2013年05月20日-05月24日
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火星移住は可能か? 実現の課題を分析

2013年05月21日

 注目を集める火星への移住計画「マーズワン・プロジェクト」に、世界から8万人あまりの参加申込者が殺到している。主催者側は、「最終的に選出された4人は、2022年までに火星に向けて出発し、翌年には火星に着陸する予定だ。ただし、火星に到着しても地球に帰還する手段はない」と発表した。人民日報が伝えた。

 人類は1960年代から火星探査を開始し、現在までに30基を超える火星探査機が到達している。現在、探査機の打ち上げ、地球から火星までの軌道のコントロール、正確な定点着陸といった技術は成熟している。そのため「マーズワン・プロジェクト」は一定の実行可能性を持つが、さまざまな難題にも直面しており、その複雑さは計画者の想像をはるかに上回っている。

 まずは大型打ち上げロケットの開発だ。米国は低軌道の輸送能力が100トンに達する大型打ち上げロケット「サターンV」を使用し、重さ約50トンのアポロ宇宙船を何度も打ち上げている。しかし有人火星宇宙船の重さは、有人月探査機を上回るため、サターンVの推進力を上回る大型ロケットを開発しなければならない。

 次に、長期的に単独飛行できる、有人火星宇宙船を開発する必要がある。人類は現在、地球を巡り運行する衛星型宇宙船、月に向かう月面着陸船しか開発しておらず、その単独飛行時間はせいぜい10数日間だ。有人火星着陸船は単独で数百日間飛行する必要があり、技術面の課題とコストが前者を大幅に上回る。

 さらに、火星に向かう途中では、長期間の無重力状態により船員の筋力低下や骨粗しょう症といった一連の問題が生じるが、今のところ、薬の服用やトレーニングといった既存の方法では理想的な効果が得られていない。無重力によるマイナス影響を克服する最良の手段は、人の手により重力を生み出すことだ。これは技術面の課題により、現在までに実用化されていない。

 また火星そのものの特徴も、この宇宙への片道ツアーに多くの課題を突きつけている。火星は地球よりも太陽から遠く離れている上に、火星上の砂嵐は台風の風力(32.6メートル毎秒)の数倍に達し、通常ならば数カ月に渡り吹き続ける。このためバッテリーの電力供給は困難で、エネルギー補給が大きな課題となる。また火星上の気温は地球を大きく下回るため、火星着陸機の温度制御システムにも高い要求が突きつけられる。火星の引力は地球の約3分の1のため、地球の軌道上(引力は地球の6分の1)で使用されている船外宇宙服および月面宇宙服は、火星上で使用できない。ゆえにさらに高機能で軽量化された火星用の宇宙服を開発しなければならない。

 火星に向かうことも容易ではないが、火星から地球に帰還するのはもっと困難だ。火星の引力は月より大きいため、火星着陸機の上昇装置は、さらに大きな推進力を持たなければならない。火星宇宙船が地球に帰還する際の速度は月面着陸船を大きく上回るため、宇宙船が地球の軌道に入る際の角度・速度・タイミングを正確に制御する必要がある。これができなければ、宇宙船は地球をかすめて行ってしまうか、地球に墜落するだろう。コスト・技術を検討した結果、今回の火星ツアーが片道のみになったのもやむなきことだ。最終的に期限通りに計画が実行に移されるかについても、数多くの不確定要素が存在する。

 星から星への宇宙飛行は美しい夢である。火星の有人着陸は、人類の太陽系における、現時点の最終的な目標だ。現在の科学技術水準から見れば、上述したすべての課題は徐々に解決されていくはずだ。ただし、「マーズワン・プロジェクト」が人類の夢を担えるかについては、商業的な喧伝の要素も含まれるため、私たちは今後の経過を見守る必要がある。

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