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【20-005】2019年の重要立法を振り返る (下)

2020年2月26日

野村高志

野村 高志:西村あさひ法律事務所 上海事務所
パートナー弁護士 上海事務所代表

略歴

1998年弁護士登録。2001年より西村総合法律事務所に勤務。2004年より北京の対外経済貿易大学に留学。2005年よりフレッシュフィールズ法律事務所(上海)に勤務。2010年に現事務所復帰。2 012-2014年 東京理科大学大学院客員教授(中国知財戦略担当)。2014年より再び上海に駐在。
専門は中国内外のM&A、契約交渉、知的財産権、訴訟・紛争、独占禁止法等。ネイティブレベルの中国語で、多国籍クロスボーダー型案件を多数手掛ける。
主要著作に「中国でのM&Aをいかに成功させるか」(M&A Review 2011年1月)、「模倣対策マニュアル(中国編)」(JETRO 2012年3月)、「 中国現地法人の再編・撤退に関する最新実務」(「ジュリスト」(有斐閣)2016年6月号(No.1494))、「アジア進出・撤退の労務」(中央経済社 2017年6月)等多数。

志賀正帥

志賀 正帥:西村あさひ法律事務所 弁護士 北京事務所代表

略歴

1982年上海市生まれ。2006年中央大学法学部卒業、2008年中央大学法科大学院修了、2009年弁護士登録。2012-2016年弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所に勤務、2013-2016年北京代表処 一般代表に就任(うち、2015-2016年上海駐在)。三井住友銀行総務部での勤務を経て、2017年西村あさひ法律事務所に参画。
日本国内の会社法務全般、中国内外のM&A、中国現地法人の会社法務等を主に取り扱う。

木下清太

木下 清太:西村あさひ法律事務所 弁護士 上海事務所代表

略歴

2010年慶應義塾大学法学部卒業。2012年慶應義塾大学法科大学院修了。2013年弁護士登録、西村あさひ法律事務所に勤務。
日本国内の会社法務・紛争全般、中国内外のM&A、独占禁止法等を主に取り扱う。

郭望

郭 望:
西村あさひ法律事務所 フォーリンアトーニー

略歴

2012年中国律師登録。2005年洛陽外国語学院卒業(B.A.)、2008年中国国立武漢大学卒業(J.M.)、2009年国士舘大学総合知的財産権法学研究科修了。2009-2010年北京市世澤法律事務所に勤務、2010-2012年北京市大地法律事務所に勤務、2012年12月より現職。
専門は中国における外商投資、M&A、労務、会社法務等。

陳致遠

陳 致遠:西村あさひ法律事務所 フォーリンアトーニー

略歴

2019年中国律師登録。2011年華東政法大学外国語学部卒業(B.A.)、華東政法大学法学部卒業(副専攻)、2017年東京大学大学院法学政治学研究科修了。2011-2014年三菱商事(上海)有限公司に勤務、2017年4月より現職。
専門は中国における外商投資、M&A、会社法務等。

 前回(2019年の重要立法を振り返る (上) )に引き続き、今回は、外商投資法と競争法に関連する重要立法を取り上げます。

 このうち、外商投資法が急きょ制定・公布されたことは、その背景にあった米中貿易摩擦の経緯と相まって、大変話題になりました。後述するとおり、その細則にあたる法令も2019年末に公布され、2020年1月1日より、外商投資法と同時に施行されました。中国の外商投資企業の運営にも大きな影響が生じることが予想されます。本稿でも、外商投資法をメインに取り上げます。

1.外商投資法関連

「外商投資法」(主席令第26号、2019年3月15日公布、2020年1月1日施行)

 2019年3月15日、「外商投資法」(以下「本法」といいます。)が第十三回全国人民代表大会第二次会議において可決かつ公布され、2020年1月1日より施行されました。本法の施行に伴い、従来の「中外合資経営企業法」、「中外合作経営企業法」及び「外資企業法」(いわゆる「外資三法」)は廃止されました(本法第41条第1項)。

