宙返りからランニング、工場作業、登山のアシストまで、エンボディドAIロボットがここ数年、さまざまなシーンで活躍している。「エンボディドAI」は今年、初めて中国の「政府活動報告」に盛り込まれた。「物理的な体を備えたAI」であるエンボディドAIは、思考に長けた大規模言語モデルと比べ、現実世界との動的なインタラクションがより強調されており、エンボディドAIロボットが、この分野における「広告塔」となっている。人民日報が伝えた。
2024年末時点で、広東省深圳市にはエンボディドAIロボット関連企業が約210社集まっており、産業発展を促進する18項目の「行動計画」も打ち出されている。深圳のエンボディドAIロボット産業には、どのような要素が含まれ、どのような最先端の成果があるのだろうか。
ロボットがゆっくりと手を伸ばし、力をうまく加減して、自然な動きでイチゴを掴んだ。これは触覚センサーと人型ロボットを生産する帕西尼感知科技(深圳)有限公司の実験室で行われたシーンだ。同社の創業者である許晋誠最高経営責任者(CEO)は「以前のロボットは見ることや聞くことはできても、タッチして世界を『感じ』、力を加減することはできなかった。人間のようなロボットは将来的に、ガラスと綿花の触り心地の差を感じることができるようになるだろう」と説明した。
触覚センサー技術は、ロボットが物理的世界を理解するためのカギとなる。器用なロボットハンドには、高精度の触覚センサーが約1000個設置されており、これはロボットの「末梢神経」に相当する。手を伸ばして、物体に触れた瞬間、ロボットは圧力分布、すべり、模様といった15種類の情報を把握し、その精度は米3~4粒の重さを把握できるほどだ。
世界の電子ハードウェアのサプライチェーンにおいてハブの役割を担う深圳には、ロボット部品の製造体制があり、触覚センサーやLiDAR(ライダー)、サーボモータ、動力脚、ロボットアーム、高性能ロボットハンドなどを、周辺エリアで速やかに調達ことができる。
許氏は「深圳に根を張るサプライチェーンがあるので、3カ月かかっていた研究開発が、1~2週間に短縮された。当社は速やかに製品をアップグレードできるだけでなく、コストも削減できている」と語った。2024年、帕西尼公司の触覚センサーの出荷量は倍増し、そのほとんどが自動化や人型ロボットに使われた。
深圳市党委員会・テクノロジーイノベーション委員会弁公室主任を務める市テクノロジーイノベーション局の張林局長は、「エンボディドAIの発展は、深圳の産業エコシステムにマッチしているだけでなく、未来産業の競争における優位性を確保するカギでもある」との見方を示している。
ロボットにとって、重い箱を数個運ぶよりも、服を畳むほうが難しいのはなぜだろうか。それは、柔らかい生地は、つかむと形状変化が予測しにくくなり、感知やコントロールの難易度が大幅に高まるからだ。
深圳自変量機器人科技公司では、エンボディドAI向け汎用基盤モデルがロボットに「賢い脳」を提供し、その難題を解決している。
同社の創業者である王潜最高経営責任者(CEO)は「従来のロボットは、設定に基づいて、同じ動作を繰り返すことしかできず、既定されたシーンを超えることはできなかった。ハードウェアではなく、その知能がボトルネックとなっていた。一方、エンボディドAIは、自律的に感知と判断を行い、操作を実行することで、複雑かつ精密な作業を遂行することを可能にしている」と説明した。
プログラミングや遠隔操作を必要としないロボットが、少量のサンプルを学習するだけで、カップとソーサーの置き方をマスターできる。カップとソーサーの形や大きさなどに関わらず、人間が直感に基づいて作業するかのように、うまく対応しながら、そのタスクを実行することができる。
王氏は「当社では一つの大規模言語モデルで全ての問題を解決できる。感知から動作までの全てのプロセス、さまざまなタスクのトレーニングと実行などを同じ大規模言語モデルで行うことができる。当社は今後、ロボットが一度見ただけでマスターし、タスクを直接理解して、自律的に実行できるようにしたい」と語った。
深圳の大規模言語モデル技術について、南方科技大学ロボット研究院の魏振華院長補佐は「深圳は今、急速に後れを取り戻して、追いつきつつある。大規模AIモデル発展のカギは人材だ。深圳は、大学数が相対的に少ないため、人材は主に、外部からの誘致に依存している。そのため、深圳は学科の設置を進めながら、人材誘致にも力を入れ、人材にできる限りのサービスを提供している」と述べた。
深夜1時過ぎ、深圳市宝安区の住宅団地では、四足歩行の犬型ロボットが警備室から立ち上がり、小走りでドアから出て行った。団地内の地形は平坦ではないが、安定した足取りで歩き、花壇を避け、段差を乗り越え、死角となっている場所も、問題がないかチェックしていた。
不動産管理会社の深圳市徳勝物業服務有限公司の楊陽副総経理によると、犬型ロボットが「勤務」するようになってから、スタッフによる団地の夜間のパトロール時間が4時間減った。団地の監視カメラには死角があり、車輪型ロボットでは行けない所もあるが、階段を上ることができる犬型ロボットなら行くことができるという。
犬型ロボットが「勤務」を始める前、深圳市火狗智能電子科技有限公司のチームは、ロボットを団地に連れて来た。すると、犬型ロボットは半日もしないうちに、団地の中を一周し、建物や道を覚え、すぐに、パトロールのルートや時間を計画し、正式に団地の警備チームの一員になったという。
火狗智能の創業者である曹偉景氏は「犬型ロボットであれば、事前に地形をスキャンして登録しておく必要もなく、野外の複雑な地形に自動で対応して、バランスを保つことができる。犬型ロボット1台の価格は30万元(1元=約20円)以上だ。高価でまだ初期段階にあるため、レンタルという形で、『勤務』を始めた。1カ月の『給与』は数千元だ」と述べた。
楊氏は「現在、犬型ロボットは主に指定された場所で、パトロールやチェックを行う。人間の介入はいらないが、指示に応答することもできない。将来的には、声をかけると、すぐに作業に向かうようになってほしい。技術が進歩し、コストが低減すれば、将来的には、大規模導入を検討することを計画している」と語った。
不動産管理会社が目新しい商品を試験的に導入する中、火狗智能も公共エリアでのデータ収集を試験的に行い、犬型ロボットを訓練し、それを進化させようとしている。
犬型ロボットが建築工事現場で危険がないかをチェックし、人型ロボットが工場で訓練を受けて作業し、山では外骨格ロボットが山登りをする人をサポートする。深圳市では今、エンボディドAIロボットが次々に活躍するようになっている。大規模応用にはまだ時間がかかりそうだが、未来の姿をイメージできるようにはなっている。
同市は今後、「開放すべきは全て開放する」を原則に、人工知能(AI)やロボットを対象に、市内の全域において、全てのシーンでの応用を開放する計画だ。清掃から緊急救援、医療・福祉に至るまで、政府当局や国有企業が積極的に支援する。また、製造企業も品質検査や組立ライン、資材運搬といったシーンで技術革新のための「試験場」を提供する。

(画像提供:人民網)