【24-04】中国国家最高科学技術賞、薛其坤氏らが受賞
JST北京事務所 2024年07月24日
中国では毎年、政府の各部(日本の省に相当)や省政府、学会、科学院院士(アカデミー会員)などが推薦した候補者から国が選出して表彰する国家科学技術奨励制度[1]がある。
これまでは毎年1月に表彰式(国家科学技術奨励大会)が開催されていたが、本年は、6月24日に全国科学技術大会、中国科学院院士大会、中国工程院院士大会とともに開催された。国家主席がスピーチを行う格の高い行事として開かれている。
国家科学技術奨励制度には、国家自然科学賞、国家技術発明賞、国家科学技術進歩賞があり、それぞれで一等賞や二等賞(複数)などを表彰する。これらの賞の最高位にあるのが国家最高科学技術賞である[2]。
本年は、李徳仁(Li Deren)武漢大学学術委員会委員長(科学院・工程院院士)と薛其坤(Xue Qikun)清華大学教授(南方科技大学学長、科学院院士)が受賞した。薛教授は、日本の東北大学での勤務経験を有し、最年少の同賞受賞者として紹介された。
北京日報のサイトに薛教授のインタビュー記事が掲載されており[3]、以下にその概要をまとめる。
・ 2000年度の同賞設立以降、多くの受賞者が応用に重点を置いた研究を行ってきたが、薛其坤教授は、低エネルギー消費のデバイス開発への貢献が期待される量子異常ホール効果という基礎研究に携わっている。そして、同賞設立以来、最も若い受賞者でもある。
・ 既存のスパコンが抱える莫大な電気消費量の問題や、超電導量子コンピュータが抱える高いエラー率の問題について、量子異常ホール効果の研究成果では、従来のスーパーコンピュータの電気消費量を3分の1に減らすことができ、エラー訂正やフォールトトレランス機能を持つトポロジカル量子コンピュータの発展が期待できる。
・ 凝縮系物理学において量子ホール効果の研究は、低エネルギー消費で高速な電子デバイスの整備に理論的基盤を提供するものとして極めて高い関心が寄せられており、関連研究が3回もノーベル賞を受賞している。だが、その実装は、大規模な磁場を設けるなど、難易度が高く高額な投資が求められる。これに対し、量子異常ホール効果は強磁場に頼らずに量子ホール状態を実現できるため、電子デバイスに実装しやすい。量子異常ホール効果が百年前に発見されてから、それをいかに顕在化させ、実験で観測できるかについて、世界の多数の研究者が模索し続けてきたが、実現には至らなかった。
・ 2008年に米国籍華人物理学研究者の張首晟氏が、磁性トプロジカル絶縁体で量子異常ホール効果を実験する方向性を提起し、その後、各国の研究者が相次いでこの実験に取り掛かった。
・ 薛教授は中日合同育成プログラムに参加し、東北大学の博士課程に留学した。日本留学(および勤務)の8年間において、①世界を視野に入れた研究理念が身に付いた、②豊かな生活、優れた研究環境に感銘を受け、自国を同じようにさせたいという強い願望が生まれた、という。これらは、薛教授が研究に一層没頭する刺激になった。
・ 2009年より、自分のチームを率いて、トプロジカル絶縁体と高温超電導の研究に取り掛かった。
・ 2012年末、量子異常ホール効果を実験で観測できた。これは、世界で初めての成果であった。1年半後、米国と日本の実験室でも相次いで再現され、これによって、同効果に対する一般的な疑念が消えた。
薛其坤教授は優れた研究により、中国のノーベル賞と称される「未来科学賞」(2016年)のほか、中国国家自然科学一等賞(2019年)、国際純粋・応用物理学連合主宰のフリッツ・ロンドン記念賞(2020年)、オリバー・E・バックリー凝縮系賞(2023年)などを受賞している。
[1] 国家科学技术奖励工作办公室(国家科学技術奨励制度弁公室)のサイト
[2] 中華人民共和国科学技術部「2023年度国家科技奖励获奖情况」(国家科学技術奨励制度受賞者名簿へのリンク)
[3] 北京日报「超算、AI、量子科学将因他改变!访薛其坤院士」
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