【23-76】新たな城中村再開発は低迷する不動産市場の起爆剤になるか
陳惟杉/『中国新聞週刊』記者 脇屋克仁/翻訳 2023年11月16日
中国の大都市には至るところに「城中村」とよばれる貧困農村地区がある。これまで「再開発」といえば、家屋をすべて取り壊し、住民を立ち退きさせるのが普通だった。しかし、今回の新たな城中村再開発は様相が違う。果たしてそれは不動産景気回復のきっかけになるのだろうか。
広東省広州市番禺区鐘村。(2022年5月28日撮影、写真:視覚中国)
河南省鄭州市の幹線道路、鄭汴路。道の南側には河南省人民検察院があり、その向かいは非常に人気がある分譲住宅ビルだ。このビルの高層階から南側を望めば、近くに赤い屋根の戸建てが密集したエリアがみえる。地元の人なら「あれは村民の家です」と言うだろう。
都市に散在するこうした農村は急速に発展する市街区に取り囲まれ、「都市のなかの農村集落」を形作っている。村民自らが建てた住居が密集していることが多く、しかもほとんどが賃貸に出されている。中国の都市部では決して珍しくないこのような「城中村」の、新たな再開発が今まさに始まろうとしている。
7月21日、李強首相主催の国務院常務会議で「超大都市・特大都市での『城中村』再開発の積極的かつ安定的な推進に関する指導意見」(以下「指導意見」)が審議可決された。超大都市・特大都市での積極的かつ着実な城中村再開発は、国民生活の改善、内需の拡大、都市部の質の高い発展の推進を図る重要な取り組みであること、再開発を求める声が多く都市の安全とソーシャル・ガバナンスに潜在的危機が多い城中村の再開発に優先的に着手すること、そうやって一つひとつ着実に成果を積み重ねていくことが会議で確認された。
7月24日の中央政治局会議でも、保障性住宅〔政府補助がある低中所得者用住宅〕の建設と供給を強化し、城中村再開発と「平時・災害時両用」の公共インフラ建設を積極的に進めなければならないこと、各種空き不動産をリニューアルして再活用することが確認された。
いずれの会議でも城中村再開発の推進が提起されている。これは、今回の再開発に全力をあげて取り組むというシグナルとみてよいだろう。
再開発の規模
過去の「棚戸区〔バラック地区〕改造」と違い、今回の城中村再開発は超大都市・特大都市に集中している。国務院が出した「都市規模の区分け基準調整に関する通知」によると、常住人口1000万人以上の都市が超大都市、500万人以上1000万人未満が特大都市だ。
現在、超大都市は上海、北京、深圳、重慶、広州、成都、天津の7都市、特大都市は武漢、東莞、西安、杭州、仏山、南京、瀋陽、青島、済南、長沙、ハルビン、鄭州、昆明、大連の14都市である。
不動産市場の低迷期に政策担当者が城中村再開発を推し進めるのは、間違いなく住宅市場活性化の起爆剤にしたいからだ。外部の関心もこの点に集まっている。
城中村再開発はこれまでも各地で推進されてきた。数十年前から取り組みを始めており、すでにピークを過ぎている都市もなかにはある。
例えば、杭州市は2004年にすでに「『撤村建居』〔村を都市の行政単位である居民委員会に転換させる〕と城中村再開発を引き続き高度に展開することに関する実施方針」を出し、2016年には「都市中心部の城中村再開発――堅塁攻略5カ年行動」をスタートさせている。第13次5カ年計画(十三五)の期間中に都市中心部246の城中村の再開発を完了する目標だったが、2020年には、市全体で266の再開発に着手しており、市中心部の「城中村」再開発はおおむね完了しているといっていい。
国務院所属の各部各委員会がここ数年に出した文書をみると、城中村再開発を「都市再開発」という大きな括りの下に位置付けているものが多く、「三区一村」として旧小区・旧工業地区、旧街区などの再開発と並列に扱っているものが多い。国家発展改革委員会は2021年、新たなタイプの都市化と都市・農村の融合的発展の重点任務として、この「三区一村」改造をメインとする都市再開発行動の旧市街地での推進をあげている。
