【20-019】新型コロナウイルスに関連した医薬品・治療法の開発状況等について
JST北京事務所 2020年3月11日
3月6日、北京で行われた記者会見において、新型コロナウイルスに関連した医薬品等開発の状況についても説明があった[1]。その概要は以下のとおり。
1.対策プロジェクトの概況
中国科学技術部は、国家衛生健康委員会、国家薬品監督管理局等13部門と共に構成される、副総理の指揮の下で活動する政府横断的な科学技術タスクグループを設立し、ウイルスの起源の追跡、診断、予防、治療の5つに焦点を当てて対策を進めてきた。薬物、ワクチン、検査、トレーサビリティ、中医薬などの9つの専門家グループを設立し、42の緊急プロジェクトを展開してきた。
なお、プロジェクトの推進に当たっては、湖北省、武漢市での第一線での活用を念頭に置き、科学研究・臨床・予防の3面の結合・連携、特別な事態であることと合法性の双方に配慮すること等に留意して進められている。一ヶ月強の成果で既に政府の承認を得て、第一線での対策に投じられているものも出てきている。
2.診断
診断の方面では、検査に関して、既に14種の試薬キットが承認された[2]。初期にPCR検査の試薬開発に主に注力し、その後、3方向のプロジェクトを実施。
・ウイルスのRNAをより速く、より便利で、より敏感に検出できるものに対する助成プロジェクト。90分以内で高感度の検出を完了でき、感度は過去よりも三倍高い。
・咽頭スワブサンプリングのサンプルによる抗原検出法。患者の体内にウイルスが存在するかどうかを30分以内に知ることができる。
・患者の体内に新型コロナウイルスに特異的なIgM、IgGなどの抗体が存在すれば、30分以内で検出できる。
一連の緊急プロジェクトの成果から、この2週間で7つの成果が、国家薬品監督管理局の緊急的な承認を得たとのこと。例えば、新型コロナウイルスだけではなく一度に6つのウイルスを検査できるキットも承認されていることが紹介された。1時間半で検査が完了し、患者が新型コロナウイルスに感染しているのか他のインフルエンザウイルスの感染かがわかるとのこと。
新型コロナウイルスに特異的なIgM、IgG抗体の検出に対して、一人用の試験紙を既に開発しており、数十分で検出できるという。また、1時間に200人の患者の検査を完了する全自動免疫化学発光検出試薬を完成することができるとの紹介もあった。
3.治療
治療方法に関してもプロジェクトの成果を活用。リン酸クロロキン、トシリズマブ、漢方医薬等一連の薬物および回復者の血漿、サイトカインストームの予防のための血液浄化治療などの治療方法が診療マニュアルに組み入れられた。幹細胞、モノクローナル抗体などの先進技術を用いた重症患者のための治療方法の研究を積極的に推進している。
臨床実績を踏まえ、患者の症状の程度に応じた治療プランや、症状の重篤化を防ぐための方法をまとめている。治療実績の進展に応じて、新しい知見を加え、その改訂を行っている。
例えば、リン酸クロロキンの使用例として、武漢市にある華中科技大学付属同済医学院協和病院西院区(重症患者の重点定点収容病院)が、入院患者760人のうち285人にリン酸クロロキンを使用した。今までに明らかな副作用は見られていないという。
ファビピラビルは武漢で大規模な臨床研究を展開している。
トシリズマブは診療マニュアル試行第7版に記載され、3月5日までに272人の重症患者にトシリズマブが用いられた。トシリズマブに関しては、中国科学技術大学の研究者が、サイトカインストームを防ぐ研究のため、ICUに入って31人の患者に対して30種類の免疫関連の検査を行い、インターロイキン6が鍵となることを見いだした。彼らは、インターロイキン6に特異的に作用する薬剤として、トシリズマブを選び出した。初期の実験で20人の患者(19人が重症、1人が危篤)、すべてが1日以内に体温低下の効果があり、2週間内に19人の患者が退院し、危篤だった患者は、症状が緩和し、重症の分類に転じた。現在、武漢では既に14の定点病院に導入され、臨床研究が行われている。
レムデシビルは、本年2月から臨床研究が行われている。重症患者に対するものと、軽症・普通症の患者に対するものである。まだ、正式な結果が報告されていない。
また、漢方医薬も多数の患者に使用され、西洋医学、西洋薬との併用でよい効果が見られているという。
回復期の患者の血漿を用いた治療法は、新しい科学技術の成果と言え、中国生物技術有限公司の製品が154人の重症患者の治療に用いられ、良好な治療効果を示したとのこと。この治療法には適さないケースもあるとの見解に基づく質問もあったが、限界があることも認めた上で、前日までに919人の血漿が提供され、29.4万ミリリットルの血漿が得られたということ、湖北省だけでも450名の治癒者が16万ミリリットル以上の血漿を提供したことが一つの希望として紹介された、また、これらの血漿は、治療への活用のほか、さらなる抗体や免疫グロブリンの開発に貴重な資料となるものであり、中国生物技術有限公司が免疫グロブリンの調製に取り組んでいることも紹介された。
