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【23-006】《注目分野》リサーチフロント2022について(その1)

JST北京事務所 2023年01月20日

1.概要

 科学技術の振興を図るにあたって、現在、そしてこれからの注目分野を見極めていくことは、極めて重要である。世界各国や科学技術に関連した統計・分析を取り扱っている企業・シンクタンク等によってさまざまな取組みがなされている。

 中国科学院(科学技術戦略諮問研究院および中国科学院文献情報センター)とクラリベイト社が毎年共同で中国発の注目分野の分析としてリサーチフロントを発表している。これは、最も研究開発が盛ん(ホット)な新興(エマージング)の研究領域(リサーチフロント)を特定するためのレポートである。[i]

 2021年は12月8日に北京で発表が行われ、2022年は12月27日にオンラインでリサーチフロント2022の発表が行われた。

 その概要について先日の北京便りでの速報[ⅱ]に続き、今回リサーチフロント選定の方法論(昨年から一部手法が変更)や具体的なリサーチフロントについて報告する。

2.リサーチフロント選定の方法論

(1)基本的な考え方

 世界で最も重要な研究論文を持続的に追跡して論文が引用されるモデルとクラスタ化された高引用論文が頻繁に共同で引用(共引用)される状況を分析することにより、研究の最前線(リサーチフロント)を発見することができる。

 高引用論文が共引用される状況が一定の活発さと一貫性に達すると、リサーチフロントが形成される。この高引用論文はリサーチフロントを構成する「コア論文」である。

 つまり、リサーチフロントの分析にあたり主観性を排除し、研究者の相互引用に基づき形成された知識と知識、研究者と研究者の関係を探り、研究分野の発生・集約・発展(または収縮、消散)、近隣の研究活動ノードへの分化、自己組織化の動きを追う。この過程で、各グループのコア論文の基本的な状況、例えば主要論文、著者、研究機構等を明らかにして追跡することにより、各分野での最新の進展と報告を見出すことができる。

(2)2022年リサーチフロントの選定方法

 ESIデータベース中のリサーチフロント(12,610領域)を起点として、自然科学および社会科学11分野でより活発な研究や急速に発展しているリサーチフロント見つけることを目標とした。

 報告書に記載された上記リサーチフロント(165領域)の具体的な選定方法は以下のとおり。

 (内訳:110領域のホットリサーチフロントと55領域のエマージングリサーチフロント)

〔1〕対象:

 クラリベイトESIデータベースの2016年~2021年までに発表された論文

〔2〕ダウンロード時期:

2022年3月

〔3〕役割:

①クラリベイト社:
リサーチフロント165領域の核心論文とその引用論文データを提供

②中国科学院科学技術戦略諮問研究院科学技術戦略情報研究所:
リサーチフロントの分析とキーリサーチフロント(キーホットリサーチフロントとキーエマージングリサーチフロントを含む)の選定および解析

image
【2022年11分野別リサーチフロント数】
(※)括弧内は2021年
(※)臨床医学のキーエマージングリサーチフロントは1つのキーエマージングリサーチフロントグループとして選定
連番 11分野 ホット
リサーチ
フロント
内、キー
リサーチ
フロント
エマージング
リサーチ
フロント
内、キー
リサーチ
フロント
1 農業科学・植物学・動物学 10(10) 2(2) 2(4) 2(1)
2 生態環境科学 10(10) 2(2) 2(2) 1(1)
3 地球科学 10(10) 2(2) 1(1) 1(1)
4 臨床医学 10(10) 2(2) 17(29) 1(1)
5 生物化学 10(10) 2(2) 11(11) 1(1)
6 化学・材料科学 10(10) 2(2) 3(3) 1(1)
7 物理学 10(10) 2(2) 2(1) 1(1)
8 天文学・天体物理学 10(10) 2(2) 2(2) 1(1)
9 数学 10(10) 2(2) 2(0) 1(1)
10 情報科学 10(10) 2(2) 2(1) 1(1)
11 経済学・心理学
及びその他社会科学
10(10) 2(2) 11(7) 1(1)
 計 110(110) 22(22) 55(61) 11(10)

