第186号
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新型電解液が充電式亜鉛電池の大規模応用の難題を解決

2022年03月25日 陳 曦(科技日報記者)  張 華(科技日報通信員)

 水合テトラフルオロホウ酸亜鉛塩とエチレングリコール溶剤からなる新型電解液は、エチレングリコール自体の沸点が高く、電解液の構成要素間の強い相互作用があるため、その電解液は揮発、結氷しにくいと同時に、酷暑や極寒などにも耐えられ、亜鉛電池の応用範囲が大きく広がった。

 充電式亜鉛電池は、新型電気化学エネルギー貯蔵部品で、リチウム電池よりも安全で信頼性が高く、コストも安い。しかし、水が亜鉛電池の電解液溶剤であるため限界があり、その産業化への発展の大きな足かせとなっている。

 天津大学は12月13日に取材に対して、同大の先端的カーボン・ナノエネルギー実験室は清華大学深セン国際大学院の先端的エネルギー材料チームと中国科学院金属研究所の先進的炭材料研究部と共同で、金属亜鉛と互換性のある低コストの新型不可燃含水有機電解液の研究開発に成功した。関連成果はこのほど、国際学術誌「Nature Sustainability」にオンライン掲載された。

水系電解液を使う亜鉛電池にはデンドライトと腐食が課題

「二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラル」の目標をいかに達成するかが今、世界が注目する課題となっており、再生可能エネルギーのグリーン開発や効率的な使用強化が世界の共通認識となっている。グリーンで安全な大規模エネルギー貯蔵技術を大きく発展させるのは、再生可能エネルギーの十分な開発利用のために必要な技術的サポートだ。

 充電式亜鉛電池は、明るい見通しを持つグリーンで、安全なエネルギー貯蔵技術で、リチウム電池に似た仕組みが採用されており、電解液中の亜鉛イオンが、正と負の電極間を行ったり来たりする原理を利用して、電気エネルギーを貯め、放出する。

 しかし、リチウム電池で採用されている可燃性が高い有機電解液と違い、充電式亜鉛電池は主に、水を電解液溶剤としているため、リチウム電池のように燃えやすく、爆発しやすいといった問題が存在せず、安全性がより高い。

 天津大学化工学院の楊全紅教授は、「亜鉛電池の原材料は埋蔵量が多いほか、電池の組み立て、貯蔵、輸送、メンテナンスが比較的容易であるため、大規模エネルギー貯蔵分野において、より幅広く応用できると見込まれており、近年、注目が高まっている」と説明する。

 しかし、負極としての金属亜鉛には、水系電解液の深刻なデンドライトや腐食といった問題が存在し、その解決が待たれる。

 楊教授によると、デンドライトというのは、充電の過程で電解液中の亜鉛イオンが亜鉛負極上で不均衡に沈積し、まるで樹枝のような金属亜鉛が発生することを指す。このようなデンドライトは、電池の充電、放電時に大きくなっていき、最終的に、セパレ--タを突き破って正極と接触し、電池内でショートが起こることで効果を失ってしまう。腐食の問題は主に、金属亜鉛は活動が活発で、自動的に水と化学反応を起こすことで起こり、金属亜鉛の負極と電解液が継続的に消耗するため、電池の使用寿命が大幅に短縮してしまう。

 教授は、「金属亜鉛負極のデンドライトと腐食の問題が、亜鉛電池の産業化と大規模応用の重い足かせとなっている」と説明する。

水合テトラフルオロホウ酸亜鉛塩とエチレングリコールからなる新型電解液

 充電式亜鉛電池が直面するこの2つの難題を克服するために、プロジェクトチームは、水合テトラフルオロホウ酸亜鉛塩とエチレングリコール溶剤からなる新型電解液を開発した。

 水の代わりにエチレングリコールを電解液溶剤とすることで、金属亜鉛負極の腐食の問題を大幅に抑制できると同時に、電解液中のテトラフルオロホウ酸基陰イオンと少量の水分子(水合テトラフルオロホウ酸亜鉛塩中の化合水)が金属亜鉛負極と反応を起こして、亜鉛負極の表面で自動的に緻密で安定したフッ化亜鉛固体電解質の境界層を形成する。その境界層は、亜鉛イオンが通過できると同時に、電解液や亜鉛負極の直接的な接触を避けることができ、亜鉛デンドライトや腐食の副反応の発生をさらに抑制し、亜鉛電池の使用寿命が大幅に伸びた。

 楊教授は、「エチレングリコールも、発火しやすい有機溶剤であるものの、水合テトラフルオロホウ酸亜鉛塩は、広く使用されている難燃剤だ。そのため、水合テトラフルオロホウ酸亜鉛塩とエチレングリコールからなる電解液は水系電解液と同じ不燃性を維持し、安全で信頼性が高い」と説明する。

 それだけでなく、エチレングリコール自体の沸点が高く、電解液の構成要素間の強い相互作用があるため、電解液は揮発・結氷しにくいと同時に、酷暑(40℃)や極寒(-30℃)にも耐えられる。これは、水系電解液にはない特徴で、亜鉛電池の応用範囲が大きく広がった。

 楊教授は、「水合テトラフルオロホウ酸亜鉛塩とエチレングリコールの工業応用は成熟しており、コストも安く、当チームが開発した新型電解液のコストを、現時点で最も安い水系電解液と同じ程度にすることができた」と説明する。

 この電解液の開発成功により、現在の亜鉛電池の研究ブームにさらに拍車がかかり、亜鉛電池の産業化が進むと期待されている。

 この研究成果が掲載された「Nature Sustainability」の記事には、「このプロジェクトでは、安価で環境にやさしい電解液を使っており、亜鉛電池の産業化の進展におけるカギとなる問題の幾つかが解決された。そして、持続可能な未来の構築のために信頼性が高くコストパフォーマンスの高い電池のソリューションを提供している」とのコメントも掲載されている。


※本稿は、科技日報「新型電解液或解决可充型鋅電池規模欧陽難題」(2021年12月15日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。