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【21-010】《十四五》科学技術イノベーションの新たなメカニズムを構築

JST北京事務所 2021年02月22日

~中国共産党中央委員会の「国家経済社会開発第14次五カ年計画と2035年の長期目標の策定に関する建議」の指導書から~

1.概要

 中国では、共産党第19回中央委員会第5回本会議(五中全会)で承認された「中国共産党中央委員会の国家経済社会開発第14次五カ年計画と2035年の長期目標の策定に関する建議」(以下「建議」という。)を受け、中国では様々な機関から、当該計画および各種の政策目的について人民への周知が行われており、国営総合出版社である人民出版社から建議の指導書が書籍として販売されている。

 2020年11月に「中国共産党中央員会制定の国民経済と社会発展の第14次五カ年計画と2035年の未来目標の建議について」という指導書が発行され、編纂人には習近平国家主席、李克強首相等の共産党中央政治局常務委員の他、中国の中心人物が多く名を連ねている。

 これに、王志剛科学技術部部長(省・大臣に相当)も寄稿しており、以下に紹介する。

2.王志剛科学技術部部長「科学技術イノベーションの新たなメカニズムを構築」

(1)書き出し

    党(共産党)の第19回五中全会は、イノベーションが我が国の現代化建設の大局における核心的地位にあることを堅持し、自主独立した科学技術をもって国家発展の戦略的な柱とし、併せてイノベーション駆動型の発展のために科学技術イノベーション体制のメカニズムを完備し、新たな優位を全面的に形成する重要な内容として強調した。

    党の第19回五中全会は、科学技術イノベーションの特別な専門部署を計画の筆頭部署として配置している。これは我が党の国家経済と社会開発第14次五カ年計画における歴史上初の制定であり、習近平同志を核心とする党中央が科学技術イノベーションをかつてないほど高度に重視していることが明らかである。また、改革をもってイノベーションを促進し、イノベーションをもって発展の重要性と緊迫性を促すことも明らかにしている。党中央の精神を誠実に学び「世界の科学技術の最前線に向かい、経済の主戦場に向かい、国家の重大な要請に向かい、人民の生命健康に向かう」という戦略に従い、科学技術分野の改革の難題を解決し、科学技術イノベーション体制の改革を深遠に発展させ、科学技術強国の建設に強力な制度的保証を提供することがさしあたっての重要な任務となる。

3.概要

(1)科学技術の自主自強の実現と有力な科学技術イノベーション体制のメカニズムを保証する必要性について

  ・科学技術イノベーションは、一つの国が繁栄富強に向かう立身の本であり、国際競争で勝利するために不可欠な道である。

  ・リスクに挑戦し、科学技術イノベーション体制のメカニズムを構築することは、堅強な制度保証を提供することになる。

(2)国内外の環境変化とリスクに対応し、科学技術イノベーション体制のメカニズム改革に迫る。

  ・現在世界は百年ぶりの大変革を迎え、新型コロナウイルス感染症のまん延は世界に多くの不確実性をもたらしている。

  ・このような国内外の環境変化とリスクに対応し、我が国は国内の大循環を基本としつつ、国内・国際の双循環の相互促進を新たな発展パターンとしている。

  ・そのために、よりハイレベルな技術イノベーションの供給、核心技術のボトルネック解消、新技術の迅速かつ大規模な応用と継続的な改善を推進するという科学技術イノベーションメカニズムの構築が切迫している。

  ・我が国に蓄積している科学技術力と制度的な利点を国家の発展を支える「基盤」に、また国際競争の「内在的能力」に転換させる必要がある。

(3)新たな科学技術革命の機先を制するための、新たな科学技術イノベーション組織モデルおよび管理方式構築の必要性

  ・科学技術と産業の変革が加速しており、我が国の近代化建設に大きなチャンスをもたらしている。

  ・科学技術イノベーションは、交差・融合・浸透・拡散という特徴があり、破壊的な技術革新が絶えず出現し、研究手法と組織モデルに重大な変化をもたらしている。

  ・例として、ビックデータ研究は、実験科学・理論分析・コンピュータシミュレーションに続き、新たな研究モデルとなりつつある。

  ・デジタル化・インテリジェント化に伴い、研究組織が学際的に発展し、科学研究と技術イノベーションは更にデータとシナリオに依存する形態へと転換している。

  ・研究体系は「オープンサイエンス」に転換し、知識の共有と国境を越えた交流や協力が常態となっている。そして、新興技術は社会統治を発展させ、科学技術における倫理的な問題も生み出している。

  ・世界の主要国は、研究組織の再構築を加速させ、リサーチフロントと技術発展に適応した管理構造を構築し、新ラウンドの科学技術競争において優位を勝ち取るよう努力している。

(4)新ラウンドの科学技術体制改革は、科学技術強国の建設に係る内在的要求である。

  ・習近平同志を核心とする党中央は科学技術体制の改革に対して、一連の重要な戦略的な配置を行い、イノベーション駆動のためのトップレベルの設計を強化し、科学技術体制改革の「四梁八柱(編者註:中国の伝統建築で使われる構造。「制度的な枠組み」のたとえ。党の統治は制度に基づくべく、改革方法論を「四梁八柱」理論としている。)」を構築し、中国の特色ある科学技術イノベーション体系を建設する。

