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【24-12】香港から深圳へ。逆流する消費の流れ(その2)

李明子/『中国新聞週刊』記者 脇屋克仁/翻訳 2024年02月15日

中国本土、特に深圳の人々にとって「買い物」といえば香港、「代理購入」といえば香港で商品を買ってきてもらうことだった。いまは逆の現象が生じている。香港人が大挙して深圳を訪れ、週末ともなると深圳のショッピングモールは香港人であふれかえっているという。また、「逆代購」ビジネスも盛んだ。こうした状況は新たなビジネスチャンスにもなる。

その1 よりつづき)

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羅湖口岸(通関地)から深圳に入る香港人行楽客(2023年9月30日)。(写真/視覚中国)

「逆代購」ブーム

 深圳・香港間の往来が全面解禁になった10日後、SNSプラットフォームは「深圳から香港への逆代購」のスレッドであふれかえった。

 「これはいけるかもしれない」、小紅書(RED)のベテランユーザー小余さんも刺激を受けて、試しに何本か代購の投稿をしてみた。取り扱う商品はミルクティー、スイーツ、「周黒鴨」、「木屋燒烤」など十数点、香港MTR沿線各駅までデリバリーする。翌日にはすでに十数本の注文問い合わせが入り、デリバリーはボーイフレンドの鄭創釗さんに頼んだ。鄭創釗さんは「海底撈」の食品を持てるだけ持って一路香港へ、はじめて手にした儲けは百数十元だった。

 ほどなくして2人はデリバリーの大変さを思い知る。食品はつぶれないようにしなければならないし、飲み物はこぼれないようしなければならない。時間通りに届けるために乗車時間を綿密に調整する必要がある。また、香港MTRはいったん必ず改札を出ないと罰金を科せられる(改札内で受け渡しすることで運賃を払わない不正を防ぐため)。そうなると1日の儲けは水の泡だ。

「食品の代購に特別な技術はいりません。価格も明快だし、客がつくかどうかはサービス次第です」。自身も「グルメ」である小余さんは、お気に入りの店をみつけてSNSでメニュー写真をシェアするのが大好きだ。「逆代購」のお知らせは小紅書などのプラットフォームに不定期に出す。注文希望者にメッセージを送ったあと、微信(WeChat)でやりとりし、注文確定と同時にクーポンを発行する。さらに客を微信グループに勧誘し、「友情」を深めていく。代購をはじめてから半月ほどで注文は最初のピークを迎えた。1日30件、明らかに人手が足りない。小余さんは以前に香港で代購をしていた親友を仲間に引き入れた。

 コロナ以前、長い期間にわたって流行していたのは、中国本土の人間が香港に行って買い物することだった。「港代」(香港での代理購入)がホットなビジネスだったこともある。電化製品、機能性化粧品、ブランドバッグ......香港の代購商品は多種多様で、幾度にもわたって代購ブームを引き起こしてきた。

 そのなかでiPhoneや粉ミルクなど、密輸にも等しい並行輸入が問題になり、税関が頭を悩ませたこともあった。

 深圳の通関には、顔認証などの密輸取り締まりシステムがすでに設置されている。また、中国本土のeコマースが急速に発展し、「港代」の価格優位が失われていった。ECサイトの品ぞろえが充実し、配送がスピーディーになってくると、ますます「港代」の生き残る余地がなくなっていった。

 実は、往来解禁後最も早く「逆代購」に目を付けたのは、コロナ禍で職を失った「港代」たちだった。小余さんが仲間に引き入れたのもこうした人々だ。小余さんと組めば初期投資もいらないし、収入も安定する。彼らにもメリットがあった。

 小余さんと鄭創釗さんは、単純に人数を増やして商売を拡大するのではなく、なにかもっと違うことをやりたいと当初から思っていた。考えたのはクロスボーダー版の「美団」(フードデリバリーサービス大手)だ。

 マネジメントと営業は小余さんが、システム開発は鄭創釗さんが担当した。そして2023年7月、オンラインアプリ「OpenMeal開餐啦(開餐啦はLet's eatの意)」をリリース、メンバーも15人に増えた。

 注文をいかに効率よく集計して配送するか、これはきわめて複雑な仕事で時間もかかる。以前は店のメニューの写真を客に送ってアナログで注文をさばいていたためミスも多かった。アプリになってからは、複数の店のメニューを同時に注文できるようになったし、配送費も自動で計算されるようになった。客も配達時間や支払い方法を選べるようになった。

「OpenMeal開餐啦」の登録ユーザーは3カ月で1万7000人を超えた。新移民が多く、ほとんどが20代、30代、女性が7割を占める。取り扱う商品もスイーツ、ミルクティー、正餐から、「盒馬」(アリババ傘下の会員制スーパー)の商品や生花、マクドナルドのハッピーセットのおもちゃにまで次第に広がっていった。

 逆代購が盛んになってから半年も経っていないため、税関で持ち出しが禁止されている商品がある以外、業界全体のルールはまだ形成されていない。萌芽期にあるとはいえ、逆代購に関心をもつ香港人は決して少なくない。テイクアウト品をたくさん積んで深圳側から通関を通っていく香港ナンバーの商用車を、口岸付近でよくみかけると鄭創釗さんはいう。さらに彼は、香港ではすでに「村全体の共同購入」方式も出てきているという話を聞く。

