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【22-028】《企業支援》「企業研究開発費の損金算入制度の変遷について」

JST北京事務所 2022年05月26日

1.概要

 中国では、企業のイノベーションおよび産業の高度化を促進するため、様々な特例措置を設けており、税制面でも後押しをしている。

 その税制面の中でも、研究開発費の損金計上制度が大きな位置づけを占めている。年々加算控除率を高くするよう改正が続いており[i]、2022年からは科学技術型中小企業を対象として、更に控除率が改正された。

 ここ数年の改正の流れを俯瞰し、中国政府の税制面における企業支援の姿勢を紹介する。

2.2016年以降の製造業企業における研究開発費の損金算入制度について(加算控除率関連)

 2016年以降、以下のとおり年々研究開発費の加算控除率を高くするよう改正されている。

(※1)税引前控除が適用されない業種を除く「3.(5)税引前控除が適用されない業種」参照)
(※2)他にも多くの関連通知があり、実際の控除額を計算する際には、専門家への確認が必要
通知文書番号 対象期間 対象とする
企業
無形資産を未形成 無形資産を形成
(当期損益に未計上)
財税〔2015〕119号[ⅱ] 2016年1月1日から 全般
(※1)
本年度に発生した
研究開発費の150%
(内、加算控除50%)
当該無形資産形成費用の150%(税引前償却)
財税〔2017〕34号[ⅲ] 2017年1月1日から
2019年12月31日
科学技術型
中小企業
本年度に発生した
研究開発費の175%
(内、加算控除75%)
当該無形資産形成費用の175%(税引前償却)
財税〔2018〕99号[ⅳ] 2018年1月1日から
2020年12月31日
全般
(※1)
本年度に発生した
研究開発費の175%
当該無形資産形成費用の175%(税引前償却)
財政部 税務総局 科技部公告2022年第16号[ⅴ] 2022年1月1日から 科学技術型
中小企業
本年度に発生した
研究開発費の200%
(内、加算控除100%)
当該無形資産形成費用の200%(税引前償却)

3.対象の範囲等

(1)研究開発活動の定義

(第1条)
研究開発活動とは、企業が科学技術の新しい知識を獲得し、科学技術の新しい知識を創造的に適用し、または技術、製品(サービス)、プロセスを大幅に改善するために継続的に実施する明確な目標を持つ体系的な活動を指す。

 財政部、国家税務総局、科学技術部公告(財税〔2015〕119号)「研究開発費の税引前控除政策の改善に関する公告」

(2)加算控除が認められる研究開発費

①人件費
研究開発活動に直接従事する人員の給与、基本養老保険料(年金保険料)、基本医療保険料、失業保険料、労働災害保険料、出産保育保険料および住宅積立金、そして外部から招へいした研究開発人員の労務費用。

②直接投入費用

(ⅰ)研究開発活動により直接消費される材料、燃料および動力費用。

(ⅱ)中間試験および製品の試験生産に使用される金型、工作機械の開発および製造費用、固定資産を構成しない試作品、プロトタイプおよび一般的な計測試験のコスト、試作費の検査費用。

(ⅲ)研究開発活動に使用する機器、設備の運用・維持管理、調整、点検、補修等の費用並びにオペレーティング・リースにより賃借する研究開発に使用する機器設備の借料。

③減価償却費
研究開発活動に使用される機器・設備の減価償却費用。

④無形資産の償却
研究開発活動に使用されるソフトウェア、特許権、非特許技術(ライセンス、ノウハウ、設計および計算方法等を含む)の償却費用。

⑤新製品設計費用、新製品化仕様書作成費用、新薬研究開発の治験費用、探索開発技術の実地試験費用

⑥その他の関連費用
研究開発活動に直接関連するその他の費用。例として技術図書資料費用、資料翻訳費用、専門家相談料、ハイテク研究開発保険料、研究開発成果の検索・分析・評議・論証・鑑定・審査・評価・検収費用、知的財産権申請料・登録料・依頼料、出張旅費、会議費等。これらの費用の総額は、加算控除可能な研究開発費総額の10%を超えてはならない。

⑦財政部および国家税務総局によって規定されたその他の費用

(3)加算控除が認められない研究開発費

①企業製品(サービス)の一般的なアップグレード

②他の科学研究成果の直接的な応用、例として公開されている新技術、材料、装置、製品、サービスまたは知識等

③企業が商品化した後に顧客に提供する技術サポート活動

④現存する製品、サービス、技術、材料または製造技術の重複または簡単な変更

⑤市場調査研究、効率調査または管理研究

⑥工業(サービス)プロセスの一環または通常の品質管理、テスト分析、維持管理

⑦社会科学、芸術または人文学に関する研究

(4)特別事項の取り扱い

①研究開発活動を外部機関または個人に委託する際に、委託企業が負担する費用
実際に発生した費用の80%を委託企業の加算控除の計算に加える。受託者は加算控除を行わない。

②海外の機関や個人に研究開発活動を委託する場合、実際に発生した費用の80%を委託企業の海外研究開発費に含めるものとする。その内、企業の研究開発費全額の3分の2を上限として控除が可能。(財税[2018]64号[ⅵ]

③革新的かつ創意的で画期的な製品を得るためのクリエイティブデザイン活動(※)により発生する関連費用。税引前の控除が可能。

(※)クリエイティブデザイン活動
マルチメディアソフトウェア、アニメーションゲームソフトウェア開発、デジタルアニメーション、ゲームデザインおよび制作、住宅建設エンジニアリングデザイン(3つ星グリーンビルディング評価基準)、ランドスケープアーキテクチャエンジニアリング特別プロジェクトデザイン、工業デザイン、マルチメディアデザイン、アニメーションおよび派生製品の設計、模型設計等をいう。

