第187号
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グリーン水素: CO2排出ゼロの新エネルギー

2022年04月22日 操秀英(科技日報記者)

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(画像提供:視覚中国)

1億トン
 2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトを実現するためには、中国の水素の需要量は年間3715万トンに達すると予測されている。また、目標通り2060年までにカーボンニュートラルが実現すれば、水素の需要量は年間1億3000万トンに達し、うち再生可能エネルギーで生産された水素(グリーン水素)の規模が1億トンに達すると見られている。

 2月20日に閉幕した北京冬季五輪は、ウインタースポーツの祭典となったほか、水素エネルギーの祭典ともなった。

 東京五輪では一部のトーチでしか水素燃料が使用されていなかったが、北京冬季五輪では、全てのトーチで水素エネルギーが使用された。また、北京冬季五輪で投入された水素自動車の数は東京五輪の2倍だった。2月4日夜、北京2022年冬季五輪の張家口ゾーンで、中国の石油大手である中国石油天然ガス股份有限公司(以下「中国石油」)が独自に開発したグリーン水素を使用した太子城聖火台に火が灯された。これは、今大会で唯一、燃料にグリーン水素を使用した聖火台で、100年近い歴史がある冬季五輪で、初めて燃料としてグリーン水素が利用された聖火台となった。

 このようにしてグリーン水素が、多く人の視野に入ることとなった。

グリーン水素は水素エネルギー発展のための最初の狙い

 グリーン水素とは?

 グリーン水素とは、再生可能エネルギーを利用して、水を電気分解して生産する水素のことだ。それを燃焼する時、水しか発生せず、根本的に二酸化炭素のゼロ・エミッションを実現することができ、純粋なグリーン新エネルギーで、世界のエネルギーモデル転換において重要な役割を担っている。

 専門家によると、水素エネルギーはクリーンな再生可能エネルギーで、エネルギー放出の過程でCO2が排出されることはないものの、現時点では、水素エネルギーを生産する過程で排出されるCO2が完全にゼロになっているわけではない。

 水素元素は、地球上で主に化合物の形で水や化石燃料の中に存在している。一方、二次エネルギーの一種としての水素エネルギーは,水素生成技術を駆使して抽出する必要がある。現有の水素生成技術の大半は、化石エネルギーに依存しており、CO2排出は避けられない。その一方で、水素エネルギー生産源や生産の過程の排出状況に基づいて、水素エネルギーは、「グレー水素」や「ブルー水素」、「グリーン水素」などと名付けられている。

 グレー水素とは、化石燃料の燃焼によって生成される水素のことで、生産の過程でCO2などが排出される。現在、世界で利用されているほとんどの水素がグレー水素で、世界の水素生産量の95%を占めている。

 ブルー水素は、石炭や天然ガスといった化石燃料を利用して作られる。ブルー水素の生成過程では、副産物となるCO2を回収・利用・貯留(CCUS)することができるため、カーボンニュートラルが実現可能だ。天然ガスも化石燃料に属し、ブルー水素を生産する過程で温室効果ガスが発生するにもかかわらず、CCUSといった先端技術を利用することで、温室効果ガスを回収し、地球環境に対する影響を軽減し、低排出での生産を実現している。

 国際水素エネルギー協会(IAHE)の副会長を務める清華大学の毛曾強教授は、「グリーン水素は水素エネルギー発展の最初の狙いだ。水素エネルギーの発展は、エネルギーの『脱炭素』のためで、ゼロカーボンのエネルギーで生産したグリーンな水素でなければ、その目標を達成することはできない」と強調する。

「ブルー」や「グリーン」といった色で表された水素はどれも今後それぞれの役割を果たすものの、結局のところ、持続可能で本当の意味でゼロカーボンであるのは「グリーン水素」であるため、それが世界の水素エネルギー発展の焦点となっている。

 統計によると、2020年末の時点で、世界で実施中のグリーン水素プロジェクトは70件ある。うち、ギガワット(GW)級のプロジェクトは20件以上だ。欧州は昨年、水電解によるグリーン水素の生産能力を2024年までに少なくとも6GW、2030年までに40GWに引き上げる発展目標を打ち出した。

 投資銀行業務を中心とする米ゴールドマン・サックスの世界投資研究部門が最近発表したレポート「クリーン水素革命」によると、クリーン水素は世界がネット・ゼロの道筋を実現するためのカギであるほか、各国のエネルギー構造のカギとなる支柱で、クリーン水素の道筋を頼りに、世界の温室効果ガスの排出量を15%(CO2の排出量20%)減らすことができる。そして、世界の30ヶ国以上が、水素戦略やロードマップを打ち出して、2030年をめどに、クリーン水素の設備容量を2020年比で400倍以上に増やし、グリーン水素の年間平均新設ペースを50倍にすることを約束している。

中国のグリーン水素は発展の真っ最中

 グリーン水素を採用したトーチが五輪で使われる前に、中国のグリーン水素開発は既に成果が表れ始めていた。

 2020年1月、世界初の太陽光による水素製造モデルプロジェクトのテスト稼働が甘粛省蘭州市蘭州新区で成功した。同プロジェクトのキーテクノロジーの一つは、中国科学院の院士で中国科学技術大学化学・材料科学学院の李燦燦院長が率いるチームが開発した効率的で低コスト、長寿命の大規模電極触媒分解水水素生成技術だ。同年10月、世界初の太陽エネルギーを活用して生産したメタノールと水素を充填する一体化ステーション装置の稼働に成功した。そして、2021年末、中国初の1万トン級太陽光発電グリーン水素モデルプロジェクトが新疆維吾爾(ウイグル)自治区庫車(クチャ)市で正式に始動した。

