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【24-24】中国のスマホメーカーが自動車市場に参入する理由は?(その2)

呉葉凡(科技日報実習記者) 2024年05月20日

中国のスマートフォンメーカー「小米(シャオミ)」傘下の「小米汽車」がこのほど、電気自動車(EV)を発売し、人々の注目を集めている。自動車とスマホは一見、全く無縁のように感じるかもしれないが、今ではスマホメーカーが自動車市場に、自動車メーカーがスマホ市場へと、業界の垣根を超えて参入するケースが相次いでおり、市場のトレンドとなっている。

その1 よりつづき)

技術の蓄積が運転体験の高度化をサポート

 歴史を振り返ると 、マニュアル車からオートマチック車への発展、そしてスマートドライブ技術の登場と、車の進化に伴い、ドライバーの利便性や快適性が高まった。今では、一部消費者の関心は、車の操作性や馬力からスマート化体験へとシフトしており、今後はスマートEVが自動車消費のトレンドをリードする可能性がある。

 技術面で見ると、スマートEVには「電動」と「スマート」という2つの重要な要素がある。小米集団の創業者である雷軍董事長兼最高経営責任者(CEO)は「過去10年間で、スマートEVの『電動』に関連する問題はほぼ解決された。業界は現在、スマート化競争の『後半戦』に突入しており、スマホメーカーが『カーブでの追い越し』を実現するチャンスが到来する可能性がある」との見方を示している。

 北京市社会科学院の王鵬副研究員は「スマホメーカーは、エコシステムやオペレーティングシステム、通信技術などの分野で深い蓄積があるため、これらの技術を自動車に応用しやすく、よりスマートな運転体験が提供することができるようになっている。例えば、小米が打ち出している『人+車+家、全エコシステム』という概念は、多様なスマート端末デバイスの展開なしでは実現できない。あるユーザーがアップしている体験動画を見ると、車載モニターを通じて、小米のスマート端末と接続することができ、『帰宅モード』をオンにして音声で指示を出すと、そのユーザーの家の照明とエアコンの準備が完了するようになっている。一方、ファーウェイは、豊富な通信技術の蓄積により、車載インターネット、車載ネットワーク(IoV)技術で優位に立っている。また、スマートドライブの核となるのはAIで、既存の自動車メーカーと比べ、スマホメーカーはその分野に早くから参入しており、こうしたAI技術の蓄積も、自動運転分野でブレイクスルーを実現する上でプラスになる」と見解を述べた。

 雷氏が「スマートシステムは常にアップデートとイテレーションを続けなければ、最新で最良のテクノロジーを消費者に提供することができない」と述べているように、スマホメーカーは既存の自動車メーカーと比べ、製品のアップデートやイノベーションという面で柔軟性に富み、スピード感がある。そして、市場のニーズや変化を敏感に察知し、製品を絶えず最適化することができる。

吹き始めた「EV」の風 求められる冷静さ

 自動車業界は「現代産業の王冠に輝く宝石」と称えられており、国の製造力を最も象徴する産業の一つだ。近年、中国の自動車輸出が大幅に増加し、新エネ車が続々と海外進出を果たしている。中国税関総署の報道官を務める統計分析司の呂大良司長は、2023年の貿易状況を説明する記者会見で「中国が輸出した自動車の3台に1台がEVとなっている」と説明した。

 自動車産業の急速な発展には、技術革新の支えが不可欠だ。現在、スマホメーカーが自動車市場に参入していることは、新エネ車業界の発展の勢いに拍車をかけるに違いない。王氏は「このことが新たな競争の枠組みを作り出し、業界の発展に新たな原動力を注入し、中国の自動車産業における技術の進歩や産業の高度化を加速させるだろう。そして、スマホメーカーに対しても、新たな利益成長点や業務拡大の方向性を提供し、ブランド影響力の強化にも寄与する」と語った。

 業界の変化の中で、新たなトレンドも生まれている。王氏は「5GやAIなどの技術が発展し続けることで、スマホと自動車のエコシステムの融合がさらに緊密になり、自動車が真の『スマートモバイル端末』となる可能性がある」と指摘した。

 また、今後のスマートEV市場もさらに多元化し、スマホメーカーと既存の自動車メーカーが共に新たな市場のメカニズムを構築するようになり、今後、業界の垣根を超えた提携パートナーがますます多く登場する可能性がある。ファーウェイは既に複数の自動車メーカーと協力関係を築いており、スマートEVのソリューションを共同開発し、それを推進している。

 スマートEVの「風」は吹き始めているが、関連する業界は冷静でなければならない。業界の専門家は、自動車産業は依然として高い参入障壁があり、多くの資金が必要で、高いリスクを伴う製造業であると指摘している。現在、一部の消費者からはスマートEVに対するクレームも寄せられるようになっており、新興産業としてのスマートEVが歩むべき道のりはまだ長い。王氏は「『風』が吹き始めた時こそ、企業は冷静沈着になる必要があり、一斉に飛びつくようなことがあってはならない」と指摘した。


※本稿は、科技日報「手机厂商为何纷纷下场造车」(2024年4月15日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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