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【25-20】中国の米品種の現状と品種改良の実態と方向(第3回)ジャポニカ米のF1品種と育成品種の現状と日本米の貢献

2025年07月29日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会前会長
研究領域 中国農業問題全般

 今回はジャポニカ米をF1品種と育成品種に分け、両系統の開発と実用化の現状を紹介する。以前はインディカ米市場だった中国では、ジャポニカ米の人気が急上昇しており、研究機関等の間では開発競争にしのぎを削る様相が見られる。ここでは、古い銘柄の日本米が要所要所で大きな役割を果たし、F1品種、育成品種の開発に貢献する様子もうかがわれる。

1.中国のジャポニカ米の登録品種概要

 中国で生産されるジャポニカ米は、主流だったインディカ米に、量的に肩を並べつつある。では今後、両者の地位の逆転があるかとなると、すぐにそうはならないだろう。コメの形質は、地域ではぐくまれた調理方法とコメ文化とに深く関わっている。

 ジャポニカ米にもF1品種(ハイブリッド品種)と育成品種があり、省級以上の政府機関に登録が認められている銘柄数(栽培が政府から許可されたもの)はF1品種が493品種、育成品種5349品種となっている(2025年7月時点、「中国水稲データベース」)。

 F1品種とは最初の収穫穀粒を種子として撒いても穀粒が成長しない品種、育成品種とは穀粒(種子)にそれが持つ植物遺伝的要素が受け継がれ、以前と同様の形質が持続されて栽培できる品種を指す。日本のコシヒカリが典型である。

 F1品種が育成品種に比べて登録数が少ないのは、開発にコストと手間暇がかかり、種子として販売できるものが限られるからである。F1品種493品種のうち、三系交雑種(親系統が3種類使われる交雑品種[ハイブリッド])447品種、二系交雑種(親系統が2種類使われる交雑品種)46品種である。双方にまたがる不育系(銘柄名の末尾に「A」が付される。「A」は雄性不稔を親系統として使用)は73品種である。

 中国の米品種改良研究は、一般にF1品種開発を得意とする。銘柄名に「A」が付く米は、原則的にはF1品種と考えてよいし、育成品種の銘柄名に「A」が付くことは原則的にはないと考えてよい。