幹細胞治療の臨床研究は、北京とハルビンの病院で行われ、臨床の初期段階での安全性・有効性が示されたという。武漢での大規模な臨床が行われようとしている。
人工肝臓の研究成果も既に臨床現場での使用が開始され、人工呼吸器の使用時間、ICUでの治療を受ける時間が減少しているという。
4.予防一般
感染ルートに関して様々な動物実験が行われ、予防に科学的根拠を提供した。
人工知能やビッグデータの技術も感染拡大防止に広く利用されている。
5.ワクチン
ワクチンについては、既報[3]のとおり、5つのアプローチで進められており、4月には、関連法規に基づき、臨床研究あるいは応急使用が行われる見込みであることが説明された。
ワクチン研究開発専門グループを設立し、全国で数十のワクチン開発機関に注目し、第1陣として8機関で9のプロジェクトをスタートさせた。5つの技術的なアプローチでワクチン開発を推進した。
① 不活化ワクチン:現在3プロジェクトを実施。既に動物実験による有効性と安全性の研究の段階。現在、国外に類似の報告は見られていない。
② 遺伝子組換工学技術を用いたワクチン:動物実験による有効性と安全性の研究の段階。現在、国外とほぼ同等あるいは中国が少しリードする状況である。
③ アデノウイルスベクターワクチン:中国には、エボラウイルスのワクチンをアデノウイルスベクターで開発した実績がある。新型コロナウイルスに関するアデノウイルスベクターワクチンの研究も、実験動物による有効性と安全性研究段階にある。海外とは基本的に同程度、あるいは、ある面で中国が先行していると考えている。
④ 弱毒化インフルエンザウイルスベクターワクチン:現在既に実験動物による有効性と安全性研究段階に入っている。このワクチンには1つの特徴があり、鼻腔点滴の方式で接種を行うことを検討している。成功すれば、接種率を高めるために効果があると考えられている。現在、世界の他の国から、同様のワクチンについての報道は見られていない。
⑤ 核酸ワクチン(mRNAワクチン、DNAワクチン):現在、人に用いる同種のワクチンの上市がない状況である。中国のmRNAワクチンの研究開発は、国外と基本的に同等、あるいは前臨床研究の段階で少しリードしているかもしれない。しかし、中国にはmRNAワクチンの臨床研究の実績がないため、将来臨床研究の段階で国外の研究機関がリードすることがあるかもしれない。DNAワクチンの研究開発は2つのチームが進めており、その中の1チームは国際協力で研究開発を進めている。現在、両チームともに実験動物による安全性と有効性の研究段階に至っている。
6.国際協力について
ウイルスには国境がなく、人類が直面する共通の課題であり、中国の科学技術界は国際科学技術界、衛生界と緊密なコミュニケーションを保っている。
1月12日、中国の研究チームは世界保健機関(WHO)とウイルスの全塩基配列を共有し、国際社会と各国科学者に新型コロナウイルス研究、診断試薬開発、薬物研究開発とワクチン研究開発の基準を提供した。
国際社会との協力について、既に日本、パキスタン、アフリカ連合などに検査試薬を提供し、国際社会と中国の診療方法を共有する。中国はWHOとの協力を大いに強化し、中国の経験を活用し、薬剤、ワクチン、検査試薬などの方面における科学研究協力を各国と展開し、全世界がウイルスの感染拡大に打ち勝つために中国の知恵と方策を提供・貢献していきたい。(呉遠彬 科学技術部社会発展化学技術局局長の発言の概要)
7.医療関係者の感染について
なお同日、武漢市で行われた記者会見では、湖北省でこれまで3,000名の医療関係者が感染していることが紹介された。4割が医療施設での感染、6割が医療施設外のコミュニティでの感染であり、いずれも湖北省在住の医療スタッフであり、感染症専門のスタッフではないとのこと。全国から湖北省の支援のために訪れている4万名以上の医療スタッフには、これまでのところ感染の報告はないという[4]。
8.中国の治癒・退院の状況
3月7日は、100歳の湖北省の男性の治癒・退院が発表された[5]。3月8日24時現在の累積確定診断者80,735人のうち、治癒・退院者は58,600人に達している[6]。
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2020年2月27日 北京便り 新型コロナウイルスによる肺炎の診療マニュアル試行第6版等について
[1] 国务院联防联控机制2020年3月6日新闻发布会介绍科技研发攻关最新进展情况
[2] 国家薬品監督管理局の3月1日付資料(下記URL参照)によれば、新型コロナウイルスの検査のために批准を受けた薬剤は、RNA検査のための者が10種類、抗体検査のための者が4種類(資料中に一覧表あり)。
国家药监局持续应急审批新型冠状病毒检测产品
[3] 2020年2月27日 北京便り「新型コロナウイルスによる肺炎の診療マニュアル試行第6版等について」