  ・科学技術イノベーションの基礎的な制度は概ね確立されたものの多くの欠点があり、イノベーション環境は未だ完全ではなく、研究資金が不足している。

  ・正確な科学技術評価の方向付けも未だ確立されていない。イノベーション型国家の先頭に立ち、科学技術強国を建設するためには、科学技術体制の改革を深く推進し、国の科学技術管理体系を充実させ、新時代の科学技術イノベーションの発展に適用するために必要な制度設計と良好な環境形成を進める必要がある。

(5)科学技術イノベーション体制のメカニズムを完備する。

  ・中国の科学技術イノベーションは、量から質・個別の要素から系統的な能力への転換時期にある。

  ・このような変化に合わせ、政府の機能も転換させねばならない。

  ・組織体系、人材(奨励)政策、市場環境(の整備)等の体制におけるイノベーションを探求し、最適化しなければならない。部門・学科・軍民・中央と地方を跨ぐ能力と資源の統合を強化し、国家の科学技術管理体系を充実させる。

(6)「トップレベルの目標・重大任務のけん引、基礎能力サポート」を行う国家科学技術組織モデルを構築する。

  ・国家の切迫した要請と、長期的な必要性に鑑み、イノベーション資源を配置する。

  ・重大な科学技術インフラの配置を最適化し、科学技術資源の開放的共有を促進し、学科を跨ぐ分野、産学研協同で重要問題に取り組む体系を構築する。

  ・その上で、持続的な調整を行うことで「戦略と方向性が明確、科学技術の基礎を厚く、攻めと守りの両面を完備し、学科や多くの領域を跨ぎ、平時と戦時の転換が順調」という科学技術発展の新構造を形成する。

(7)ボトムアップ志向とトップダウン志向に適した科学技術イノベーション体制を強化する。

  ・ボトムアップ志向を強化することは、社会主義市場経済の下でキーとなる核心技術の構築を加速させ、新たな挙国体制を構築し、キーとなる分野における自立を早め、産業サプライチェーンに対する安全で安定した科学技術支援能力を向上させ、国家の安全に資することとなる。

  ・トップダウン志向を強化することは、独創性を励起し、重要な新興技術分野における配置能力を強化し、新興技術で機先を制し未来の発展への新たな優位性を確保することである。

(8)重大な科学技術担当組織の実施メカニズムを最適化の上、調整する。

科学技術イノベーション新体制メカニズムの整備のため、重点措置として以下を実施する。

 ①「戦略的研究-計画部署-業務の展開-組織的な実施」の効果的な接続メカニズム構築

 ②国家の重大な戦略的要請を支える業務に対して、「プロジェクト責任者の自薦による公募)」、「軍令状(編者註:必ず任務を完成する約束のたとえ)」、「ステージゲート評価」等の管理方式を実行する。また経済的・社会的な発展を支える業務に対して、担当部局(国)と地方の協同組織を構築し、「報奨制」、「競馬制(編者註:公平な競争環境を提供するための制度)」等の業務管理方式を模索する。

また、競争によって長所が伸ばされるという考えの下、自由探索を奨励する。

 ③平時と戦時を結合した疫病予防と公共衛生研究への取り組みのメカニズムと組織体系を完備し、公共衛生や重大災害等の方面に即応できる研究能力を構築する。

 ④研究者の創造性を十分に引き出すため、研究者の負担を確実に軽減させる。そのためにイノベーティブでリーダー的な人材に対しては、大きな技術路線の決定権と経費の使用権を与える。プロジェクト経費の「請負制」(編者註:目標達成を前提として、研究代表者に使途の制約のない資金を配賦する制度。直接経費及び間接経費の区分を廃止し、研究費を定額とする。)試行を加速し、信頼に基づく科学者の責任制を試行する。

(9)先端的な基礎研究への投入支援機構を健全化する。

 ①政府からの投資に加え、社会からも投資されるよう多様化したメカニズムの形成を加速させるため、企業と金融機関への支援を強化し、社会からの寄付金や基金の設立等の多くのルートでの経費投入を奨励し、基礎研究への投資を拡大する。

 ②最先端の独創性を有する科学的問題の発見とメカニズムの提案を探索し、破壊的でコンセンサスが得られていない研究の選定と支援の仕組みを改善し、「0から1」(編者註:元々無かったことからあることに変わる意味であり、ここでは、革新的な変化をもたらすたとえ)への突破を実現するために努力する。国家の安全、産業発展、民生改善を実践することで、基礎研究における課題を明らかにし、応用研究が基礎研究を引っ張るようにする。

 ③国家自然科学基金の改革を継続的に推進し、学科の配置を最適化し、基礎研究や脚光を浴びてない学科の研究に研究者と研究チームが長期的に従事し、基礎理論の研究能力を向上させることを安定的に支援する。

