各方面の注目を集める中国の二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの「1+N」政策体系における最も重要な2つの政策文書が相次いで発表された。「CO2排出量ピークアウト10大行動」の重点実施が提起され、2030年の関連分野の細分化目標が明確にされるなどして、中国のCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルに向けた設計図が徐々に明らかになってきた。
CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルという2つの目標の提起は、中国の経済構造やエネルギー構造、生産・消費スタイルなどに深い影響をもたらすだけでなく、中国のエネルギー利用スタイルと経済発展スタイルにも新たな挑戦を突きつけた。どのようにして発展の中で汚染物質の排出を削減し、排出削減の中で発展を遂げ、経済と排出削減との融合を実現するのか。中国はカーボンニュートラルへの道をどのように歩んでいくべきなのだろうか。
CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルは多次元で立体的かつシステマティックなプロセスであり、経済・社会発展のあらゆる面に関わっている。現在、「1+N」の政策体制の整備が加速している。「1」とはトップレベルデザインの指導意見を指しており、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルという2つの目標において「1+N」政策体制は統率的な役割を果たすことになる。「N」とは各産業や各分野ごとの政策措置を指す。
10月24日、「新発展理念を完全・正確・全面的に徹底しCO2排出量ピークアウトの取り組みを着実に行うことに関する中国共産党中央委員会と国務院の意見」(以下、意見)が発表された。そして10月26日、国務院は「2030年までのCO2排出量ピークアウト行動プラン」(以下、プラン)を通達した。
国家発展改革委員会の責任者は、「この『意見』は『1+N』における『1』に相当するものだ。党中央がCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの取り組みにおいて進める体系的プランと全体計画であり、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの両方をカバーし、全体を長期にわたり管理するトップレベルデザインとなっている。一方の『プラン』はCO2排出量ピークアウトの段階における全体計画で、目標や原則、方向性などで『意見』と連動したものになっていると同時に、2030年までのCO2排出量ピークアウト達成のほうにより焦点を当てている。関連の指標や任務を一層細分化し、実体化し、具体化している」と説明した。
中国マクロ経済研究院国土開発・地域経済研究所の宋建軍研究員は、「この『プラン』は重点分野に焦点を当てて『CO2排出量ピークアウト10大行動』の実施を提起している。対象分野はエネルギー、工業、都市・農村建設、交通輸送、科学技術イノベーションなどに及び、中でもエネルギーのグリーン低炭素へのモデル転換、省エネ・CO2削減、工業分野におけるCO2削減を最重点事項としている」と指摘する。
「意見」では、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標を達成するには、「全国の統一的な計画、節約の優先、両輪による駆動を行い、国内外の流れをスムーズにし、リスクを防止する」という作業原則を堅持しなければならないとしている。
また、「意見」は次の点を強調している。エネルギー資源の節約を最優先し、全面的な省エネ戦略を実施し、生産単位あたりのエネルギー資源消費量とCO2排出量を持続的に削減し、投入産出比率を高め、シンプルで適切、グリーンで低炭素のライフスタイルを提唱し、CO2排出を発生源と入り口で効果的に抑制する。
エネルギー資源の節約をこれほど重視するのはなぜか。国務院発展研究センター資源・環境政策研究所の郭焦鋒研究員は、「実際、省エネの理念は常にエネルギー消費革命の核心だ」と指摘する。
郭氏は、「過去も現在も未来も、節約の理念は最も主要な位置に置かれている。その背景には3つの原因がある。1つ目は、中国はエネルギー消費量が多く、絶えず増加して、エネルギー供給側にとってプレッシャーとなっているため、需要側から調節を行わなければならない点。2つ目は、中国のエネルギー消費量が多いということは、省エネの余地も大きいことを意味するという点。現在、中国の粗放的なエネルギー発展スタイルは根本的に解決されておらず、エネルギー利用効率には大きな改善の可能性が存在する。3つ目は、今後は個人消費がエネルギー消費の中心の1つになる可能性があるため、シンプルで適切、グリーンで低炭素のライフスタイルを提唱する必要がある点。おおまかな試算によれば、人々の省エネ意識を高めれば、エネルギー消費を20%削減でき、これはCO2排出量の20%近くに相当する」と続けた。
CO2排出権取引は、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルを達成するうえで最も注目を集める部分だ。
「意見」は、「全国のCO2排出権取引市場の創設・整備を加速し、市場のカバー範囲を徐々に拡大し、取引する商品の種類と取引方式を豊富にし、排出権の割当管理を整備する。CO2吸収源取引を全国排出権取引市場に組み入れ、CO2吸収源の価値を体現できる生態保護保証メカニズムを構築し充実させる。合理的で拘束力を持ったCO2排出権取引メカニズムの構築を加速する」との方針を打ち出している。
