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【21-029】宇宙線の起源「ペバトロン」、存在の確証を得る―成果を日中米で発表

JST北京事務所 2021年04月06日

日中共同研究により宇宙線観測史上最高エネルギーのガンマ線を計測、宇宙線の起源「ペバトロン」存在の確証を得る

 1912年に宇宙から飛来する放射線である宇宙線が発見されて百年以上が経過した。これまでに10桁以上のエネルギー範囲で宇宙線が観測されており、1958年には、エネルギーが数ペタ電子ボルトを超える宇宙線量が急激に減少している様子が発見されている。これらの事実と理論的考察から、数ペタ電子ボルト以下の宇宙線は、我々の住む銀河系内で生成されていると考えられてきたが、それが宇宙のどの天体から飛来しているのか、どのようにして人工の加速器で生み出すことができるエネルギーを超えるエネルギーにまで加速されているのかはわかっていない。

 この問題は、今世紀初め、全米研究評議会がまとめたクォークと宇宙を結ぶ新世紀の11の科学的課題の一つに数えられている。宇宙線の起源となる天体は、どの天体かはわかっていないながら、テラ電子ボルトの陽子を生成できるアメリカの人工粒子加速器「テバトロン(Tevatron)」に因んで、「ペバトロン」と呼ばれてきた。

 百年来の、1958年の発見以来でも60年来の謎の解明に迫る研究成果が、2021年4月2日午後2時に北京の中国科学院高エネルギー物理研究所で発表された。黄晶研究員が説明し、卒効軍研究員、国家天文台の陳鼎研究員とともに質問に答えた。同時刻(時差の関係で午後3時)に日本でも東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長をはじめ、東大、横浜国立大学、日本大学、神奈川大学の共同研究者らによって、オンライン会見が行われた。なお、本プロジェクトは、日中の30を超える大学・研究機関の百人近い研究者が協力して進めているものである。

 また、米国東部時間の午前10時に本研究成果を高く評価する米国物理学会主催の欧米ジャーナリスト向けの記者会見が行われ、日中両国の研究者がオンラインで説明した。

 チベットASγ実験と呼ぶ本研究は、約30年に及ぶ国際協力により、中国チベット自治区羊八井の標高4,300mの高原の65,000m2にわたる地域に多数の検出器を設置して進められてきた。近年、チベットは、南極、北極と対比した第三極として、地球温暖化をはじめ科学において注目を集めている。

 この研究では、さらに、スーパーカミオカンデの技術を応用し、ミュー粒子検出器を地下に有効面積3,400m2にわたり整備した。これにより、宇宙線の雑音を100万分の1にまで減らすことができる、目下、世界で最も鋭敏な検出システムを構成した。このシステムで400テラボルトから最高約1ペタ電子ボルトのエネルギー範囲での、人類史上最も高いエネルギーのガンマ線の観測に成功。併せて、既知のガンマ線放射天体の方向からは到来していないことを確認し、これまでの理論研究との整合性からペバトロンの存在の決定的な証拠を得た。

 今回の研究は、ペバトロンそのものを特定したわけではなく、今後、ペバトロンを見つけることがホットな研究領域になると見られる。このことは、日本、中国の記者会見それぞれの場で、ペバトロンを恐竜になぞらえ、恐竜の足跡を発見した段階として説明された。中国の発表では、国際協力を継続して観測技術のイノベーションを図ることが鍵であることが強調された。なお、同研究グループは、1か月前に、超新星の残骸から観測されたガンマ線の中では最も高いエネルギーである100テラボルト超のガンマ線を観測したことおよびその超新星残骸G106.3+2.7を初めて見つかったペバトロンの候補として発表している。

 本研究は、日中両国政府の日中科学技術協力委員会の枠組みで認定・採択された共同研究であり、北京での成果発表会には、在中国日本国大使館、理化学研究所および科学技術振興機構など在北京の日本の科学技術関係機関も招かれ、黄研究員に花を贈り、お祝いを述べた。

関連リンク

西藏 ASγ 实验首次发现 PeV 能量宇宙线源存在于银河系的证据》中国科学院高能物理研究所, 2021-03-31.

60年来の謎解明へ、宇宙線の起源「ペバトロン」の決定的証拠つかむ!〜天の川から史上最高エネルギーのガンマ線放射を観測〜」東京大学宇宙線研究所プレスリリース, 2021.04.02.

銀河系内で最強の宇宙線源の候補を発見!-超新星爆発の残骸(G106.3+2.7)から100TeV超のガンマ線を観測-」東京大学宇宙線研究所プレスリリース, 2021.03.02.

"最強"天体ペバトロンの証拠発見 高エネルギーの宇宙線生む 東大など」『産経新聞』, 2021.4.2.

【对话科学家】解开宇宙线起源之谜更进一步!》科普频道, 2021-04-02.

"Decades of hunting detects footprint of cosmic ray superaccelerators in our galaxy" PHYS. ORG, MARCH 31, 2021.

"Decades of hunting detects footprint of cosmic ray superaccelerators in our galaxy" Pess news.org, 2021-03-31.

"First Detection of sub-PeV Diffuse Gamma Rays from the Galactic Disk: Evidence for Ubiquitous Galactic Cosmic Rays beyond PeV Energies" Physical Review Letters, 21 January 2021.

"Potential PeVatron supernova remnant G106.3+2.7 seen in the  highest-energy gamma rays" Nature Astronomy Letters, 01 March 2021.

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