中国の法律事情
トップ  > コラム&リポート 中国の法律事情 >  【12-015】外国企業による中国企業の買収(その2)

【12-015】外国企業による中国企業の買収(その2)

康 石(中国律師〈弁護士〉・米ニューヨーク州弁護士)  2012年10月17日

(二)M&A手法及び主要適用法令

一、買収対象により適用法令が異なります

 外国企業が中国企業を買収する際、買収対象企業の性質によって異なる法律が適用されることに留意が必要です。

 まず、外国企業が直接又は中国国内に設立した投資性会社を通じて、中国の外商投資企業以外の企業を買収する際には、「外国投資者の国内企業買収に関する規定」(商務部、国務院国有資産監督管理委員会、国家税務総局、国家工商行政管理総局、中国証券監督管理委員会、国家外貨管理局制定、2006年8月8日公布、2006年9月8日施行、商務部改正2009年6月22日改正)が適用されます(以下、「国内企業買収規定」といいます。)。

 国内買収規定が施行される前までは、外国企業が中国国内企業を買収する際の明確な法的根拠は乏しかったため、買収方法による外資進出はそれほど多くなく、独資又は合弁企業の設立、いわゆるグリーンフィールド方式による進出がメインでした。国内企業買収規定は、買収関連法制の整備において非常に重要な規定です。同規定では、持分買収と資産買収という二つの手法について規定しています(第2条)。

 次に、中国の外商投資企業が買収対象になる場合は、上記の国内企業買収規定が公布される前から実施されていた既存の法令に従うことになりますが、既存の法令で定めがない場合は、国内企業買収規定を準用することになります(国内企業買収規定第52条第2項)。従って、中国の外商投資企業を対象とする買収取引の場合は、「外商投資企業投資家の持分変更についての若干の規定」(対外貿易経済合作部、国家工商行政管理局制定、1997年5月28日公布・施行)、「外商投資企業の合併及び分割に関する規定」(対外貿易経済合作部、国家工商行政管理局制定、1999年9月23日公布・施行、2001年11月22日改正)等が引き続き適用されることになります。かかる規定では、持分買収及び合併、分割の手法について規定しています。

 最後に、上場会社が買収対象になる場合は、「外国投資家の上場会社に対する戦略投資管理規則」(商務部、中国証券監督管理委員会、国家税務総局、国家工商行政管理総局、国家外貨管理局制定、2005年12月31日公布、2006年1月30日施行)、「外国投資家に上場会社の国有株及び法人株を譲渡することに関する問題についての通知」(中国証券監督管理委員会、財政部、国家経済貿易委員会制定、2002年11月1日公布・施行)等が適用されます。かかる規定では、相対取引、公開買付け、第三者割当増資等の方式により、上場会社の10%以上の株式を買収する手法について規定しています。

二、事業譲渡

 中国の会社法上、事業譲渡の要件、関連手続に関する規定はありません。従って、会社の全部又は重要な事業を譲渡する際に、合併等の重大な組織変更行為と同様に、譲渡人又は譲受人の株主総会の特別決議を取らなければならないか、また、債権者保護手続をとらなければならないかに関する規定はありません。また、上述したとおり、買収対象により異なる法令が適用され、また、異なる法令で異なる買収手法が規定されていることに一部起因することもありますが、今のところは、外商投資企業同士での事業譲渡取引について、持分譲渡取引のように、商務部門の審査許認可を得なければならないとの明確な規定はありません。この点、外商投資企業間の資産譲渡取引も審査許認可の対象にすべきとの議論があったが最終的に採用されていなかった立法経緯から、かかる取引については、審査許認可を受ける必要がないとの解釈があります。従って、買収対象が外商投資企業である場合は、外国の買収者は中国国内に設立された子会社(外商投資企業)を経由して、両者間で事業譲渡取引を行うことにより、商務部門に認可を得ずに取引することが一般的に行われています。

三、合併

 中国法上、基本的に中国の法人間の合併のみが認められているため、外国企業と中国企業を直接合併させることはできません。外国法人が中国国内に外商独資企業を設立し、当該企業と買収対象企業を合併させることは法令上可能ですが、①他社と合併する目的での特別目的会社を外国企業が中国で設立することが認められるかは必ずしも明確ではないこと、②企業合併には債権者保護手続が必要になっていること、また、②買収後の消滅会社については形式上清算手続が必要になること等から、合併方式は実務上広く使用されておらず、合併と同じ効果が得られる持分買収方式が広く利用されているのが現状です。

四、外国企業の株式の使用

 買収者である外国企業の株式を対価として支払うことは、理論上認められており、国内企業買収規定第4章もかかる手法について特別な規定を設けています。但し、実務上は、外国企業の株式が対価として使用された例は今のところまだ存在しないようです。


[キーワード : 国内企業買収規定 持分買収 資産買収 合併 分割 上場会社の買収]

印刷用PDF PDFファイル(96KB)


康 石

康 石(Kang Shi):中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

【付記】 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。