 中国は近年、外商投資企業の設立・登記変更等に関する従来の認可制から届出制への転換、ネガティブリストによる外資参入規制の緩和等、対外開放の強化及び外資誘致の拡大に関する政策を進めてきました。そして、米中経済摩擦が加熱するなか、「改革開放」以降の外商投資分野の根幹をなしてきた外資三法に代わり、外商投資分野の新たな「基本法」としての「外商投資法」を制定・公布し、中国における外商投資管理制度は遂に新しい時代を迎えたといえます。

 ところで、本法は、ネガティブリスト外の業種への投資に内国民待遇を認める点の再確認や、外国投資者の投資保護、知的財産権の強制移転の不実施など、経済摩擦において米国が指摘する懸念を払拭しようとするかのような宣言的な条項を中心に構成されていたため、下位法令による具体化が待たれていました。そうしたなか、本法の施行細則である「外商投資法実施条例」(以下「実施条例」といいます。)が2019年12月26日に中国国務院より公布されました。また、実施条例のほかに、「外商投資情報報告弁法」(以下「情報報告弁法」といいます。)、「外商投資情報報告に関係する事項に関する商務部の公告」(以下「情報報告公告」といいます。)、「『外商投資法』を貫徹・具体化し、外商投資企業登記管理業務を適切にすることに関する市場監督管理総局の通知」(以下「登記管理業務通知」といいます。)及び「『外商投資法』の適用に係る若干の問題に関する最高人民法院の解釈」(以下「司法解釈」といいます。)等の本法に関する下位法令や司法解釈も2019年年末に公布され、いずれも本法と同じ2020年1月1日に施行されました。

 以下では、本法の主な内容の概要について、実施条例及びその他の関連法令等において新たに設けられた規定にも触れつつ、本法の施行による影響及び留意点を解説します。

(1)本法の主な内容の概要

(ⅰ)定義

中国の自然人が出資している内資企業が外国投資者の買収により合弁企業となる場合、中国の自然人が当該合弁企業の株主となることは例外的に認められていました(「外国投資者による国内企業の合併買収に関する規定」第54条参照)。

本法 実施条例及び関連法令等
外国投資者 外国の自然人、企業又はその他組織(第2条第2項)
外商投資 外国投資者が直接的又は間接的に中国国内で行う投資活動をいい、次に掲げる状況を含む(第2条第2項)。
①外国投資者が単独で、又はその他投資者と共同で中国国内に外商投資企業を設立すること。
②外国投資者が中国国内企業の株式、持分、財産持分又はその他類似する権益を取得すること。
③外国投資者が単独で又はその他投資者と共同で中国国内において新たなプロジェクトに投資すること。
④法律、行政法規又は国務院が定めるその他方式による投資
左記①及び③にいう「その他投資者」は、中国の自然人を含むとされている(実施条例第3条)。
⇒ これまで、一部の例外を除き[1]、中国の自然人が株主として外国投資者と合弁企業を設立することは認められていなかったが、今後は、中国の自然人も外商投資企業の株主となることができるようになった。
外商投資企業 全部又は一部が外国投資者により投資され、中国の法律に基づき中国国内で登記・登録を経て設立される企業をいう(第2条第3項)。 香港、マカオ及び台湾の投資者並びに非居住者である中国人による投資については、法令に別段の定めがある場合を除き、本法及び実施条例を参照する(実施条例第48条)。

