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飛躍的発展段階に入る中国の宇宙開発活動

辻野 照久(科学技術振興機構研究開発戦略センター 特任フェロー)  2014年 7月17日

目を疑う2014年前半の中国の打上げ実績

 中国の宇宙輸送システムは、打上げ回数は以前に比べて大幅に増えているものの、技術的に見れば現時点では陳腐化していると言わざるを得ない。図1は2000年から2014年までの中国と米国の年間打上げ数を対比するグラフである。中国は2012年に米国の打上げ回数を大幅に上回ったものの、2013年は15回(うち1回は打上げ失敗)にとどまり、米国を上回ることができなかった。中国は2014年に14回の打上げを行うと発表した[1] が、米国はスペースX社の台頭などで打上げ数が増加傾向にあり、中国が米国に追いつけないことは確定的である。中国の打上げ動向に注目している立場から見ると、2014年7月末までの中国の打上げ実績がわずか1機というのは、何か異変が起こったのかと目を疑うような状況である。

図1

図1 中国と米国の年間ロケット打上げ回数の推移(2014年は7月14日まで)

図2

図2:2014年(7月14日まで)の国別ロケット打上げ数(出典:Gunter)

 2014年7月14日現在の国別打上げ数のグラフを図2に示す。世界で41回の打上げが行われ、ロシアが18回(うち1回は打上げ失敗)、米国が12回、欧州が3回(ギアナにおけるソユーズ2機の打上げはロシアに含まれる)、インドが3回、日本が2回、イスラエルが1回、シーロンチ社が1回あって、以上で合計40回となる。残りの1機が中国である。中国は、4月に1回、小型衛星の打上げを行っただけで、8月以降も確定的な打上げ予定は2~3機程度しか見当たらない。米国は8月中には15機を超え、年末までに23機程度は打ち上げる見込みである。米国との比較はさておいても、中国は宣言通り年の後半5か月で13機も打ち上げることができるのだろうか?

想定される打上げ計画

 2014年には、どのようなミッションが予定されているのか。地球観測衛星では「高分2号」と「CBERS-4号」は打ち上げられる確度が高い。2013年12月に長征4B型ロケットによる「CBERS-3」の打上げに失敗したことは、これら2機の衛星の打上げに大きな影響を及ぼしている。「高分2号」は昨年失敗したのと同じ機種のロケットを用いるため、原因究明と対策に万全を期す必要があり、当初の予定(2013年12月)より半年以上遅れている。一方中国とブラジルが共同開発している「CBERS」シリーズは、ブラジルとしてもぜひとも運用を継続したいミッションである。ブラジル宇宙庁(AEB)は、2014年4月2日に第64回諮問委員会定例会合を開催し、「CBERS-4」を太原衛星発射センター(TSLC)から打ち上げる時期について、2014年12月第2週に実施することで中国側と合意したと発表した[2]

 この他に、打上げが行われそうな衛星として、通信放送分野では、ラオスやトルクメニスタンなど外国に輸出(軌道上引渡し)する通信放送衛星が打ち上げられる可能性がある。また地球観測分野では気象衛星「風雲」や偵察衛星「遥感」、技術試験衛星では「実践」「試験」など毎年常連のシリーズがある。これらの衛星は打上げ準備がすべて整ってから発表される傾向があり、打上げの1日前か2日前まで情報が得られないことが多い。

 月探査では、嫦娥3号の月面ローバが3夜目にして故障したことから、月面探査の継続を目指して既に製作済みの「嫦娥4号」を打ち上げる可能性がある。

 打上げがあるかないかわからないのは、航行測位衛星「北斗」の周回衛星である。最終的に24機以上で構成するもので、既に5機打ち上げられたものの、ここ2年間、後続機が全く打ち上げられていない。年間2回の打上げ(衛星4機)は以前から計画があったが、最近では計画発表もないまま先延ばしが続いている。間隔が長くなると、初期に打ち上げられた衛星の設計寿命が近付き、十分な活用ができないまま運用終了となりかねない。

