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【13-008】影の銀行問題を考える(その2)

2013年10月18日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

その1よりつづき

影の銀行問題は成熟した金融システムの問題ではなくリスクは限定的

 中国では様々な制度の整備が経済成長に追い付かず、急速に成長した経済の規模と制度が噛みあっていない。また国の規制が強く、経済の実体と金融、財政制度がマッチせず、制度や規制の外でそれらを埋める民間機能が発達する。正に「人民に対策あり」である。

 影の銀行を構成する要素の多くは、金融と財政制度の遅れと金利規制の産物でもある。だが、制度の遅れと、影の銀行が国を揺るがす大きな問題に波及するかは別である。

 中国では資産の証券化は議論が始まったばかりである。サブプライムのローンと証券そのものがないにも拘わらず、影の銀行がリーマンショックと同列に語られ問題にされることがある。

 中国の個人ローンの成長は米国に遠く及ばない。国有商業銀行の個人住宅ローンが認められたのは1996年である。例えば現在、自動車のローンのシェアは、商業銀行が41%、クレジット会社が26%、メーカー系列の金融会社が28%であるが、購入の際のローン組比率は米国の85%に対し、中国は15%~20%程度に過ぎない。企業のM&Aに際しての資金の出所すらも、債券発行による融資は僅か0.3%に過ぎず自己資金が70%を占める。

 リーマンショックでは、生活困難者も対象のサブプライムのローンが多くの金融商品と組み合わされて世界にばら撒かれ、危機の連鎖、世界的信用収縮に繋がった。証券化で転々と流通した虚構の膨張が世界に広がり、リスクの底さえ見えなかったのがリーマンショックだ。リーマンショックと比べ、中国の影の銀行は成熟した金融システムから起きたものではない。むしろ未成長のシステムから派生したものでもある。個別の問題はあっても、連鎖も危機も限定的で、リスクの底も捉えやすい。ある意味では不健全の中の健全である。例えて言えば、化粧品の開発が遅れているので「化け」具合が単純で、虚飾の拡がりが限定的とも言える。

 さらに、中国は厳重な外貨管理を行ってきた国だということも考えねばならない。日本のようにドルの投機資金が自由に出入りする国でもない。このため逆説的に捉えれば、問題を機に政府のメスが入れられれば、感覚的、想像的にとらえているリスクも解消される。

問題を整理し集約すれば真の影の銀行問題が見える

 サブプライムローンの爆発の発端は米国の不動産バブルの崩壊である。これに対し中国の影の銀行問題を考える場合、米国の生活困難者への貸付と、中国の中小企業や地方政府への貸付を同列に捉えて、バブル崩壊のリスクを語れるかという問題もある。

 次回に述べるが、影の銀行で大きく問題視されるのが地方政府の債務である。これも地方政府の起債と分権の遅れから派生している問題でもあり、先述の評論家のように「担保も取らずに貸し付け、焦げ付くのは火を見るよりも明らか」と単純に決めつけられる問題ではない。地方政府の保証も、債務の担保としての国有の土地についても、さらに地方も国そのものであることも考えねばならない。

 また、表面的にリスクを見るのでなく次のようなことも考えねばならない。筆者の知るある開発区では、事業者のビル開発が頓挫して銀行が十年以上、担保物件を処分せずに鬼城(ゴーストタウン)を抱えたままである。既に銀行の含み利益は何倍にも膨らんでいる。ゴーストタウンの背後にはそのような現実も隠れている。

 さらに、日本とは実情が全く違う、中国の不動産バブルが崩壊するのかということも、安易に言葉を導くのではなく、もっと真剣に検証されなければならない問題である。影の銀行とは、証券やヘッジファンドなどノンバンクの金融業務のことであるが、中国ではかなり広い意味で使われ、およそ20ほどの事象や商品、組織が「影の銀行」として捉えられている。そのために問題の指摘も複雑に入り乱れることになり、瑣末の問題も大きく語られ、殊に日本では中国の問題は誇張されながら拡大、拡散する。