(ⅱ)外商投資の促進

本法 実施条例及び関連法令等
内資企業との平等な取扱いを謳う条項 参入前内国民待遇+ネガティブリストによる管理を実施する(第4条第1項)。 「(ⅳ)外商投資の管理」参照
国が企業の発展を支援するための各種政策は、法により外商投資企業に平等に適用される(第9条)。 左記「企業の発展を支援するための各種政策」には、資金援助、土地の供給、税金・費用の減免、ライセンスの許可、標準の制定、プロジェクトの申告、人的リソース政策等が含まれる(実施条例第6条)。
外商投資に関連する法令の制定については、適切な方法により外商投資企業の意見及び提案を求めなければならない(第10条)。 関連法令制定時の外商投資企業の意見及び提案を求める「適切な方法」として、書面による意見の募集、座談会・討論会・聴聞会の開催等の形式が規定されている(実施条例第7条)。
外商投資企業が法により標準制定作業に平等に参与すること、強化標準の制定の情報及び社会による監督を保障する(第15条第1項)。また、国が制定する強制的標準は、外商投資企業にも平等に適用される(同条第2項)。 強制的標準を上回る技術要求を専ら外商投資企業に適用してはならない(実施条例第14条)。
外商投資企業が法により公平な競争を通じて政府調達活動へ参加することを保障する(第16条)。 政府調達の調達者又はその代理機構は、(ⅰ)情報発信、サプライヤーの条件の確定や資格審査、入札評価標準等において外商投資企業に対して差別的取扱いをしてはならず、(ⅱ)調達先の所有制形式、組織形態、持分構成、投資者の国、商品又はサービスのブランド及びその他不合理な条件を設置することによりサプライヤーを限定してはならず、(ⅲ)外商投資企業が中国国内において生産する製品や提供するサービスについて内資企業と区別してはならないとされている(実施条例第15条)。
法令に基づく優遇政策 外国投資者や外商投資企業は、法律、行政法規又は国務院の規定に基づいて優遇措置を享受することができる(第14条)。 外国投資者や外商投資企業が享受できる優遇措置の分野として、「財政、税収、金融、土地利用等」が定められている(実施条例第12条)。
行政手続の簡素化 各人民政府及びその関係部門は、利便性、高効率、透明性の原則に照らし、作業手続を簡素化し、作業効率を高め、政府事務サービスを最適化し、外商投資サービス水準をより一層向上させなければならない(第19条第1項)。 行政手続の簡素化措置の一環として、外商投資企業の抹消報告、及び外商投資企業の中国国内における再投資に関する外商投資情報報告については、市場監督管理総局から商務部に共有されるため、企業が二重報告する必要がない(情報報告公告第1条、第4条)。

(ⅲ)外商投資の保護

本法 実施条例及び関連法令等
国家による収用の禁止 ・外国投資者の投資に対し収用をしない(第20条第1項)。
・特殊な状況下において、公共利益の必要性から、法律規定に基づいて外国投資者の投資に対して収用又は徴用を実施することができるが、法定の手続に従い、かつ、遅滞なく公平かつ合理的な補償を行わなければならない(同条第2項)。
収用の決定に不服がある場合には、行政不服審査を申し立て、又は行政訴訟を提起することができる(実施条例第21条第3項)。
海外送金の自由の確保 外国投資者は、中国国内における適法な所得等について、法により人民元又は外貨により自由に入金や海外送金することができる(第21条)。 外国投資者の適法な所得等の海外への送金について、いなかる単位や個人であっても、法に違反して送金の通貨の種類や金額及び送金の頻度・回数等に対して制限をしてはならない(実施条例第22条第1項)。
知的財産権の保護 ・国は外商投資の過程における自由意思の原則及びビジネスルールに基づく技術提携の展開を奨励し、技術提携の条件は各投資者が公平の原則に従い平等に協議し確定する(第22条第2項)。
・行政機関及びその職員は、行政手段を利用して技術の譲渡を強制してはならない(同条項)。
行政機関及びその職員は、行政許可、行政検査、行政処罰、行政強制及びその他の行政上の手段を利用して外国投資者や外商投資企業に技術の譲渡を強制(又は強制と同等の行為を)してはならない(実施条例第24条)。
行政による違法な関与の禁止及び政府承諾の遵守 ・法的根拠がない場合には、外商投資企業の適法な権益を減損し、又はその義務を増加してはならず、市場参入及び撤退の条件を設けてはならず、外商投資企業の正常な生産経営活動に干渉してはならない(第24条)。
・地方各レベルの人民政府及びその関係部門は、外国投資者や外商投資企業に対して法により行った政策承諾及び法により締結した各種契約を履行しなければならない(第25条第1項)。
・左記「政策承諾」とは、地方各レベルの人民政府及びその関係部門が法定の権限内において、外国投資者や外商投資企業の当該地区への投資に適用される支持政策、優遇や便宜の享受等について行う書面による承諾をいう(実施条例第27条)。
・国の利益や社会の公共利益により政策承諾や契約の約定を変更する必要がある場合には、法定の権限及び手続に従って行い、かつ、これにより損失を被った外国投資者や外商投資企業に対して法により遅滞なく公平かつ合理的な補償を行わなければならない(実施条例第28条)。
・県レベル以上の人民政府及びその関係部門は、外商投資企業のクレーム対応体制を構築しなければならない(実施条例第29条第1項)。

