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【24-03】2023年中央経済工作会議を読み解く(その1)

2024年01月19日

田中修

田中 修(たなか おさむ)氏:
拓殖大学大学院経済学研究科 客員教授
財務省財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信州大学経済学部教授、内閣府参事官、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を歴任。現在、財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)。2018年4月~22年3月奈良県立大学特任教授。2018年12月~23年3月ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員。2019年4月~拓殖大学大学院経済学研究科客員教授。2024年1月~三井物産戦略研究所特別研究フェロー。学術博士(東京大学)

はじめに

 12月11-12日、党中央・国務院共催による中国経済工作会議が開催され、習近平総書記が重要講話、李強総理が総括講話を行った。以下は、会議の概要である。なお、重要なフレーズは太字で示している。

1.2023年の回顧

 今年は第20回党大会精神を全面貫徹するスタートの年であり、3年間の新型コロナ感染症対策のステージ転換後、経済が回復・発展した1年であった。

 習近平同志を核心とする党中央は、全党・全国各民族・人民を団結させリードして、外部の圧力に耐え抜き、内部の困難を克服し、改革開放を全面深化させ、マクロ・コントロールを強化し、内需を拡大し、構造を最適化し、自信を奮い立たせ、リスクを防止・解消することに力を入れ、わが国経済は回復上昇・好転し、質の高い発展が着実に推進された。

 現代化産業システムの建設は重要な進展をみて、科学技術イノベーションは新たなブレークスルーを実現し、改革開放は縦に深く推進され、安全保障と発展の基礎が強固に打ち固められ、民生保障は有力・有効で、社会主義現代化国家全面建設は堅実な歩みを踏み出した。

(留意点)
 新華社北京電2023年12月13日の中央経済工作会議側記(以下「側記」)によれば、習近平総書記は、11日午前の全体会議で、「この一年、わが国の発展が直面する情勢は錯綜し複雑であり、国際政治経済環境の不利な要因が増大し、国内の周期的・構造的矛盾が重なり、波風が激しいだけでなく、暗流が逆巻いた。この一年、コロナ感染症対策が平穏にステージを転換して後、わが国の経済は波浪型の発展・曲折型の前進で、年間では前半は低く、中盤は高く、後半は安定の態勢を示し、成績は称賛に値するものであった」と総括している。

 経済の回復上昇・好転を一層推進するには、いくらかの困難・試練を克服する必要がある。それは主として、有効需要が不足し、一部業種の生産能力が過剰で、社会の予想が弱気で、潜在リスクが依然かなり多く、国内大循環に目詰まりが存在し、外部環境の複雑性・峻厳性・不確定性が増大していることである。

 憂患意識を増強し、これらの問題に有効に対応し、これを解決しなければならない。総合的に見ると、わが国の発展が直面する有利な条件は、不利な要因よりも強く、経済が回復上昇・好転し、長期に上向くというファンダメンタルズに変わりはなく、自信・気力を増強しなければならない

(留意点)
 これまでの「三重の圧力」(①需要の収縮、②供給へのダメージ、③予想の弱気化)という表現はなくなり、生産能力の過剰・潜在リスク・国内大循環の目詰まりが指摘されている。「側記」によれば、習近平総書記は「我々が直面しているのは前進中の問題であり、経済が回復上昇・好転し、長期に上向くというファンダメンタルズに変わりはなく、自信・気力を増強しなければならない」と述べている。今回の会議では、「自信」「気力」「活力」という言葉が目立つ。

 近年、党中央の堅固な指導の下、我々は国内・国際の2つの大局を有効に統一し、感染症の防御と経済社会の発展を統一し、発展と安全保障を統一し、新時代の経済政策取組みの法則性の認識を深めた。

①質の高い発展を堅持することを新時代の絶対的道理とし、新発展理念を完成・正確・全面的に貫徹し、経済の質の有効な向上と量の合理的な伸びの実現を推進しなければならない。

②サプライサイド構造改革の深化と、有効需要の拡大への注力に協同で力を発揮することを堅持し、超大規模市場と強大な生産能力の優位性を発揮させ、国内大循環を内需の主動力(中心となる力)の基礎の上に確立し、国際循環の質・水準を高めなければならない。

③改革開放に依拠して発展の内生動力を増強し、深層レベルの改革とハイレベルの開放を統一的に推進し、不断に社会の生産力を解放し、社会の活力を喚起・増強しなければならない。

④質の高い発展とハイレベルの安全保障の良性の相互作用を堅持し、質の高い発展によってハイレベルの安全保障を促進し、ハイレベルの安全保障によって質の高い発展を保障し、発展と安全保障を動態的にバランスさせ、相互に引き立て合うようにしなければならない。

