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【08-002】中国中南部での寒波被害と中国科学技術部の対応

2008年2月18日〈JST北京事務所快報〉 File No.08-002

 今年(2008年)の1月10日以降、中国中南部地方は何回も寒波に襲われ、寒さと大雪、電線やそれを支える鉄塔への着氷等により、大きな被害が出ています。これについては日本でも報道はされていますが、たまたま同時期に中国の工場で生産され日本に輸出された毒物入り冷凍ギョーザに関する事件が発生したために、日本のマスコミはギョーザ事件の方ばかり報道して、中国の寒波被害については、あまり深刻さを持って報道されていないように思われます。確かに中国は広い国ですので、毎年のように洪水や寒波などの自然災害は起きていますが、今回の中南部を襲った寒波被害は、被害地域の広さ、被害が発生した期間の長さ、日本の鹿児島より南の地方を中心に寒波が襲ったという発生した地域の異常さの点で、中華人民共和国建国以来の最大級の自然災害だと言って差し支えないと思います。

 現在、中国は国を挙げて復旧作業に当たっており、必ずしも現時点で被害の全貌が明らかになっているわけではありませんが、明らかになっている範囲で被害の状況をまとめると以下のとおりです。

2008年2月14日に中国民政部が発表した2月12日時点での被害状況

死者:107名、行方不明者:8名、緊急に避難した人:151.2万人、鉄道や道路に滞留していて救助された人:192.7万人、農作物が被害を受けた農地の面積:1.77億ムー(約1,180万ヘクタール)、うち収穫が絶望的な農地の面積:2,530ムー(169万ヘクタール)、森林被害面積:2.6億ムー(1,733万ヘクタール)、倒壊した民家35.4万戸、損害を受けた民家:140.8万戸、直接的な経済的損失:1,111億元(約1兆6,665億円)

※ちなみに、収穫が絶望的と見られる農地の面積:169万ヘクタールは、日本で言えば岩手県全域より広い面積になります。また、被害を受けた農地の面積と森林の面積を足した面積の2,913万ヘクタールは、日本の全国土面積の約8割に相当する広さです。

(参考1)民政部のホームページ「民政主要ニュース」2008年2月14日付け
「李立国副部長、氷雪被害は歴史的にもまれに見られるものだが、救済復旧作業は効果を上げている、と語った」
http://www.mca.gov.cn/article/zwgk/mzyw/200802/20080200011687.shtml

(参考2)民生部のホームページ「民政主要ニュース」2008年2月14日付け
「李立国副部長、ぜひとも6月末までには倒壊・損壊した住宅の復旧作業を終わらせたい、と語った」
http://www.mca.gov.cn/article/zwgk/mzyw/200802/20080200011689.shtml

国家電力監視管理委員会が2月 1日に発表した1月31日現在の電力の状況

・湖南電力ネットワークの最大電力供給能力は430万キロワット(被災前の40%)に低下
・江西電力ネットワークの最大電力供給能力は420万キロワット(被災前の57%)に低下
・貴州電力ネットワークの最大電力供給能力は306万キロワット(被災前の40%)に低下
(参考3)国家電力監視管理委員会のホームページ
電力監視管理委員会の緊急発表:最新応急措置情報速報(一)
(2008年1月31日12時現在:2008年2月 1日発表)
http://www.serc.gov.cn/opencms/export/serc/yw/news/document001196.html

 「新京報」の報道によれば、2月 3日の時点で、国家電力ネットワーク公司(広東省等を除く電力網を担当する送電会社)の責任者は、電線に氷が付着することによって倒壊した鉄塔の数が9,527基に上った、と語ったとのことです。

(参考4)「新京報」2008年2月4日付け記事
「農村電力ネットワークが8万キロに渡り損害を受けた」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/02-04/021@080115.htm

 電力については、2月13日、温家宝総理が開いた国務院常務委員会の会議で各部署の災害復旧状況について検討が行われた際の報告では、2月11日までに、国家電力ネットワーク公司の系統で累計停電戸数の93%に当たる2,212万戸が復旧した、と報告されたと報道されています(逆算すると累計で2,378万戸が停電し、2月11日時点ではまだ166万戸が停電していた、ということになります)。また、この会議では、「高圧電線網の復旧に重点を置く必要があり、3月末までには復旧を終わらせる必要がある」と指摘されており、電力網の復旧にはかなりの時間が掛かる見通しであることが示されています。

(参考5)「新華社」2008年2月13日17:28アップ記事
「温家宝総理が国務院の会議を開催して、各部署の災害後の復旧作業について検討」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/13/content_7598147.htm

 この寒波被害に対しては、胡錦濤主席や温家宝総理自らが何度も被災地へ飛んで、実情を視察するとともに必要な指示を出していました。2月 7日は旧正月でしたが、胡錦濤主席は広西チュワン族自治区で、温家宝総理は貴州省で、それぞれ「年越し」したとのことです。人民解放軍や武装警察にも災害出動命令が出され、中国ではまさに国を挙げてこの未曾有右の災害に対処しています。

