北京便り
トップ  > コラム&リポート 北京便り >  File No.21-058

【21-058】《科学技術金融》北京証券取引所の位置づけについて

JST北京事務所 2021年12月14日

1.概要

 近年中国では、研究者によるベンチャー企業の設立や、科学技術イノベーションを志向する企業の設立が盛んである。

 これには様々な要因が絡んでいるが、資金調達という観点においても、中央政府および地方政府等による様々な支援策が存在している。

 その中で、中国では「科学技術金融(科技金融)」という言葉がよく使われている。科学技術金融の定義は統一されていないが、一般的には科学技術イノベーション振興政策に金融政策(金融システム・金融サービスを含む)を組み合わせ、公的資金に民間資金も加えた科学技術イノベーション企業に対する資金調達支援策を指すことが多い。

 このような中で、2021年11月15日に北京証券取引所の取引が新規に開設された。

北京証券取引所の開設については日本においても報道されているところ、科学技術金融という観点においてどのような位置づけであるのかを紹介したい。

(本稿は投融資を目的とした情報を提供するものではなく留意のこと。)

2.中国の証券取引所と主たる対象企業

 従来中国では、深圳および上海に証券取引所を有し、それぞれ主板(メインボード)の他に、上海の「科創板」(STAR Market)や深圳の「創業板」(ChiNext)・「中小企業板」(SME)といった中小企業やハイテク企業を対象とした板(市場区分)を設置し、資金調達を促進させている。中でも2018年に設立された上海証券取引所の科創板は「中国版ナスダック」とも称され、科学技術イノベーション企業が上場している。[1]

 今回新規に開設された北京証券取引所は高品質の科学技術型中小企業を主たる対象としており、主に大手優良企業を対象としている深圳証券取引所や上海証券取引所の主板と一線を画している。

(取引所と主たる対象企業[2])                                                   
取引所名 市場区分 設立年 主たる対象企業
深圳証券取引所 主板 1990年 主に大手優良企業を対象
創業板 2009年 サービスイノベーション企業・その他科学技術成長型イノベーション企業
中小企業板 2004年 主に、着実に発展しているが主板の上場要件を満たすには至っていない中企業
上海証券取引所 主板 1990年 全般
科創板 2018年 科学技術イノベーション企業
北京証券取引所 なし 2021年 高品質の科学技術型中小企業

3.上場基準と主な特徴

 各証券取引所の主たる対象企業の違いに基づき、北京証券取引所の上場基準は、創業板・中小企業板(深圳)および科創板(上海)との違いを持たせている。様々な種類の基準があるが、科学技術金融という観点で対象企業の規模感や特徴を捉えるため、大きく「株式総額・予定市価」と財務指標(「純利益」、「営業収入・経営活動のキャッシュフロー」、「研究開発強度」、「その他」という観点で整理した(別紙「上場基準と主な特徴」参照)。主な特徴は以下のとおり。

①深圳取引所主板・上海取引所主板は、「純利益」かつ「営業収入・経営活動のキャッシュフロー」、「純資産に占める無形資産の比率」の各条件をすべて満たすことを求めているが、創業板・中小企業板、科創板、北京取引所においては、おおむね「純利益」と「営業収入・経営活動のキャッシュフロー」で示される条件のいずれかを満たせばよく、創業間もない企業や中小企業がより上場しやすい条件としている。

②北京証券取引所においては、「研究開発強度」を上場の条件として設けており、当該条件を満たせば、他の取引所より「株式総額・予定市価」や財務指標が小規模な企業であっても上場が可能。(上海取引所科創板においても「研究開発強度」や主要業務や商品、明らかな技術上の優位点等の条件があるが、「株式総額・予定市価」や財務指標の条件がより厳しく設定されている。

4.まとめ

 証券取引所上場基準に研究開発強度を設けることが、中国の科学技術金融政策の一環としては、非常に特徴的である。

 北京証券取引所がどのようにリスクをコントロールしつつ、高品質の科学技術型中小企業の資本市場を通じた資金調達を推進していくか、今後も注視していきたいと考えている。

以上

別紙:上場基準と主な特徴(PDF)(1.54MB)


1. 2019年7月31日 北京便り「「科創板」は科学技術と資本発展の新世紀を開く

2. "北京证券交易所和上海、深圳证券交易所的区别" 知乎,2021年9月5日