【23-001】《研究資金管理》国家自然科学基金委員会における研究費管理方法の変遷について
JST北京事務所 2023年01月11日
1.概要
中国では行政の「放管服」(簡素化、公正な管理、サービス効率化)が推進されており、科学研究費の管理改革も継続して進められている。
2021年には、国務院(内閣に相当)常務委員会が、中央政府からの科学研究費の管理における更なる改革と改善を展開し、科学研究者により大きな研究費管理の自律性を与える措置を決定したところである[i]。
中国の基礎研究と一部の応用研究を国の財政資金で助成する中国国家自然科学基金委員会(以下、「NSFC」)も継続的な研究費の管理改革を進めてきたところ、その変遷と今後の方向性を以下に紹介する。
出典:「科技中国」2022年7月号"国家自然科学基金项目资金管理变革与思考"(国家自然科学基金委員会財務局著)
2.国家自然科学基金プロジェクト資金管理の変革
1986年にNSFCが成立して以来、5回にわたりNSFCプロジェクト資金に係る管理規程が制定・改定されている。
(1)1988年
国家自然科学基金资助项目财务管理暂行办法 | |
支出科目 | 科研業務費、実験材料費、器具設備費、実験室改装費、協力費、管理費 ※国際協力交流費は別途NSFCに申請が必要。 ※大型機器設備、電子計算機の購入の際にはNSFCによる同意が必要。 |
管理費 | 5%以下かつ5,000元以下 |
剰余金 | 助成対象者の研究活動に使用 |
資金計画(支払い) | 研究の進展に応じた資金計画(研究費の支払い)を設定 |
(2)1992年
国家自然科学基金资助项目财务管理办法 | |
支出科目 | 科研業務費、実験材料費、器具設備費、実験室改装費、協力費、管理費 ※国際協力交流費は別途NSFCに申請が必要。 |
管理費 | 実際に支払われた研究費の10%(ただしプロジェクト累計別に上限額(1万元/1.5万元/2万元/4万元)が設定) |
剰余金 | 余剰金の40%を労働報酬として使用可能。ただしNSFCから研究機関に実際に支払われた研究費の10%以内。 |
資金計画(支払い) | 固定額により支払い ・重点プロジェクト:第1四半期末 ・重大プロジェクト:各四半期末 |
(改定の特徴)
・ 管理費の上限比率増
・ 科学研究人へのインセンティブを強化。
(3)2002年
国家自然科学基金资助项目经费管理办法(财教〔2002〕65号) | |
資金補助方法 | 費用補償(重大プロジェクト)または定額補助 |
支出科目 | 研究経費、国際協力・交流経費、労務費、管理費 |
支出限度 | 以下の費目については、補助資金総額に対する比率を上限額とする。 国際協力・交流経費:一般プロジェクト15%/重点・重大プロジェクト10% 労務費:一般プロジェクト15%/重点・重大プロジェクト10% 管理費:5% |
予算調整 | 一般的に調整はしない。特殊な状況の際は、NSFCに報告・承認が必要。 |
剰余金 | 翌年度に限りプロジェクト研究に継続して使用可。 プロジェクト終了後は、研究機関おいて、基礎研究または一部の応用研究に対してのみ使用される。 |
(改定の特徴)
・ 研究経費を大括り化
・ 国際協力・交流経費、労務費については一定比率での上限を規定。
(4)2015年
国家自然科学基金资助项目资金管理办法(财教(2015〕15号) | |
プロジェクト資金 | 直接経費、間接経費に整理 |
支出科目 | 設備費、材料費、計測化学検査加工費、燃料動力費、出張旅費、会議費、国際協力・交流費、出版/文献/情報中継/知的財産権事務費、労務費、専門家相談費、その他支出 |
支出限度 | 比率による上限なし。実態に基づき申告。 |
予算調整 | 研究機関が費目間の予算額を調整することを認める。(設備費を除く) |
剰余金 | 研究機関が2年間統一的に計画して使用することを認め、基礎研究の直接支出に使用する。 |
間接経費 | 20%/15%/13%。 間接費から業績に基づいたインセンティブ支出が可能。 |
(改定の特徴)
・ 間接経費の概念導入
・ 国際協力・交流経費、労務費に対する一定比率による上限規制を撤廃。
・ 予算調整権が規定され、研究機関の管理責任を明確化。
・ 余剰金を研究機関が2年間基礎研究の直接支出に使用可。
・ 本規程通知後も複数の補完的な通知が発出され、更に労務費の支出範囲の拡大や間接経費比率の向上や研究機関の予算調整権の拡大等がなされ、科学研究者の経費の使用自主権を拡大。
(5)2021年
国家自然科学基金资助项目资金管理办法(财教〔2021) 177号) | |
プロジェクト資金 | 包干制(請負制)と予算制に整理 |
支出科目 | 設備費、業務費・労務費、資金支出範囲の拡大 |
予算調整 | 調整権限をさらに分散し、設備費の調整権限を研究機関に下ろし、設備費以外のその他の直接経費の調整権限をプロジェクトリーダーに下ろす。 |
間接経費 | 30%/25%/20%に引き上げ、数学領域は60%を上限とする。 |
イノベーション サービス方式 |
科学研究財務補助員制度、設備調達プロセスの簡素化、資金償還の最適化等実績管理の強化、監督と検査の強化、コミットメントメカニズムと情報開示メカニズムの確立 |
(改定の特徴)
・ 包干制(請負制)の導入、費目および各種様式の簡素化、使途の拡大。
・ 研究機関およびプロジェクトリーダの予算調整権限の拡大。
・ 間接経費率の拡大
・ 剰余金の規制撤廃。
3.課題
包干制の導入により、研究機関やプロジェクトリーダの権限が強化されたが、検査により研究機関の管理が不十分であることによる問題発生が確認されている。
・ 予算執行のための実施規則の整備が不十分である場合がある。
・ 予算超過や間接経費が直接経費を超過しているプロジェクト資金の発生。
・ 予算の執行率が低い。
・ 剰余金の使用について規定化されていない。
・ 資金と支出の関係が一致しない。
4.今後の方向性
①包干制の拡大と環境整備
NSFCは2019年に国家傑出青年科学基金プロジェクトにおいて、試行的に包干制を導入し、良好な実績を積んでいる。従来型の予算制プロジェクトを組み合わせて徐々に包干制を拡大するとともに、研究機関の規則整備や科学研究人員への理解増進を促し、権限移譲と管理のバランスを取っていく。
②研究機関の主体的な責任の強化
研究機関は、プロジェクト所掌部門であるNSFCと科学研究人員の間に立ち、NSFCの代理として職権を行使する立場と、科学研究人員の権利を保護する立場の両方を有する。両方の職責を果たすため、研究機関は研究資金管理体制と制度を整備し、適切に執行する必要がある。
③情報化の推進による資金管理効率の向上
ビックデータやAIの情報プラットフォームを使用した概算予算の申請や精算、審査や業績評価等への活用を推進。
④業績による評価の強化、効率的な監督メカニズムの構築
優秀な人材やチームに研究資源がより分配されるようプロジェクトの業績評価手法を改善するとともに、審査や監督と通じた情報公開制度を整備し、研究資金使用のリスクを防ぐとともに安全性を確保するための効率的な監督メカニズムを構築する。
以上
ⅰ.SciencePortalChina 2021年10月07日付 北京だより「《研究資金管理》中央財政科学技術研究費に関する管理体制の改革」