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【23-32】黄河の管理・利用にテクノロジーを活用

李 禾(科技日報記者) 2023年05月22日

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大きく蛇行して流れる黄河。(画像提供:視覚中国)

 黄河は、中国青海省巴顔喀拉(バヤンカラ)山脈に源を発し、山東省東営市墾利区から渤海に注ぐ。その間、青海省や四川省、甘粛省、河南省など9省・自治区を「几」という字を描くように流れている。これらの地域は中国の重要な生態安全障壁であり、人々の活動と経済発展における重要エリアとなっている。

 2012年の中国共産党第18回全国代表大会以降、黄河の管理・保護は世界的に注目される成果を挙げている。また、その生態環境は明らかに回復し続け、水や砂に関する問題の改善でも目立った成果が見られている。洪水防止・減災体制がほぼ確立され、黄河は20年連続で流れが枯れていない。

 山東省にある黄河デルタ国家級自然保護区の湿地では、生い茂ったススキが光を浴びて輝き、鳥の群れが上空を舞う美しい景色が広がっている。湿地修復プロジェクト特別チームの王立冬エンジニアは、毎年3月から7月にかけて、黄河の水量や湿地の需要に合わせ、保護区内の湿地に補水するという重要な取り組みを行っている。黄河の生態補水や湿地修復に関するプロジェクトの実施により、同保護区は鳥類の楽園となっている。

 4月1日には「黄河保護法」が施行された。同法では、国が黄河流域の生態保護・回復、水資源の節約・統合利用、水や砂の移動・調整、黄砂対策、泥・砂の総合利用、河川の流れや河道変化、水土保全、水文、気候、汚染対策などの面で重要なテクノロジー問題の研究展開・支援を行い、協同イノベーションを強化するとともに、重要技術の研究を推進し、先進的な適用技術の応用を推し進め、テクノロジーイノベーションのサポート能力増強に取り組むと打ち出している。

回復続く黄河の生態環境

「黄河寧、天下平(黄河が平穏であれば、世の中も平和)」と言われるように、黄河は保護と管理が重要である。

 2022年9月、中国生態環境部(省)が打ち出した「黄河生態保護管理難関攻略行動案」は、黄河生態保護管理の弱点や不備に焦点を当てている。黄河生態系の安全保護を目的とし、生態環境の品質改善を中心に、「川・湖の生態保護管理」「汚染削減と二酸化炭素排出削減の相乗効果」「都市部環境管理施設の弱点補強」「農業農村環境管理」「生態保護回復」という5つの重点難関攻略行動のほか、具体的任務23項目を計画し、第14次五カ年計画(2021~25年)期間中の黄河生態保護管理事業における「スケジュール表」「ルートマップ」「施工図」となっている。

 科技部がその後、打ち出した「黄河流域生態保護と質の高い発展のテクノロジーイノベーション実施プラン」では、「水の安全保障をめぐる重要技術難関攻略行動」など6つの行動を通じ、テクノロジーイノベーションが黄河の保護・管理におけるサポート的かつ牽引的な役割を果たし、源から河口までの全域で科学的管理を推進するとしている。

 山・水・森林・田・湖・草・砂の保護・回復の推進に伴い、黄河流域の土壌浸食防止は明らかな成果を挙げている。水利部黄河水利委員会が発表した「黄河流域水土流出防止公報(2021年)」によると、黄河流域の土壌浸食防止面積は概算で累計25万9600平方キロとなっており、黄河流域の水土保全率は1990年の41.49%から2021年には67.37%まで上昇した。

 生態環境部のデータによると、2022年、黄河流域の地表水調査断面のうち、水質が優良(1~3類)とされた断面の割合は87.5%で、前年比5.6ポイント上昇した。また、黄河の本流では初めて全線の水質が2類となり、中国の水生態環境における品質改善目標の順調な達成を後押しした。

ハイテクによる黄河の「健康診断」

 大きな川の管理は、川が平穏であることが第一条件となる。黄河の平穏を保つためには、堤防に頼るだけでなく、人や技術にも頼る必要がある。

 山東省済南市槐蔭区の黄河河務局北店子管理区間水害対策作戦室では、区間責任者の李煜氏が、カメラの映像を通じて川の様子を監視していた。マウスを動かすことで、川全体の流れといった大きなものから、量水標のメモリといった小さなものまではっきり見ることができる。

 同局の張新局長は「全天候型で無死角の全体監視カメラを使いつつ、ドローンと作業員による点検を同時進行で行っている。監視カメラ、ドローン、作業員による、空中と地上、人と機械を組み合わせた、立体的で交差型の河川監視スタイルを徐々に構築している。以前は、作業員による監視だったが、今は、技術者がリアルタイム映像やドローンの映像を通じ、水位や水量などを分析し、潜在リスクや弱点を予測し、問題を発見したら速やかに解決できるようになっている。作業が的確かつ効率的、円滑かつ安全になり、作業員の負担も軽減した」と説明した。