「都市再開発といっても実際のところ、都市によって、また城中村によって重点や方法は異なる。例えば、北京市の東西の街区には老朽化した平屋建てのエリアがいくつかあるが、取り壊し・強制立ち退き方式から明け渡し申請式にだいぶ前から変わっている。明け渡し――退去者用住宅への引っ越しはあくまで住民本人の意思に基づいておこなわれ、城市建設投資公司〔各大都市にある政府の投資・融資プラットフォーム。特殊な市場経営体。以下「城設公司」〕が住宅開発からその後の管理までを請け負っている」。北京市再開発プロジェクトに参加した「城設公司」の担当者はそう話す。住民の保護と総合的なガバナンスを通じた生活環境の改善に重きをおいた再開発プロジェクトといえるだろう。
一方、この7月末、国務院常務会議、中央政治局会議のレべルで城中村再開発が個別にフォーカスされたということは、明らかに指導者層がこれを重視しているということだ。現下の不動産市場低迷状況と結びつけるならば、今回の城中村再開発を「再びの『棚改』〔貧困バラック地区の住居改善〕」とみるのは難しくない。
2008年の世界金融危機で政府は、都市、国有鉱区、国有林区(営林場)、国有開墾区(農場)などの貧困バラック地区の「改造」を全国レべルで大掛かりに推進し、これを保障性安居プロジェクト〔低額分譲住宅地開発〕の重要な一環にした。とくに「十三五」期間は「棚改」の目標が2000万戸と定められ、最終的に2016年から2020年の8月までに全国の各種バラック地区2300万戸の「改造」がおこなわれ、目標を大幅に超えた。
しかし、超大都市・特大都市に絞った今回の城中村再開発は、都市の大小を区別せず全面的に展開した、かつての「棚改」とは明らかに異なる。超大都市・特大都市への集中は、中国不動産市場のいまの需給関係により合わせたものだともいえるだろう。
上海金融・法律研究院の劉遠挙氏は、一線都市への人口集中にともない、三・四線都市の不動産市場は過剰在庫、価格の高騰、債務リスクといった問題をかかえているが、逆に一線都市の不動産供給は需要に追いついていないと指摘。今回の城中村再開発の方針は、大都市への人口集中という経済法則に従っているとの見方を示した。
同時に、城中村再開発=「大々的に取り壊し、大々的に建設する」というわけでもない。
住建部が2021年に出した「都市再開発における大規模取り壊し・大規模建設を防止することに関する通知」では、現状の家屋を全面的かつ集中的に取り壊すことはせず、1ブロック(区域)または1事業あたりの取り壊しは原則として現状家屋の総面積の2割以下にとどめることが強調されている。再開発エリア単位または事業単位の解体・建設比を原則2未満とすべきということだ。「改造」といってもその度合いは外から想像するほど激しいものではないようだ。いくつかの都市が公開している城中村再開発案をみると、全面改造型と総合整理型〔保留・コントロール型〕の併存が多い。
例えば、済南市の「都市再開発特別計画2021-2035」には「様々な再開発方法によって城中村改造を進める」とあり、市内中心部2つの環状道路の内側で、都市建設重点地区にあたるエリアと重要施設の建設に関係するエリアの城中村は解体・再建方式を採り、他の一般地区の城中村は総合整理型でインフラの改善、潜在的な危険の除去、公共サービス施設の増設、空間品質の向上、住居環境の改善に努めるとある。
また、青島市の城中村に対する計画〔済南市と同じ時間的スバン〕には「解体・再建を主としつつ、補助的に改造・向上をおこなう」とある。一方、成都市の再開発計画〔2022年から2025年〕は、「解体を減らし、改造を増やし、現状の継承に重きをおく」原則に則って市内31の城中村を再開発するとしている。
7月末からすでに、今回の城中村再開発に対する外部の期待は過剰に高まっており、本年の投資規模は平均で1兆元になるとの見積りもある。しかし、華泰証券の研究レボートは、規模とサイクルの点で、城中村再開発は利益を回収するのに長い期間を要するため、短期的な規模を誇大宣伝するのはよくないという認識だ。
とくに今の不動産市場を取り巻く状況を考えれば、重要な問題は誰が城中村の再開発を担うのか、ということだ。
再開発の担い手は?