⑤中国式現代化の推進を最大の政治とし、党の統一的な指導の下、最も広範な人民を団結させ、経済建設という中心の取組みと質の高い発展という第一の任務に焦点を絞り、中国式現代化のマクロの青写真を、一歩一歩素晴らしい現実に変えていかなければならない。

(留意点)
 この5項目が「5つの必須」とされている。①について、鄧小平は「発展は絶対の道理」であるとしたが、習近平総書記はこれを「質の高い発展は絶対の道理」と置き換えた。「側記」によれば、習近平総書記は「発展は党の執政興国の第一の要務であり、新時代の発展は質の高い発展でなければならない」と述べている。

 ②のサプライサイド構造改革と内需拡大の結合は、引退した劉鶴副総理が強調していたものである。「側記」によれば、習近平総書記は「内需拡大と供給最適化を統一的に推進し、両者結合の断裂・目詰まり・障害を打破し、超大規模な市場と強大な生産力の優位性を発揮させなければならない」としている。

 ③の改革開放について、「側記」によれば、習近平総書記は「改革開放というカギとなる一手をしっかり用いて、より大きな決意と力で改革開放を推進しなければならない」と述べている。

 ④について、習近平総書記はこれまで、たとえ発展を犠牲にしてでも、国家安全保障を最優先する考えだと見られてきたが、ここでは「相互に引き立て合うものだ」としている。

 ⑤では、中国式現代化を改めて重視している。これが欧米に対する中国の特色ある社会主義の優位性を示すものと考えているからであろう。

2.2024年の経済政策の総体的要求

 来年の経済政策をしっかり行うに際しては、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとして、第20回党大会・20期2中全会精神を全面貫徹実施し、安定の中で前進を求める政策の総基調を堅持し、新発展理念を完全・正確・全面的に貫徹し、新たな発展の枠組の構築を加速し、質の高い発展の推進に力を入れ、改革開放を全面深化させ、ハイレベルの科学技術の自立自強を推進しなければならない。

 マクロ・コントロールを強化し、内需拡大とサプライサイド構造改革の深化を統一し、新しいタイプの都市化と農村の全面振興を統一し、質の高い発展とハイレベルの安全保障を統一し、確実に経済の活力を増強し、リスクを防止・解消し、社会の予想を改善し、経済の回復上昇・好転の態勢を強固にし、増強して、経済の質の有効な向上と量の合理的な伸びの実現を引き続き推進し、民生福祉を増進し、社会の安定を維持し、中国式現代化により強国建設・民族復興の偉業を全面推進しなければならない。

(留意点)
 総体要求の中に「ハイレベルの科学技術の自立自強を推進」が初めて盛り込まれた。これを受けて、科学技術イノベーションが重点政策の筆頭に格上げされている。

「内需拡大とサプライサイド構造改革の深化の統一」について、国務院発展研究センターマクロ経済研究院第二研究室の李承健主任は、「現在、国内総需要の不足という矛盾が依然際立ち、資源環境の制約がタイト化しており、全要素生産性の向上が制約を受けている。需給両サイドで協同で力を発揮し、需要が供給を牽引し、供給が需要を創造するよりハイレベルの動態的バランスを形成し、国民経済の良性循環を促進することが必要である」と指摘している(新華社北京電2023年12月13日)。

3.マクロ政策の方針

 来年度は安定の中で前進を求め、前進により安定を促し、先に新制度を打ち立てて(「立」)から旧制度を廃止(「破」)することを堅持し、予想・成長・雇用の安定に有益な政策を多く打ち出し、(発展)方式の転換・構造調整・質の向上・収益の増大の面で積極的に前進を目指し、安定の中での好転の基礎を不断に強固にしなければならない。

 マクロ政策のカウンターシクリカル・クロスシクリカルな調節を強化し、積極的財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施し、政策手段の革新と協調・連携を強化しなければならない。

(留意点)
 昨年までは「『穏(安定・穏健)』の字を第一に、安定の中で前進を求める」と、「安定」が重視されていたが、今回は「前進により安定を促し」と「前進」も強調されている。「安定」を強調するだけでは、今の経済の停滞を脱することができないからであろう。

 また、「先に新制度を打ち立ててから旧制度を廃止する」は、2021年秋に地方が二酸化炭素の排出削減の実績を焦るばかりに、炭鉱・火力発電をストップさせてしまい、深刻な石炭・電力不足が発生したことを受けて、22年から環境対策の部分で言われていた表現である。これが、マクロ政策全般の思想に昇格した。

