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【19-14】インフラ相互活用で新ビジネスを 日中第三国市場協力で丁可氏提言

2019年6月11日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 日中政府が合意した第三国市場協力は、双方がこれまでそれぞれ投資してきたインフラを活用して新しいビジネスを立ち上げるのが効果的だ、と丁可ジェトロ・アジア経済研究所研究員が5月18日、同研究所主催の研究会「中国塾」で提言した。

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丁可ジェトロ・アジア経済研究所研究員

「日中第三国市場協力」は、2017年11月にベトナム・ダナンで開かれたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の際に行われた安倍晋三首相と習近平国家主席との会談で合意された。民間企業間のビジネスを促進し,第三国でも日中のビジネスを展開していくことが,両国と対象国の発展にとって有益であることを確認している。翌2018年10月、7年ぶりの中国訪問となった安倍首相と李克強中国首相との会談でもあらためて協力推進が確認され、併せて開催された「第1回日中第三国市場協力フォーラム」で、日中の政府関係機関・企業・経済団体の間で52項目に及ぶ協力覚書が締結された。

具体性にかける52の協力覚書

 「日中第三国市場協力に何ができるか」という題名で講演した丁氏は、52の協力項目のうち、地域を指定した協力がわずか2件しかないことを挙げ、具体性にかける、と指摘した。この2件のうち、日本の一般社団法人YOKOHAMA URBAN SOLUTION ALLIANCEと、中国・江蘇嘉睿城建設管理有限公司、タイ・AMATA CORPORATION PCLが覚書を取り交わしたタイ・チョンブリ工業団地におけるスマートシティ化に関する協力について氏は、日中両国の収益見通しの違いからうまく進んでいないという見方を示した。

 結局、残る具体性のある案件は、伊藤忠商事株式会社と中国中信集団有限公司による欧州を対象地域とする「再生可能エネルギーおよび次世代電力ビジネスへの共同投資」のみ。日中第三国市場協力で具体的に何をやるべきかは、これから詰めていかなければならない状況だとして丁氏は、「国際分業の視点で考える」ことを提言した。日中企業は、これまでそれぞれ相手国との間でさまざまなビジネス協力関係を築いてきた。同じような協力を第三国でもやるのが現実的な方策、という考えに基づく提言だ。

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安倍晋三首相と李克強中国首相首脳会談(2018年10月26日、北京、首相官邸ホームページから)

構造調整迫られている東アジアネットワーク

 第三国での協力関係を築くキーワードとして、「東アジア生産ネットワーク」と「東アジアイノベーションネットワーク」の二つを氏は挙げた。「東アジア生産ネットワーク」は、2010年の通商白書で打ち出された概念。東アジアの国をまたいだ生産ネットワークが2000年以降に徐々に成立していることを示した。2016年あたりからは日本、韓国、台湾から付加価値の高い機械部品などが中国に輸出され、中国で組み立てた完成品を欧米に輸出するという生産ネットワークができている。

 「東アジアイノベーションネットワーク」というのは、ジェトロ・アジア経済研究所の研究チームが出した概念。特許データベースを基に特許の引用数からみると、中国、韓国の企業とも10年前は、研究開発はほとんど日本からの特許の引用、技術導入に依存していたことが分かる。注意すべきは、二つのネットワークとも実態が徐々に変わってきていること。中国でデジタルエコノミーが勃興し、一方で中国が築いてきたサプライチェーンが東南アジアに持って行かれつつあるという事態が進行している。「東アジア生産ネットワーク」、「東アジアイノベーションネットワーク」とも重大な構造調整を迫られている、との見方を丁氏は示した。