鄭州市の最も有名な城中村・陳砦は「小香港」ともよばれ、市外から流れてきた人々が最初に住み着いた地区だ。面積0.6平方キロに800以上の家屋が建ち並び、18万人が密集して暮らしていた。2012年から2016年の期間、鄭州市は第3環状道路〔市中心部内側から3番目の環状道路〕内の城中村をすべて取り壊すというスローガンを出した。そのため「小香港」もしだいに消滅していった。
2021年3月19日、爆破解体される河南省鄭州市陳砦村の高層建築。(写真:IC)
この陳砦のすぐ近くが金水昇竜広場だ。数年前の不動産整理事業の一環である「名称の西洋化」で「マンハッタン広場」という名前に変わり、いまはこの名前のほうが通っている。鄭州市の城中村再開発事業では最も早く取り組まれたものの1つで、福建省系の不動産開発企業・昇竜集団が開発を手掛けた。
「誰が城中村再開発の舵取りをしているのかをみれば、その地の不動産業界の変遷がある程度わかる。2010年まではたくさんの福建省系企業が鄭州に押しよせた。しかし、いまの陳砦再開発の主役は地元鄭州の不動産企業・美盛置業だ。美盛はいまもって健全な経営を保っている数少ない民営不動産企業だ」。鄭州市のあるべテラン不動産コンサルタントはそう話す。
たしかに「指導意見」には「リソース配置を決定する役割を市場が十分に発揮する」とあるが、はたしてどれだけの不動産企業が城中村再開発に参加する意志と力量があるのか、業界内に心配する声は多い。
すでに経営危機に陥っている不動産企業にとって、これまで参加してきた城中村再開発、都市再開発事業は、今後巻き返しのきっかけにならないとも限らない。恒大集団は今年6月30日時点で78の老朽化不動産改築事業〔以下「老改事業」〕に参加しており、そのうちの34が深圳市だ。「老改事業は収益のサイクルが長いので、本来は経営危機になったらすぐにでも手放すべきだ。しかし、恒大が数多く抱える三・四線都市の事業に比べると、深圳の老改事業は価値があり、関連する資金規模も大きい。加えて恒大の売り惜しみを考えると、老改事業の放出は簡単ではない」。業界関係者はそう分析する。
今年4月、いくつかの一般競争入札が公告されたおかげで、恒大所有の深圳市龍崗区四聯社区排榜村再開発事業が深鉄置業に引き継がれることが明らかになった。事業投資総額は464億元を超える。排榜村は2016年末の時点ですでに「2016年深圳市都市再開発ブロック計画第6期計画」に組み入れられており、しかも、解体・再建面積約50万6000平方メートルは同村が所属する地区のなかでも最大の老改事業だった。これまでに、招商蛇口や市政府の不動産救済プラットフォーム・安居建業投資運営有限公司も、深圳市に多数ある恒大の老改事業を引き継いでいる。
民営不動産企業に比べて中央企業・国有企業・開発公司が、今回の新たな城中村再開発でより大きな役割を果たしているのは明らかだ。しかし、政府系の不動産開発企業である広州市の越秀地産にしても、同市の今年の城中村再開発投資が983億元に達するのを目の前にしたとき、はたしてこのバイに手を出していいのか慎重にならざるを得ない。
越秀地産の総経理である林峰氏は8月末の業績会議の席上、率直にこうもらしている。「都市再開発事業のサイクルは長い。また、新築市場と違って立ち退きや移転の問題もからんでくる。したがって、リスクコントロールが先決になる。都市再開発事業に対してわれわれが求める投資水準は公開市場や一般競争入札で開示されているものより高い。例えば、純利益率、粗利益率はもっと高くないと損失限度額を担保できない。つまり、リスクが防げなくなるということだ」
老改事業には慎重な見極めが必要だという認識だ。立ち退きの難度はどれくらいか、再開発地区に将来の発展のボテンシャルがあるのか、その都市の産業、人口、資源、公共設備が一体的かつ重点的に投入される地域なのか......。
「城中村再開発は強力な政府主導型であるとはいえ、開発業者がその土地を落札するのは企業行為であり、立ち退きを始め投入コストは多く、収益サイクルは長いとなると、老改事業に参加したおかげで資金繰りが悪化した企業がこれまであったのも理由がないことではない」。前述の城設公司の担当者はそう話す。
