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【12-016】外国企業による中国企業の買収(その3)

康 石(中国律師〈弁護士〉・米ニューヨーク州弁護士)  2012年11月 6日

(三)Due Diligenceの留意点

一、Legal Due Diligence(法務監査)(以下、「法務DD」といいます)の目的等

 買収取引における法務DDの目的は、法律の面から、対象会社の重要事項を監査することで、買収取引に重大な支障になる点がないかどうかを確認することです。リスクがないかどうかを確認することが主な目的ではありますが、予定中の取引に対して有利な点があるかどうかを確認することも目的の一つです。

 例えば、法務DDを通して、対象会社の充実した販売ネットワーク、本店所在地の不動産価値、知的財産権、重要な技術者など、買収後の相乗効果が期待できる要素も確認することができます。取引契約において、これらの要素を獲得できるよう手当てをすることを念頭においた法務DDも重要である、といえます。

 法務DDの多くは、一般的に、買収者及び/又は買収者の経営コンサルティング会社又はフィナンシャルアドバイザーが行うビジネスDD、会計士事務所が行う財務・会計・税務DDと共同で行われます。また、対象会社が特殊な業界の会社である場合、特殊な側面に対して、専門的にDDを行う業者を選定することもあります。

 例えば、医薬開発会社の場合は研究開発パイプラインにある薬品の価値を算定する業者、ソフトウエア・システムに依存することが多い会社である場合はソフトウエア・システムの実効性を確認する業者、環境汚染の虞(おそれ)のある製造会社の場合、環境汚染状況を確認する業者も、それぞれDDプロセスに参加することになります。従って、これらの異なるDDチームとの間の情報共有が重要となってきます。

 一言で法務DDといっても、取引によって法務DDの実施状況が異なってくることが一般的です。すなわち、対象会社の協力状況、取引完了までの時間的な余裕、競合する買収者の有無、対象会社が公開会社か否か等により、法務DDの範囲、深さ、期間等が異なってきます。

 従って、取引の実際の状況に基づいて、一番効率のよい法務DDの範囲等を決めることが重要になります。以下において紹介する法務DDの手法は、あくまでも一般的なプロセスに過ぎず、あらゆる取引において、以下のプロセスを全て踏まなければならないわけではないことに留意する必要があります。

二、法務DDの手法

 対象会社と直接接触する前に、完了しておくべき事前調査があります。これには、対象会社のホームページ情報の確認、工商行政管理局のホームページを通じた対象会社の株主構造、企業性質、経営範囲等の確認、知識産権局や国家工商行政管理総局商標局を通じての対象会社名義で登録された特許権・意匠権、実用新案権や商標権等の確認等が含まれます。

 対象会社が特殊な業種である場合(例えば、医薬企業、金融会社、電気通信会社等)、当該業種の行政管理部門のサイトからも、対象会社への処罰や資格・ライセンス等に関する情報が確認できる場合もあります。なお、類似業種に従事している上場会社の目論見書等にも目を通すことで、当該業種の会社に対する法律規制状況、市場競争状況、主なリスクファクター等を事前に把握することができます。

 次に、対象会社に対して、法務監査資料請求リストを送り、同リストに記載した項目に該当する情報・資料の開示を求めることになります。法務監査資料請求リストは、既存のフォーマットをそのまま送るのではなく、対象会社の特殊業種やその他の事前調査で確認できた懸念事項等を踏まえて、対象会社の状況に適合するように修正したものを送る必要があります。

 法務DDの経験が豊富な法律事務所の場合、以前行った類似業種の企業に対する法務DDで発見したリスク事項を踏まえて、当該特定業種ごとの法務監査資料請求リストを整備していることも多く、これらのリストを持つ法律事務所を選定すれば、より効率的な法務DDが期待できます。

 最後に、法務DDの重要な部分として、対象会社のマネジメントに対するヒアリングがあります。これは、対象会社から開示された資料を一通りレビューした後に行う場合もあれば、資料のレビューの前に行う場合もあります。

 前者の場合、より具体的な質問ができるメリットがあります。また、後者の場合は、対象会社から開示された資料が膨大な場合、又は対象会社の業務や歴史が特殊である場合、先にマネジメントに対するヒアリングを行うことで、効率よく対象会社の状況を把握できるメリットがあります。

 従って、多くの場合、マネジメントのヒアリングをどのタイミングで行うかはケースバイケースで決めます。いずれの場合も、一回で終わるものではなく、何回にもわたってマネジメントとアクセスする機会がある方が望ましいことは言うまでもありません。

 また、トップマネジメントに対するヒアリングに限定するのではなく、各部門を具体的に管理している責任者にもアクセスできるようにすることで、より多面的に対象会社の状況を把握することが重要です。

三、法務DDにおける留意点

 法務DDにおいて、潜在的なリスクを発見できるかどうかは、弁護士の経験や対応方法により、結果が異なる場合がありますので、各業種のDDを多く経験したことのある弁護士に依頼することが重要です。

 また、問題点の指摘だけではなく、法令上の処罰規定、法律執行上の取扱状況等に基づいて具体的かつ実務的なリスク評価ができ、ひいては、問題点を解消するための提案も行うことができるかどうかがポイントになると思います。

 例えば、中国企業を買収する際には、中国企業に存在する特殊な問題(土地使用権や建物の権利関係をめぐる不透明感、簿外収入や二重帳簿による課税逃れに伴う滞納金発生の可能性、従業員の社会保障費・住宅積立金の滞納・未納に伴う追加費用発生の可能性、経営範囲や経営許可に関する規制の潜脱に伴う営業許可証や経営許可剥奪等の処罰の可能性等)に対して、正確なリスク分析を行い、現実的な解決策を提示できるかが、買収の成否に大きく影響することになります。

 上記のような実体的な問題のほか、外国企業が中国企業を買収する際に行う法務DDには、下記のような手続面での難点もあります。例えば、多くの中国企業は、M&A取引に伴う法務DDに抵抗を示し、積極的に協力しない傾向があります。従って、法務DDの必要性について、対象会社に対して説明し、理解を求める必要があります。

 また、口頭では法務DDに協力するといいながらも、実際は資料提出を拒否したり、又は遅らせたりする問題もあります。ヒアリングを行う場合も、同じ質問でもヒアリングの対象者によって回答が異なることも多いため、書面や原始データ等による事実状況の確認も重要となってきます。

 なお、そもそも対象会社に関連資料が保存されていない場合もあるため、工商管理部門、税務部門、不動産登記管理部門に赴き、対象会社に関する資料を取り寄せることにより、対象会社の状況を確認する作業が必要な場合もあります。

四、おわりに

 法務DDは、費用がかかるだけで、大した問題も発見できず、法務DDを行う意義が分からないとの見解も一部に見られます。特に、法務DD報告書は分かりにくく、報告書の発見事項の記述や、リスク分析及び解決方法が明確でない場合は、このような見解を後押しすることにもなります。

 但し、上述したとおり、法務DDはM&A案件を成功させるための非常に重要なプロセスであり、適切な法務DDにより、買収者が重大なリスクを回避できた事例も多くあります。


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康 石

康 石(Kang Shi):中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

【付記】 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。


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