第185号
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ミリ単位の部品の中に千階建ての「高層ビル」 中国の知恵が詰まった超小型電子部品

2022年02月09日 葉 青(科技日報記者)

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画像提供:視覚中国

210%
 こうした新製品は、モバイル通信やカーエレクトロニクス、工業自動化制御、スマート家電などの分野での応用が進んでおり、売上高は前年同期比で150~210%増となっている。うち、中興(ZTE)や華為(ファーウェイ)などのスマホ及び基地局に必要な抵抗器系の部品が全体の30%以上を占め、欧米や東南アジア諸国に輸出されている。

 広東風華高新科技股份有限公司(以下「風華高科」)のチーフエンジニアで、研究院の院長を務める付振暁氏は、「小さなスマートフォン1台の中で、チップコンデンサ1100個、抵抗器300~400個が使われている。しかし、チップコンデンサのサイズがどれほど小さいかはあまり知られていないだろう。そして、単に小さいだけでなく、非常に小さな電子部品の中は、数百、さらには1千層以上の複雑な構造となっている」と説明する。

 しかし、この小さな精密電子部品においても、いわゆる技術的なハードルにより、チップ抵抗器の国産化は茨の道だった。

 10年前、付氏率いるチームはその技術の研究開発を行い、「超小型チップ抵抗器の精密製造技術と応用」プロジェクトを始動。超小型チップ抵抗器のキーテクノロジーを確立し、マイクロチップ抵抗器、及びカギとなる材料の産業化、独自の供給、5G基地局用の抵抗器の独自の供給を実現した。同プロジェクトは最近、2020年度広東省テクノロジー進歩賞一等賞を受賞した。

険しい国産化の道

 チップ抵抗器とは?

 付氏は、「これは実際には電子情報分野の基本的な部品で、電気回路の中の電気が通る所には全てこの部品が使われている。主に、フィルタ回路や電気回路の電波の出力制御といった役割を果たしている」と説明する。

 スマート化時代が到来するにつれて、スマホやウェアラブルデバイスのチップ抵抗器のスペースに対する要求がますます高くなっている。付氏は、「当チームが開発した最も小さい、媒質が薄く、高容量のチップ積層セラミックコンデンサ(MLCC)の大きさはわずか0.4ミリ×0.2ミリ。しかもこれほど小型の電子部品の中は、数百から1千層からなる複雑な構造となっており、各層の厚さは、どれもマイクロメートル級だ」とし、チップ抵抗器の技術について、付氏は「層と層の間の接続に、わずかなミスも許されない。その製法の精度に対する要求にしても、材料の強度に対する要求にしても、非常に高い」と強調する。

 非常に小型の電子部品のように見えるが、その国産化は茨の道だった。中国のチップ抵抗器の消費量は世界全体の約70%を占めているものの、独自生産率は8%にも届かず、特にハイエンドチップ抵抗器は、ほぼ輸入に頼っており、貿易赤字は年間300億元(1元は約17.9円)以上となっている。

 チップ抵抗器の研究開発難しさはどこにあるのだろう?

 付氏によると、主に3つの点があげられる。1つ目は極小サイズのため、高精度電極の位置付けに少しでも誤差があると、製品の精度、信頼性が低くなる点だ。特に、数百層の電極の位置付けには高い精度が求められるため大規模生産は難しい。2つ目は、超薄媒質層のナノ結晶媒質材料は、構造的欠陥や分散しにくい状態の製品の電場作用の下、絶縁不良、絶縁破壊が起きる点だ。3つ目は、セラミック材料と金属電極材料同時焼成の不整合により、電極が断続的になり、製品の電気性能や信頼性が低くなる点だ。

 「独自開発の能力がなければ、企業は競争が熾烈な技術の面や市場で生き残ることは難しくなる」と話す付氏は、卒業後すぐに風華高科の博士研究員科学研究活動拠点に就職し、これまで20年近くにわたり、世界の同業者が起こした技術的大変革がもたらした厳しい試練に何度も直面し、独自の研究開発の重要性をしみじみと感じてきた。

 10年前、「超小型、超薄媒質、高精度、高信頼」の技術ニーズに照準を絞った付氏率いるチームは、清華大学、中国科学院深セン先進技術研究院、中興通訊股份有限公司(以下「中興」)、清華大学深セン国際大学院と共同でプロジェクトチームを立ち上げ、媒質が薄く、高容量のチップ積層セラミックコンデンサの開発に挑んだ。

 海外の封鎖を突破してカギとなる製法、技術を確立

 起こる可能性のあるさまざまな技術的難題をターゲットに、研究開発チームは詳しい開発計画を策定し、大きな問題をいくつかの小さな問題に分け、分担して一つずつ難関攻略に挑んだ。

 最も苦しい時期、1つの技術的問題を解決するために、研究開発チームは3つのグループに分かれて、異なる視点から着手して、ベストな技術案を探し求めた。

 超小型チップ抵抗器の急速同時焼成技術イノベーションを例にすると、研究開発チームは、さまざまな材料の温度、反応の差などに基づいて、最終的に「温度上昇速度を上げ、上昇にかかる時間を短縮することで、低温焼成の構造動力や界面反応を効果的に下げることができる」という原理を発見した。それをベースに、MLCC急速同時焼成技術を発明し、最終的に超小型MLCC超薄媒質とニッケル内部電極焼結の不整合、超小型チップ抵抗器抵抗体と電極の間の界面拡散が深刻という問題を解決したことにより、界面の反応層の抑制精度がさらに高まった。この成果により、海外によって封鎖された鍵となる製法・技術を確立し、製品の容量が30%以上向上したほか、合格率も94%以上まで上昇した。

 また、中国初の卑金属端子電極新型低温焼結技術を使うと端子電極の表面の気孔率が0.2%まで下がり、製品の故障率は100万分の1以下と、世界の代表的な企業の水準に達している。

 たゆまぬ努力を経て、研究チームは独自の知的財産権を持つ薄い媒質で、高容量のチップ積層セラミックコンデンサ、高精度01005チップ抵抗器、高性能ナノ結晶媒質材料を開発。こうした新製品は、モバイル通信、カーエレクトロニクス、工業自動化制御、スマート家電などの分野での応用が進んでおり、売上高は前年同期比で150~210%増となっている。うち、中興やファーウェイなどのスマホ及び基地局に必要な抵抗器系の部品が全体の30%以上を占め、そして欧米や東南アジア諸国に輸出されている。

 付氏は、「同プロジェクトで、超小型チップ抵抗器のキーテクノロジーの研究開発に成功し、中国の空白を埋め、小型チップ抵抗器及びカギとなる材料の産業化、独自供給を実現して、中国のハイエンド抵抗器が外国の制限を受けているという問題を効果的に緩和し、5G基地局用の抵抗器の独自供給を実現した」と説明する。

 それをベースに、研究開発チームは、さらに新製品を開発。固いセラミックの上にフレキシブル端子を加え、製品の信頼性を大幅に向上させ、中国のカギとなる基礎部品の国産化を下支えし、中国の電子情報産業の安全、発展、国家戦略の安全に強力なサポートを提供している。


※本稿は、科技日報「毫米尺度内築起千層"高楼" 超微型電子元件展現"中国功夫"」(2021年11月10日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。