(10)研究評価制度の改革を突破口として、科学技術者のイノベーション活力を奮起させる。

 ①国の指導力を強化し、重要な研究領域とイノベーションの方向性をめぐって国際レベルの戦略的科学技術人材、科学技術を率いる人材およイノベーションチームを育成し、青年科学技術人材が頭角を現すメカニズムを構築する。

 ②科学技術評価メカニズムを完備させ、科学技術奨励プロジェクトを最適化し、定期的に研究成果の評価を行い、科学技術における評価の科学性、客観性及び実効性を確実に向上させる。品質、貢献、成果を中心とした評価を確立し、「テーマによって人を選び、人によって任務を定める」仕組みにより、異なるタイプの研究にも即したフォローアップと分類評価制度を実行する。

 ③雇用単位の評価自主権を実行し、不必要な政府による評価を減らし、「論文・職位・学歴・報奨のみ(編者註:過去の実績をもって選定すること)」を断固として排除し、代表作制度(編者註:論文の量より質を重んじるため「代表的な論文」のみを評価指標とする制度)を実施し、物的利益と政府資源の分配が過度に集中することを避ける。

 ④教育・激励・監督・懲戒を堅持し、研究公正と監督のメカニズム構築を強化する。科学精神を大いに発揚し、広範な科学技術者が国益と人民の利益を至上とし、歴史的に与えられた科学技術イノベーションの重責を担う。アカデミアの共同懲戒体制を強化し「ゼロ容認」(編者註:不正に対して容認しない)の態度で論文のねつ造等の研究不正行為に対する調査力と公開露出を強め、学術環境を着実に浄化し、実質的な気風学風を醸成する。

(11)科学技術・産業・金融が相互に促進する政策体系を構築する。

 ①科学技術の成果移転による収益の合理的な分配システムを健全化し、職務による研究成果に係る所有権または長期使用権を研究者に付与し、研究成果の評価を社会に広め、市場化とモデル化を推進する。

 ②オープンな技術市場を建設し、市場の技術研究開発とイノベーション要素の配置に対する誘導作用を発揮し、科学技術の成果移転の効果を大幅に向上させる。迅速な新技術による新製品の参入システムを確立し、自主的なイノベーション製品を政府調達する等の支援政策を実施し、科学技術成果の産業化や大規模化を促進する。

 ③金融市場と金融ルーツの科学技術イノベーションに対する支援能力を強化する。科学技術型企業の全ライフサイクルをカバーする信用商品体系を完備し、科創板[1](編者註:2019年7月に設立された中国の科学技術ベンチャー企業を対象とした中国版ナスダック)等多層的な資本市場における当該企業への直接融資の役割を発揮し、政府の起業促進基金と成果移転基金によるけん引効果を発揮し、大衆による創業・科学技術型企業のインキュベーター・大学内のサイエンスパーク・ハイテク産業地区等の全チェーンの創業インキュベーションキャリアを建設し、多元的な科学技術型イノベーション創業を推進する。

 ④知的財産権の創造、運用および保護を強化し、各種のイノベーション主体がキーとなる先端領域における特許取得を強化し、知的財産権取引および運営サービスを強化し、完備された知的財産権保護体系によって全社会のイノベーションの潜在能力を励起する。

(12)科学技術イノベーション能力の開放協力システムを完備する。

 ①更に開放的で包括的、互恵的に共有する国際科学技術協力の戦略を実施し、科学技術イノベーション協力のレベルを高め、世界の主要なイノベーション国家との多層的で広範な領域にわたる科学技術交流の協力を強化し、多国間による科学技術協力メカニズムに積極的に参加および構築に関わり、「一帯一路」科学技術イノベーション行動計画を深く実施し、民間の科学技術協力の領域を開拓する。

 ②世界のイノベーションガバナンスに深く関与し、世界の持続可能な発展に関わる重要な問題に焦点を当て、世界に向けた科学研究基金を設立し、我が国がリードする国際大科学計画と大科学プロジェクトの立ち上げを加速し、各国の研究者が共同研究を展開することを奨励する。世界の疫病防止と公共衛生分野の国際科学技術協力を着実に推進する。

 ③国際化された人材制度と研究環境を構築し、国際競争力のある人材育成と制度体系を形成し、研究管理および(研究)プラットフォーム建設の国際化水準を大いに向上させ、国際科学技術人材に重要な業務に従事させるとともに、大科学(ビッグサイエンス)プロジェクトへの参加の度合を高める。

4.まとめ

 科学技術イノベーションは中華民族の偉大な復興戦略において大きな歴史的使命を担っており、世界における百年ぶりの大変革に対応するための重要な役割を担っている。習近平同志を中心とする党中央と緊密に団結し、中国の特色ある自主的イノベーションの道を歩み、科学技術イノベーション体制のメカニズムを充実させ国家発展の主導権を勝ち取り、科学技術強国の建設を加速し、中華民族の偉大な復興を実現する中国の夢により大きな貢献をする。


1. 2019年7月31日 北京便り「「科創板」は科学技術と資本発展の新世紀を開く