 なお、F1品種、育成品種それぞれの改良過程で、日本の銘柄米が多数使われていることが判明した。その一例をのちほど示すこととしよう。

2.ジャポニカ米10品種(抜粋)の特徴

 表1では、登録ジャポニカ米に属するF1品種と育成品種それぞれ5銘柄を抜粋した。抜粋は基本的に無作為とした。

表1 ジャポニカ米品種例と特徴
注:①「恢」:「恢復系統」、雑種稲のR(恢復)ラインの意。
Rライン恢復系(回復系統):Aラインの不稔性を回復させ、正常な種子を実らせる交配親。F1種子を作るためにAと交配される。
Aライン 不稔系(雄性不稔系):花粉ができない(自家受粉できない)親。交配用の母本。
「A」:CMS(雄性不稔)ラインのA系統(F1雑種稲の親系統)。
②カラーボックスは、品種系統図に該当(図1参照)。
出所:「中国水稲データベース」から筆者作成。
  銘  柄 母  本 品種類型 開 発 者 特  徴
F1
品種
浙江大学良質二系交配品種1610号 浙江大学 粳稲 1S 系統 ジャポニカ型二系統ハイブリッド(稲雄性不稔系×恢復系) 浙江大学など 実験田:2021年、平均単位面積(1ム=6.67アール。以下同)収量697.3kg、比較対象品種比12.7%多収。2022年673.4kg、比較対象比11.5%多収。2年間平均収量685.3kg、比較対象比12.1%多収。
実際田:2022年平均収量667.5kg、比較対象比11.1%多収。
嘉禾系統優良品種816号 嘉禾系統 112A ジャポニカ型三系統ハイブリッド(稲不稔系×保持系×恢復系) 浙江禾天下種子産業株式会社・嘉興市農業科学院 実験田:2022年平均単位面積収量は689.9kg、比較対象比11.4%多収。2023年、平均収量719.0kg、比較対象比13.9%多収。2年間平均収量704.5kg、比較対象比12.7%多収。
実際田:2023平均収量748.6キログラ、比較対象比13.9%多収。
中禾系統優良品種第8号 嘉禾系統 112A 中国科学院 遺伝・発育生物学研究所など 実験田:2020年平均単位収量703.6kg、比較対象比10.1%多収。2021年平均収量671.0kg、比較対象比8.6%多収。2年間平均収量687.3kg、比較対象比9.4%多収。
実際田:2021年平均収量705.2kg。
嘉禾系統優良品種8107号 嘉禾系統 89A 浙江禾天下種子産業株式会社・嘉興市農業科学院 実験田:2022年平均単位収量664.1kg、比較対象比8.7%多収。2023年平均収量745.4kg、比較対象比12.6%多収。2年間平均収量704.8kg、比較対象比10.7%多収。
実際田:2023年平均収量767.7kg、比較対象比10.6%多収。
遼寧99年系統優良品種30号 遼寧99年系統 A品種 遼寧省水稲研究所 実験田:2016年平均単位収量527.9kg、比較対象比(「金禾(きんか)1号」)4.4%多収。2017年平均収量593.2kg、比較対象比(「金禾1号」)11.8%多収。2年間平均収量560.5kg、「金禾1号」比8.21%多収。
実際田:2018年平均収量558.2kg、「金禾1号」比13.4%多収。
育成
品種
北方粳稲系統1890号 湘郷604号/豊錦 ジャポニカ型育成品種 瀋陽農業大学水稲研究所など 実験田:2022年カドミウム低蓄積型中熟稲実験、平均単位収量500.86kg。2023年平均収量516.14kg。2年間平均収は508.50kg。
中国科学院早生ジャポニカ稲第23号 中国科学院 系統804号 中国科学院 遺伝・発育生物学研究所など 実験田:2022年二期作早粳稲実験、平均単位収量511.9kg、比較対象比2.6%多収。2023年平均収量533.7kg、比較対象比4.0%多収。2年間平均収量522.8kg、比較対象比3.3%多収。
実際田:2023年平均収量548.6kg、比較対象比4.1%多収。
中国科学院早生ジャポニカ稲第1号 中国科学院開発 第6号 中国科学院 遺伝・発育生物学研究所 実験田:2022年二期作早粳稲域試験、平均単位収量533.4kg、比較対象比6.8%多収。2023年平均収量549.6kg、比較対象比3.5%多収。2年間平均収量541.5kg、比較対象比5.2%多収。
実際田:2023年平均収量567.1kg、比較対象比4.4%多収。
雲南科学院ジャポニカ稲第8号 雲南粳稲 恢復系統(Rライン)第7号 雲南省農業科学院 穀物作物研究所 実験田:2022年平均単位収量662.8kg、比較対象比6.3%多収。2023年平均収量677.7kg、比較対象比10.0%多収。2年間平均収量650.3kg、比較対象比8.4%多収。
実際田:2023年平均収量606.9kg、比較対象比5.1%多収。
塩田育成品種第6号 塩田稲(塩生稲)1643号 連雲港市農業科学院 実験田:2021年耐塩アルカリ性水稲区域試験、平均単位収量576.1kg、比較対象比7.6%多収。2022年平均収量492.3kg、比較対象比7.5%多収。2年間平均収量499.2kg、比較対象比7.5%多収。
実際田:2023年平均収量483.5kg、比較対象比8.7%多収。

(1)ジャポニカF1品種

 最初に表1の上段に記載したF1品種だが、右端の「特徴」欄にあるとおり、10アール当たり(表1では1ムー:6.67アール表示)収量が約900kgから1000kgと多い特徴がある。

 F1品種は面積当たり収量が多いが、なかでも上から3段目記載の「中禾(ちゅうか)系統優良品種第8号」の10アール当たり収量は1050kgを超える。掲載した5銘柄のうち最も収量の少ない銘柄でも840kgで、500kg強平均の日本産のジャポニカ米よりほぼ300kgも多い。

 F1品種は多収穫品種の開発・普及の役割を担っていることがうかがわれる。土地の節約、やや不足気味の米生産の充実がその背景となっている。今後、F1品種がいつ味覚優先の品種改良に向かうことになるかが、注目点の一つである。

(2)ジャポニカ育成品種

 次に育成品種だが、特徴はF1品種に比べると面積当たり収量がかなり落ちることである。最大の面積当たり収量を持つ銘柄「雲南科学院ジャポニカ稲第8号」は1000kgを超えるが、最少の「塩田育成品種第6号」は700kg強である。

 育成品種にはさらに特筆すべき特徴がある。実験田をカドミウム蓄積田とする銘柄(「北方粳稲系統1860号」)、二期作早生(季節の最初に種子を撒く品種)銘柄(「中国科学院早生ジャポニカ稲第23号」、「中国科学院早生ジャポニカ稲第1号」)、塩田栽培米(「塩田育成品種第6号」)である。

 コメをカドミウム蓄積田で栽培するのは、中国の水田の一部においてカドミウム汚染が深刻であることによる。筆者の中国各地に於ける農地汚染日中共同研究の経験から、南方稲作地帯には原因不明のカドミウム汚染田が広く分布していることが把握され、ある程度、許容できそうな水田では、カドミウム耐性の品種開発と実用化が行われていることが知られる。

 二期作早生銘柄は、一期目より気候条件が改善される二期目の収量が多い傾向にあるが、両方の平均化を図る期待がありそうである。そうした背景が二期作米のうち、一期作目の面積当たり収量を引き上げるための品種改良を牽引していると見られる。

 最後の塩田栽培米の開発だが、中国の北方や黄土高原では土壌のアルカリ度が高い傾向に対応して、アルカリ耐性品種改良が進められていることを反映している。

 ここで挙げた、カドミウム耐性米、二期作米、アルカリ性耐性米を開発するにはF1品種よりも、過去の経験値を反映しやすいはずの育成品種開発がより適しているのではないかと思われる。

