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【12-009】外国企業による中国企業の買収(その1)

康 石(中国律師〈弁護士〉・米ニューヨーク州弁護士)  2012年 8月 6日

(一)中国の特色

1.M&A取引とは

 今回から12回に分けて、外国企業による中国企業の買収の実務を紹介します。買収取引は、よくM&A取引とも言われています。「M&A」とは、英語でのMergers & Acquisitionsの略語であり、Mergersとは企業間の合併のことをいい、Acquisitionsとは、他の企業を買収することをいいます。

 M&A取引の種類又は手法は、多種多様である、といえます。まず、買収の対象の違いによって、対象企業の全体(資産と債務の全部)を買う株式(又は持分)買収取引と、企 業の資産又は負債の一部のみを買う、事業(又は資産)買収取引に分類することができます。

 持分買収取引についても、更に、対象企業のマジョリティを取得する取引とマイノリティを取得する取引に分類することができます。また、買収対象企業が上場企業等の公開会社であるかどうかによって、公 開会社の買収と非公開会社の買収に分類することもできます。

 外国企業が中国に進出する際、従来は、外国企業が単独で、又は中国の企業と合弁で、中国において新規企業を設立する、いわゆる、グリーンフィールド方式がメインでした。しかし、2 001年の中国のWTO加盟後、外国企業による投資の多様化が要求されるようになり、外国企業が中国の既存企業を買収する方式で進出することを認める法改正がなされるようになるなど、今 世紀初めから外国企業による中国企業の買収に関する法律が整備されるようになりました。

 これからの連載では、前半に総論的なトピックとして、①中国の特色、②主要適用法令及びM&A手法、③Due Diligenceの留意点、④上場会社の公開買付規則、⑤ ファンドによるM&A、及び⑥資金難に陥っている企業をめぐるM&Aを紹介し、後半では各論的なトピックとして、⑦独禁問題、⑧税金問題、⑨外貨問題、⑩土地問題、⑪ 環境問題及び⑫労働問題を紹介します。あくまでも計画ですから、トピックや順番に変更が生じる可能性がある点について、ご了承いただきたいと思います。

 筆者は2011年、12年ぶりに中国に戻って執務しています。海外で勤務した12年のうち、日本の森・濱田松本法律事務所での4年間は、主に日本と中国間のクロスボーダー取引を取り扱い、ニ ューヨークでの4年間は、主に米国内のM&Aと証券発行の実務を取り扱いました。中国に戻ってから実感したことは、中国におけるM&A取引は、様々な面において特殊であるということです。 

2.中国の特色

(1)  外国企業による純粋な中国国内企業の買収はまだ少ない、といえます。

 まず、外国企業同士のM&Aに伴う外国企業の中国子会社の統合取引、又は、日本の会社による、他の外国・地域(台湾やシンガポールなど)の 会社が中国国内に設立した外商投資企業を買収する取引が圧倒的に多く、外国企業による純粋な中国内資企業の買収は、まだ少ないのが現状です。

 外国企業による純粋な中国内資企業の買収案件は実務上、数多く試されてはいるものの、案件成立に至るものは多くありません。これは恐らく、①中国内資企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の 不備に起因するコンプライアンス(法令・ルール・倫理等の遵守)上のリスクが多いことから、かかるリスクを回避できる対策について、買収取引当事者間で合意することが難しいこと、② 企業評価における双方のギャップが大きいこと(最近、外国企業による中国企業の買収が増えていること、また、中国国内の株式市場に株式を公開した場合の収益が大きいことから、企業価値評価の面において、買 収側から見れば、不当に高い値段を要求される傾向があります)、③文化的な違いにより交渉がうまくいかないこと等が原因ではないかと思われます。

(2)買収対象としては、まだ非公開会社のほうが圧倒的に多い、といえます。

 次に、外国企業の買収対象としては、非公開会社が圧倒的です。これは、①中国の上場会社の数が限られていること(中国は今も、株式公開について行政主管部門による審査認可制度を実施しているため、上 場を実現することは極めて難しい状況です)、②上場会社の株価が比較的に高いことから買収コストが高くなること、③上場会社の株式が比較的に集中しているため、敵対的買収が難しいこと、④上場会社は、そ の株主である国有企業が株式市場で資金を調達するための手段として機能していることが多く、上場会社自体が資源と位置づけられているため、各地方の行政主管部門は、上場会社が外資に買収されることに対して、や や警戒的であること等に起因するものと思われます。

 上場会社と比較した場合、非公開会社は、経営と所有の分離が上場会社のように明確ではないため、買収過程における取締役や大株主の善管注意義務や忠実義務違反、又 は少数株主の保護問題が問われるようなケースは少なく、この分野における判例等もほぼ存在しない状態です。

(3)中国特有の規制が多い、といえます。

 最後に、先進国での非公開会社の買収は、証券市場絡みの規制を受けないことから、基本的に自由に行われるのに対し、中国での非公開会社の買収は、やはり様々な規制を受けます。金融、エネルギー、不 動産等の特殊分野における業種規制以外に、中国の場合は、中国特有の外資参入規制、外貨管理規制の制約を受けることになるため、取引スキームを確定する際に、これらの規制を念頭におくことが重要になります。 

3.おわりに

 中国では、公開会社をめぐるM&A取引が少ない上に、公開会社の重要取引に関する契約文書そのものがアメリカのように公開されるわけではないため、取引の具体的スキーム、重 要事項に対する処理方法等に関する情報がほとんど公開されていません。また、日本の商事法務のように、法曹界のメンバー(弁護士、裁判官、立法者、会社法務担当者、学者等)が 実務上の主要問題を議論できる場が少なく、実務上の重要問題に対して意見交換を行う環境が整っていません。その結果、各法律事務所、各地方の行政主管部門等の認識ややり方等に差異が存在し、契 約書のフォーム等にかなりのずれが生じています。また、取引慣行に対する共通認識が形成されにくいという問題もあります。


[キーワード : 内資企業 上場会社 非公開会社 業種規制 外資参入規制 外貨管理規制]

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康 石

康 石(Kang Shi)

中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士。上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

【付記】

 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。


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