 中央政府の各部署も、それぞれの所掌に応じて対応を行っていますが、科学技術部においても、緊急の対応をしています。2月13日には、万鋼部長の出席の下、「科学技術減災テレビ工作会議」が開かれ、以下の対応策が決まりました。

  1. 科学技術関係者の情報流通をよくし、被災地からの科学技術面での援助要請を収集するとともに、国務院に対して科学的立場からの提案を行うこと。
  2. 専門家グループを組織して、被災地からの要請に応じて専門家を派遣すること。
  3. 「南方地区寒波・大雪・着氷被害復旧作業実用技術ポケットブック」をとりまとめ、ネットワーク上で発表して被災者や災害復旧に当たる者の利用に供すること。
  4. 科学技術部において、緊急に2,000万元(約3億円)の資金を準備して、今後の気象予測、土砂災害等の二次災害の予測と評価、道路の復旧や農作物の越冬方法に関する技術など、災害復旧作業に切実に必要となる技術的支援を行うこと。
  5. 今年の科学技術計画の中で重大な自然災害に対応する能力を高めるために必要なカギとなる技術の研究開発を強化すること。

上記のうち「南方地区寒波・大雪・着氷被害復旧作業実用技術ポケットブック」は既に科学技術部のホームページ上で公開されています。

(参考6)科学技術部のホームページ2008年2月9日アップ
「南方地区寒波・大雪・着氷被害復旧作業実用技術ポケットブック」の配布に関する通知
http://www.most.gov.cn/tztg/200802/t20080209_58993.htm

(参考7)科学技術部のホームページ
「南方地区寒波・大雪・着氷被害復旧作業実用技術ポケットブック」
(第一集:農業、交通、日常生活関連部分)
http://www.most.gov.cn/tztg/200802/P020080209462155141659.doc

(参考8)科学技術部のホームページ
「南方地区寒波・大雪・着氷被害復旧作業実用技術ポケットブック」
(第二集:土砂災害防止、食品安全、通信及びリモートセンシング観測、住宅普及関連部分)
http://www.most.gov.cn/tztg/200802/P020080213587069147686.doc

 いずれも寒波災害からの復旧作業において気を付けるべき科学技術知識について解説するとともに、寒波災害からの復旧に役に立つと思われる技術について、その技術の概要とその技術を持っている研究所の名前、連絡担当者名、連絡先電話番号が列記されており、被災者が何か技術を必要とする場合は、その技術を持つ研究所の連絡担当者に連絡が取れるようになっています。

 今回の寒波災害が重大なものであると認識されるようになった1月下旬から、春節(旧正月)休みを挟んで2週間しか経っていないのに、このような網羅的なポケットブックを作成しホームページ上で発表する、というのは、とんでもなくスピーディーな対応だと思います。科学技術部の担当者はたぶん春節休み返上で対応したのではないかと思われます。

 なお、このポケットブックの中には、例えば、第二集の「食品安全」の部分の中において、広大な野菜畑が被害に遭ったことから、被害から復旧する過程で農家が通常より多量の農薬を使ったり、使用が禁止されている農薬を使用する可能性もある、として、メタミドホスやジクロルボスなどの残留農薬を検出する技術についても紹介されています。

 今回、寒波の被害がひどかったのは、湖南省、貴州省、江西省、安徽省、湖北省、広西チュワン族自治区、四川省など、中国でも南方の地方です。緯度で言うと、ほとんどが日本の九州より南の緯度に当たる地方で被害が大きくなっています。海洋性気候の日本とは違うとは言え、これだけ緯度の低い地域で寒波・大雪・着氷の被害がこれだけ大規模に発生する、というのは明らかに異常であり、今回の寒波は、最近、地球上の各地で見られる極端気象現象のひとつと思われます。

 まずは、中国が今回の災害から1日も早く復旧することを望みたいと思います。一方で、こういった極端気象現象による自然災害は、地球上、どこで起きてもおかしくないことを考える必要があります。今回の中国の中南部を襲った寒気団は数日後日本上空に到達して日本各地に大雪をもたらしたりしており、中国での寒波による大被害は人ごとではありません。日本の科学技術に携わる者としては、まず当面は極めてスピーディーに対応している中国側関係機関による災害復旧の状況を見守りつつ、長期的観点からは、極端気象現象の発生機構や予測に関する研究、自然災害に対する減災・防災技術の開発等の面において、中国側関係機関との間で協力を進めていくことが必要だと思います。


(注:タイトルの「快報」は中国語では「新聞号外」「速報」の意味)

(JST北京事務所長 渡辺格 記)
※この文章の感想・意見に係る部分は、渡辺個人のものである。