【14-07】中国の中等職業教育の発展段階と改革動向(その3)

2014年10月22日

陸 素菊:華東師範大学職業教育・成人教育研究所副教授
職業教育研究センター副主任

略歴

 蘇州大学政治学部卒。江蘇省教育委員会政策研究室科長研究員を経て、2003年名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士学位取得、東京大学教育学研究科客員研究員。現在、華東師範大学職業教育・成人教育研究所副教授、上海市教育学会職業技術教育研究会事務局長、日本産業教育学会理事。専攻は学校職業教育・成人職業訓練。

その2より続き)

中等職業教育の改革動向(1)

 中等職業教育の進展は、主に行政と財政体制、学校経営に関係する専門構造と教育課程、教員の養成と研修などあらゆる面の整備によって進められる。以下、中国の中等職業教育制度の改革課題をめぐって、政策の実施とその動向を中心にして、その実践的成果と問題点を考察する。

行財政体制の改革

 上述にも触れたように、中等職業教育は就業前の技能労働者を養成する教育形態として関係部門間の連携が欠かせない事業である。市場体制への移行と行政改革のなか、徐々に産業部門・企業から教育部門に統合され、中央から地方に委譲される傾向があった。現在、その行政管理体制の整備によっていったいどのような責任分担になっているのかを分析する。

1.部門連携を重視する行政管理体制

 中国の中等職業教育の行政管理体制は「国務院の指導の下で、各レベルに分けて管理し、地方行政が主体となり、政府教育部門が統合し、民間も参与できる行政管理システム」[4]をとっている。国家教育部は職業教育を統合的に企画し、総合的に協調させ、マクロ的な管理の責任を負う。人的資源と社会保障部とその他関係部門は、各々職責の範囲において、職業教育に関連する部分に責任を負う。基本的に教育部が所管部門として、関係部門と連携する体制になっている。

 職業教育事業における重要な問題を解決するため、国務院の指導の下で、教育部、人的資源と社会保障部、発展改革委員会、財政部、農業部、貧困層支援弁公室などの関連部門が参加して職業教育の連合会議制度を設置している。2004年に国務院の承認によって、「職業教育に係わる関連部門の連合会議」制度が成立され、中央政府の全体的な管理、部門間連携の強化に役割を果たすためであった。

 地方政府においても職業教育の管理と指導の統合を強化し、職業教育の発展を地方経済と社会発展計画に組み入れ、有機的に結びつけている。国家教育監督指導団の調査によれば、全国のほとんどの省レベルの政府は「職業教育部門連合会議」を設置し、57%の市、県レベルの政府も共同会議制度をすでに設置しており、28%の政府は設置する予定となっている。また2006年に新疆ウイグル自治区は職業教育指導グループを設立し、職業教育のマクロ的な管理を果たした。とくに、上海市では技術労働者学校、中等専門学校、職業高校を中等職業学校へ統合し、市内の各種中等職業学校を活用したという[5]。県レベル以上の地方人民政府は、関連する管理体制を設置し、行政地域において職業教育事業を指導し、統合と協調を進め、監督・評価の責任を負う。産業(業界)主管部門と組織はその産業の人材需要の予測、教育訓練計画を作成した上で、業界の職業教育と訓練事業を組織して指導する。つまり、①業界特有の職種による職業資格基準の制定、②職業技能検定と証書の授与への参加、③訓練機関の資質基準と就職者の資格基準の策定、④中等職業学校の授業評価と関係管理事業への参加などにかかわる。