3.中国の米品種改良に重要な役割の日本米品種

 本稿第2回 で述べたとおり、中国インディカ米の新品種開発においてはほとんど見られなかった日本米品種の役割が、ジャポニカ米の新品種開発においては、F1品種、育成品種を問わず大きいことが分かった。

 F1品種と育成米品種から1銘柄ずつ取り上げると、例えばF1品種の「遼99優30」(遼寧99年系統優良品種30号)、育成品種の「中科発早粳23」(中国科学院早生ジャポニカ稲第23号)は、双方とも600回程度の改良プロセスを積み重ねて最終的に完成し、それぞれの銘柄に落ち着いている。

 しかし、それぞれが次の新銘柄の開発の母本あるいは父本として利用され、将来的には新品種開発の過去のどこかに位置づけられる可能性もある。

 ここでは、日本米品種がF1新品種開発の過程で貢献した役割を述べよう。事例に挙げるのは「遼99優30」(表1のカラー部分参照)で、開発者は遼寧省水稲研究所である。銘柄の「遼」は同研究所の名称から1文字をとったものであろう。

 さてこの銘柄は母本に「遼99A」、父本に「C30」とする。母本「遼99A」は、前述のとおり銘柄末尾に「A」があるので、これ自体がF1品種である。この銘柄の系統図が図1である。

 

図1 遼99優30(遼寧99年系統優良品種30号)の開発系統図

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 実際の系統図は584段からなるので、本稿でその全容を示すことはできない。そこで、大部分を省略して、非常に小さく圧縮したものが図1である。注目される点は、「遼99優30」ができるまで、同図では省略したが、筆者が数えると12品種の日本米品種が使われている。

 その銘柄とは、「黎明」、「霊峰」、「京引35」、「京引154」、「農林34号」、「農林6号」、「京都旭」、「羽後錦」、「秋嶺」、「豊錦」、「藤坂5号」、「越路早生」。このうち図1では、「黎明」、「霊峰」、「豊錦」の三銘柄が出現する。

 日本米品種が貢献していることが明らかだが、重要なことは、母本の開発だけでなく父本の開発にも貢献している点である。

 たとえば「黎明」は、「遼99優30」の母本「遼99A」の母本である「黎明A」を生んだ父本である(例えれば祖父)。「黎明A」を生んだ「黎明」の相手方である母本は、台湾米品種の「台中65A」である。また「遼99優30」の母本「遼99A」は「遼99B」を父本とするが、その三代前の祖先の母本(曾祖母)は日本米品種の「霊峰」だった。

 また、「遼99優30」の直接の父本「C30」を生んだ三代前(曾祖母)の祖先に当たる母本は、日本米品種の「豊錦」だった。

 このように中国のF1品種である「遼99優30」は、日本米品種の血を色濃く引き継いでいる、といえるのではなかろうか。その有力な背景の一つには、中国人による日本米品種の形質への関心の高まり、あるいは評価の向上が考えられる。

 実際、ジャポニカ米の人気が高い地域(主に長江以北)では、食卓に於いても、日本米品種に似た品種の普及が進んでいる。銘柄米として知られる「五常米」(主産地は黒竜江省)などは、日本米と遜色がなくなりつつある。

4.「遼99優30」とはどんな米か

 では、この「遼99優30」とはどのような性質の米なのだろうか? 表1の「特徴」では書ききれなかった点を以下に要約する。

(1)品種の特性

 全生育期116日間で、比較対象品種の「金禾1号」より1日だけ長い。草丈110.8センチ、穂長21.2センチ。10アール当たり有効穂数は4.5万穂、1穂当たりの総粒数49.3粒、結実率89.0%、千粒当たり重量は25.0グラム。

(2)病気耐性

 水稲の天敵ともいえる、いもち病に対する耐性は強く上位クラス、穂いもちによる損失率は最低クラスに属し、いもち病に対しては強い耐性を有する。

(3)米の品質

 玄米歩留まり率は82.2%、精米歩留まり率が67.7%、白濁度4.8%、透明度最高クラス、米質は良好である。

(4)収穫量・・・(表1参照)

(5)栽培技術面

播種期:4月1日以前、1平方メートル当たり種子使用量は25グラム。
田植期:5月20日以前。
防除:病害虫および雑草の防除を適時実施。沿海地域では特にいもち病の予防に留意。
栽培適地:大連および丹東の沿海稲作地域。

5.まとめ

 以上のように、中国におけるジャポニカ米の開発・実用化はさらに厚みを帯びつつ、徐々に、日本米化しつつあるのではないかと思われる。

 ジャポニカ米の特性は主食(ごはん)としての用途に限らず、米粉を原料とする多彩なスタイルの二次加工品に広がる可能性を持っている。この点は、日本の経験から知られており、中国に於いても、F1品種と育成品種両面からそのような発展が期待できるのではなかろうか。


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