【13-22】中国の高所得国入り2026年以降 玉木OECD事務次長解説

2013年10月28日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 経済協力開発機構(OECD)の玉木林太郎・事務次長が10月11日、日本記者クラブで記者会見し、OECDが8日に公表した報告書「東南アジア、中国、インド経済アウトルック2014」を基に、中国をはじめとする新興アジア諸国の経済見通しを語った。

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 玉木氏によると、東南アジア10カ国と中国、インドの新興アジア諸国のGDP(国内総生産)は、2014年からの5年間で年平均6.6%の成長が見込まれる。これはグローバル金融危機が起きた2007年以前の8年間(2000-2007)の平均8.6%より低いものの、世界経済の成長に引き続き重要な役割が期待される。

 金融危機前の2桁成長から、2012年に7%台の経済成長に下がった中国については、2014年以降、8%台の成長が見込めるとするグループと、7%台とするグループがOECD内に存在する。今回の報告書「アウトルック2014」は、中国の2014~2018年の平均成長率を7.7%とした。この結果、中国が高所得国(1人当たり国民所得12 000米ドル以上)になるのは2026年以降と推測している。

 ASEAN諸国の内で、すでに高所得国に入っているのはシンガポールだけ(アジア全体では、日本の他に韓国も)。シンガポールに続く国としては、マレーシアが中国より6年早く2020年に高所得入りするとされ、中国の後からタイが2031年、インドネシアが2042年、フィリピンが2051年、ベトナムが2058年にそれぞれと高所得国入りする、とされた。インドはこれらの国より遅く、高所得国に入るのは2059年となっている。

 中国の成長見通しを8%台ではなく7.7%とした理由について玉木氏は、中国が「膨大な資本投下が続いて、(投資)限界効率が低下する局面に差し掛かっている」と語った。さらに、「ASEAN諸国は一般に経済と政治が切り離されている。しかし、中国だけは政治と経済が切っても切れない関係にある」と中国の特異性を指摘し、経済成長率をどの程度か予測する以前に、国民の生活水準をいかに向上させるかという政治的課題に政府がうまく対応できるかどうかが、経済見通しについてもより大きな鍵を握る、との見方を示した。

玉木林太郎氏講演概要

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 OECD加盟国、広い意味での先進国が直面している最大の問題は、2008年の経済落ち込みからの回復がきわめて遅いことだ。新興国の経済成長のスピードに比べ、特に欧州諸国の経済回復の歩みが非常に遅い。かつては先進国が経済成長のモデルとなり、途上国がキャッチアップしていく(遅れを取り戻す)という漠然とした構想の下で、われわれも仕事をしていた。しかし、先進国の経済成長がこれだけ停滞し、新興国に水を空けられていると、どうしたら成長できるかという問いに対する回答をむしろ新興国、途上国から学ばなければならない、という状況になっている。

 さらに、雇用、高齢化、政府に対する信任の低下、社会の公平・統一性といった先進国が新しく直面している経済・社会的問題が、新興国、途上国でも同時並行的に現れるようになった。先進国が経験した問題に、途上国が何十年か遅れて直面する。こうした時代においては、OECDが発信する政策勧告や示唆などが意味を持っていた。しかし、今は全ての国が同じテーマ、同じ地平に立って議論し、共に考えなければならなくなっている。

 OECDは2種類の経済アウトルックを公表している。年に2回の「エコノミックアウトルック」は、短期的な経済見通しを示している。もう一つが、今回公表した「東南アジア、中国、インド経済アウトルック2014」のように地域を対象とするものだ。こちらは短期的な見通しが狙いではなく、さまざまな中長期的課題に焦点を当てている。対象地域の国ごとに5年間という中期的な経済見通しをした上で、どのような構造改革をしていけばよいか提示する。担当しているのも、年に2回の「エコノミックアウトルック」とは別の部局だ。

 今回の報告によると、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の2012年におけるGDP成長率の平均は5.5%。これはグローバル金融危機が起きた2007年以前の8年間(2000-2007)の平均値と同じで、さらに2014年から18年までの5年間でも5.4%とほぼ同じ成長率を維持できる見通しだ。中国、インドを含めた新興アジア12カ国で見ると、グローバル金融危機前の8.6%から2012年の値は6.4%に下がっているが、これは中国とインドの成長率が低下したため。2014年からの5年間では6.9%の成長率が見込める。依然、これら新興アジア12カ国が、世界経済の成長にも引き続き重要な役割を果たすとみている。

 特に成長率の高さが目立つのはインドネシアとフィリピンだ。インドネシアは2004年を境に6%台の成長率となっている。ユドヨノ大統領のガバナンスがよいためだ。フィリピンも2014年からの5年間で5.8%という見事な成長率が見込まれる。こちらもアキノ大統領の安定したガバナンスが基礎にある。両国のケースは、政治のリーダーシップ、安定したガバナンスが高度成長の基礎である証左といえるのではないか。そういう意味ではミャンマーもこれから安定した体制の下で成長が見込めるだろう。

