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書籍紹介:『中国とベトナムのイノベーション・システム-産業クラスターによるイノベーション創出戦略-』

書籍名:『中国とベトナムのイノベーション・システム-産業クラスターによるイノベーション創出戦略-

書籍イメージ
  • 著者: 税所 哲郎
  • 出版社: 白桃書房
  • ISBN: 978-4-561-25549-9
  • 定価: 3,300円+税
  • 種類・頁数: 判型A5、256ページ
  • 商品の寸法: 21.4 x 15.4 x 2.2 cm
  • 発行日: 2011年4月 Printed in Japan

書評

谷口洋志(たにぐちようじ) 中央大学経済学部教授・同大学院経済学研究科委員長

 本書は、その本題と副題が示すように、中国とベトナムの産業クラスターを中心に、それぞれのイノベーション創出戦略を解明しようとしたものである。

 本書は、幾つかのユニークな特徴を持っている。

 第1は、中国とベトナムという最も注目すべき2カ国を取り上げ、両国の異なる特徴を浮き彫りにしていること。ベトナムの動きを紹介することで、中国の動きの特色が明らかになり、異なる政策・アプローチの相互比較・相対評価が可能となる。

 第2は、産業クラスターを通じてのイノベーション戦略を各国4事例ずつ取り上げ、それを統一的な枠組みで解明しようとしていること。共著の場合によく見られる説明の濃淡や異なるアプローチでなく、同じ著者による共通の説明の仕方・アプローチに読者は安心感と信頼感を抱く。

 第3は、選ばれている事例がどれも現代の中国・ベトナムを代表する適例であり、各事例について詳細な動向を伝えていること。例えば、北京市中関村の科学技術園区(サイエンス・パーク)、浙江省杭州市のデジタル・コンテンツ産業、天津市のエコシティは中国の現状を伝える適例であるが、本書のように詳細にそれらの動向を伝える著作はほとんどなく、本書は研究者・関係者にとって貴重な情報源となりうる。

 第4は、複数回に及ぶ現地調査がベースとなって書かれていること。私の経験からすると、文献やウェブ情報だけで理解しようとすると、関係者の美辞麗句や宣伝文句に影響されて、現状を誇張したり過大に評価したりすることが多い。しかし著者は、明確な問題意識の下に数多くの現地訪問・調査を行うことで現実を直視する一方、ウェブ資料を通じてその見聞の正確さを確保しようとしている。また、著者が撮影した写真を多数含めることで、現地調査の雰囲気を醸し出すことに成功している。

 第5は、中国とベトナムの事例紹介にとどまらず、著者が関わりを持ってきた川崎市と横浜市の産業クラスター戦略を取り上げ、上記2カ国とは違う日本の実情や戦略を解明しようとしていること。海外事例の紹介を通じて日本での産業クラスター戦略の在り方を再検討するという著者の姿勢が明確に出ており、後続研究が大いに期待される。

 評者は、年間30日以上中国に滞在し、ときどき中国各地を訪問している。その際、各地の違い・異なる動きやそれぞれのダイナミズムをいつも実感するのだが、残念ながら、そうした多様性やダイナミズムをしっかりと受け止め、先入観にとらわれずに客観的に記述しようとする文献は少ないように感じている。本書は、その中の数少ない著作として、産業政策担当者や海外進出日本企業だけでなく、社会科学や科学技術を含む様々な分野の研究者や関係者の必読参考文献の1冊と言えよう。