 一方、なさそうなものもいくつかあげられる。有人宇宙船「神舟」は11号の打上げが2016年頃になると思われる。天文観測衛星などもあまり進捗が見られない。

現用ロケットの在庫一掃

 次にロケット製造上の都合から考えてみる。現在運用中の打上げロケットは、2-3年後には長征5型などの新系列ロケットに置き換えられていく。新型ロケットが本格的に打ち上げられるようになる前に、現在まだ製造ラインにある現用ロケットは、できる限り部品を余らせず使い切りたいし、万一の不具合等で代替品が必要になる場合もある。在庫一掃には部品だけでなく、輸送の都合も考慮する必要がある。3か所の射場に鉄道でロケット機体を輸送するため、列車ダイヤ編成や輸送用コンテナの運用なども綿密に検討されるであろう。これまでの実績から言って、5か月間で13回の打上げを行おうとすれば、大車輪的な忙しさになるはずであるが、実は2015年以降の計画を考えるとこのペースは決して無理な話ではない。

 実は、2015年には30回の打上げを計画しているという情報もある。この数字は、「年間20回の打上げで中国衛星を5年間で100機打上げ」という以前からある目標からいえば、2013年と2014年で10回少なかった分を2015年に繰延べしているということかもしれず、物理的に達成不能である可能性もある。30機の中には海南島からの初打上げなども含まれるであろうが、大部分は現用ロケットの在庫一掃につながる打上げであり、これまでの延長線上で活動密度を高めるものであるため、年間30回の打上げが実際に行われたとしてもそれ自体は諸外国から驚きの声はあまり上がらないだろう。とはいえ、実現すれば、中国はやはり「有言実行」の国であると評価できるであろう。

中国の宇宙開発の飛躍的な発展

 米ロの間に割り込むまでになった中国の実力は、まだ過去からの延長線上にあるとしか見られていない。中国の宇宙開発について、世界が本当に驚くのはこれから2年か3年先のことである。中国の宇宙開発活動が2015年後半以降、いよいよ飛躍的発展段階を迎えようとしていることは間違いない。

 そのための仕掛けとして、長征5型をはじめとする新型ロケット系列の開発、海南島の文昌射場の整備、宇宙ステーション「天宮」の各モジュールと物資輸送機「天舟」の開発、「嫦娥5号」による月からのサンプルリターン(2017年予定)、最大で静止9トン級という衛星バスの概念を大きく変える東方紅5型衛星バスなど、米国でさえも追いつくのは容易ではない戦略的な宇宙活動の準備を行っているのである。経済的な障害によって頓挫するリスクはあるが、国の富を傾けてというほどの巨額な費用ではないし、技術的には米国のアポロ計画など昔の重厚長大な技術で実現したことであり、最新の超小型ICT技術を使いこなす能力を有する中国宇宙産業の能力をもってすれば、信頼性や安全性の高いスマートな宇宙技術を実現する可能性は極めて高い。

 その一例として、まだ計画段階ではあるが最近情報が得られた「長征9型ロケット」[3] に注目したい。2014年1月19日、中国航天科技集団公司(CASC)に属する中国運載火箭技術研究院(CALT)副院長の梁小虹(Liang Xiaohong)氏は、有人月探査や宇宙ステーションなど、地球低軌道(LEO)に100t級の打上げ能力を備えた重量級の長征9型ロケットの開発プロジェクトを準備中であると述べた。

 過去最大の重量級ロケットは、アポロ11号などの打上げに用いられた米国のサターンV型ロケットで、打上げ能力はLEO 118トンである。ただ、現時点でこのロケットを再現することは米国でも簡単にはできない。米国ではスペースX社がLEOに53トンの打上げ能力を持つ「Falcon-Heavy」を開発中であるが、「長征9型」はこれをはるかに凌駕する。またNASAは将来の深宇宙有人探査用として「宇宙打上げシステム」(SLS)を開発中であり、最大性能はLEO130トンまで目標にしているが、実際に2018年頃までに開発できるのはLEO70トンクラスである。

 長征5型は今のところ最大性能のバージョンでも米国のDelta IV Heavyに及ばないと見込まれている。中国の本当の飛躍は「長征9型」実現以後ということになるかもしれない。

以上


[1] 航天科技集团型号会:今年宇航发射14次、中国航天報、2014年1月8日:http://www.spacechina.com/n25/n144/n206/n214/c621397/content.html

[2] AEB CONFIRMA LANÇAMENTO DO CBERS-4 EM REUNIÃO DO CONSELHO SUPERIOR、AEBニュース(ポルトガル語)、2014年4月3日: http://www.aeb.gov.br/aeb-confirma-lancamento-do-cbers-4-em-reuniao-do-conselho-superior/

[3]中国运力达百吨级火箭或今年立项 将与美比肩、北京晨报、2014年1月20日:http://www.chinaequip.gov.cn/2014-01/20/c_133058302.htm


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