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書籍紹介:『「科学技術大国」-中国の真実』

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書籍名:『「科学技術大国」-中国の真実

  • 著者: 伊佐 進一
  • 発行: 講談社現代新書 2075
  • ISBN: 978-4-06-288075-6
  • 定価: 760円+税
  • 種類・頁数: 単行本、268ページ
  • 商品の寸法: 17.6 x 10.8 x 1.8 cm
  • 発行日: 2010/10/16 Printed in Japan

目次

  • 第1章 あふれる中国人材
  • 第2章 カネ余りの研究開発現場
  • 第3章 宇宙開発大国・中国
  • 第4章 猛追する中国のライフサイエンス
  • 第5章 中国の「ハイテク」企業事情
  • 第6章 発展への阻害要因
  • 第7章 巨大市場を開拓せよ
  • 第8章 中国と拓く新時代のイノベーション
  • 終 章 科学技術の戦略的互恵関係
伊佐 進一

伊佐 進一: 文部科学省大臣官房総務課課長補佐

1997年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業、科学技術庁入庁。科学技術政策や原子力の危機管理等に携わる。2003年、ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)において、中国研究及び国際経済の修士号を取得。帰国後、宇宙開発政策や知的財産分野(著作権)における自由貿易協定や条約交渉に携わった。2007年より在中国日本国大使館一等書記官(科学技術アタッシェ)。帰国後、大臣官房総務課課長補佐。

書評:

林 幸秀 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー

 今更言うまでもないが、中国は大国である。しかし、近年までは人口や政治的・国際的な意味での大国ではあったが、経済的な大国ではなく、ましては科学技術の面でも遅れているという、歪な状況であった。ところが21世紀に入り、改革開放政策が成功を収め急激な経済成長が進んだ結果、ついに本年にはGDPで日本を抜いて世界第二位の地位を占めることになり、また、数十年後には米国も抜いて世界第一位になるとの予測も出されている。科学技術についても、この経済発展に支えられ急激に発展しており、今や米国、欧州主要国、日本と並んで、世界において中国が重要な地位を占めている。

 日本の科学技術関係者は、中国を科学技術上のライバルと従来思っておらず、米国や欧州主要国の状況は熟知していても、中国の状況には疎い面があった。そのため中国の科学技術事情を記述した書籍は皆無といっていい状況にあった。今回出版された、伊佐進一氏の『「科学技術大国」中国の真実』は、中国の科学技術の現状を過不足なく伝えており、最良の入門書であるとともに、中国の科学技術の弱点や日中間の協力についても言及しており、好書であると思う。

 本書によれば、中国の科学技術の長所は豊富な研究開発人材とやはり豊富な研究開発資金にあると言う。それを受けて、宇宙開発やライフサイエンスなどの分野で急激な成長を遂げ、日米欧の先進諸国に肉薄しつつある状況を生々しく伝えている。しかし一方、基礎研究の急激な上昇の割には、民間企業のイノベーション(中国語で「創新」)につながっていないとか、面子や政治判断に起因すると思われる科学技術の発展における阻害要因などが中国に存在することも冷静に分析している。

 そして提言として、お互いによく知りあったうえで、科学技術面での協力を日中間で推進すべきであり、協力がうまくいくための賞味期限がそれほど長くないことも付記している。欧米に目を向けるだけでなく、非常に地理的に近い中国の科学技術について知り協力を考える契機として、本書をお読みいただくことを切望する。