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第127回中国研究会「中国プラットフォーマーのビジネスモデル~競争ポイントの変化と展望~」(2019年5月31日開催)

「中国プラットフォーマーのビジネスモデル~競争ポイントの変化と展望~」

開催日時: 2019年5月31日(金)15:00~17:00

言  語: 日本語

会  場: 科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師: 岡野 寿彦(株式会社NTTデータ経営研究所グローバル金融ビジネスユニット シニアスペシャリスト)

講演資料:「 第127回中国研究会講演資料」( PDFファイル 3.42MB )

講演詳報:後日掲載予定

ネットとリアルの融合主戦場に 岡野寿彦氏が中国急成長企業の挑戦解説

小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 中国でのIT事業の実務経験が豊富な岡野寿彦NTTデータ経営研究所グローバル金融ビジネスユニットシニアスペシャリストが5月31日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター主催の研究会で講演し、アリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰訊)などプラットフォーマーと呼ばれる中国新興企業がなぜ急成長したのかを幅広い観点から分析し、解説した。さらに、これらの企業が狙う新たなビジネス展開についての見通しや、日本企業が参考にすべきことについても明快に提示した。

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 現在、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」研究員でもある岡野氏はNTTデータ社員として、中国でのインフラ建設やソフトウェア開発、中国政府系企業との資本提携・合弁経営に長年関わった。1995年から中国郵便貯金システム・新疆ウルムチセンターのプロジェクトマネージャー、1998年からは北京NTTDATA董事・総経理として、日本の技術力を生かしたインフラ建設や、中国の人材を活かしたソフトウェア開発を行った実績を持つ。2011年からは上海で中国政府系企業と提携し、中国金融市場での事業開発にも関わった。

困りごと解決で急成長

 この日の講演で岡野氏がまず強調したのは、BATと称される中国のインターネット3大企業、バイドゥ(百度)、アリババ、テンセントが短期間で巨大企業に発展した理由。急成長は、社会の"困りごと"をデジタル技術の活用によって解決することを通じてもたらされた、との見方を示した。"困りごと"とは、小売業や公共交通機関などが未発達であることによる中国国民の生活上の不便さを指す。伝統的企業である銀行が決済や中小企業相手の金融というニーズに対応できなかったことから、支付宝(アリペイ)や余額宝といった新しいフィンテック(金融商品・サービス)がアリババによってつくりだされた例を挙げ、詳しく説明した。

 一方、中国政府側にこれらプラットフォームの情報仲介機能を活用する動機があったことも岡野氏は指摘した。信義(誠信)が軽視されていることが、経済社会のさまざまなリスクを高めている。こうした中国社会の現状を変えるには、信用を大切にし、決まりや約束を守る意識の向上を図る必要がある。このような考えから中国政府が策定したのが、「社会信用体系構築計画要綱」。2014年から2020年までの7カ年で、国民全体をカバーする信用評価システムを構築し、信用レベルを意識させることで不正取引を減らし、健全な社会ステムを築くことを目指している。信用評価と切っても切れないプラットフォーマーのビジネスモデルは、中国政府の狙いと合致していたというわけだ。

 岡野氏はまた、中国人企業家のチャレンジ精神、「走りながら考える」という行動形式がデジタル技術を活用した事業化に合致しており、失敗やミスに対して寛大な社会がそれを後押ししているとの見方も示した。

融資受付から審査まで6秒

 急速に成長した例として岡野氏が紹介したもう一つが、テンセント系のネット専用銀行「微衆銀行」(We Bank)。設立された翌年2015年1月4日に行われた開業セレモニーで李克強首相が述べた次のような言葉を氏は紹介した。「徐々に形作られて来たインターネットを利用した金融業が、これまでのコストを引き下げ、中小企業に適切な利益を提供するとともに、伝統的な金融機関の改革スピードを加速する圧力となるだろう。金融改革における大きな一歩を踏み出した」

 テンセントはQQと「微信」(Wechat)という二つのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のほか、「財付通」(Tenpay)と「Wechat Pay」という第三者決済サービスを持つ。「微衆銀行」の消費者小口ローン「微粒貨」は、これらSNSと第三者決済サービスによって蓄積された利用者の情報と組み合わせて、小口ローンに対応している。一件当たり融資金額が500元(約8,000円)から30万元(約480万円)で、借入・返済は一日単位で可能という顧客にとっては使い勝手がすこぶるよいサービスとなっている。融資の申請に対してはQQやWechat Payに蓄積されている個人情報と照合し、わずか6秒で融資に応じるか否かを決定する。融資決定の場合は、顧客口座に即時入金される。

「微粒貨」の顧客の75%は大学を卒業していない学歴で、これまで伝統的な金融機関からは借り入れができなかった人たちだ。1件当たりの平均借り入れ金額は8,200元(約13万円)で、平均借り入れ機関は48日。デフォルト(債務不履行)率は0.64%(2017年度実績)と、伝統的な銀行の1.0%以上よりも低く、逆に「微衆銀行」に入る利ざやは7.02%(2017年度実績)と、商業銀行の2017年度実績平均2.1%を大きく上回る。こうした実績をもたらした要因としては商業銀行よりも高い利息を設定していることに加え、「融資資金の80%は商業銀行の資金を当てている一方、利息収入のうち30%を『微衆銀行』が受け取る」仕組みにあることを岡野氏は紹介した。