今年7月、中国CO2排出権取引市場のオンライン取引がスタートし、発電業界の重点排出企業は2千社を超え、CO2排出量約45億トンをカバーし、温室効果ガス排出量の規模が世界最大のCO2排出権取引市場になった。しかし、目下の市場の合理的な取引価格については、さまざまな見方が存在している。
厦門(アモイ)大学中国エネルギー政策研究院の林伯強院長は、「CO2排出権取引市場はCO2の排出を今後抑制する上で最も有効なメカニズムだ。取引価格が高ければ、企業は排出総量と排出強度を引き下げようとする。しかし価格が高すぎると、コストを消費者価格に上乗せして回収することができず、業界側で完全に負担することもできない。そのため、このメカニズムは必ず他の電力市場改革措置と合わせて進める必要がある」と述べた。
CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルという2つの目標達成は財税政策による支援と切り離せない。今回の「意見」は、(1)各レベル財政予算ではグリーン・低炭素産業の発展、技術開発などへの支援を強化する(2)政府のグリーン調達の基準を整備し、グリーン・低炭素製品の調達を拡大する(3)環境保護、省エネ節水、新エネルギー・クリーンエネルギー型車両・船舶に対する車船税の優遇措置を実施する(4)CO2排出削減に関連した税金政策を検討するという4つの要求を打ち出した。また財政部(財務省)が中心になって、「財政によるCO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの着実な取り組みへの支援に関する指導意見」の起草作業が進められている。
また、「プラン」の中では、グリーン低炭素発展にプラスとなる税金政策システムを構築・整備し、省エネ節水や資源の総合利用などに対する税金優遇政策を実施・整備し、マーケットエンティティのグリーン・低炭素発展に対する促進的役割をよりよく発揮しなければならないことが提起された。
複数の財政専門家が、「CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標を達成するには、財政による政策の支持が極めて重要」と指摘する。現在、各レベルにおける財政予算による生態環境保護などへの投資は1兆元(1元は約17.8円)に迫り、これからは次世代の情報技術(IT)、バイオテクノロジー、新エネルギー、新エネルギー自動車などの戦略的新興産業と低炭素先端技術の開発により多くの財政的支援が向けられるようになり、政府による1千億元レベルのグリーン・低炭素商品の調達も強化される見込みだ。炭素税などのCO2排出削減に関連した税金政策の研究が加速している。
今回の「プラン」は、CO2排出量ピークアウトを経済・社会発展のすべてのプロセスと各方面に行きわたらせ、「CO2排出量ピークアウト10大行動」を重点的に実施することを提起した。「10大行動」の内容は以下の通りとなっている。
(1)エネルギーのグリーン・低炭素へのモデル転換の行動。石炭消費の代替手段、モデル転換・高度化を推進し、新エネルギーの発展に力を入れ、各地の状況に合わせて適切な措置を取って水力発電を開発し、原子力発電を積極的かつ安全に秩序よく発展させ、石油・天然ガスの消費を合理的に調節・コントロールし、新型電力システムの構築を加速する。
(2)省エネ・CO2削減の効率を高める行動。省エネ管理能力を全面的に向上させ、省エネ・CO2削減の重点プロジェクトを実施し、重点エネルギー使用施設の省エネと効率向上を推進し、新型インフラ施設の省エネ・CO2削減を強化する。
(3)工業分野のCO2排出量ピークアウト行動。工業分野のグリーン・低炭素の発展を推進し、鉄鋼、非鉄金属、金属材料、石油化学工業などの業界のCO2排出量ピークアウトを実現し、エネルギー消費と汚染物質排出量の多いプロジェクトの無計画な発展を断固抑制する。
(4)都市・農村建設のCO2排出量ピークアウトの行動。都市・農村建設におけるグリーン・低炭素へのモデル転換を推進し、建築のエネルギー効率レベルの向上を加速し、建築のエネルギー使用構造の最適化を加速し、農村建設とエネルギー使用の低炭素モデルへの転換を推進する。
(5)交通輸送におけるグリーン・低炭素の行動。輸送手段・設備の低炭素へのモデル転換を推進し、グリーンで高効率の交通輸送システムを構築し、グリーン交通インフラの建設を加速する。
(6)循環型経済でCO2削減をサポートする行動。産業パークの循環型発展を推進し、コモディティの固体廃棄物の総合利用を強化し、資源の循環利用体制を整備し、生活ごみの削減・資源化の推進に力を入れる。
(7)グリーン・低炭素の科学技術イノベーション行動。イノベーションの体制・メカニズムを整備し、イノベーションの能力開発と人材育成を強化し、応用・基礎研究を強化し、先進的で実用的な技術の開発と普及応用を加速する。
(8)森林吸収源の能力を強化し向上させる行動。生態システムにおけるCO2固定の働きを強化し、生態システムにおける森林吸収源の能力を向上させ、その基礎的支援を強化し、農業・農村におけるCO2排出量削減とCO2固定を推進する。
(9)グリーン・低炭素の全国民行動。生態文明の宣伝教育を強化し、グリーン・低炭素のライフスタイルを推進し、企業が社会的責任を果たすよう誘導し、リーダーや幹部の研修を強化する。
(10)各地域における段階的で秩序あるCO2排出量ピークアウト行動。秩序あるCO2排出量ピークアウトの目標を科学的かつ合理的に決定し、各地の状況に基づいてグリーン・低炭素の発展を適切に推進し、上から下まで連動して各地のピークアウトプランを設定し、ピークアウトのテストを組織的に展開する。
業界関係者は、「CO2排出量ピークアウト行動プランによる推進を受けて、業界の合併再編、グリーンモデル転換・発展がさらに加速するだろう」との見方を示す。