 法律の規定により、県レベルの人民政府は農村経済、科学技術、教育の統合的発展の需要に適するよう、多様な形態の職業教育を経営し、実用的な技能訓練を行い、農村職業教育の発展を促進する職責がある。県レベル以上の地方人民政府は中堅的或いはモデル的な中等職業学校・職業訓練機関を運営しなければならず、農村部、企業事業組織、社会団体、その他社会組織および公民が行う職業学校と職業訓練機関に対して指導と援助を与える責任を持っている。政府主管部門、業界組織は職業学校、職業訓練機関を単独であるいは連携して運営しなければならず、業界組織は企業・事業組織が行う職業学校、職業訓練機関を組織し、協調して指導する。企業は職業学校、職業訓練機関を単独で、あるいは連携して運営することもでき、学校や職業訓練機関に委託して企業の社員や採用予定の社員に対する職業教育を行ってもらうこともできる。国家は事業組織、社会団体、その他社会組織および公民個人が国家の規定に従って職業学校、職業訓練機関を運営することを奨励する。2012年の統計によれば、業界企業が運営する中等職業学校は中等職業学校総数の9.6%のみを占める。

 中国の中等職業教育において、行政管理部門間の連携と諮問機関を組み合わせた体制(図3)によって、多様な職業教育と訓練実践が探索され、地方経済と社会発展に適応する職業教育の経営能力が向上された。2003年より、教育、労働、情報と運輸、衛生などの部門が連合して①CNC技術応用、②コンピュータアプリケーションとソフトウェア技術、③車両の使用やメンテナンス、④看護の4つの製造業とサービス専門分野で人材育成プロジェクトを実施した。2006年以来、関連部門の連携によって「技能型人材育成」「農村労働力の転職訓練」「農村実用人材訓練」「成人継続教育と再就職訓練」という4つのプロジェクトが実施され、中国の工業化、農村労働力の転移と新農村の建設に貢献した。

図3

図3 中国の中等職業教育行政管理と研究諮問体系図

 今後、中等職業教育の行政体制は農村経済、科学技術、教育の統合的発展の需要に適する労働力を養成するため、教育行政部門と労働など関連部門との連携がさらに必要とされ、多様な形態の職業教育を経営し、学歴職業教育だけではなく、流動労働力に向けての実用的な技能訓練を行う需要が大きくなるであろう。

 実践レベルにおいては、部門間の壁があるため、産業(企業)の中等職業教育への関与が果たせない「空白」に近い状況になっている。教育行政部門が主導し、関係部門が連携し合い、業界や企業が関与できるような職業教育運営システムを作りあげることは、今後の職業教育運営の重要課題となった。

2.多様化の経費投入体制

 中国の中等職業教育の経費投入体制は、財政投入を主体としつつ多様な資金源を調達し、資金を大いに増加させ、中等職業教育の経営能力を改善する方針をとっている。その構成には国家財政からの教育経費、民営学校の運営者投資、社会寄付、事業収入およびその他の教育経費がある。その内、国家財政からの教育経費は、国家財政予算内の教育経費、各レベルの政府が徴収する教育関連の税金、企業による学校運営の出資、学校運営側の事業と社会サービスによる収入が教育に使う部分などからまかなわれる。

 国家予算内の教育経費には教育事業費の配分、科研の資金、基本建設とその他(割り当て金)支給がある。各レベルの政府が徴収する教育関連の税金には教育費付加税、地方教育費付加税、地方教育基金がある。2006年以降、付加税によって得られた教育費のうち、地域において職業教育に使う割合は一般的に20%以上、9年制義務教育が普及した地域は30%以上となっている。9年制の義務教育が全面的に普及するのに伴って、全国各地域において、教育費の付加税から職業教育に投入する割合は30%に設定するべきであるとの政策措置が出されている。また、企業の場合は教育訓練経費として社員給料総額の1.5%を拠出し、従業員への技術的要求が高く、訓練の必要が大きく、経済的収益が良い企業はその2.5%を拠出すべきであるとの措置が出されている。

 1983年以降、中央政府は各地の職業教育の条件を整備するため、都市部と農村部において特別な職業技術教育助成金を設定してきた。2002年に中央政府が職業教育を重視する方針を採ってからは、中央財政からの助成・援助金は大幅に増加した。2003年以降、中央政府は68億人民元を投入してきた。それは実習訓練の場の建設、農村の県職業教育センターと中等職業教育モデル学校の建設、中等職業学校の専門科目教員の資質を向上させる研修など職業教育の基盤強化へ重点的に援助した[6]。とくに2005年の国務院の决定後、5年間に中央財政から職業教育へ100億元が投入され、職業教育の基盤づくりのために重点的に用いられた。統計によれば、図4に示したように、中国の中等職業学校の教育経費の総額は年々増加し、とくに2005年以降、職業高校を含む中等職業学校の教育経費の総額は大幅な増加が見られる。中等職業学校の教育経費の構成から見れば、財政からの投入も増加しつつあり、多様な経費によって賄われていることがわかる。