 また適切なリスク管理を可能にしている理由として氏は、顧客の信用評価システムが優れていることを指摘した。伝統的な銀行が使用している信用評価のためのデータは、申請書のデータ、自行の取引データ、中国人民銀行個人信用情報データベース、学歴データに限られる。これに比べ「微衆銀行」の信用評価に用いられるデータは、はるかに多い。「微衆銀行」の親会社であるテンセントがSNSやその他のサービスによって蓄積している生活データ、社会交際データ、興味・趣味データが、信用評価に活用できているからだ。

データ駆動型の小売業再構築

 では、プラットフォーマーがこれから狙っているのは何か。岡野氏は「ネットとリアルの融合」と「データ駆動型の小売業、製造業再構築」を挙げている。リアルというのは、実店舗の運営やモノを作るといった企業活動を指す。典型的なネットサービスである中国のオンライン商取引は、全体の商業取引に占める割合は約20%で、この比率は頭打ちになりつつある。残る80%のオフライン市場をオンラインに引っ張り込むには、消費者の高いレベルの要求にも応えなければなければならない。そのためにはネットだけでは限界があり、モノづくりといったリアルな企業活動との融合や、ネットが得意とするデータを活用した新しい小売業を目指す必要があるというわけだ。

 岡野氏が新しい取り組み例として紹介しているのが、アリババ経営のスーパーマーケット「盒馬鮮生」。「生鮮スーパー・プラス・レストラン」、「実店舗(オフライン)の顧客をネット宅配(オンライン)に誘導」、「オンラインの顧客をオフラインのパートナー店舗に誘導」。こうした新しいモデル構築を狙って、従来のネット通販では難しいとされていた生鮮品市場への参入に挑んだのが「盒馬鮮生」だ。

「買った生鮮食品を好みの料理法を注文してその場で食事できる」、「アプリで店内の商品を注文でき、3キロメートル以内の地域なら30分以内で配達」、「巨大な店舗に倉庫の機能も持たせ、ネット宅配の拠点としても活用」。こうしたネットの効率性と実店舗の顧客体験・安心感を組み合わせ、エンターテイメント性も持たせる。さらにプラットフォーマーとして蓄積しているデータの分析から、出店場所を決め、顧客が別の店に行かないで済むぎりぎりの範囲で品そろえをする、という事業コンセプトを岡野氏は紹介した。

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ケーススタディの宝庫に学べ

 同時に岡野氏は、「盒馬鮮生」のような「ネットとリアルの融合」の取り組みは、地方出身者による宅配作業といった人海戦術に依存している現実を指摘し、プラットフォーマーが進める自動化・無人化で顧客要求をどこまでカバー出来るかが着眼点になることに注意を促した。また、「データ駆動型の小売業、製造業再構築」の取り組みについて、中国プラットフォーマーもリアルでの経営力に課題意識を持ち、日本のコンビニ等を訪れてサプライチェーンの全体最適化などを学ぼうとする動きがあることも指摘した。

 さらに、サービス、製品を地道に創るよりも短期・効率的にもうけたいという中国企業人に多く見られる思考行動に、中国人自身が問題意識を持ち始めている旨を紹介し、海外市場で継続的に大きな影響力を維持するためには、まずは中国国内でこうした思考行動を変革することが必要ではないかとの見方も示した。

 こうした中国の実情を紹介した上で岡野氏は、日本企業に対し次のように提言して、講演を締めた。

 中国のプラットフォーマーは、リアルへの対応、消費者の高い要求レベルに合う製品・サービスへの対応を迫られている。一方、伝統的な中国企業と同様に日本の企業は、自分たちの持つリアルの強みにプラットフォーム的要素をいかに取り入れるかが問われている。プラットフォームモデルの自社ビジネスへの活用を図る、あるいは中国企業との補完関係による事業の創出を目指すといった取り組みが考えられる。プラットフォーマーとのぶつかり合いがこれから起きてくるだろう。自社の強みを再定義した上で、自社の立ち位置を明確にすることが求められる。ケーススタディの宝庫である中国市場の先行事例から学ぶことは多く、まずプラットフォーマーのビジネスモデルを理解することが必要だ。

(写真 CRSC編集部)

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岡野寿彦

岡野 寿彦(おかの としひこ)氏:
株式会社NTTデータ経営研究所グローバル金融ビジネスユニット シニアスペシャリスト

略歴

上智大学法学部卒業後、NTTデータにてSE、法務を経験した後、1995年より中国郵便貯金システム構築にプロジェクトマネジャーとして参画、北京現地法人経営。2004年よりインド、東南アジアでのITサポート事業開発責任者。2011年より上海にて、中国金融機関向けITサービスの事業開発を目的に、人民銀行直系企業グループとの資本提携に取組み、合弁会社(董事長は元浦東発展銀行頭取)に経営陣No2で経営参画。2016年からNTTデータ経営研究所にて、中国における現地化、合弁経営やデジタルビジネスをテーマに、企業人視点での分析・発信に取り組む。
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター「日中ビジネス推進フォーラム」研究員を兼務。

主要レポート

「デジタルの衝撃とチャイナインパクト」(NTTデータ経営研究所)
・デジタル化時代のチャイナ・インパクトを構造的に読み解く(全体観と分析視点の提示)
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