3.ホットリサーチフロントの選定方法

ESIの20分野を11分野に集約して分類。また2022年では分野により選定方法を2つに分けることとした。

(※)ESI" Essential Science Indicators":クラリベイト社の文献データベース"Web of Science Core Collection"のデータに基づく研究業績に関する統計情報と動向データ。

(1)数学、情報科学の2分野を除く9分野(2021以前と同じ)

①ESI分野別に対応する被引用回数上位10%のコア論文を含むリサーチフロントを特定。

②コア論文の出版年の平均値によりリサーチフロントをソート。

③コア論文の平均出版年により分野別に最も「若い(新しい)」9領域のホットリサーチフロントを選定。(9分野×10領域=90領域のホットリサーチフロント)

(2)数学、情報科学の2分野(2022からの試み)

①コア論文の1論文あたりの平均被引用数でリサーチフロントをソートし、当該分野の1論文あたり平均被引用数を上回るリサーチフロントを特定。

②当該リサーチフロントのコア論文を上位学術誌(Q1ジャーナル※)に掲載された割合によりソートし、各分野の平均レベルを超えるリサーチフロントを特定。

③コア論文の平均発行年数に応じて再度ソートし、予備的なリサーチフロントを特定。

④戦略情報研究所研究員により、当該分野の知識の進歩を著しく促進した各分野10領域をホットリサーチフロントとして判断。(2分野×10領域=20領域のホットリサーチフロント)

※Q1ジャーナル:
"Journal Citation Reports"データベースのジャーナルインパクトファクターが上位25%のジャーナル。

なおホットリサーチフロントは、各分野それぞれにおける近年最も影響力のあるリサーチフロントであるが、各分野の特徴や引用の傾向は異なるため、全分野を跨いで最大かつホットなリサーチフロントであることを示すとは限らない。

4.エマージングリサーチフロントの選定方法

 いくつかのリサーチフロントには、多くの新しく発表された(若い)コア論文があり、通常これらは急速に発展している研究の方向を示しておりエマージングリサーチフロントと称される。

 エマージングリサーチフロントは、以下の方法で選定される。

(1)数学、情報科学の2分野を除く9分野(2021以前と同じ)

①コア論文の平均出版年が2020年6月以後のリサーチフロントを対象。

②各ESI分野に対応するリサーチフロントのうち被引用回数トップ10%を特定。

③戦略情報研究所研究員が調査と評価を行い、エマージングリサーチフロント(9分野51領域)を選定。

(2)数学、情報科学の2分野(2022からの試み)

①リサーチフロントのコア論文の1論文あたり平均被引用回数によりソート。

②当該コア論文が上位学術誌に掲載された割合によりソートし、各分野の平均レベルを超えるリサーチフロントを選定。

③コア論文の平均発行年数に応じて再度ソートし、それぞれの分野中「最年少」のリサーチフロントを2領域特定。(2分野×2領域=4領域のエマージングリサーチフロント)

 エマージングリサーチフロントは分野別の上限数を決めずに選考しているため、各分野の間で均等ではない。

5.キーリサーチフロント

 上述のホットリサーチフロントおよびエマージングリサーチフロント計165領域に対して、研究情報研究所研究員による分析を経て、キーリサーチフロント32領域およびフロントグループ1領域が選定された。

 コア論文は、ESIで同年同分野での引用頻度上位1%論文によるコア論文グループとコア論文をを共引用する引用グループで構成される。これらを詳細に分析することで、コアペーパーによって提案された技術・データおよび理論が公開後にどのようにさらに発展したかが判明される。

