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【18-009】全人代における科学技術関係のポイント

JST北京事務所 2018年4月9日

 2018年3月に開催された第13期中国全国人民代表大会(全人代)に関連した科学技術関係のポイントについてまとめる。

1.国務院機構の改革

 全人代に先だって開催した共産党第19次中央委員会第3回全体会議(「19次3中全会」、2月26~28日開催)で打ち出された「党と国家機構改革を深化させるプラン」に基づき、国務院機構の改革案について、全人代が審議を行い採択した。

 科学技術関係では、科学技術部が、国家外国専家局(外国人専門家局)を統合。国家外国専門家局は、中国籍又は外国籍の海外の人材を中国の発展のために活用する千人計画等の施策を担当している。なお、国家外国専家局の名称は保留され、従来のとおり用いられる。

 また、従来は、科学技術部から独立し、直接国務院に属していた国家自然科学基金委員会(NSFC)は、科学技術部の指導を受けることに変わった。

※関連URL:http://www.gov.cn/xinwen/2018-03/17/content_5275116.htm

2.政府活動報告の要旨

 李克強総理は3月5日の開幕式において、2017年度の政府活動について報告した。

1)過去5年間(2013~2018年)に、R&D投資が年あたり11%増加、経済成長に対する科学技術の寄与率が52.2%から57.5%への向上、有人宇宙飛行や深海探索、量子通信、大型飛行機等で重要な成果の輩出、高速鉄道網、電子取引、モバイル決済、シェアリング経済等で世界をリードする等の誇るべき実績を成し遂げた。また、イノベーション駆動型発展戦略の実行、研究機関・大学の研究自主権の充実化、研究課題・経費の管理、技術成果権益管理の改革、「双創」(大衆によるイノベーション、万衆による創業)の推進、イノベーションモデルパーク等の施設整備等も着々に進んだ。

  • 1日当たりの新規設立企業数が5000社強から1万6000社強に増加。
  • 高速鉄道の営業距離が9000キロ強から2万5000キロに伸長。世界の高速鉄道の距離の3分の2を占める。
  • 北京、上海の科学技術イノベーションセンター創設をサポート、国家自主イノベーションモデル区を14か所新設。
  • 国内の有効特許件数が3倍になり、技術市場の取引額が2倍になった。

2)2018年の科学技術イノベーション事業の展開に向けて、①国家イノベーションシステムの建設では、集積回路、5G移動通信、飛行機エンジン、新エネルギー自動車、新材料等の産業開発、スマート製造、工業インターネットプラットフォーム構築、「中国製造2025」実証モデル区整備等、②国家イノベーションシステム整備では、基礎研究、応用基礎研究とオリジナリティがあるイノベーションの強化、重大なイノベーションプロジェクトの立案、高水準な国家実験室の建設、産学連携イノベーションとイノベーション成果の移転応用への支援、スモッグ対策やガンなど重大疾病対策をはじめとする民生分野への支援強化等、③科学技術体制では、科学技術管理制度の改革、イノベーションを刺激するインセンティブメカニズムの充実、イノベーション創出を妨害する政令規則の撤廃等、④「双創」の推進では、全面的なサービスの提供、研究資源の共有、プラットフォーム経済・シェアリング経済の振興、産学研用(ユーザ)提携の促進、投資・税制優遇政策の全国への展開、人材誘致の促進等へ取り組んでいく。これらにより、起業・革新の「アップグレード版」を構築する。

(※上記は、3月5日に報告された内容に基づき記述。)

※関連URL:http://www.gov.cn/guowuyuan/2018-03/05/content_5271083.htm

3.新旧科学技術部長の記者会見のポイント

●全人代会場に設けられた「部長通路」における3月10日午前の万鋼科学技術部長(当時)の記者会見のポイントは、次のとおり。

1)中国の科学技術イノベーションでは、過去5年間の主な実績として、以下のものが挙げられる。

①イノベーション能力が全体的に顕著な成長を遂げ、宇宙、深海、スパコン、原発等の戦略的ハイテク分野で世界先端陣営に突入した。

②科学技術イノベーションが経済社会の発展へ全面的に溶け込み、供給側構造改革と民生改善へ大きく貢献した。

③科学技術経費の投資構成が改善され、イノベーションにおける企業の主体的な地位と役割がより重視され、基礎研究と成果移転も強化された。

④イノベーションの参加者は、科学技術関係者中心から社会民衆中心へ変わり、「大衆による創業、万衆による創新(イノベーション)」(「双創」と通称する)が画期的な新局面に発展した。

2)「双創」は、若者に夢を実現するための絶好な場を提供すると同時に、オフショアイノベーション等イノベーション活動の海外への展開等を通じて、イノベーション・創業の国際化の加速にも繋がっている。

3)人工知能(AI)について、「次世代人工知能発展計画」をはじめ、国レベルでAI関連の政策を系統的に講じられている一方、①AI開発に資する科学基盤の充実、コア技術システムの研究開発の加速、②イノベーションで生まれた成果の移転応用促進への注力、③国際協力の強化等を精力的に推進する必要がある。

4)科学技術人材に関するインセンティブメカニズムの充実、人材評価制度の是正等、的確に対応するよう求められている。

5)電気自動車の進展について、中国は2001年からバッテリやモーター、制御等のコア技術の研究開発に産学連携で取組みはじめ、そして2010年からインフラ整備や税制的支援等を推進してきた。その結果、2017年に、EVを含む新エネルギー自動車の販売量(77万台)と保有量(160万台)が共に世界シェアの半分を占めた。今後は、海外との交流強化を期待する。

6)民生に関連する技術について、新薬創製、感染症対策、水や大気汚染対策等様々な分野で取組みを進めており、誇るべき実績も多数成し遂げた。今後は、実証モデル区の整備、AIやデジタル技術の導入、クリーン産業の振興、貧困対策支援等へ力を入れていく。

※関連URL:http://news.sina.com.cn/c/nd/2018-03-10/doc-ifxpwyhw6565264.shtml

●3月19日の王志剛新部長のインタビューの要旨は、次のとおりである。

1)科学技術は過去の大学と研究機関を中心としたことから、民衆・経済と結び付けることへ変わりつつあり、今後は経済のみならず、政治や文化、社会、エコ文明等あらゆる方面とも連結する必要がある。

2)科学技術体制改革の具体的な取り組みについて、①人材の活躍が科学技術イノベーションの本質であると認識し、イノベーションを創出する意欲、能力と成果のあるヒトが、社会より広く尊敬され、物質と精神の両面において社会に認められるような政策を講じる、②法令の整備、文化的環境の醸成、起業・イノベーションの推進、政府・市場の役割の結合等を促進する、③基礎研究、応用基礎研究とイノベーション成果の移転・産業化等において、科学技術人材を支援する。

3)国家イノベーションシステムの建設を重点とし、大学や研究機関、企業、社会等各々のイノベーション主体の役割を発揮させる。

※関連URL:http://www.stdaily.com/app/yaowen/2018-03/20/content_649563.shtml