(ⅳ)外商投資の管理

ただし、外商投資企業の実質支配者の変更、輸入設備税減免情報変更等の変更登記が不要な事項の変更については、変更事項発生後20営業日以内に変更報告をすれば足りるとされています(情報報告弁法第11条第2項、情報報告公告第3条)。

本法 実施条例及び関連法令
ネガティブリスト管理制度 ・外国投資者は、外商投資参入ネガティブリストに定める投資禁止分野に投資してはならず、同ネガティブリストに定める投資制限分野に投資する場合にはネガティブリスト所定の条件に合致しなければならない(第28条第1項、第2項)。
・外商投資参入ネガティブリスト外の分野については、内外資一致の原則により管理を実施する(同条第3項)。
・投資制限分野に投資する際、ネガティブリストに定める条件に合致しない場合は、主管部門は、許可、企業登記、プロジェクト許可等を行わない(実施条例第34条第1項)。
・ネガティブリスト対象外の分野への投資に関する契約について、関係政府部門の認可や登記が行われていないことを理由に契約の無効又は未発効を当事者が主張する場合には、人民法院はこれを支持しない(司法解釈第2条第1項)。
・投資禁止分野への投資に関する契約について、当事者が契約の無効を主張する場合には、人民法院はこれを支持しなければならない(司法解釈第3条)。
・投資制限分野への投資に関する契約について、制限的参入特別管理措置に違反していることを理由に契約の無効を当事者が主張する場合には、人民法院は支持しなければならない(司法解釈第4条第1項)。
外商投資企業の組織・運営の適用法令 外商投資企業の組織形態、組織機構及びその活動準則は、「中華人民共和国会社法」、「中華人民共和国パートナーシップ企業法」等の法律の規定を適用する(第31条)。
情報報告制度 国は、外商投資情報報告制度を確立する。外国投資者又は外商投資企業は、企業登記システム及び企業信用情報公示システムを通じて、商務主管部門に投資情報を報告・提出しなければならない(第34条第1項)。 ・2020年1月1日以降に設立され、又は変更が生じた外商投資企業は、従来の商務部門への届出手続が不要となり、情報報告弁法及び情報報告公告に基づき投資情報を報告すれば足りる(情報報告公告第6条)。なお、届出制の根拠法である「外商投資企業設立及び変更届出管理暫定施行弁法」(2016年10月8日施行)は、2020年1月1日に廃止された(情報報告弁法第35条)。
・報告の種類として、初回報告(会社設立登録時)、変更報告(企業変更登記(届出)時[2])、抹消報告(登記を所管する市場監督管理部門が商務部門と情報を共有するため、企業側において報告手続を行う必要はない)及び年度報告(前年度の年度報告を毎年1月1日から6月30日までに行う)等が規定されている(情報報告弁法第8条、第9条、第11条、第13条、第14条)。
安全審査制度 国は、外商投資安全審査制度を確立し、国の安全に影響し、又は影響するおそれのある外商投資に対し安全審査を実施する(第35条第1条)。 ※ 実施条例を始め、関連法令にも具体的な規定が設けられなかったため、安全審査制度に関する個別法令の公布が待たれる。

(2)本法による影響――従前の外商投資企業の会社法等への適用の切り替え

 本法の施行により、外商投資企業の設立根拠法たる外資三法が廃止され、外商投資企業に対する外資三法と会社法による二重管理が終了します。既存の外商投資企業は、本法施行後の5年以内(即ち、2024年12月31日まで)にその組織形態等を維持することができるとされていますが(第42条)、言い換えれば、2024年12月31日までに、会社法等に沿って組織形態等を変更する必要があります。

 例えば、外資三法において代表的な中外合弁経営企業においては、下表のように、本法の施行後の会社法に基づく組織形態等に適合するよう変更することが迫られることになります。