 国務院発展研究センターマクロ経済研究部の張立群研究員は、「これは成長の要因をより積極的に引き出すものである。いくらかの新たに生じたパワーについて、まず彼らの成長を奨励し、成長の中で問題を発見し、成長の中で規範化して、彼らをよりよく歩ませるのである」と説明している(新華社北京電2023年12月13日)。

 この「穏」と「進」、「立」と「破」の2対の言葉の弁証法的関係を重視することが、24年のマクロ政策の新たなシグナルとなっている。人民大学中国資本市場研究院の趙錫軍聯席院長は、「これは、経済政策に対する中央の認識がより系統的・完全・全体的になり、コロナ後の経済発展は穏と進、動と静の関係を把握して、経済の質の有効な向上と量の合理的な伸びをよりよく推進することを表明するものである」としている(新華社北京電2023年12月13日)。

 積極的財政政策は適度に力を加え、質を高め効果を増さなければならない。財政政策の余地をうまく用いて、資金の効率と政策の効果を高めなければならない。財政支出構造を最適化し、国家重大戦略任務への財政力保障を強化する。地方政府特別債を資本金に充てる範囲を合理的に拡大する。

 構造的減税費用引下げ政策をしっかり実行に移し、科学技術イノベーションと製造業の発展を重点的に支援する。移転支出資金の監督管理を厳格化し、財政経済紀律を厳格にする。財政の持続可能性を増強し、末端の「基本民生・給与・運営保障」の最低ラインをしっかり確保する。一般的支出を厳しく抑制する。党・政府機関は倹約を習慣づけなければならない。

(留意点)
 22年会議の「力を加え、効果を高める」から「適度」と質の向上が追加された。

 12月21・22日に開催された全国財政工作会議は、この表現の意味について、次のように解説している。

「適度に力を加える」とは、主として、

 1)適切な支出強度を維持し、積極的シグナルを発する。

 2)政府の投資規模を合理的に手配し、牽引・拡大効果をしっかり発揮させる。

 3)均衡性移転支出(日本の地方交付税に相当)を強化し、末端の「基本民生・給与・運営保障」の最低ラインをしっかり確保する。

 4)税費用政策を最適化・調整し、精確性・的確性を高める。

ことである。

「質を高め効果を増す」とは、主として、
1)倹約の要求の実施、2)財政支出構造の最適化、3)実績管理の強化、4)財政経済紀律の厳格化、5)財政の持続可能性の増強、6)政策の協同強化の6方面で工夫を凝らし、財政管理の法治化・科学化・標準化・規範化を推進し、同じ支出でより大きな成果を出すことである。

 穏健な金融政策は柔軟・適度で、精確・有効でなければならない。流動性の合理的充足を維持し、社会資金調達規模・マネーサプライを経済成長と物価水準の予期目標と釣り合わせる。金融政策手段の総量と構造の二重の機能をしっかり発揮させ、ストックを活性化し、効果を高め、金融機関が科学技術イノベーション、グリーン転換、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス、デジタル経済等の方面に対する支援を強化するよう誘導する。

 社会の総合資金調達コストの安定の中での低下を促進し、人民元レートの合理的な均衡水準での基本的安定を維持する。

(留意点)
 金融政策は22年会議の「精確・有力」に「柔軟・適度」が加わった。しかし、21年会議までは「柔軟・適度」とされていたので、新旧の表現が合体したことになる。

 これまでは、マネーサプライと社会資金調達規模の伸びを「名目成長率」と釣り合わせるとしており、23年第3四半期貨幣政策執行報告の表現も同様であったが、今回は「経済成長と物価水準の予期目標」に置き換えられた。これは大きな変更ではないが、全人代での物価水準の予期目標は消費者物価であり、これはGDPデフレーターと同じではないので、若干基準がずれることになる。

 マクロ政策は方向の一致性を増強しなければならない。財政・金融・雇用・産業・地域・科学技術・環境保護等の政策の協調・連携を強化し、経済以外の政策をマクロ政策の方向の一致性の評価に組み入れ、政策の統一を強化し、同方向に力を発揮し、シナジーの形成を確保する。経済の宣伝と輿論の誘導を強化し、中国経済光明論(中国経済の見通しは明るい)を鳴り響かせなければならない

(留意点)
 これまでも、財政・金融・雇用・産業政策の協調・連携は重視されてきたが、これに地域・科学技術・環境政策までが統合されることになった。社会科学院マクロ経済智庫研究室の馮煦主任は、「マクロ政策の方向の一致性を増強し、政策の連携・協調を強化することは、異なる政策の相互衝突あるいは『合成の誤謬』をもたらすことの回避に有益であり、さらには経営主体の積極性を動員し、質の高い発展を共に促すシナジーを形成することに有益である」と指摘している(新華社北京電2023年12月13日)。

その2 へつづく) 


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