④技術移転費用
企業が大学や研究機関その他企業等から譲り受けた科学技術成果を利用して新技術、新材料、新製品などを開発し、企業が支払った科学技術成果譲渡費(技術移転費用)は、企業の無形資産に計上の上、研究開発活動に用いなければならない。その上で当該技術移転費用を加算控除に算入することができる。

(5)税引前控除が適用されない業種

  (ⅰ)たばこ製造業。
(ⅱ)宿泊およびケータリング業
(ⅲ)卸売および小売業
(ⅳ)不動産業
(ⅴ)リースおよびビジネスサービス業
(ⅵ)エンターテインメント業
(ⅶ)財政部および国家税務総局によって指定されたその他の業種

上記の業種は「国家経済産業分類およびコード(GB / 4754-2011)」による。

4.科学技術型中小企業について[ⅶ]

(1)概要

・ 科学技術型中小企業とは、科学技術研究開発活動に従事し、独立した知的財産を取得するために一定数の科学技術要員に依存する中小企業を指す。
財産権とそれらをハイテク製品またはサービスに変換し、それによって持続可能な開発を実現する。

・ 省級科学技術管理部門が当該企業の評価を行う。

・ 科学技術部は、「中小技術に基づく科学技術のための国家情報サービスプラットフォーム」を提供し、傘下の松明(トーチ)ハイテク産業開発センターが当該サービスプラットフォームおよび情報データベースの構築と運用を行う。

・ 各科学技術型中小企業は、自己評価の結果をサービスプラットフォーム上で報告。

(2)評価条件および指標

①条件

・ 中国で登録されている居住企業(香港、マカオ、台湾を除く)。

・ 従業員500人以下かつ年間売上高2億元以下かつ総資産2億元以下。

・ 企業が提供する製品およびサービスが国の規定する禁止、制限および排除のカテゴリーに分類されていないこと。

・ 前年および当年度中に科学研究において重大な安全、重大な品質事故、重大な環境違反、または重大な信頼できない行為を報告しておらず、重大な法律違反のある信頼できない企業のリストに含まれていないこと。

・ 評価指標による総合評価点が60点以上(満点100点)かつ科学技術者指数の点数は0点でないこと。

②評価指標
1.科学技術者の人数割合(20点満点)
2.研究開発投資指標(50点満点)※2種類から選択
3.科学技術の成果の指標(30点満点)

1.科学技術者の人数割合(20点満点)
指標:企業の総従業員数に対する科学技術者の比率

評価結果 範囲 点数
A評価 30%以上 20点
B評価 25%以上-30%未満 16点
C評価 20%以上-25%未満 12点
D評価 15%以上-20%未満 8点
E評価 10%以上-15%未満 4点
F評価 10%未満 0点

2.研究開発投資指標(50点満点)※(1)(2)いずれかを選択

(1)研究開発費の総売上高に占める比率

評価結果 範囲 点数
A評価 6%以上 50点
B評価 5%以上-6%未満 40点
C評価 4%以上-5%未満 30点
D評価 3%以上-4%未満 20点
E評価 2%以上-3%未満 10点
F評価 2%未満 0点

(2)研究開発費の支出総額に占める比率

評価結果 範囲 点数
A評価 30%以上 50点
B評価 25%以上-30%未満 40点
C評価 20%以上-25%未満 30点
D評価 15%以上-20%未満 20点
E評価 10%以上-15%未満 10点
F評価 10%未満 0点

3.科学技術の成果の指標(30点満点)
有効期間内に企業が所有する主な製品またはサービスに関連する知的財産権のカテゴリーと数量(知的財産権には紛争があってはならない)

※カテゴリーI:発明特許権、植物新品種、国家級農作物品種、国家新薬、国家一級漢方薬、集積回路のレイアウト設計に対する排他的権利

※カテゴリーⅡ:実用新案権、外観設計権(意匠権)、ソフトウェア著作権

評価結果 カテゴリー 数量 点数
A評価 カテゴリーI 1つ以上 30点
B評価 カテゴリーⅡ 4つ以上 24点
C評価 カテゴリーⅡ 3つ 18点
D評価 カテゴリーⅡ 2つ 12点
E評価 カテゴリーⅡ 1つ以上 6点
F評価 保有せず 0点

(3)上記評価によらず科学技術型中小企業と認められる要件

・ ハイテク企業資格証明書を有している場合(有効期間内)。

・ 過去5年間に国家級科学技術賞を受賞し、かつ上位3位内にランクされたこと。

・ 省級または部級以上の政府認定研究開発機関を有していること。

・ 過去5年間に国際標準規格、国内標準規格または業界規格の制定を主導したこと。


ⅰ.JSTSciencePortalChina 2021年04月02日「《企業支援》製造業の企業研究開発費加算控除率、100%へ引き上げ

ⅱ.财政部 国家税务总局 科技部(财税〔2015〕119号)"关于完善研究开发费用税前加计扣除政策的通知"

ⅲ.财政部 国家税务总局 科技部(财税〔2017〕34号)"关于提高科技型中小企业研究开发费用税前加计扣除比例的通知"

ⅳ.财政部 国家税务总局 科技部(财税〔2018〕99号)"关于提高研究开发费用税前加计扣除比例的通知"

ⅴ.财政部 税务总局 科技部公告2022年第16号"关于进一步提高科技型中小企业研发费用税前加计扣除比例的公告"

ⅵ.财政部 税务总局 科技部(财税[2018]64号)"关于企业委托境外研究开发费用税前加计扣除有关政策问题的通知"

ⅶ.科技部 财政部 国家税务总局(国科发政〔2017〕115号)"关于印发《科技型中小企业评价办法》的通知"