図4

図4 中等職業学校の教育経費の変化状況(1997-2009年)

注:1997~2006年間の経費統計額には職業高校が含まないこと。
出所:中華人民共和国国家統計局編『中国統計年鑑』(各関係年度)により作成

学校経営の規範化・企業との連携

 中等職業学校の経営には、学校設置基準、専門学科設置基準、教員資格制度、監督・指導制度、点検制度などがあり、職業教育の質を保障する体制となっている。2011年に国家教育部は「中等職業教育監督・指導と評価の規則」を発布し、それに基づいて国家教育監督指導団が、定期的に各省レベルの人民政府に対して中等職業教育の実施状況を監督・指導し点検を行うことになった。監督・指導の内容は中等職業教育の発展に関するマクロ的政策の整備と改善、経費投入、学校運営の条件保障および進展の水準とその特色に及ぶ。監督・指導・点検の結果は公報の形で社会に公布され、点検された地方行政部門の褒賞または責任追及の重要な根拠となる。

 中等職業教育「内的改革」の進展につれて、学校経営の規範化を促すため、2010年に「中等職業学校管理規程」、「中等職業学校設置基準」が教育部によって相次ぎ発布された。前者は学校管理の綱領的な性格をもつ文書、学校基本制度に関する指導的な文書でもあり、その対象は学校の内務、教職員、教務、徳育、生徒、新入生募集と就職指導、資産などに及ぶ。後者は2001年の旧基準を修正したものであり、学校経営の規模、生徒1人あたりのキャンパス面積・建築面積・教育機器の数値、学生と教師の比率などを規定した。これは各レベルの教育管理部門で行われる承認、点検、評価、監視や監督などの根拠であり、またあらゆる関係者に学校経営の根拠を提供する。

同時期に制定された「中等職業学校生

徒の学籍(登録)管理の規則」は生徒の入学と登録、学習形態と修業期間、学籍や情報の変更、成績の評価、賞罰、卒業要件などを規定し、国家の学費免除と援助政策の実施に制度的な保障を与えた。

 市場化への移行に伴って、中等職業教育の学校運営体制については、行政が主導し、企業に協力を求め、業界の役割を十分に発揮し、民間の力量を積極的に参加させ、公立学校と民営学校を共同的に発展させる多元的かつ強固な学校運営システムが提唱された[7]

 実践レベルにおいては、1980年代以降ドイツのデュアルシステムの受容[8]により、「学校と企業の連携、実技と理論の結合」(原語は「校企合作・工学結合」)という学校運営体制を進め続けてきたが、寧波と蘇州など一部の先行地域をのぞき、全国での推進はほぼ難航していると判断できる。その理由は、市場化への移行により、市場原理に即した業界と企業の関与責任が脆弱であること、学校経営に係わる生徒の実習、専門科目教員の養成、教材の開発などの企業の関与についての具体的な制度整備が遅れていること、などの状況のためである。

その4へつづく)


[4] 「国務院関於大力推進職業教育改革与発展的決定(国務院の職業教育の改革と発展を大いに推進することに関する決定)」国発(2002)16号による。

[5] 「国家教育視学報告:中等職業教育に注目」(『中国教育報(新聞)』、2011-7-5、第007版)

[6] 黄尭「改革開放30年職業教育発展回顧及未来への展望」(『中国職業技術教育』2008年第32号)

[7] 「国務院の職業教育を大いに発展するに関する決定」(2005-10-28)による。

[8] 陸素菊「社会主義市場経済下の中国の中等職業教育改革--ドイツのデュアルシステムの受容過程に即して--」(『産業教育学研究』第30巻第1号、2000年1月、pp.42-50)


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