【20-02】新型コロナでも前向き
2020年4月21日
青樹 明子(あおき あきこ)氏: ノンフィクション作家、
中国ラジオ番組プロデューサー、日中友好会館理事
略歴
早稲田大学第一文学部卒業。同大学院アジア太平洋研究科修了。
大学卒業後、テレビ構成作家、舞台等の脚本家を経て、ノンフィクション・ライターとして世界数十カ国を取材。
1998年より中国国際放送局にて北京向け日本語放送パーソナリティを務める。2005年より広東ラジオ「東京流行音楽」・2006年より北京人民ラジオ・外 国語チャンネルにて<東京音楽広場><日本語・Go!Go!塾>の番組制作・アンカー・パーソナリティー。
日経新聞・中文サイト エッセイ連載中
サンケイ・ビジネスアイ エッセイ連載中
近著に『中国人が上司になる日』(日経プレミアシリーズ)
主な著作
「中国人の頭の中」(新潮新書)「<小皇帝>世代の中国」(新潮新書)、「北京で学生生活をもう一度」(新潮社)、「日本の名前をください 北京放送の1000日」(新潮社)、「日中ビジネス摩擦」(新潮新書)、「中国人の財布の中身」(詩想社新書)、「中国人の頭の中」(新潮新書)、翻訳「上海、か たつむりの家」
あの武漢が都市機能を取り戻しつつある。封鎖は約2か月続いた。
日本でも緊急事態宣言が発出され、外出自粛要請が出てされているが、武漢の封鎖はいわゆるロックダウン、厳しさにおいて、日本とは桁外れに違う。
まずは1月23日より、市の公共交通機関、地下鉄、大型バス、長距離バスの運行が停止された。市民は武漢を離れてはならず、空港や駅は閉鎖され、外出禁止令のため、街からは人の姿が消えた。
その後、武漢だけではなく、北京・上海など、中国の動脈ともいえる大都市にも拡大していく。人が集まる場所は閉鎖され、三人以上の外食は禁止、通勤する場合は、会社発行の出勤証明が必要である。
外国人は、このような厳しい措置は、中国だから出来たことで、自由を重んじる西側諸国には不可能だ、と考えがちだが、それは違う。
彼らは本当にコロナを恐れていた。
北京の友人たちは、1月半ばからすでに一切外出しない生活を送っていた。
「仕事はもちろんテレワーク。食料品を買いにいく以外、外に出てないわ。うつるのも怖いけど、他の人にうつすのは、もっと怖い」
「このウイルスは本当に怖い。だからみんなおとなしく、政府の言うことに従っている」
今回は、春節という、一年でも最大級のお祭り期間が含まれていたので、外出自粛のなか、さて何をしようと戸惑う人も多かったはずである。
「こんなに退屈な春節は初めて」「(寝正月は)国家へ最大級の貢献だ」「宮中に閉じ込められていた妃たちの気持ちが初めて理解できた」「天井や床、壁のタイルの数、西瓜の種や干し葡萄、ナッツの数、数えるのは実に簡単ということが証明された」...。
私自身、外出自粛で自宅に引きこもってみると、これらのことが実感をもって迫ってくる。
しかし何があっても彼らは負けない。ショートビデオ(TikTokなどYouTubeの短時間版)で流行りのテーマは「在宅観光攻略法(在家一日游)」なのだそうだ。
「ベランダ峰・寝室街・ソファー遊園地・台所グルメ通り・シャワー大瀑布...面積は限られているけど、観光名所満載だよ」
などと、20秒ほどの動画で自宅を紹介するのである。
在宅時間を有効利用しよう!という声も集まる。
「疫病が去ったら僕は調理師になるさ!毎日自炊して、料理の腕がみるみる上がったからね」
「これまで考えたこともないけど、この際資格取得の勉強しようかな。会計学や法学関係。公務員試験の準備をしてもいいし」
"禁足"が続くと、心配になるのは運動不足である。
「買ったきり、ほとんど使うことのなかった健康器具、ランニングマシンを初めて使った」
完全封鎖の武漢からは悲惨な映像しか届かなかったが、最悪な時期でも、人々は前向きに生きていた。
「ネット配信で映画を30本、テレビドラマを3作(中国のドラマは1作品50話以上のものが多い)見終わり、長編小説も1作読破した」
「家でゆっくり休んでいる間に持病が治った!」
「毎日料理をして家族に食べさせることが、こんなにも幸福だなんて、思ってもみなかった。火鍋、野菜料理、肉料理...ネットで検索しながら作っている。味よし、健康によし、家族の笑顔よしだ」
また、こういう状況下でも、すでに「コロナ後」を見ている人が多いのに、改めて驚く。ネットなどで注目されているのは「コロナ後に訪れる商機は何か」というテーマである。
中国人が見据える「コロナ後の商機」とは何だろう。いくつかのキーワードから見てみたい。
まずは「宅」。宅とは「宅男宅女」、つまり「オタク」である。中国のオタクは、段階を追ってその度合いが増していく。
WiFi+ベッドは普通のオタク、ひとつ上がると+スナック菓子で、上級編は+ペット、プラチナ級は+食事宅配・カウチでホームシアターとなるのだそうだ。
若年層を中心に形成されてきた宅男宅女は、これまで中国経済を後押ししてきたが、新型コロナの蔓延によって、年齢層の高い宅男宅女を生んでいる。
外出自粛のなかでネット通販が急増したが、なかでも顕著な伸びを示したのが、生鮮食品のネット通販である。
これまで、野菜や魚、肉類をネットで買っていたのはおもに90年代生まれ(90後)が中心だった。しかし新型コロナ発生以降は、50年代60年代生まれにも浸透し始めた。市場で購入していた層が、ネットで野菜や肉を買うようになったのである。生鮮食料品のネット通販は、新型コロナがもたらした、新たな商機となった。
次のキーワードは「無接触」だ。
AI、5G、IoTなど、中国は他国に先駆けて発展している。これまでは、自販機(地下鉄の自販機ではカップ麺も普通に売られる)・無人コンビニ・オフィスビルでの無人購買部の三本柱で進んできたが、これからは、無人というより無接触に重点を置く。高度なIT技術が、今後どのような小売形態を実現させていくか、多くの「商売人」たちが、今熱い視線を送っている。
コロナ後発展が見込める事業として、他には「美容関係」「ペット関連」「健康産業」(アリババのジャック・マー氏の一押しでもある)「結婚披露宴をはじめとした各種宴会」などがあがっている。
疫病が収まれば、長い間我慢していたヘアカットやパーマ・カラーなどへ客がなだれ込み、結婚披露宴を延期せざるを得なかった新婚カップルが宴を催し、そしてペットがいかに外出自粛の日々を慰めてくれるかを実感し、病気にならないよう、免疫力を高めるよう健康に留意する。
コロナ後のビジネスチャンス、これらの推測が当たっているか否かは別として、こんな状況でも未来のお金儲けに注目する前向きな姿勢は、やはり注目に値する。
しかるに我が日本。「外出禁止」ではなく「外出自粛要請」に対して、「そこまでする必要があるのか?」「生活の保障してくれれば」「僕ら若者は関係ないし」...、等々危機感のレベルが違う。
まずは新型コロナの怖さと影響を把握し、その後は落ち込むだけではなく、しっかりと未来を見据えていきたい。