増える日本の伝統企業と中国の新興企業の提携

 日中間で見られる大きな変化の例として丁氏が紹介したのが、中国製の短尺動画プラットフォーム「TikTok」。昨年、渋谷で女性100人に街頭取材したところ、29人が使用しているという記事が全国紙に載った。丁氏が最近、スタッフに確認したところ今は40人に増えている。日本は「TikTok」にとって最大の広告主。広告収入全体の7割を日本で得ているという。この他、スマホをマンションに向けると、どのくらいの面積の空室がどのくらいあるか、その販売価格はいくらか、といったデータが無料で表示される。日本の不動産業のありかたを大きく変える可能性があるこうしたソフトを開発した中国のスタートアップ企業があることも、氏は紹介した。

 人工知能(AI)を利用した画像認識技術を得意とする中国・香港に本社を置く「商湯集團有限公司(SenseTime Group Limited)と、日本の自動車メーカー「ホンダ」が、高度自動運転技術開発に共同で取り組む。こうした日中企業の提携例が相次いでいる。日本の大企業と中国のスタートアップ企業、日本の伝統企業とデジタルエコノミーで強み持つ中国企業といった組み合わせが多いのが特徴だ。アジアのある国の大きな伝統企業を買収したが、高度化を図るための人材が日本では調達できない。日本人を深圳に駐在させ、スタートアップ企業に接触して協力相手を探す。日本のある総合商社が最近、そのような動きをしていることも丁氏は紹介した。

 こうした日中企業の提携が増えている理由は何か。丁氏は次のような三つの変化があることを指摘した。「ソフトウェアからハードウェア」、「『B to C』(企業・法人と一般消費者の取引)から『B to B』(企業・法人と企業・法人の取引)」、「オンラインからオフライン」への対応を迫られている企業の姿だ。丁氏は自身が最近、杭州のアリババ(阿里巴巴)本社で知らされた事実を紹介した。このところ、アリババでは機械工学系を学んだ学生を採用しているという。「EC(電子商取引)から事業を急速に拡大してきたアリババも、ハードウェアを重要視せざるを得なくなっている。こうした中国企業とハードウェア、『B to B』で強みのある日本企業との提携は今後伸びる余地は大きい」との見通しを丁氏は示した。

それぞれ得意分野生かした協力を

 日中第三国市場協力はどこから手を付けるべきか。丁氏は、次のように提言している。まず国際分業という視点が重要。日本、中国それぞれが持つ得意分野に基づいて、今まで両国間で協力関係を築いてきた。それを第3国でやればよい。協力できる分野はさまざま。伝統産業だけでなくニューエコノミーの分野にもチャンスがある。さらにお互いにインフラを活用し合うことを考えるべきだ。日本企業、中国企業ともこれまで東南アジアをはじめとする一帯一路沿線でインフラ投資をしてきた。しかし、そのインフラの利用効率は高いとはいえない。企業同士が声を掛け合ってインフラを使ってもらえば、てっとりばやく新しいビジネスが立ち上げられる。最初から一緒にインフラをつくろうとするより現実的だ。

 丁氏と同様の提言は、5月31日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター主催の研究会で講演した岡野寿彦NTTデータ経営研究所グローバル金融ビジネスユニットシニアスペシャリストからも聞かれた。岡野氏は、実店舗の運営やモノを作るといった企業活動をリアルという言葉で表現し、アリババ、テンセント(騰訊)、バイドゥ(百度)などプラットフォーマーと呼ばれる中国新興企業が、「ネットとリアルの融合」を狙っているとの見方を示した。

 一方、日本の伝統的企業は、自分たちの持つリアルの強みにプラットフォーム的要素をいかに取り入れるかが問われている。プラットフォームモデルの自社ビジネスへの活用を図る、あるいは中国企業との補完関係による事業の創出を目指すといった取り組みが考えられる。岡野氏も、丁氏と同様な日中企業の協力の姿を提言していた。

関連サイト

外務省プレスリリース 安倍総理の訪中(全体概要)(2018年10月26日)

経済産業省プレスリリース 第1回『日中第三国市場協力フォーラム』開催にあわせて日中の政府関係機関・企業・経済団体の間で協力覚書が締結されました(2018年10月26日)

外務省プレスリリース 日中首脳会談(2017年11月11日)

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