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【13-009】影の銀行問題を考える(その3)

2013年11月25日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

その2よりつづき

「もし」の仮定で語られる影の銀行リスク

 影の銀行についての問題指摘の論述の多くが、仮定から出発している。

 ある経済誌は,「理財や信託で集められた資金が地方政府の融資平台(プラットフォーム)に回る。もし、不動産開発が行き詰まり、城投債(都市インフラ投資債、準地方政府差債)がデフォルトして理財の償還ができなければ、取り付け騒ぎが起こる。銀行の不良債権に加え、影の銀行の実態が十分把握されていない中で、何かを機に金融不安が発生した場合、世界に危機が輸出される。そのリスクの規模や時期が想像できない」(要約)と述べている。

 「もし」という仮定でリスクが語られるのは、影の銀行の実体が見えないからでもある。見えないから不安が拡大し、そのリスクを想像できないため、さらに危機の連鎖へと想像が膨らむ。

 何が見えないのか。1つは影の銀行の拡がりであり、もう1つはリスクが発生した時、誰が責任を持つのか、また持てるのか、である。その2つが見えないため影の銀行がリーマンショックと同列で語られることになる。

 その2点を明らかにするためには、まず影の銀行の実態を整理することが重要である。

影の銀行とは何か

 中国では下記のようなものが影の銀行としてとらえられている。

  • 商業銀行の正規の業務以外の業務で行う理財、基金等の販売
  • 理財(債券、信託、株等の市場、各種商品向け理財、基金等)の銀行による代理販売
  • 証券、保険の基金、理財の販売
  • 産業、創業債など投資会社や基金会社の公募と私募(49人以下の募集)の基金の販売
  • 信託会社が行う信託型理財投資の販売
  • 小額貸付会社、金融投資会社の資金の貸付
  • 典当(質屋)の貸付
  • 担保会社、保証会社の担保や保証行為、金融貸付
  • 配資会社(先物取引配資、株配資)の配資
  • 期貨公司(商品先物取引会社)の先物取引、金融
  • 個人、企業が無届で行う民間融資
  • 農村の互助社組織 農民資金合作社等の農村の互助金融
  • 地下銭庄(地下銀行)による闇両替、資金洗浄、不正海外送金等の闇金融

 さらに、これらの影の銀行から資金を導入している、地方政府の資金の受け皿の融資平台とそこで行われる不透明な金融行為、さらに企業年金、住宅積立金の運用行為も影の銀行の一員にもとらえられている。

 影の銀行の構成員は個人や中国の企業ばかりではない。日本の都銀系列のローン会社も中国国内に多くの拠点を設け小額貸付業務を展開している。それも影の銀行である。その年利率は48%である。

 これらを整理すれば、

  • 政府により管理されていない組織や企業、個人が行う貸付などの金融や投資行為
  • 政府工商登録はあるが、金融業務の許可のない小額貸付会社等が行う金融や投資行為
  • 金融業務の許可のある担保、財務、投資、貸付会社や私人銀行(プライベートバンキング)の金融や投資行為
  • 銀行がオフバランス(簿外)で行う理財や信託商品等の販売行為
  • 信託投資会社の金融、投資行為
  • 闇の組織が行う不法金融や送金行為

に大別される。

 このように種々ある影の銀行の要素の中で、金額で大きな比重を占めるのが銀行理財と信託業の信託資金である。銀行理財や信託は預金利率の制限と物価上昇で、個人や企業の預金が理財と信託にシフトして規模が拡大した。今年の1~8月、5013種の企業向けの銀行理財が発行された。

 理財の収益率は預金利率、国債利率より高い。今年上期発行の企業向け理財の平均収益率は年率4.43%、個人向けは4.47%である。2011年前、信託会社は規制により銀行委託で銀行理財として信託を発行していたが、自らの発行が可能になり信託投資が活発化した。

 前回グラフで示したように、2012年末の理財と信託の合計残高は14.5兆元で、中国のGDPに対する比率は29%、銀行総資産の11%である。しかし市場を通じての調査では20.5兆円との報告もある。その場合、その残高はGDPの40%、銀行総資産の16%となる。

 

影の銀行の出現と成長の原因

 実態の整理とともに、もう一つ大切なことは、影の銀行の出現と成長の原因を考えることである。

 中国は急成長の経済と金融システムのギャップが大きい。それを埋めているのが影の銀行でもある。小額貸付会社は中小企業金融制度の整備遅れの産物でもある。

 中国の銀行は5社の大手国有銀行、12社の株式制銀行、147の地方商業銀行、多数の農村村鎮銀行で構成され、経済規模や中小企業数に比べて小金融機関の数も少ない。地方都市の中小企業のための金融機能は特に問題である。農村信用社や貸款公司(貸付会社)を加えても、金融機関、金融会社数は4000を超えない。

 一方で、中小企業やベンチャー向けの資本市場、債券市場の整備も遅れている。債券市場の発足から30年が経過したが、株式市場と比べれば発展は遅い。地方には不動産や産権市場はあるが資本市場、債券市場がない。上海、深圳証券取引所の上場企業数は2000社ほどである。そのため、経済の急成長で生まれる旺盛な資金需要、中小企業金融、創業資金、さらに、地方政府の建設資金さえ賄っているのが影の銀行である。2013年6月末の全国小額貸付会社は7086社。貸付残高は7043.39億元(約11兆円)で、2013年上期の貸付額は1121億元増加している。

 信託残高の半分近くが金融貸付で、不動産業界への信託も多い。2011年から不動産の購入制限が実施され、銀行から不動産業への貸付が減少し、影の銀行から不動産業界に資金が流れた。

 また、政府の規制が弱いことも理財や信託、基金に多くの商品が現れ、成長する原因である。華恵1号仙女山景区収費権権益集合資金信託という信託がある。信託期限2年、発行規模は1億元、予定年収益率は10%の信託基金である。重慶市の旅遊集団が募集し、仙女山景区の通行車両費の徴収権益から償還する基金である。

 中国は国策で観光産業、旅行市場を育てている。中央から環境整備の指示が来ても、資金を担うのは地方である。財源の無い地方は融資平台を通じて、信託会社や基金会社と組み、巧みな企画で信託や基金の導入を考える。

 筆者の知人は少林寺と組み、少林寺関連基金を主催している。また安全な水、美味しい水の開発の水基金を集める知人もいる。

 一方複数の芸術品を組み合わせ、また著名な画家を対象とする芸術品への投資基金もある。

 他にも台湾の富士康は成都で中泰信託会社と組み、工場地域の生活サービス建設の資金を集めている。一方、信託資産や権益の登記制度も整備されていないので、名前だけの、中味の見えない怪しい信託や基金も増える。

 二十年以上前から、高速道路の建設すら民間投資を募り、通行料で投資を回収させてきた国である。金融制度の歪や遅れ、国の管理から外れた手軽さ、また中国人特有の柔軟な発想が影の銀行拡大の要因でもある。(その4へつづく)



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