華泰証券の研究レボートは次のように分析する。いまのところ、民営不動産企業のキャッシュフローはひっ迫した状態が続いており、緩和は先の話になる。また、住宅販売が弱体化している状況で、債務返済リスクはさらに上昇するかもしれない。したがって短期的にみれば、民営企業が城中村再開発事業に実施主体として入札する積極性は低いだろう。しかし、ゼネコン・エージェントに外注する、管理会社にサービス部門を委ねる、既存分譲住宅を買い戻して保障性住宅にするなど、様々なルートを通じて参加する可能性はある。結局、政府系の大手不動産開発企業が城中村再開発の今後の主力になっていくだろう、と。
「新たな城中村再開発には、主導権が民営企業から国有企業に移っていること、単純な家屋の解体・再建から総合開発型(市行政と公共サービスで問題点を解決するなど)に変わっていること、完全市場化から公共的性格に回帰していることといった、いくつかの新しい特徴がある。したがって、再開発に要する資金は莫大で、しかも満期ミスマッチが深刻になる。後半になると、経営による資金回収にせよ土地を売っての資金回収にせよ周期が非常に長く、不確実性も大きくなる。売れるかどうかさえも確実ではない。そうなると、資金問題の解決、満期ミスマッチの解決が最大の懸案事項になる」。広東省計画不動産政策研究センターの首席研究員を務める李宇嘉氏はこう説明してくれた。
「再開発の担い手は誰で、金はどこから来るのか」、この問題の背景をたどっていくと、やはり「土地を収用して解体・立ち退きをおこなう」というこれまでの開発ロジックに従う必要があるのか否か、農村の集団建設用地〔中国の農村の土地はすべて集団所有、住宅用地、公共施設用地、工業用地を総じて建設用地といい、転売・転用に厳しい規制がある〕の市場化は実現できるのかといったテーマにつきあたる。これらも今回の城中村再開発に対する外部の期待が集まる点だ。
2022年8月28日、広東省広州市茘湾区の茶滘城中村再開発事業では83戸の立ち退き者用住宅が
順調に引き渡された。(写真:視覚中国)
中国不動産開発集団有限公司〔中房集団〕の元党委員会書記兼理事長の孟暁蘇氏は、今回の新たな城中村再開発が「農村の集団所有地も都市の国有地と同様の権利と市場価値を有する」という考え方にとって追い風となることを期待している。同氏は次のように書いている。今後の「城中村改造」は、政府が土地を収用・国有化する従来の形式だけではなく、〔農村の〕集団建設用地を国有地と同じく「市場化し、同等の権利と価値を有するものとして扱う」方式が採られていいはずだ。そうすれば農村の集団建設用地の有効活用になる。また、都市と農村の二極化構造を徐々に打破していくことにもなるだろう。その結果、農民の財産は価値が上がるし、都市と農村の融合的発展にも拍車がかかるはずだ、と。
国有地の不動産は売買可能だが、農村の集団建設用地の不動産は所有する集団内部で移転・譲渡することしかできない。こうした都市と農村の厳格な二極化構造が、集団建設用地の賃貸住宅を置き去りにしている。北京市は2010年という早い時期から集団建設用地の公共賃貸住宅を活用する試みを始めている。2017年になると、13の都市で同様の試みが始まった。
この北京市の試みを、国務院発展研究センター農村経済研究部第3研究室の伍振軍副主任が調査している。それによると、保障性住宅建設事業の土地問題、資金問題解決に効果があったとされている。「土地を収用して補償金を出すよりも、農村集団建設用地の賃貸住宅を活用する方が、土地の収益性が高くなる」
「房票」の意義
城中村再開発に市場が活気づいているのは、その投資規模の大きさが投資と経済にプラス効果をもたらすからだけではない。現下の住宅ニーズの低迷を回復する手段としてもみられているからだ。立ち退き者用に住宅を建設するにしても、立ち退き者に住宅購入資金を補償するにしても、新たな住宅ニーズを生み出す結果につながるからだ。
2015年も不動産市場は苦境に陥った。そのとき最終的に住宅市場が回復したのは、まさに「棚改」があったからだ。特にこの時の「棚改」は立ち退き者に補償金をだしたことが大きかった。「現金補償とセットの棚改」とはつまり、政府部門が直接、現金の形で立ち退き住民に補償をおこなうものであり、立ち退き住民は不動産市場であらためて家屋を購入することになる。
広東省東莞市東城街道、解体中の城中村・火錬樹社区。(2023年8月15日撮影。写真:視覚中国)