比較項目 本法施行前
(根拠法:中外合資経営企業法等)
本法施行後
(根拠法:会社法等)
外資の出資比率 原則:25%以上 制限なし
最高意思決定機関 董事会(株主会設置不可)
構成員3名以上、董事の人数分配は、各合弁当事者が出資比率を参考にして協議により確定する。
株主会
全株主によって構成する。
決議方法 一般事項 董事1名につき1票
議事規則は定款にて規定可能
原則:株主の出資比率に基づく
ただし、定款で別途規定することができる。
重大事項(定款修正、資本金の増減、解散、合併・分割等) 出席董事による全会一致 3分の2以上の議決権を代表する株主による採択
定足数 (董事の頭数)2/3以上出席 法定の限定なし(定款で規定)
(合弁当事者以外の第三者への)持分譲渡に対する制限 他の合弁当事者の同意が必要 原則:他の株主の過半数の同意が必要。他の株主の過半数以上が同意しない場合、不同意の株主は買取義務あり。
ただし、定款で別途規定することができる。
利益配当 各合弁当事者の登録資本の比率に基づき配当する。 原則:払込済みの出資金の比率に基づき配当金を受け取る。
ただし、全株主が別途合意した方法に従うこともできる。
残余財産の分配 原則:各合弁当事者の出資比率に基づき分配する。
ただし、別途合意することができる。
株主の出資比率に基づき分配する。

(3)今後の留意点

(ⅰ)会社法等の規定に適用させるよう早期対応が必要

 上記(2)で紹介したように、外資三法を代表する中外合資経営企業法等の規定が会社法等のそれとは大きく異なるため、外資三法に基づき設立された既存の外商投資企業は、会社法等に適合するよう組織形態等を調整し、変更登記を行う必要があります。本法施行後の5年以内という猶予期間があるものの、中外合弁・合作企業の場合には、中方と協議にも時間を要するため、早期に検討し、相手方と交渉・協議を進めることが望まれます 。[3]

 なお、従来の外商投資企業の組織形態等の変更に関する具体的な取扱いについては、市場監督管理部門により細則が公布される予定であり、注目する必要があります。

(ⅱ)関連法令の公布への注目

 本法は、中国の外商投資の基本法として、外商投資の基本定義や保護・管理の方針等について原則的(宣言的)な規定しか定められておりませんでした。本法施行の直前である2019年12月下旬頃には外商投資法実施条例を含む関連法令が公布されたものの、より明確化、具体化されるべき事項も依然として残っているため、今後も外商投資の促進・保護・管理等に関連する法令が続々と公布されることが予想されます。特に、外商投資の最新版ネガティブリストや組織形態等の変更、安全審査制度に関する細則規定の公布には、引き続き注目する必要があります。

2.競争法関連

 昨年度も、「独占禁止法」(以下「独禁法」といいます。)に関連する内容をはじめ、競争法に関連した立法の動きがありました。本稿ではその中から、日本企業の事業活動にも特に関係する、独占的協定の禁止に関する規定の改正内容を紹介します。

 2018年に、全国人民代表大会の採択に基づき、従前は商務部、国家発展改革委員会及び国家工商行政管理総局に分散されていた独禁法に関する執行権限が、新設の国家市場監督管理総局に集約されています。下記で紹介する新たな規定は、現行の独禁法執行当局である国家市場監督管理総局が、独禁法上の主要な違法類型である独占的協定の禁止に関する運用基準を公式に示したものとして注目されます。

「独占的協定の禁止に関する暫定規定」(国家市場監督管理総局、2019年6月26日発布、2019年9月1日施行)

 国家市場監督管理総局は、2019年6月26日に「独占的協定の禁止に関する暫定規定」(本項目において、以下「新規定」といいます。)を発布しました。新規定は、2019年9月1日に施行され、これに伴い、2009年5月26日に発布された「独占的協定、市場支配的地位の濫用事件の調査・処分手続きに関する工商行政管理機関の規定」及び2010年12月31日に発布された「独占的協定行為の禁止に関する工商行政管理機関の規定」(本項目において、以下「旧規定」と総称します。)を廃止しました(新規定第36条)。

