【12-07】日本の醤油と中国料理
李 暁亮(淄博職業学院図書館講師) 2012年 7月19日
中日両国は東アジア文化圏に属し、日常生活の面でも多くの共通点や類似点がある。食文化は日常生活の重要な構成要素であり、両国には食材、調味料に共通点が多い。例えば醤油は、両 国の家庭で日常的に使われるが、使い方には同じ点もあれば、違う点もある。本稿では、日本を代表する伝統的な醸造食品の起源や製造技術を紹介し、中国の醤油醸造技術への影響についても言及したい。
中国の醤油は、紀元前1世紀前後に始まり、2000年の歴史がある。最も古く「醤油」という言葉が使われた王朝は宋であり、その後、日本、朝鮮、ベトナム、タイ、マレーシア、フ ィリピン等に相次いで伝わった。
アジアは醤油文化圏に属し、国によって違う種類の醤油があり、味も異なる。例えば、魚醤はタイ、カンボジア、ベトナムの主な調味料であるが、インドネシアでは甘い醤油が使われる。1835年ごろ、醤 油の醸造技術はインドから英国に伝わり、欧米式の醤油が生まれた。
日本では、鎌倉時代に醤油が登場した。禅僧の覚心が中国から味噌の製法を持ち帰り、人々に伝えた。しかし、配合を間違えたため、水分の多い味噌が出来上がった。味見すると、非常に美味しかった。こ こに醤油の歴史が始まった。その後、この水分の多い味噌が作られるようになり、現在の「たまり醤油」に似たものが生産されるようになった。
戦国時代から江戸時代にかけて、醤油が各地で生産されるようになり、一般家庭でも使われるようになった。当時、文化の中心であった上方(近畿地方)で作られた醤油は高級品と見なされ、江戸に運ばれた。
江戸では、味も香りもより強い「江戸前醤油」(現在の濃口醤油)が生まれ、明治時代以降は濃口醤油が全国に次第に広まった。濃口醤油の普及により、醤油は庶民の食生活に不可欠な調味料となった。今 日では日本の伝統的な調味料として世界各国に輸出されている。
醤油は、醸造醤油と調合醤油の二つに分類される。醸造醤油とは、大豆、小麦を原料として、微生物の力で自然に発酵させた液体調味料で、独特の色、香り、味を持つ。醸 造醤油は微生物の発酵作用によるもので毒性作用はなく、濃厚な味や香りがある。調合醤油とは、醸造醤油を土台に調味液や食品添加物等を調合して出来た液体調味料である。
濃口醤油と淡口(うすくち)醤油に分ける分類法もある。濃口と淡口の違いは醤油の色による。濃口醤油の色は濃く、さまざまな料理や汁物に使われる。現在、濃口醤油は醤油の主流となっている。
淡口醤油は色が薄いものの、味は濃く、一般に食材や汁の色を変えない料理に使われ、日常的に使われることは多くない。一般的に、一部の汁物に淡口醤油が使われる。濃口醤油は中国料理の「老抽」に、淡 口醤油は「生抽」に相当する。
日本の醤油は合わせて300余りの種類があり、それぞれ特有の使い方がある。日本料理店に行くと、テーブルに何種類もの醤油が並んでいる場合がある。
日本でよく使われる醤油には、醸造醤油、酢醤油、落花生醤油、にんにく醤油、有機醤油等がある。それぞれ価格も異なり、高い物は小さい一瓶(約200ml)で1000円余りし、食 卓において生の食品や和え物を食べる際に使われる。安い醤油は加熱調理に使う。
日本の醤油には塩よりも多様なアミノ酸が含まれ、栄養補給やアンチエージング、老人性認知症の予防等に効果があるという。これにチョウセンニンジンやクコ等を加えた薬膳醤油は、滋養強壮効果が更に高い。
日本の醤油は醸造技術によって本醸造、新式醸造(混合醸造)、アミノ酸混合の3種類に分けられる。本醸造の「本」には、「正式」、「正統」の意味があり、調合醤油と区別されている。
統計によれば、日本では本醸造の技術で製造された醤油が全生産量の80%を占める。日本の醤油の原料は主に大豆又は脱脂大豆と小麦、食塩である。大豆は全体の98%を輸入が占め、主な輸入元は米国、ブ ラジル、中国である。小麦は全体の82%を輸入が占め、カナダと米国産が多く使われている。日本の小麦は政府の管理下にあり、政府が統一的に輸入し、各企業に配分している。
日本では豚肉を原料に作られた醤油は殆ど見られない。豚肉で作った濃口醤油は味が濃厚で、少量で食材のうまみを引き出すことができる。肉じゃがやパスタ等のさまざまな和食や洋食、中 華料理のいずれにもうま味調味料として使うことができ、まさに「魔法の一滴」である。
日本の醤油の歴史で特筆すべき点は、1960年代初めにコロンビア大学経営大学院で学んでいた茂木友三郎氏が、店頭で、キッコーマン醤油をつけて焼いたステーキを顧客に食べさせたことだろう。当時、米 国はこの調味料になじみがなかった。キッコーマンは米国で55%の市場シェアを占め、多くの家庭であの特徴的な赤い蓋の醤油びんを見ることができる。
報道によれば、中国はキッコーマンにとって、アジアで最も潜在力のある市場であるが、同社製品の販売価格は、現地醤油の5倍から6倍である。同社は2002年、中国に工場を建設し、販 売量は安定的に伸びている。
日本醤油協会は毎年、全国醤油品評会を開催している。2011年は4点が農林水産大臣賞に選ばれた。「醤油の日」の前日の9月30日には、記念の集いが開かれた。
中国でも、日本の醤油が徐々に流行し始めている。大型スーパーの輸入食品売り場では、日本製の醤油が陳列棚の一角を占め、減塩醸造醤油やなべ料理用の調合醤油、カツオ昆布だし濃縮醤油、大豆醤油、刺 し身用調合醤油等が並ぶ。1瓶300MLの醤油の値段は約40~50元で、中国製の醤油よりはるかに高い。
日本の醤油は、中国の一般家庭にも徐々に入ってきている。中国料理にも日本の醤油が徐々に使われるようになり、人気となっている。例えば、焼肉や海鮮料理等を食べる際に、小 皿に醤油を入れてちょっとつけて食べる光景がよく見られる。
日本の醤油が中国人に影響を与えたものは、味わい深い醸造技術のみならず、日本人の革新性である。このようにして、日本の醤油は、東洋の醤油の代表にまで発展したのであり、その本質は、日 本の革新性である。こうした日本人の革新性を中国は不断に学ぶべきである。
李 暁亮(LI Xiaoliang):淄博職業学院図書館講師
中国山東省淄博市生まれ。
1999.9-2003.6 山東理工大学文学院 学士
2003.7-2008.8 淄博職業学院音楽表現系 助教
2008.9- 淄博職業学院図書館 講師