 中国が2020年12月21日に発表した白書「新時代の中国のエネルギー発展」は、グリーン水素の生産、貯蔵、利用といった水素エネルギー産業チェーン技術設備の発展を加速させ、水素をエネルギーとする燃料電池技術チェーン、水素を燃料とする電池自動車産業チェーンの発展を促進し、エネルギーの各段階、マルチシーンにおける貯蔵・応用をサポートし、エネルギー貯蔵と再生可能エネルギーが補完し合いながら発展するように力を入れて推進するとしている。

 中国科学院院士で中国石油深セン新エネルギー研究院の鄒才能院長によると、中国石油勘探開発研究院(以下「中石油勘探院」)は、2012年に、いち早くナノ技術研究開発チームを立ち上げた。「このチームは金旭博士が筆頭となり、先取りしてエネルギー新材料と技術の研究開発を進めた。そして、2017年に、水の電気分解と水の光分解という2つのテクノロジー・ロードマップに焦点を合わせ、5年の研究開発と蓄積を経て、産業化の基礎が大まかにできた」。同研究院は2020年に、20数人からなる水素エネルギー技術研究開発チームを新たに立ち上げ、グリーン水素の生成、効果的な貯蔵、輸送、特色あるシーンでの応用といった技術の研究開発に従事するようになった。

 2030年までにCO2排出量ピークアウトを目指す中国の水素の需要量は、年間3715万トンに達すると予測されている。また、目標通り2060年までにカーボンニュートラルが実現すれば、水素の需要量は年間1億3000万トンに達し、うち再生可能エネルギーで生産された水素(グリーン水素)の規模が1億トンに達すると見られている。

 中石油勘探院新エネルギーセンターの関係責任者は、「当院は今後、グリーン水素の基礎研究へのサポートを強化し続け、水の電気分解による水素生成、水の光分解による水素生成、固体水素貯蔵、固体酸化物形燃料電池(SOFC)といった基礎技術の重点、難点の研究開発に取り組み、グリーン水素事業の秩序立った発展推進を誘導する。また、グリーン水素プロジェクト発展計画を策定し、光電気触媒、電解槽、固体金属水素貯蔵といった製品の開発展開を継続し、光電気触媒、転化の効率を向上させ、設備製造コストを削減し、一連の基準・規範を構築し、グリーン水素の大規模発展を促進する」と述べた。

 そして、「油田で太陽光発電の電力で水を電気分解して水素を生成するスタイルの工業化モデルプロジェクトをできるだけ早く実施し、水素エネルギーの全産業チェーンの展開計画を強化し、独自に研究開発した技術を実際の状況に合わせて利用し、『産・学・研』のスタイルを模索し、モデル応用を展開し、中国石油が独自の知的財産権を所有する水素エネルギー技術体制を形成する」とした。

技術・コストなど複数のハードルを克服する必要がある

 中石油勘探院にとって、北京冬季オリンピックで唯一グリーン水素を採用した聖火台に火が灯されたというのは始まりに過ぎず、中国のグリーン水素産業の発展もスタートを切ったばかりだ。

 清華大学・原子力エネルギー・新エネルギー技術研究院水素燃料電池実験室の王誠室長は取材に対して、「グリーン水素の発展、応用を一歩踏み込んで促進するためには、関連技術を改善し、基準や政策の制定などの面に取り組まなければならない」との見方を示した。

 これは、業界内の専門家の共通認識でもある。

 技術の面では、王室長は、「アルカリ水電解槽を使った大規模な水素生成モデル応用を推進し、その実用性をさらに向上させ、SPE/SOECといった水の電気分解による水素生成新技術を研究開発し、水の電気分解による水素生成システムフレキシブルカップリングインターバル、変動的再生可能エネルギーのプロジェクト技術をめぐる研究開発を行い、光触媒を用いた水の光分解による水素生成、熱化学水素製造、バイオ水素生成、原子力エネルギー水素生成といった水素生成の新技術の開発に力を入れるべきだ」との見方を示す。

 一方で、水の電気分解による水素生成技術の本当の意味での大規模化、商業化発展を実現するためには、「コストが高い」というのが現時点で直面する主なチャレンジとなっている。水電解による水素生成のコストは、石炭や天然ガスを使用した水蒸気改質による水素生成や工業の副産ガスとして発生している水素を精製する方法より2~3倍高い。

 そのため、再生可能エネルギーを使用した水素生成の発展を推進するために、中国は実行可能なコスト削減の道を模索する必要がある。現時点で、広東省や四川省といった地域が、関連の政策を打ち出し、再生可能エネルギーを使用した水素生成プロジェクトに電気料金の面で優待策を提供し、サポートしている。

 基準の面では、中国水素エネルギー連盟は昨年初め、「低炭素水素、クリーン水素・再生可能エネルギー水素の基準と評価」を正式に発表してそれを実施した。同基準は、欧州の天然ガス水素生成技術を基礎として推進するグリーン水素認証プロジェクトをよりどころに、低炭素水素、クリーン水素、再生可能な水素の量的基準及び評価体制を構築し、CO2を大量に排出する水素生成技術からグリーン水素生成技術への転換を誘導している。


※本稿は、科技日報「緑氫 純正的零碳新能源」(2022年2月28日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。