 新規定における改正のうち、(1)価格協定の類型具体化、(2)その他独占合意の判断要素の列挙及び(3)リニエンシー制度の改正が特に注目されます。以下では、新規定のこれら改正の要点について紹介します。

(1)価格協定の類型具体化

 独禁法では、競争事業者間の独占合意として、以下の行為が禁止されています(独禁法第13条(一)乃至(五))。

独禁法上の独占合意(競争事業者間)
価格の固定又は変更の禁止
生産数量又は販売数量の制限
販売市場又は原材料調達市場の分割
新技術、新設備の購入の制限又は新技術、新製品の開発の制限
共同の取引拒絶

 旧規定においては、上記のうち「価格の固定又は変更の禁止」を除く各行為類型が具体化されていました。新規定は、旧規定における各行為類型に係る規定を若干修正しつつ、新たに「価格の固定又は変更の禁止」の行為類型を具体化する規定を追加しました。即ち、新規定は、競争関係にある事業者間で禁止される価格協定として、下記の行為を列挙しています(新規定第7条)。

(一)価格水準、価格の変動幅、利益の水準又は値引金額、手数料等その他の費用を固定又は変更すること。

(二)価格計算に用いる標準計算式の採用を取り決めること。

(三)協定に関与する事業者による価格の自己決定権を制限すること。

(四)その他の方法により価格を固定又は変更すること。

 また、独禁法は、取引関係にある事業者間の独占合意として、以下の行為を禁止しています(独禁法第14条(一)及び(二))。

独禁法上の独占合意(取引事業者間)
第三者への商品再販売価格の固定
第三者への商品再販売最低価格の制限

 新規定は、かかる取引事業者間の独占合意の類型についても具体化しています(新規定第12条)。

(一)第三者に商品を転売する場合の価格水準、価格の変動幅、利益の水準又は値引金額、手数料等その他の費用を固定すること。

(二)第三者に商品を転売する場合の最低価格を設定し、又は価格の変動幅、利益水準若しくは値引金額、手数料等のその他の費用を設定することにより、第三者に商品を転売する場合の最低価格を設定すること。

(三)その他の方法により、商品の転売価格を固定し、又は商品転売の最低価格を設定すること。

(2)その他独占合意の判断要素

 独占合意に係る上記の独禁法第13条及び第14条には、いずれも「国務院独占禁止法執行機構が認定するその他の独占合意」というキャッチオール条項が存在しますが、実務上、該当性判断にあたっての考慮要素や要件は不明確でした。新規定は、上記「その他の独占合意」の判断要素として以下を列挙しています(新規定第13条第2項)。

(一)事業者間の協定締結・実施に関する事実

(二)市場競争の状況

(三)かかる市場における事業者の市場シェア及び市場に対する支配力

(四)協定が商品の価格、数量、品質等に及ぼす影響

(五)協定が市場参入、技術の進歩等に及ぼす影響

(六)協定が消費者、その他の事業者に及ぼす影響

(七)独占的協定の認定に関するその他の要素

(3)リニエンシー制度の改正

 独占協定に関する行政処罰について、旧規定においては、重要な証拠を提出して、自主的に状況を報告した事業者に対して、申請順位及び事件の性質に応じて軽減措置が定められていました。

旧規定における措置
申請順位 価格関連事件 非価格事件
第1位 任意的減免 免除
第2位 任意的に50%以上を減額 情状を酌量して処罰を軽減
第3位以降 任意的に50%未満を減額

 新規定は、上記制度を以下の通り改正しています。価格関連事件と非価格関連事件の区別が削除されたほか、申請順位及び減額幅は共に、旧規定の文言と比較して、違反者にとって厳格化されています。

新規定における措置
申請順位 軽減措置
第1位 任意的減免又は80%以上減額
第2位 任意的に30%から50%減額
第3位 任意的に20%から30%減額

 本年も中国では様々な重要立法がなされることが予想されます。引き続きフォローして参りたいと思います。


5年間の猶予期間内に組織形態等を変更せず、かつ、必要な変更登記を行わなかった場合には、市場監督管理部門は、当該企業の他の登記事項に関する申請の受付けを行わず、関連状況を公表するとされています(実施条例第44条第2項)。