 各領域の重要性および影響力と、最近急速に伸びているという新興の度合いを示すためにキーリサーチフロントでは二つの指標を用いている。

<コア論文数P>
コア論文数Pはリサーチフロントの中で知識基礎の重要性を示し、一定の期間内でPが大きい程このリサーチフロントがより影響力を有していることを示す。

<CPT>(論文あたりの年平均被引用回数)
CPT指数はリサーチフロントの注目度合いと注目されるリサーチフロントに関する論文の発表年も反映しているため、リサーチフロントの影響力と新興の度合いを示す。

image

C:コア論文が引用される回数
P:コア論文数
T:コア論文を引用した論文が発表された期間の年数

 CPT指標の値が大きいということは、よりホットでインパクトがあるということを意味する。

①PとTの値が同じである場合、Cの値が大きいものが、多く引用されていてより広い影響力があるということを示す。

②CとPの値が同じである場合、Tの値が小さいほうがより短期間に注意を集めているということを示す。

③CとTの値が同じである場合、Pの値が小さいほうが、コア論文1本がより広範な注目を集め、影響力を有しているということを示す。

<2022年度>

①コア論文数Pが最も高いリサーチフロントを選択。コア論文に顕著な変化がないことを確認。

②研究情報研究者がCPTと専門的な判断を経て22領域のキーリサーチフロントを選定。

③エマージングリサーチフロントから、研究情報研究所研究員がCPTと専門的な判断を経て10領域のキーリサーチフロントと1領域のリサーチフロントグループを選定
(計:キーリサーチフロント32領域、フロントグループ1領域)

6.国家リサーチフロントホット指数による比較

 ホットリサーチフロント110領域、エマージングリサーチフロント61領域の計171領域のリサーチフロントについて、国別の貢献度(コア論文数における国別割合+引用論文数における国別割合)+影響度(コア論文の被引用回数における国別割合+引用論文の被引用回数における国別割合)を比較し、それぞれのリサーチフロントや各分野のリサーチフロントにおける研究の活性度を明らかにする。

【国家リサーチフロントホット指数】

image
(1)国家リサーチフロントホット指数 直近5年(2017-2021)
(※)日本の括弧は順位
国名 2017 2018 2019 2020 2021 2022
アメリカ 281.11 227.39 204.89 226.63 209.23 194.89
中国 118.84 118.38 139.68 151.29 191.43 148.34
イギリス 96.90 78.62 80.85 79.59 85.59 85.11
ドイツ 90.98 75.12 67.52 75.31 64.13 65.65
フランス 60.08 51.20 46.30 46.19 48.66 45.39
日本       29.53(12) 31.59(11) 28.25(11)
(2)国家リサーチフロントホット指数と国家貢献度・国家影響度内数
順位   国名 国家リサーチ
フロントホット指標
内、国家貢献度 内、国家影響度
1位 アメリカ 194.89 116.37 78.52
2位 中国 148.34 95.07 53.27
3位 イギリス 85.11 48.87 36.24
4位 ドイツ 65.65 38.30 27.35
5位 フランス 45.39 26.00 19.39
6位 イタリア 41.05 24.81 16.24
7位~10位:オーストラリア、スペイン、カナダ、スイス
11位 日本 28.25 17.12 11.13
(3)国家リサーチフロントホット指数1位の領域数
(※)色つきの分野は、中国が1位。
(ポイント)
①米国、中国、英国、ドイツ、フランスの5カ国で全体の88%(145/165領域)を占める。
連番 11分野 リサーチ
フロント数
(ホット+エマージング)


1 農業科学・植物学・動物学 12 4 6 0 0 0 2
2 生態環境科学 12 1 8 0 1 0 2
3 地球科学 11 6 2 1 0 0 2
4 臨床医学 27 20 3 2 1 0 1
5 生物化学 21 10 6 2 0 0 3
6 化学・材料科学 13 2 10 0 0 0 1
7 物理学 12 4 6 0 0 0 2
8 天文学・天体物理学 12 11 0 0 1 0 0
9 数学 12 8 2 0 1 0 1
10 情報科学 12 5 4 1 0 0 2
11 経済学・心理学
及びその他社会科学
21 8 5 2 1 1 4
165 79 52 8 5 1 20

その2 へつづく)


ⅰ【2022研究前沿发布暨研讨会在线举行】中国科学院科技战略咨询研究院 2022-12-27

ⅱ SciencePortalChina北京便り2023年1月11日「《注目分野》CAS・クラリベイト、2022年リサーチフロントを発表