 どこの国にもハイリスク、ハイリターンの金融商品はあり、日本でも投資詐欺は頻繁に出現する。日本との大きな相違は、中国の投資者が市場経済での自己責任に慣れていないことである。そのような中で、全てを無分別に問題とすれば、自転車操業の理財商品もサラ金地獄や闇金融の世界も地方政府が絡む城投債(建設債)で出現したゴーストタウンも、いつしか中国の国家リスクにまで飛躍して語られてしまう。

 それゆえに影の銀行問題は、問題を整理して、その集約を行うことが非常に大切である。どこからの資金がどんな債券や商品に形を変え、どこに流れていくのか、その整理が重要である。影の銀行問題で民間の高利貸付けとともにクローズアップされるものに理財品がある。それを扱う業者には銀行、ノンバンクの基金、投資会社、さらに銀行による基金や信託、理財品の代理販売もある。2013年6月末には銀行理財品の残高だけでも9兆800億元に達した。

図1

 さらに理財品には債券、信託形式のもの、株式や外貨などの市場を対象にしたもの、芸術品、貴金属などの商品対象のものなど、種々のものがある。また、理財や信託で集めた資金の行きつく先は、個人、企業、そして地方政府にまで及ぶ。

 少しでもお金に余裕のある中国人は、金利規制で利子の少ない定期預金に預けるより、定期預金代わりに銀行理財品を購入しているのが実態である。ほとんどの人が理財の中身に関心なく、予定収益率だけを確認し、自身が何の理財を買っているのか知らない人が大半である。しかも今は、ネットバンキングを通じて手軽に購入できるのでますます理財品市場が拡大している。

 前にこの欄で述べたが、石炭産地の陜西省楡林市の神木県、府谷県には4000人の石炭億富豪がいる。しかし100人の石炭王がいれば90人が影の銀行と繋がり、そこから高利の融資を受けている。石炭億富豪の裏の一面も影の銀行問題の中で垣間見える。それは毎年フォーチュン誌が発表する中国億富豪にも通じるものがある。

 様々な要素が絡み合い状況が十分に把握できない中で、リーマンショック、バブル崩壊に結び付けられているのが影の銀行である。ゆえに本当は何が問題なのかを捉えることが重要である。余計なものを議論から省き、深く掘り下げて問題の一言集約をした時に見えるものが真の影の銀行問題といえよう。

 実は、影の銀行と同じく、日本で盛んに問題が指摘された中国の金融問題が十年前にあった。国有銀行の不良貸付問題である。当時、影の銀行と同じ言葉で、野放図な貸し付け、不動産バブル崩壊、銀行の破綻、さらに中国経済の崩壊が声高く日本でも語られた。当時、各行の不良貸付率は、中国工商銀行が25%、中国農業銀行が37%、中国銀行が22%、中国建設銀行が15%と発表された。

 銀行の隠れた不良貸付やオフバランスの簿外で行われている理財品の赤字などの簿外リスクが、銀行のバランスシートで埋め合わされる場合の損失発生など、不透明な要素はあるものの、銀監会(中国銀行業監督管理委員会)が発表した今年6月時点での商業銀行の不良貸付残高は、5395億元にのぼり不良貸付率は0.96%であった。

 2000年初頭の危機後、株式化や上場で国有銀行改革は進み、国有銀行は健全性など各種の指標で世界の上位にランクインして、不良貸付を声高く指摘する声も萎んでしまった。何よりも不良貸付の最大の担保になったのは中国の経済成長だった。

 今も鬼城が中国リスクとして語られる一方で、鬼城を保有する銀行、企業の含み利益は拡大している。地方政府の土地も同じである。

図2

 影の銀行問題は10年前の再現のようにも見える。次稿では影の銀行の中身を整理して、真の問題およびそのリスクの有無を考えたい。



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