。「白書」では、イノベーション・研究開発への支持を拡大するとともに産業の協調的な発展を促し、VRイノベーションのビジネスモデルを構築するとともに技術の普及と実用化を加速させることが提言された。
劉文強の考えでは、PC端末、モバイル端末、テレビ端末、一体型機器等の消費分野向けの多様な形態のバーチャルリアリティ市場に多数の企業が業界の垣根を越えて参入すれば、端末出荷台数はハイスピードの成長傾向を維持する。そうすれば、形態が多様化され、機能が統合化された端末製品が、VR消費市場の拡充に対し、全く新たな基礎ハードウェアとしての支持をもたらす。バーチャルリアリティのコンテンツと端末が互いに進歩を促し合い、相互補完することで、消費市場の大規模な拡大に向けた絶好のチャンスが到来する。近年の没入型技術と双方向型の体験によって、バーチャルリアリティは従来の「平面型、受動型、一方向型」のインタラクション方式を脱し、「三次元型、能動型、双方向型」の新たなモデルを実現するだろう。VR技術は医療、文化・観光、教育、映画、eスポーツ、電競、ライブ配信等の業界アプリケーションで次々に登場し、今やあまたの業界を活性化する重要な推進役となっている。「VR産業の発展は、単一技術によるブレイクスルーから多技術の融合へと方向転換し、5GやAI、4K/8K、自動運転、インダストリアルインターネット等の新興技術との融合的なイノベーションが加速されている」と劉文強は考える。
従来型の生産方式には現在、新たな課題が突きつけられ、産業モデルのデジタル化転換における好機となっている。VRはヒューマンマシンインタラクションにおける次世代型ツールとして、産業モデルのデジタル化転換における重要なジグソーパズルの役割を果たす。VR+製造業をテーマとするシンポジウムにおいて、米国のボーイング社がバーチャル空間での実験を行ったところ、航空機の設計関連プログラムにおける作業量が80%減少された。また、ドイツのアウディがバーチャル空間で製品の装備業務に対する予測と校正を完了させた事例によって、VRの応用に対する聴衆の国際的な視野が広げられた。
工業情報化部傘下の市場調査会社、CCIDコンサルティング(賽迪顧問股份有限公司)のデータによれば、2020年に中国のバーチャルリアリティ市場の規模は前年同期比で46.2%成長し、同市場は今後3年間、30%から40%の高成長を引き続き保つことが見こまれる。専門家の予測では、2025年には消費市場の規模は296億元に達し、企業レベルのアプリケーションの規模は931億元に達する。
「現在、中国のVR産業ではコアテクノロジーでの打開が待たれており、端末製品の大規模普及を支えるバーチャルリアリティの優良コンテンツが不足し、産業イノベーションのための質の高いエコシステムが確立されていない等の問題や課題がある」と劉文強は率直に話す。また、「アプリケーションと完成機によるリードを堅持し、バーチャルリアリティの産業チェーン、サプライチェーン全体を滞りなく通じさせ、産業サービスプラットフォームを構築し、産業の協働イノベーション能力を高める必要がある」とも語る。宣伝の強化を継続し、業界融合によるアプリケーションの誕生を加速させるとともに、研究開発への支持を強化し、製造強国という要求に従って産業基盤再生プロジェクトを実施し、VR産業のコアテクノロジーや重要部品技術でブレイクスルーが誕生し続けるよう促す必要がある。
※本稿は、科技日報「"軟硬兼施"共同発展 促虚擬現実産業邁向全面繁栄」(2021年11月12日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。