 黄河の平穏を保つためには「汚水排出口の徹底調査」も必要となる。

 2020年初め、黄河流域の汚水排出口調査テスト事業が始まった。現在、この「精度が最高レベル」と言われる黄河の大掛かりな「健康診断」は半分を過ぎ、緻密で質の高い黄河の管理は、新たな段階に入っている。

 生態環境部が発表した「川(海)に流れ出る汚水排出口の3段階精査技術ガイドライン」によると、精査作業は「ドローンによる観測、現場を歩きながらの精査、品質管理難関攻略検査」の3段階で実施され、全工程で6回の水質管理が行われる。

 第1段階では、ドローンリモートセンシング観測により、分解能が最大0.1メートルのマップ上で、汚水排出口や敏感ポイントの可能性がある場所をチェックする。また、地域の過去の汚水排出口データやパイプ網の情報を整理して関連の場所を確定し、スマートフォンアプリを通じて、現場の作業員に情報を送る。第2段階では、作業員が川岸1キロごとに現場を歩き、送られてきた場所情報の確認を行うほか、ドローンでは確認できない橋の下や林、水の中に埋もれている汚水排出口の精査を行う。第3段階では、第1~2段階の精査で漏れた汚水排出口を調査し、特にハイテクを駆使して、人が行くことのできない場所を精査する。「チェックすべきものはすべてチェック」して「汚水排出口の徹底調査」を行い、汚水排出口の「1枚のマップ」から全体像を把握できるよう取り組む。

 生態環境部・生態環境執法局の史慶敏副局長は「現場調査を行うグループは、ハイテクを駆使し、調査を地道に進め、調査対象エリアの汚水を川に流している汚水排出口に対する徹底精査を行う。汚水排出口の調査は、作業員が川岸を歩いて行うほか、ドローンや無人リモコンボート、全地形対応型ロボット、赤外線イメージ、埋もれているパイプの探査装置、水質の蛍光分析による汚染源追跡装置といったハイテク装置も駆使して行う必要がある」と説明した。

技術の高度化が黄河流域の水資源不足解消に貢献

 中国生態文明研究・促進会会長で、生態環境部元チーフエンジニアの張波氏は「黄河流域の基本的な管理方式は他の河川流域と同じだが、黄河ならではの管理の特徴もある。黄河の水資源不足は、突出した生態的な問題だ」と指摘した。一連のデータからも黄河流域の水資源が不足していることがはっきりと分かる。水資源総量が長江の7%に過ぎないものの、中国の人口の12%、耕地の17%を抱える大・中50都市以上への水供給を担っている。また、水資源の利用率は80%に達しているが、1人当たりの水資源賦存量は全国平均水準の27%にとどまっている...。

 これについて張氏は「水に基づいて都市、地域、人、生産を設定する」という理念に従い、黄河流域の水が不足しているエリアにおいて、水を大量に使用する業界が発展しているという現状を変えなければならない」と訴えた。

 黄河流域は、中国で石炭生産のポテンシャルが最も高い地域で、年間生産量は中国全体の70%を占めている。また、国が定めた大型石炭生産拠点14カ所のうち、9カ所が黄河沿いに分布している。

 石炭1トンの採掘には平均約2トンの水資源が必要だ。水資源不足と環境キャパシティーの限界という問題に直面し、石炭採掘業界と石炭化学工業業界は技術の高度化や産業のモデル転換を行う必要があり、節水などの先進的な工法・技術の応用が非常に重要となっている。

 中国煤炭加工利用協会の張紹強理事長は「水を大量に利用する産業のモデル転換において、各企業が多くの技術的模索や産業の高度化に取り組んでいる。例えば、寧夏宝豊能源公司はグリーン水素やグリーン酸素と石炭化学工業の組み合わせの模索を大規模で行っている。また、中煤エネルギー集団は、陝西省楡林市で『グリーンメタノール』と『グリーンアンモニア』生産拠点建設モデルプロジェクトを実施し、国家エネルギー集団や延長石油集団は、二酸化炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトを開始している」と説明した。

 黄河流域の石炭採掘エリアの発展について、中国工程院院士(アカデミー会員)で、中国鉱業大学(北京)教授の彭蘇萍氏は、「深い谷がある地帯では、採掘エリアの環境や生態系の再生を通じて、人工湿地や湖を作ったり、耕地・草地・森林エリアを構築し、生態系再生を中心とした農林観光や農業生態エリアができる。黄土高原では、現代化農業体験と有機グリーン農産物拠点を構築し、土地の効率的な利用や農産物の効果的な増産が可能となる。砂漠地帯では、ドローン播種や生態モニタリング重要技術を活用し、生薬栽培モデルエリアが構築できる」との見方を示した。


※本稿は、科技日報「科技助力,治好用好黄河水」(2023年4月12日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。