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【15-09】露骨なパワーポリティクス時代の再来ない 大庭三枝氏が予測

2015年 3月11日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 アジアの地域制度に詳しい大庭三枝東京理科大学教授が3月6日、日本記者クラブで講演し「むきだしのパワーポリティクスの時代が再び来ることはない」との見方を示した。

 大庭氏の講演と質疑応答は、氏の著書「重層的地域としてのアジア 対立と共存の構図」刊行を機に日本記者クラブが主催した。東南アジア諸国連合(ASEAN)、アジア太平洋経済協力(APEC)、A SEANプラス3、東アジア首脳会議(EAS)など数多くの地域制度が重層的に存在する。氏はこうした特徴を持つアジアにおいて、これらの地域制度が果たしてきた役割について詳しく解説した。

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 国際政治のありようについては、「国際社会のシステムはアナーキー(無政府状態)であり、国家の上に立つ権威はない」とするミアシャイマー米シカゴ大学教授のような見方が関心を集めている。今 年初め来日した氏は講演で「あらゆる国家は一番よい生き残り策として、地域の中で一番強い国になり、どの国も手を出さないような国になろうとする」といった持論を展開した上で、活 発な国際社会での動きに関心が高まっている中国について「平和的な台頭ではない」と断じていた。

 大庭氏はミアシャイマー氏の主張に触れた後、「大国の力が突出していた19世紀のような大鑑巨砲主義の時代はこないだろう」とミアシャイマー氏とは反対の見方を示した。中国が全ての国に対し、全 ての局面において対決的ではなく、むしろ巧妙な外交をしている例として大庭氏が挙げたのが、アジアインフラ投資銀行(AIIB)。昨年10月、21カ国が設立合意書に署名したAIIBは、法 定資本金1,000億円の半額を中国が負担し、本部も北京に置くと言われている。米国、日本などは運営の透明性や適正な投融資に懸念を示し、参加の意向を示していないが、参加表明国は24カ国に増えている。 

 アジアのインフラ投資需要は大きく、アジア開発銀行など既存の枠組みでは需要に応えきれないという現実を挙げ、氏は「AIIBはこうした点を突き、各国にウインウインの選択肢を示した」と 中国の動きを評価した。

 数多くの国際的枠組みが重なり合うアジアにおいて、ASEAN諸国の役割の大きさと対応の変化についても詳しく解説している。大国の草刈り場になるのを恐れ、自 分たちを中心とする地域制度をつくることに消極的。こうしたASEAN諸国が1990年代になると積極姿勢に変わり、どの大国ともつながりを結ぶ一方、どの大国にも突出した影響を与えないことで「 地域制度をバーゲニングパワー(交渉能力)の向上に利用してきた」との見方を示した。

 ASEANの影響力が高まってきた例として氏が挙げた地域制度が、ASEAN諸国、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドとの間で2012年11月に交渉がスタートした「 東アジア地域包括的経済連携(RCEP」。「なかなか交渉が進まないのは、ASEANがうんと言わないから」と大庭氏は見ている。

 2008~2009年に核心的利益を言い出し、近隣諸国との外交の進め方を転換させた中国の動きを重視する一方、「地域制度を無視することはなく、む しろ自分たちの望ましい地域制度を積極的に打ち出す政策をとるようになった」ことに注意を喚起した。

 「ある種の対立的局面続くかもしれないが、地域制度の重要性が低下することはなく、むしろ高まる」。大庭氏はアジアに重層的に存在する地域制度の役割を評価し、アジアの将来をこのように見通した。   


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