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【13-025】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅵ)

2013年 9月30日

金 振

金 振(JIN Zhen):公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員

 1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京 都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。

前回のつづき

4.大気汚染防止関連政策

(1) 強化されたPM2.5対策

 2012年10月29日公布した「重点区域大気汚染防止に関する第12次5ヵ年計画(国函[2012]146号)」(以下、重点区域計画)は、大気汚染防止に関する国家目標を掲げると同時に、エネルギー、交通、産業、建築などの部門を網羅した政策パッケージを公表した。重点区域計画は、特に対策が急がれる北京、天津など19の区域(全体国土面積の13.81%に相当)を対象に策定された地域限定計画であり、二酸化硫黄や二酸化窒素、PM10およびPM2.5に関する濃度規制目標のほか、工業煙灰・粉塵の削減率や発揮性有機物排出削減率のような排出規制目標が掲げられている。表1は、これらの目標値についてまとめたものである。

表1 重点区域計画における区域ごとの目標値

図1

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 特に、注意しなければならないのは、重点区域計画は、19の区域ごとのPM2.5目標値を掲げたものの、その強制適用は、北京市、天津市、河北省、上海市、江蘇省、浙江省、広東省の7つの区域のみに限定させ、その他の区域に関しては任意適用の措置を取った。その理由の1つとして、PM2.5に関する国内観測体制がまだ構築されていないため、規制適用には限界があったことが挙げられる。

 重点区域計画の施行から3ヶ月あまり経った2013年の1月、中国各地では重度の大気汚染が長期かつ広範囲に渡って発生した。国民の健康への不安感や対策が進まない政府に対する不信感が募る一方、事態を重く見た中央政府は、同年9月12日、PM10およびPM2.5の対策に徹した史上初の国家計画「大気汚染防止行動計画 2013年-2017年(国発[2013]37号)」(計画期間:2013年~2017年、以下、行動計画)を公布し、一週間後の9月17日には、「京津冀(北京・天津・河北)および周辺地区の大気汚染防止行動計画を実施するための細則(環発[2013]104号)」(以下、細則)を発表した。両計画は、重点区域計画にて掲げた政策パッケージに基づき、PM2.5対策の観点から更に具体化したものである。特に、細則は、北京市、天津市、上海市など対策実施の緊急性が特に高い10の区域におけるPM10、PM2.5の目標値を見直し、政策パッケージの充実化を図った。また、分野ごとの目標値も具体的に設定した。

 表1は、行動計画および細則において掲げたPM10、PM2.5目標値と重点区域計画の目標値を比較したものである。PM10に関し、重点区域計画が19の区域のみを対象にしていたのに対し、行動計画および細則における規制対象は地級政府レベル以上のすべての都市(360都市以上)が対象となり、2017年まで、PM10濃度を2012年比10%改善すべき義務(以下、濃度改善率目標)が課された。PM2.5の場合、重点区域計画に比べ、目標値の全体的な引き上げが行われ、また、いままで規制対象外とされていた山西省、山東省、内蒙古が新規対策区域として追加指定された。北京市の場合、濃度改善率目標のほか、年平均濃度60μg/m 3までとする濃度規制目標も掲げている。

表2 異なる計画におけるPM10、PM2.5目標値の比較

図2

 行動計画の公布を受け、いち早く対策を打ち出したのが北京市である。行動計画の公布とほぼ同じ時期に、北京市政府は、6分野(大気質目標、石炭関連汚染対策、自動車汚染対策、工業等産業分野関連汚染対策、粉塵関連汚染対策、その他の総合対策)84項目にわたる政策パッケージと関連数値目標が盛り込まれた「北京市2013年-2017年清潔空気(クリーンエア)行動計画(京政発[2013]27号)を発表した。また、計画の実行性を確保するため、数値目標の配分案や責任部署・担当者氏名が記された計画実施細則「北京市2013年-2017年清潔空気(クリーンエア)行動計画における重点任務分解案(京政弁発[2013]49号)」も合わせて公表した。