【13-005】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅱ)―PM2.5
2013年 4月25日
金 振(JIN Zhen):
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員
1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。
2.PM2.5に起因する大気汚染-霧霾(Wu Mai)
2013年1月、中国各地では、一週間以上にわたってPM2.5を主な原因物質とする全国規模の大気汚染(霧霾[Wu Mai]天気)が発生した。大気汚染(霧霾)警報が出された1月14日の観測結果によると、31の省級政府(以下、地域)の内、実に29の地域が大気汚染に曝され、そのほとんどが「重度汚染レベル」または「厳重(危険)汚染レベル」までに達していた(典拠:中央気象台の統計数値)。
(1) 「霧霾」天気とは
「霧霾」とは中国の気象用語であり、「霧」は日本語の霧と同義である。「霾」については、日本では黄砂の意味として用いる場合があるが、中国では「肉眼で識別できない浮遊物質の発生によって視程距離が10km以下までに制限される天気現象」を指す用語である。「霧」と「霾」は、いずれも視程距離が制限される天気現象を指している点においては共通するが、前者の原因物質が水蒸気であるのに対し、後者は浮遊物質である点で区別される。問題は両者が混在する場合の定義であり、中国では通常、湿度90%以上の場合は「霧」、80%以下の場合は「霾」、80%~90%の間の場合を「霧霾」と定義している(典拠:公众防护P M 2 . 5科普宣传册)。
「霧霾」天気は数年前から全国各地において多発していたが、当初の国民の関心は、健康被害よりも視界不良によって多発する交通事故に向けられていた。しかし、近年、国民の関心は専ら健康被害に向けられ、「霧霾」天気は大気汚染の代名詞となった。
(2) PM2.5の原因物質
「霧霾」天気の主な原因物質は、PM2.5である。その発生源は様々であり、大きく自然現象に伴って発生するもの(浮揚粉塵、火山灰、海塩など)と人為的な活動によって発生するもの(以下、人為的な原因物質)に分けられる。人為的な原因物質は更に、一次浮遊物質と二次浮遊物質に分けられ、前者は石炭燃焼による煙灰や工業粉塵、自動車排気ガス、建築や工事に伴う粉塵などが発生源となり、後者の場合、大気中に排出された硫黄酸化物や窒素酸化物、アンモニア、揮発性有機物等の化学反応を経て発生した物質が発生源となる。人為的な原因物質こそが大気汚染の元凶であり、大気中の一次、二次浮遊物質の割合はほぼ五分五分である。
PM2.5の原因物質の発生源は地域によって異なるが、石炭燃焼に起因する煙灰と自動車排気がもっとも重要な発生源であり、北京や上海の場合、全体の4割を占めている。注意しなければならないのは、都市によっては、PM2.5の全体量の内、周辺地域(行政区域外)から飛来したものが4割以上を占める場合もある。
(3) 健康被害
2012年12月18日、北京大学はPM2.5と健康被害との因果関係関に関する国内初の研究成果を公表し、世間の注目を集めた(典拠:危险的呼吸--PM2.5的健康危害和经济损失评估研究)。同報告書は、2012年、PM2.5が原因となった年間死亡者数は、北京、上海、広州、西安の4つの都市に限っても、8000人以上にのぼり、関連経済損失は68.2億元に達したと指摘している。PM2.5の健康への影響については十分検証が行われておらず、科学的知見や情報が不足しているなか、本報告書の公表は国内外に対し大きな警鐘を鳴らした。
(4) 観測体制
中国のPM2.5に関する観測体制の整備は遅れている。中国の場合、「霧霾」天気の観測、警報システムはあるものの、前述の通り、それは視程距離や湿度によって判断されるものであり、PM2.5の濃度等を根拠とするものではない。
中国国内には4468箇所の大気質観測ポイント(典拠:2010环境统计公报)が整備されている。しかし、2012年まで、そのほとんどがPM2.5の計測能力を備えていなかった。2013年1月1日より、全国重点対策区域として指定された74の都市(計631箇所の観測ポイント)が先駆けてPM2.5観測装置を整備し、計測を始めた。これによって観測ポイントの14%を網羅するPM2.5の観測体制が整った(PM10、SO2、NO2、CO、 O3も観測対象となる)。その観測結果は、「全国城市空气质量实时发布平台」というホームページにて発信している。74の都市の大気質は、「優、良、軽度汚染、重度汚染、厳重汚染」の6段階に分けて評価されている。
(5) 最新のPM2.5観測結果
4月19日、中国環境保護部は、74都市の大気汚染の観測結果を発表した。1月~3月の間、74都市全体で大気質基準を満たした日数はわずか全体の44.4%に過ぎず、大気汚染が発生した日数は全体の55.6%を占める結果となった(内訳:軽度汚染25.3%、中度汚染11.5%、重度汚染13.0%、厳重汚染5.8%)。大気質総合評価の結果、石家庄、邢台、保定、邯鄲、唐山、済南、西安、衡水、といった都市が大気汚染の深刻度が高いと評価された(典拠:2013年第一季度74个城市空气质量状况)。
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