【21-053】《科学技術インフラ》北京懐柔総合国家科学センターについて
JST北京事務所 2021年10月21日
中国四大総合国家科学センターの一つ
1. 概要
中国では、最先端の研究を実施するために、各地方政府による研究センターやハイテクパークが建設され、中央政府や企業からも多額の研究資金が投入されており、優秀な人材の確保や企業の誘致を互いに競っている。
そして、最先端の研究を実施するために必要となる大規模な研究施設を設置するには多額の経費を要するため、そのような大規模な研究施設を「国家重大科学技術基礎施設(註:基礎施設=インフラ)」と称し、それらの設立と共用を強力に推進していることを以前紹介した。[1]
特に中央政府が国際的な科学技術分野における競争のための重要な科学技術インフラとして、上海、北京、合肥、深圳に「国家総合科学センター」を建設し、重要科学技術インフラを含む先端的な研究基礎施設を集約の上、優秀な人材と世界トップレベルの研究機関を誘致している。
今回、その中国四大総合国家科学センターのうち、北京市郊外の懐柔区に設立された「北京懐柔総合国家科学センター」の概要を例として紹介する。
2.北京総合国家科学センターについて
(1)環境
面積:100.9平方キロメートル(うち懐柔区68.3平方キロメートル、密雲区32.7平方キロメートル)
北京市中心部から北東に鉄道・自動車で一時間程。万里の長城ふもとの風光明媚な立地に大学や企業の研究施設、インキュベーションセンターに加え、国際会議場や文化施設が複合的に集約されている。
また、同センターに進出した企業に対して、法人税(直接税)や付加価値税(間接税)の納付額に応じた補助金の仕組みが整備されている。
なお生活面においても今後5年間で約27,000戸の住居が整備され、進学実績の高い北京市内の小中学校の分校等も複数設置し、研究者が安心して生活できる環境を提供している。
(2)概況
2017年5月、国家発展改革委員会および科学技術部が、「北京総合国家科学センター」(通称:北京市科学城)を建設することを承認した。
これを受け、北京市と中国科学院により建設が進められ、2020年までに初歩的な建設が完成し、2030年までに世界をリードする科学的発見と重大な先端技術のブレイクスルーを果たす新たなエンジンとなり、国家戦略に合致する世界級の独創的なイノベーションの中核となり、また北京市の高品質な発展を推進する新たなエンジンとなり、2050年まで世界一流の科学センターとなり、世界における中国の科学技術強国としての核心的な支柱になることを目標としている。
北京総合国家科学センターは首都に立地しており、同地区に存在するイノベーション資源の総合的な優位性を活用し、特に物質科学、空間科学、大気環境科学および地球科学等の先端科学分野の基礎研究と独創的イノベーションに焦点を当てている。
第一に「マルチスケール・マルチモーダル生物医学イメージング施設」、「総合極端条件実験装置」、「宇宙環境地盤総合観測網(子午線プロジェクト二期)」等を含む国際的にリードする水準にある大規模科学技術インフラを強力に配置し、同センターの発展の基礎を提供する。
第二に大規模科学技術インフラのクラスター化に際して、国家実験室の基準で物質科学実験室および空間科学実験室を建設し、また生命科学、大気環境科学、地球科学等の分野で高水準かつハイレベルな新型研究機構を設立する。
第三に、同センターは科学的な配置と協同イノベーション学際研究のプラットフォームであり、脳認知機構スペクトラムとニューロコンピューティングの学際研究プラットフォーム、京津冀(編者註:北京〔京)、天津〔津)、河北省東部〔冀東〕を一体的な経済圏としてとらえた通称)大気環境と物理化学の先端学際研究プラットフォーム等、先端学際科学分野でのブレイクスルーの進展に注力している。
第四に、国際化され科学研究に適した人材が居住する国際人材社区(編者註:社区とは、都市部の基礎的な行政区画の単位であり、日本の町内会の規模感に近い)を構築し、中国科学院大学、清華大学、北京大学等の「双一流」大学と重大科学計画に依拠し、ハイエンドな科学技術人材を同センターで育成・招へいし、科学を主導できる高度な人材を養成する。
3.建設状況
区分 | 施設等 |
大規模 科学技術施設 |
・ 高エネルギーシンクロトロン光源(高能同步辐射光源) ・ 総合極端条件実験装置(综合极端条件实验装置) ・ 地球データシミュレーター(地球系统数值模拟器) ・ 宇宙環境地盤総合観測網(子午線プロジェクト二期)(空间环境地基综合监测网(子午工程二期)) ・ マルチスケール・マルチモーダル生物医学イメージング(多模态跨尺度生物医学成像) ・ 自由電子レーザー等(自由电子激光等) |
重点実験室 | ・ 多相複雑システム国家重点実験室(多相复杂系统国家重点实验室) ・ 物質科学実験室と空間科学実験室(物質科学実験室と空間科学実験室) ・ 分子ナノ構造とナノ技術院の重点実験室(分子纳米结构与纳米技术院重点实验室) ・ 先進的なエネルギーの動カの重点実験室等(先进能源动カ重点实验室等) |
協同イノベーション学際研究プラットフォーム | ・ 脳認知機構スペクトラム・ニューロコンピューティングの学際研究プラットフォーム(脑认知功能图谱与类脑智能交叉研究平台) ・ 京津冀大気環境・物理化学の先端学際研究プラットフォーム等(京津冀大气环境与物理化学前沿交叉研究平台等) ※ 中国科学院第13次五カ年計画で指定された科学教育インフラ11施設、北京市が支援し中国科学院・北京大学・清華大学による学際研究プラットフォーム13施設を建設。 |
イノベーション環境建設 |
・ 雁栖国際社区(雁栖国际社区) |
以上
出典
- 中国科协创新战略研究院著『中国科学技术与工程指标(2020)』清华大学出版社,2020年
- 曹方、王楠、何颖「我国四大综合性国家科学中心的建设路径及思考」『科学中国』2021年2月期
- 北京怀柔综合性国家科学中心 小册子
- 北京市怀柔区人民政府「北京市怀柔区人民政府关于印发怀柔区促进区域经济发展财政政策的通知」,2016年10月11日
1. JST SciencePortalChina 北京便り2021年06月22日付「《科学技術インフラ》中国の国家重大科学技術基礎施設について」