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【13-07】「中国に反日家は一人もいない」

2013年 7月12日 (中国総合研究交流センター 小岩井忠道)

 「日中の架け橋」となることを願い、福岡を拠点に活動を続けている青木麗子DLC・GBコンサルティング社長が2013年7月8日、日本記者クラブ主催の研究会「中国とどうつきあうか」で講演、日 中両国の関係修復は、「人と人との関係を築き上げることが重要。中国語を話せる日本人をもっと増やす必要がある」と提言した。

 青木氏は、「中国に反日家は一人もいない」と言い切り、むしろ「日本が大好きで、日本人にあこがれている人が多い」ことも強調している。

 中国で生まれた氏は1973年に両親と共に、親の郷里である福岡県に戻った。83年福岡県庁に入庁、国際交流課の中国担当となり、日中交流に関わり始める。2003年に通訳、日 系企業の中国ビジネス支援を目的とするDCL・GBコンサルティングを設立した。福岡県庁在職時から今に至るまで江沢民、胡錦濤、朱鎔基、習近平氏など福岡を訪れた中国要人の通訳を務めた経験を持つ。

 訪中の回数は600回を超え、香港大公報・大公網日本総代理に就任するなどメディアでの活発な活動でも知られる。

 中国の遅れた面についても冷静に見ており、この日の講演でも「中国で今最大の問題は教育。人を育てるということは5年、10年ではできない」と中国に注文を付けるのも忘れなかった。

日本記者クラブウェブサイト:「 青木麗子氏講演内容

青木麗子(あおき れいこ)氏プロフィール

1959年中国で生まれる。氏の家族は祖父の代から中国に渡り、戦後、他の家族が帰国する中で両親だけ「中国復興の力になりたい」と中国に残った。73年に帰国するまで文革も経験、両 親が日本のスパイ扱いされて虐待されたこともある。2003年DCL・GBコンサルティング設立後、トヨタやクボタなど日系企業の中国ビジネスを支援、経 営に行き詰まった日中合弁会社の社長を引き受けた経験も持つ。福岡県の中国戦略アドバイザーを務めるほか、日中関係についての講演活動も数多くこなす。福 岡県留学生サポートセンター運営協議会が運営する福岡県留学生サポートセンターのセンター長も。著書に「中国『夢』大地」(エビマガジン)、「中国『風』大地」(エビマガジン)など。

青木麗子氏講演・質疑応答発言概要

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 1973年に帰国した時は、二度と中国へは行かないだろうと思っていた。しかし、成長するとともに「自分のような経験を持つ者こそ、日本と中国の間を取り持たなければ、日本と中国の未来はない」と 感じるようになった。中国にもう一度足を運び、日中の架け橋になる決心をして今に至る。福岡県庁に入り、中国担当になったばかりの1985年、日中青年交流事業で来日した胡錦濤氏が、福岡にも来られた時、通 訳を務めたこともある。この事業は中曽根康弘首相(当時)と胡耀邦総書記(同)とが合意して始めたもので、胡錦濤氏は当時、共産主義青年団の第一書記だった。8 9年に研究者の夫が在外研究で米スタンフォード大学に行ったのを機に、福岡県庁を辞めて一家で渡米する。おかげで日中両国の外から広い視野で日本と中国の関係を見ることができた。

 90年代以降、日中の経済交流が活発になり、日系企業のサポートをする機会が増える。経営苦境に陥った日中合弁企業の経営立て直しに当初、通訳として関わった後、こわれて社長も5年間務めたこともあった。< /p>

 現在、日中関係は非常に難しい状況にあるが、思い出すのは、中曽根首相と胡耀邦総書記との関係だ。中曽根首相は一度靖国神社に参拝し、翌年、参拝をやめた時に胡総書記に書簡を送った。こ れを読むと人と人との関係、コミュニケーションの大事さがよく分かる。あの時と同じように、今の日中関係も修復してほしいと願う。

 「中国に反日家は一人もいない」。このように言うと中国の人たちも皆「そうだ」と言ってくれる。上海万博の時に、日本館前に並んだ人たちの列を見てほしい。開館の3時間、4 時間前から日本館に入りたいという人たちが長い列をつくっていた。若い人たちもいれば親子連れもいる。この人たちがどのような表情で日本館内の展示を見入っていたか。私も何度か館内で観察した。皆、日 本が大好きだということがよく分かる。

 なぜ、好きなのだろうか。戦後、焼け野原になり、資源もない小さな国が経済大国になったことに、あこがれを感じているからだ。それを可能にした日本人の勤勉さ、礼儀正しさ、さらには日本の文化にも、中 国の人たちは恐れるくらいあこがれている。反日行動が起きてはいるが、本音では「日本に行きたい」「留学したい」と願う若者は多い。反日デモだけを見て、全国民が反日であるかのように思ったら大きな間違いだ。 

 中国の(大半の)国民は、尖閣、領土問題に実は関心はなく、政治問題化して初めて関心を持つというのが実情ではないだろうか。「そうなんだ」と。だから騒げば騒ぐほど、ことは難しくなる。大 きな国益という観点から見れば、尖閣・領土問題を一点張りで追及していくのは得策ではない。この問題はそろそろどこかへ置いておきたい、というのが本音のはずだ。実際に、私 のところにも中国の人たちからいろいろな声が聞こえてくる。「これについては日本の誰と話をすれば、誰のところに届くだろうか」といった…。

 声をかけやすい引退した政治家を招いて、自分たちの気持ちを説明する、ということを最近、中国がしている。これは大きなサインではないだろうか。タイミングをとらえ、お 互いのメンツがきちっと保てる状況で、この問題をいかにしてそーっと置いておく。それができるかどうか、が問われていると思う。

 確かに今、悲しいことだが、日本の嫌中ムードは強いものがある。中国の側にもたくさんの問題があることも否定できないと思う。食品の安全問題、偽物(コピー製品)の横行、コンプライアンス( 規則などの順守)などだ。日本国民が嫌だと感じる面については、中国の人々も同じように思っているところがある。だから、中国製品を買わずに日本のミルク製品やおむつが飛ぶように売れる。信頼でき、安全だからだ。 

 私は、中国の最大の問題は人ではないかと思っている。政治や環境の問題はお金と時間があれば解決できる。しかし、人を育てるということは5年、10年でできる話ではない。人、つ まり教育が最大の問題だと考えるのは、こうした理由からだ。そして、日中両国民がお互いに好きになれるのは、人を育てることが大きな前提になるのではないか、と。

 「最大の問題は人」と、あえて中国の皆さんにも申し上げている。

 欧州連合(EU)の会議などを見ていると、首脳同士が自由に話し合っており、うらやましい。東アジアにも共通言語のようなものがあれば、首脳同士も簡単にコミュニケーションができ、摩 擦も確実に減るだろう。中国には一般の国民にも日本語を話す人がたくさんいる。日中関係を改善するには、日本にもっと中国語を話せる政治家、企業のトップ、さらに一般の国民が増えることが必要だ。

 中国語に限らないが、外国語を身につけることが、グローバル時代を生きる最低の条件ではないだろうか。