 小余さんは「価格競争もすでに始まっています」と話す。越境デリバリーだけで食べていくのはだんだん難しくなっているらしい。もともと並行輸入を商売にしていた人たちに加えて、配車サービスのドライバー、いわゆる「双非」の親(子供だけが香港永住権を持ち、親は中国本土に居住)、香港に留学している学生なども逆代購の戦列に加わってきており、儲けがなくても往復交通費がペイできればよいという人も多いという。「個人でやるのはますます難しくなるでしょう。疲れるだけで儲かりません。すでに辞めた人もたくさんいます」

 鄭創釗さんも逆代購の将来を心配しているが、彼はもっと先のビジネスをみているようだ。「アプリが香港で有名になれば、開発に投資してくれる香港人も出てくるはずです。順調にいけばBtoBのビジネスになります」

新たなチャンスはすでに到来

「需要があれば、逆消費も逆代購も存続できるでしょう」。劉雪菲さんは、消費分野と消費習慣で深圳と香港の融合が深まるにしたがって、健康食品、アウトドアブランド、スマート住宅でこれから「逆代購」が出てくるかもしれないという。他方、若者の交友方式や消費観念は常に変化するものであり、ニーズの変化に応じて新しいビジネスモデルやスタートアップ企業が生まれてくる可能性もあるという。

 香港大学商学部の王硯波副教授も「逆代購」の勢いは今後も続いていくし、成長する余地さえあるとみている。メディアの取材に応えてこう分析している。逆代購は、香港人が大陸のECプラットフォームで買い物をする流れの延長にあり、消費の原動力が大陸商品の多様性と、香港との価格差にあることは変わらない、そう理解することができる。需要があるとみれば深圳の業者は商機を逃さず、香港の顧客ニーズを満足させるにはどうしたらよいか、どうやって消費を促すか、全力で知恵を絞る、ということだ。

 深圳でものを買う「コストパフォーマンス」の良さは以前から存在するが、2023年の往来解禁後に起こった今回の香港人の大規模「北上消費」には、為替レートの要因も見逃せない。香港ドルの対人民元レートは2023年4月に14週連続で上昇し、決済方法によっては1香港ドル=1元に近い場合もあるということだ。

 中山大学で経済学を教える林江教授は「中国本土で香港ドルを使って買い物をすると、以前のレートに比べて2割から3割ほどの割安感がある。香港ドルの力が強くなるほど、香港人の『お買い得感』は高まる」という。この観点からすると、逆消費の勢いはまだ続くだろう。しかし、深圳での消費の全体的底上げにどのような影響をもたらすかについては、今後の状況をみなければならない。

 香港入境事務処のデータによると、「北上」した香港人の総数は2023年7月に延べ468万人に達し、1日平均にすると延べ16万人が「北上」していることになる。その消費総額は40億香港ドルに届くともいわれている。しかし、逆消費の層を詳細にみてみると、「依然として平均的な庶民が中心で、ハイレベルな消費グループはまだ少ない」ということだ。

 深圳市が最近打ち出している目標は、「国際的にみて重要な影響力をもった消費センター」の建設である。2022年、深圳市の社会消費財小売総額は9708億2800万元、四つの一線都市の中で「1兆元消費都市」に入らないのは深圳だけだ。23年上半期をみても、社会消費財小売総額のGDP比は30.68%に過ぎず、1兆元都市の後塵を拝している。消費は一貫して深圳の弱点とみられてきた。

「深圳市商務発展第14期5カ年計画」をみると、「国際消費センター都市」の建設を2025年までにおおむね達成するとある。社会消費財小売総額の目標は1兆2500億元だ。逆消費の追い風を受けて、2023年7月までの7カ月間で深圳市全体の社会消費財小売総額は5870億6600万元に達した。前年同期比でプラス10%、この調子でいけば2025年の目標達成も現実味を帯びてくる。

 グレーターベイエリアの研究に長く携わる専門家は、「国際的にみて重要な影響力をもった消費センター」というなら必ずハイエンド消費を惹きつけなければならないという。しかし、このレベルの消費者層は情報、法律、システムに対する要求も高い。

 例えば、なにかトラブルが生じたときに自身の権利は守れるのか、高所得者層は消費行動を起こす際に、そうしたことを事前に考慮するということだ。

「グレーターベイエリア建設は絶えず加速している。システムや制度の刷新が生じやすい状況だ。関連する提案はすでに数年前から出されている」と林江氏はいう。「深圳と香港はまさに『一衣帯水』。香港はもはや代購先ではなくなった。だからといって消費天国であることは変わらない。とくにハイエンド消費の選択肢の豊富さやサービスの充実ぶりでいえば、香港の地位が今後短期間のうちに失われるとは考えにくい」

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イースター休暇最終日の4月10日、福田口岸から香港に戻る大勢の香港市民。香港特区政府入境処によると、この日各口岸から香港に戻った人の数は午後4時時点で延べ21万5000人を超えた。撮影/『中国新聞週刊』記者 李志華


※本稿は『月刊中国ニュース』2024年3月号(Vol.143)より転載したものである。

 

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