住建部で部長を務めたことがある陳政高氏は、この方式は第1に効率がいいという。バラック地区からの立ち退き後すぐに新しい住居に住めるからだ。新たに家を建てるとなると少なくとも3年ないしは4年待たなければならない。第2に、選択の自由ということを指摘する。どの地域に移るのか、どのフロアに住むのか、新築にするのか中古にするのか、管理会社はどこを選ぶか、自由に選べるということだ。
2014年、全国の「棚改」に占めるこの現金補償方式の割合は9%だったが、翌年には29.9%に上がり、さらにその翌年には48.5%にまで上がった。政府の公式統計によると、2016年はこの現金補償方式のおかげで、地方の2.5億平方メートルの住宅在庫が消化されたという。2017年から住建部は現金補償方式の割合を公表していないが、その在庫解消効果は推して知るべしだろう。
今回、新しく発行される「房票」〔住宅購入券〕が同様の効果をもたらすのではないかと外部は期待している。現在、ネット上で流通している「広州市城中村再開発房票安置実施弁法(建議稿)」(以下「建議稿」)にはすでに具体的に「房票安置」〔安置は人や物をある場所に落ち着かせるという意味、住宅購入券を発行して立ち退き者に移転先住居を補償するということ〕の中身が書かれており、それが今後事実となって現れてもくるだろう。
「房票」とは、被収容者〔立ち退き者〕の住居移転にかかわる補償権益を金銭的に計算した後、収容者が被収容者に発行する移転先住居購入用の決済証書のことであり、従来の現金補償方式の進化バージョンといえる。
建議稿には、広州市行政区内の各種城中村再開発事業の立ち退き・移転にこれが適用されるとある。政府主導の一括土地買い上げ・計画的整備の場合も対象になるし、「三旧」〔旧住宅地、旧工業地、旧商業地の再開発〕といわれる再開発も対象になる。つまり様々な城中村再開発事業に適用されるということだ。各行政区が発行した「房票」は原則として同一区内の住宅購入にしか使えない。同一区内の住宅リソースが立ち退き者のニーズを下回る場合は、市政府に申請して検証と同意を経た後、広州市内の他の行政区でも使用することができる。
「房票」の額面に記載された金額には、基礎となる補償金以外に政策的報奨金なども含まれている。資金源という点では、政府部門が不動産デべロッバーと協力して、分割支払い方式で負担すると、建議稿には書かれている。立ち退き者が移転先住宅を契約した時点で額面金額の1割、城中村の土地整備が完了した時点で額面の2割、城中村の土地が分割譲渡された時点で残りの7割を支払うという方式だ。この「房票」事業に参加する不動産デべロッバーは、企業側の志願を原則とし、公開で募集される。中央企業、国有企業、さらには実力のある民間企業が積極的に参加することが奨励されている。
現在のように住宅市場が下降サイクルに入ってから、地方政府の政策ツールとして「房票」が出てきたのはこれが初めてではない。鄭州市は昨年6月に「大棚区改造項目房票実施弁法」を出している。しかし、現実の情勢からみると、「房票」政策はまだ市場に有効な回復効果をもたらしていない。
中国指数研究院の統計によると、鄭州市が「房票」政策を始めた最初の月、つまり昨年7月、市の商品住宅の売上戸数〔週間平均〕は、6月第3週までの平均1191戸から1016戸に下がっており、伝統的に売上が伸びる6月に短期的に回復してからまた下がっていることになる。「房票」政策が住宅契約数の引き上げに効果を発揮している様子はみえない。
しかし、再開発資金問題の解決という点からみると、「房票」には他にはない価値がある。李宇嘉氏は次のように説明する。「房票」方式だと再開発主体が解体・移転費用または立ち退き者用住宅建設費用を負担する必要がない、これが1つの側面。もう1つの側面は、デべロッバーの納品(房票を使用した立ち退き者の移転先住宅の決定)から決算までのリードタイムを引き延ばすことができる――成約時に1割、土地整備完了時に2割払えばよい――ことだ。そうなると、事前にある程度まとまった資金を用意すればあとは資金に悩む必要がない。その上、資金を市場化資金(信託、プライべートファンド、再開発貸付金など)から公共資金(特別債権、再開発基金など)に振り替えれば、融資コストは下がる。こうして資金圧力は大幅に低下する、と。
「房票」が使える対象に中古住宅も含めて、新築・中古両方の在庫解消に明確な効果を発揮させることができれば、住民の多様なニーズにも対応できるし、再開発コストを引き下げることもできる――これが李宇嘉氏の意見だ。
※本稿は『月刊中国ニュース』2023年12月号(Vol.140)より転載したものである。