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第19回中国研究サロン「日中における大学事情の比較~大学運営の視点から~」(2016年 9月16日開催)

演題:日中における大学事情の比較~大学運営の視点から~

開催日時・場所

2016年 9月16日(金) 16:00 - 17:30

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講師

安保 正一:大阪府立大学 名誉教授、福州大学 国際学院長

講演資料

日中における大学事情の比較~大学運営の視点から~」( PDFファイル 4.16MB )

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講演レポート:「日本の大学国際連携は立ち遅れていないか 安保正一氏が警鐘」

 大阪府立大学で工学部長、理事・副学長などを務めた後、昨年4月、中国・福州大学国際学院長に就任した安保正一氏が、9月16日科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の中国研究サロンで講演し、国際連携の面で立ち遅れていないかと日本の大学に警鐘を鳴らした。

 氏が、特に立ち遅れを強調したのが、中国の有力大学と海外の有力大学間で活発になっているダブルデグリー制度。中国の大学で2年間学んだ後、海外の大学に2年間留学すると両方の大学から卒業証書が得られる「2プラス2」と呼ばれているこうした形態のほか、中国で3年間学び、海外大学に1年間留学する「3プラス1」タイプも同様に増えている。さらに4年間中国の大学だけで学んでも、中国と提携先の大学双方から卒業証書が得られる「4プラス0」という新しい形もある。提携する海外大学のカリキュラムをそのまま導入し、その国の言葉で授業を行い、授業全体の3分の1を海外の教員で実施することで可能にした。

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 これらに加え今、広がりつつある制度として氏が注目するのが、米国の大学と連携した「3プラス2」と呼ばれるタイプだ。学生にとっては、中国の大学で3年間学び、2年間、米国の大学の修士課程で学ぶと、中国では本来7年間かかるところ5年間で修士の学位を取得できるという大きな魅力がある。実施しているのは北京大学など有力大学などに限られているが、現在、福州大学でも米国のある大学との間で「3プラス2」提携の話を進めているという。

 5年間で修士課程まで修了できるなら中国の学生にとって魅力的なのは、容易に理解できる。しかし、米国側にどんなメリットがあるのか。米国で修士課程を修了した中国人の7~8割が、引き続き米国の大学の博士課程に進学する現状を氏は指摘する。米国の大学にとって、より多くの優秀な中国人大学院生を呼び込む有力な手段に「3プラス2」はなっている、というわけだ。

 日本の大学と「3プラス2」はすぐに無理としても、「4プラス0」、つまり日本の大学のカリキュラムをそっくり導入して、日本語で授業を行い、中国と日本双方の大学の卒業証書が得られる連携ができないか。氏によると、福州大学は、日本の大学と連携をしようとしたことがあるという。しかし、この試みは実を結ばなかった。入学試験を受け日本の大学に籍を置かない限り卒業証書は授与できない、とする日本の大学制度が壁になったという。

 もう一つ氏が警鐘を鳴らしたのは、大学の国際ランキングに対する日本の大学の関心の低さ。上海交通大学が毎年発表している世界大学ランキング(ARWU)を引用して、まず、日本の大学の国際評価がこの10年で相当見劣りしていることに、注意を促した。2004年と14年で世界トップ500に入った大学の数が国別でどのように変化しているかを比較した表によると、日本は36から19と半分近くに減っている。これに対し、中国は16から44と倍以上に増えた。氏によると中国のみでなく多くの国では、世界大学ランキングの順位が予算などに影響・反映されるので、各大学ともランキングを上げることに積極的だ。「世界の若い学生は、ランキングを見て、良い大学に留学しようとしている。日本の大学はもっと意識しないといけないのではないか」と、氏は日本の大学の意識改革、奮起を促した。

 大学の連携、特にダブルデグリー制度については、会場から質問が相次いだ。「(日本の大学が活用しようとしても)日本語の壁が大きいのではないか」という問いに対する氏の答えは、「大阪府立大学時代の経験でいうと、中国人のみでなく若い留学生は短期間で日本語に習熟する」。むしろ、何もしないことの危険を強調し、「今のうちなら、日本の科学技術が進んでいると感じて、日本に留学したいと考える中国人学生は多い。しかし、あと5~10年たつと手遅れになる可能性があるのではないか」と、安保氏は講演、質疑応答を締めくくった。

(文・写真/CRCC編集部)

安保 正一

安保 正一(あんぽ まさかず)氏:
大阪府立大学 名誉教授、福州大学 国際学院長

略歴

1975年3月31日: 大阪府立大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)
1975年5月 1 日: 大阪府立大学工学部(応用化学科)助手、その後、講師、助教授
1990年4月 1 日: 大阪府立大学 教授 
2007年4月 1 日: 大阪府立大学 大学院工学研究科長(工学部長)
2009年4月 1 日: 大阪府立大学 理事〔教育・研究担当〕・副学長、地域連携研究機構長・21世紀科学研究機構長、植物工場研究センター長
2013年4月 1日: 大阪府立大学 学長顧問
2015年4月 1日: 福州大学 国際学院長  (現在に至る)
この間、 カナダ国立科学研究所博士研究員、パリ第6大学、トリノ大学、華東理工大学(中国)、福州大学(中国)、国立台北科学大学(台湾)、東京工業大学、名古屋大学、岐阜大学、岡山大学、東 京大学、立教大学、富山大学、千葉大学、九州大学、大阪大学等の32大学・研究機関の非常勤講師・客員教授。