 一方中国は、2007年まで2桁の成長を示していたが、2012年には7.7%に減速した。中国の経済成長率についてはOECDの中にもさまざまな意見があるが、楽観的な見方が主流だ。これら楽観的な見方をする人たちは、中国の潜在成長率は8.0~8.4%あり、当分の間、続くだろうと見ている。8%代半ばの成長が続くとすれば、1人当たりの国民所得は、2010年を過ぎたあたりから高所得国と呼ばれる国々の仲間入りをする、というのが強気な見方をする人たちの見通しだ。高所得国というのは、世界銀行の基準で「2013年において、1人当たり所得12 000米ドル以上の国民総所得がある国」を指す。

 今回の「東南アジア、中国、インド経済アウトルック2014」をつくった人たちは、OECD内の強気の見通しをするグループと見方がやや異なる。中国の経済成長は7%台が続き、中所得国のわなを脱して高所得国の仲間入りをするのは2026年ごろ、とみている。

 中国の潜在成長率を8%台と見るか、7%台と見るかの違いはどこから来るか。前者の人たちは先進国のモデルを使い、膨大な資本蓄積をベースに掲載すれば8%以上を可能にする政策能力はあるだろうと見る。一方、より構造能力に着目するグループは、膨大な資本投下が続いて、(投資)限界効率が低下する局面に差し掛かっている、と考える。私も後者の見方だ。問題は成長率が7%か8%かと言うことより、どうやって国民の生活水準を向上させるかが、中国にとってより大きなテーマではないかと思う。

 ASEAN諸国は一般に経済と政治が切り離されている。しかし、中国だけは政治と経済が切っても切れない関係にある。中国の場合は、政治と経済の安定が一体になっているという気がする。

 今回のOECD報告のテーマは、中所得国のわなを脱し、高所得国にどのようにして移行したらよいかだ。中所得国になったはよいが、何十年も高所得国になれない国が、世界にはたくさんある。特にラテンアメリカやアフリカに多い。それが「中所得国のわな」という概念を生み出した基礎にある。幸いアジアでは、中所得国のわなにはまらず1人当たりの国民所得が日本に匹敵する、あるいは追いつこうというシンガポールや韓国のような国がある。こうした成功例と数多い失敗例を比較して、マレーシア、中国、タイ、インドネシア、フィリピンといった国々の中からどのようにしてスムーズに高所得国に移行できるケースをつくれないか、がこの報告の大きなテーマだ。

 答えはそれほど新規なことではない。1人当たりの国民所得が3,000~4,000ドルというある程度の中所得国になった多くの国を見てみる。余った労働力を動員して組み立て中心の製造業を発展させ、製品を輸出する、すなわち世界の生産チェーンの下の方に入って、たくさんの部品を輸入し、組み立てて輸出することを繰り返す。そのために必要な低賃金の労働力を動員できるだけ動員し…。こういうプロセスを経て中所得国にたどり着けたわけだ。こうした国が、もう一段の発展をするにはこれまでのような低賃金や、グローバルサプライチェーンの下の方にいるということでは駄目。賃金が上がるのに見合う生産性の向上が必要で、裏返して言えばイノベーションが内在的に起きる産業構造にどのようにして転換したらよいか、がこれらの国に共通した課題になっている。マレーシアなどは高所得国に最も近い国だが、足踏み状態が続いている。アジアにおいても、産業構造の転換が簡単にはできないことの実例だ。

 素材型、組み立て加工型、入ってきたものに小さな付加価値だけを付けて送り出すだけの産業構造から、もっと頭で考えて新しい技術を付加し付加価値を上げていく産業構造に転換するにはどうしたらよいか。これは多くの先進国も直面する課題だ。日本だって技術革新を起こすイノベーティブな産業構造に変えていきたいと思っているが、なかなかうまくいかない。

 中所得国に共通していることは人材育成で、初等・中等教育だけでなく高等教育の充実に力を注ぐ段階に来ている。もう一つは、技術革新の担い手となるような中小企業が新しくスタートする際の支援策の充実が必要。企業がスタートするために要する日数や手続きが長くて煩雑という障害を減らすことに加え、知的財産権の保護、きちんとした融資といった支援策が、中所得国が高所得国に移行する近道ではないか、というのがわれわれの結論だ。

玉木林太郎(たまきりんたろう)氏プロフィール

 経済協力開発機構(OECD)事務次長。東京都出身。麻布高校、東京大学法学部卒。1976年大蔵省入省。 国際局開発政策課長、駐米日本国大使館公使、国際局長、財務官などを経て、2011年7月から現職。


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